こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
名前:小野町仁
能力:『自己再生』
レベル:無能力者(レベル0)
追伸:『化け物』
「『化け物』?」
大雨が窓を打つ音を聞きながら初春はプロフィールに書かれた最初の数行、より正確には名前と能力の欄を読み首を傾げた。
まずは現在初春が閲覧しているページは本来なら学生である筈の彼女には、ジャッジメントであることも含めても閲覧出来ないレベルの物であることを明らかにしておかなければならない。
しかし、真実として彼女は興味本意でそれを読んでいる。
普段の彼女を知る人物がこのことを見たら驚くだろう。
しかし、初春はまだ少女だ。
まだまだその辺りの危機感は少ない。
そして、見てはならないページが見れる状況と、もし誰か来ても「犯人を調べる為」と言う言い訳があるこの状況で、初春は「ちょっとだけなら」と思ってしまったのだ。
だから、まるで幼い子供がクリスマスでサンタの正体を知ろうと親に黙って夜更かしをしているレベルで初春はパソコンの画面を見ていた。
「なんか抽象的な能力名ですね……」
初春は独り言を言う。
「能力が『自己再生』って事は回復力があるって事ですよね?もしかしたら筋肉の細胞が活性化するタイプの能力で副産物的に身体能力が格段に上がるとか?」
一言で『自己再生』と言っても様々だ。
細胞を活性化させて皮膚を再生する方法。
血液の血小板を操作し傷を埋める方法。
等々。
この『小野町仁』も何らかの方法で傷を再生することが出来、その副産物で身体能力を向上することが出来るのではないか?
しかし
でも、と、初春は続けた。
「無能力者……か……」
無能力者、学園都市の能力開発で何の成果も無かった者達の事だ。
能力はあるが発現することが少なく、出来たとしても微々たる事しか出来ない。
初春は先日、この『無能力者』について深く考える事件に関わった。
その事が一瞬頭を過る。
しかし、それを気にしたら話が脱線してしまうので初春は再びパソコンの画面と向き合う事で考えを再開した。
無能力者は極端に言ってしまえば何も出来ない。
つまり、この『小野町仁』が『自己再生』を使っても効果はほぼ無く、その副産物で身体能力が格段に上がるなどと言う事はあり得ないのだ。
「……じゃぁ何で?」
次に初春の目に止まったのはファイルだ。
そこにはこう題名が付いていた。
『小野町仁の調査報告書』
初春は少し考える。
そして、そのファイルをクリックした。
小野町仁は特殊なサンプルだ。
学園都市ではありふれた無能力者だが、『人魚の涙事件』以来、彼には特殊な能力が備わったからである。
『 』
「『人魚の涙事件』?」
初春は首を傾げた。
ジャッジメントになった当初、学園都市で起きた有名な事件は目を通したのだがこの事件の事は知らなかったからだ。
「『人魚の涙事件』なんだかメルヘンチィックな名前ですね」
とにかく、『小野町仁』はこの『人魚の涙事件』で何らかの、『化け物』の能力を発現したのだろうか?
次の行を読む。
小野町仁は当初、彼の姉に付き添う形で研究所に訪れた。
その時彼は中学を卒業し、春休みを迎えていた、だから彼の姉と一緒に研究所に来れたのだろう。
「姉?『小野町仁』には姉がいた?」
初春は呟いた。
どうでもいい情報なのだが、なぜかその姉と言う単語に興味を引かれたのだ。
「『付き添う』って事はこの『姉』さんがメインで呼ばれたのでしょうか?」
だとしたら、有名な人物なのかもしれない。
初春はふと、パソコンの画面を切り替え、ネットの画面を呼び出した。
そして検索欄に『小野町』と打ち込み、クリックを押した。
すると幾つか情報が出てきたのだがその量は意外に多く、目的の情報にたどり着けそうになかった。
初春は考え、隣に『学園都市』と打ち込んだ。
するといつくかの情報が出てきた。
「えーと……『小野町正氏、最高年者で、エベレスト登山成功』『小野町剛、防衛省初のプロボクサーになる』『ピアニスト小野町香さん結婚!お相手は防衛省の役員』……あ、『小野町礼儀氏、最年少で博士号取得!!』…………あ、この人かな?」
初春の目に止まったのは『小野町礼儀』と言う人物だった。
最年少と言う事もあり、もしかするとこの人物が『小野町仁』の姉に近いのかも知れないからだ。
記事には、『小野町礼儀』が、中学3年の時に書いたレポートが学会で評価され、博士号を取得した。と書かれていた。
だが、写真も無く、今一決定に決まらない。
初春が諦めかけた時、記事の最後の行にこう書かれているのを発見した。
小野町礼儀はこの喜びを弟の仁君に伝えたいと笑顔で答えてくれた。
「『弟』……やっぱりこの人が『姉』なんだ……。」
話をまとめると、この『小野町礼儀』と言う人物が呼ばれた『人魚の涙』と言う実験に付き添う形で『小野町仁』も行き、そこで何らかの事件が起き『小野町仁』は『化け物』の力を手に入れたのだろうか。
「うーん……見れば見るほどわからなくなってきますね」
結局今ある情報では『化け物』とはどんな能力なのかさっぱりわからなかった。
それどころか事件についてもわからない。
あえて『事故』ではなく『事件』と物騒な呼び名を使っているのには何か理由があるのだろうか?
初春はまるで小説を読むような気持ちになっていた。
読めば読むほど先が気になる、そんな感
じだ。
しかし、彼女がこの先を読むことは無かった、なぜならば不意に声が聞こえたからだ。
「何やら楽しそうなモノを見ているじゃないか」
その軽やかな呼び声と同時に後ろから背中を叩かれ、初春は短い悲鳴を挙げる。
そしてすぐに後ろを振り向くとそこには……。
街乃木礼子が微笑みながら立っていた。