こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
侵入者は小柄で髪を腰まで伸ばしている。
外見からは大人しそうな雰囲気を印象付けるが、その眼には燃えるような闘士が伺える。
まるで、そう。
これから殺人を犯す犯人のような眼だ。
「逃げることをおすすめする」
小野町は初春に言う。
「あの子の眼は『美しい』。目的の為なら殺人を異問わない、決意がある真っ直ぐな眼だ。そんな眼をしている人間は強い、飾利がどれ程の身体能力を持っていようと苦戦は確実だ」
「でも逃げるって言ったって入り口は塞がれて通れませんよ」
「あるじゃないか?窓が」
「はい?」
「オレを信じろ、それっ来たぞ!」
言うのが速いか小野町は初春の手を掴むと窓に向け飛び込んだ。
同時に初春の身体は空中に投げ出され、重力により地面に引っ張られたのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「落ち着けよ。固い地面ならば柔らかくすれば問題ない」
同じく落下中の小野町は自分の指を噛み、血を流す、そして流れ出た血液をBBに整形すると地面に向け発砲したのだった。
固いアスファルトの地面に触れた瞬間、初春の身体は優しくまるで綿に包まれるかのように柔らかくなった地面に呑まれた。
「逃げよう、まだ君は危機を脱していない」
小野町に引き上げられ、言われるがままに初春は走る。
降り注ぐ雨を気にするほど初春には余裕が無く、ただただ彼女は走るのだった。
そんな初春の姿を侵入者の少女は窓から見ていた。
そして、携帯を取り出すと、電話をかける。
『どうした?』
電話の相手の男の声に少女は簡潔に報告する。
「逃げられた」
少女の報告を電話相手の男は繰り返す。
『「逃げられた」?「初春」にか?』
少女の報告は続く。
「話が違う。あの女の子の他にもう一人女が居た。ソイツの仕業」
『……「初春」の他に誰か居たのか?そこには今日は誰もいない筈だ。他のジャッジメントは居ない』
男は少し考えて、結果を話した。
「でも居た。大学生位の女だ。」
『……「初春」の知り合いで該当する人物は居ない、しかし、もしかしたらその女の方が「ターゲット」かもな』
「『小野町仁の知り合い』?」
『そうだ、そっちの方が「しっくり」くる』
「じゃぁその女を探せばいいの?」
『いや……女は差鉄が探す。朱はそのまま「初春」を探せ』
朱と呼ばれた少女は内心で舌打ちをした。
『朱の能力は尋問向けだ。「初春」を捕まえたら「謎の女の事」と「小野町仁の事」2つについて尋問しろ』
「了解した。でも一人で探すには疲れる」
『わかった。誠をそっちに向かわせる』
男の指示に不服を漏らした。
「あのストーカーを?だったら差鉄の方か貴方がいい」
『ダメだ……この機会だ、お前たちも仲良くしろ、それがチームの利益になる』
チーム、その言葉に朱は、前から気になっていた事を聞くことにした。
「……『例外者(イレギュラーズ)』。囚われない者達を集めてなにがしたいの?」
朱の問いにイレギュラーズのリーダーの男は最初に少女がした報告の様に簡潔に答えた。
『笑う為だ……』
そこで通話が終了し、朱は溜め息を吐き捨てる。
「相手の目的は飾利とかオレだ」
ショッピングモールの服屋。
そこの更衣室で小野町は言った。
その言葉をカーテンの外で待っている初春は受け取る。
現在彼女が身に付けているのは学校の制服ではなく、カジュアルな黒を主体にした服装だった。
少し彼女の趣味に合っていないのは、この服装は小野町がチョイスしたからだ。
大雨の中、傘を射さずに逃亡した為に、気が付いたら二人ともビショビショに服が濡れてしまっていた。
小野町に引きずられる形でこの服屋に入り、着替えを宛がわれたのだった。
「相手の最終目標はまだわからないが、弟の仁が関わっているのは確定した、だが……何でオレ達を狙う?」
「私が弟さんのプロフィールを見たからじゃないんですか?」
「違う」
キッパリと小野町は初春の予測を否定した。
「そもそも、君が見ていたのは連中が知った情報だ、奴らは情報を守る側では無く、暴く側の筈。今更君が見たからと言って攻撃する理由にはならない」
だが……。と小野町は続けた。
「『君が見たから』と言う着目点は正しいのかもしれない」
「はい?」
小野町が更衣室から出てきた。
彼女は初春と同じような、黒を主体にしたカジュアルな服装に身に纏っている。
「ペアルックだ、デェヘッヘ」
初春は小野町がどんな人物なのか少しだけわかってきた。
「んー~!雨でジメジメした時に食べるアイスがこんなにウマイなんて知らなかった!!」
服屋から出てきた初春達はフードコートでアイスを食べていた。
「あの、さっきの話の続きなんですけど」
初春は先程の話で出て来た話を促した。
「ん?狙われているのはオレと飾利どちらかって話かい?そのままの意味だ。まぁ……飾利の方が狙われやすいとは思うがな」
「な、何でです?」
「まずは…飾利のバニラ味のアイスを食べさせてくれ」
「はい?」
小野町はそう言うのが早いか、スプーンで初春のアイスをすくい、更には自分のチョコ味のアイスをそれに混ぜ合わせた。
「まずは情報を共有することから始めよう」
ミックスしたアイスを味わった小野町はそう言う。
「オレは君が知らない事を知っている。だから教える。まずはそうだな……。『奴等の目的について』教えよう」
「……『目的』」
初春は繰り返す。
『目的』、先程も言っていたが、『小野町仁のプロフィール』ではなく『小野町仁の仲間』の事だろうか?
「違う違う、もっと根本的な事だ」
小野町は話始めた。
「今回の奴等の目的は弟の『小野町仁』が関係している、と知ったのは偶然と予想からだった。そして、昨日のハッキング事件。まずはそこから話そうか」
ハッキング事件。
つまりは初春が阻止した事件だ。
「奴等は『小野町仁』を知っていたのにどうしてハッキングしてまでプロフィールを知る必要があったのか?喫茶店で飾利と別れてふと思ったことだ。そして考えた。もしかしたら『妨害される事を計画してやったのではないか?』ってな」
「『妨害されるのを前提にやった』?」
「簡単な質問なんだが、何で初春は『妨害したんだ』?」
「それは……それが仕事だからですよ、アラートがなったから仕事をしただけです」
「当たり前だ、でも『奴等は知らなかった』」
「『知らなかった』?」
「奴等は『学園都市での小野町仁の重要度』を知らなかったのではないかとオレは見ている『自分達だけが小野町仁の重要度を知っている』と思っているのではないか?」
「えーと……?」
「考えて見ろ、もしも『小野町仁』が一般向けの保護を受けていたら、君はどうした?多分妨害はするだろうし、そのあとの検索もする。だけどそれは最優先される事ではなかった筈だ」
「……そうですね。確かにハッキング自体はそれほど珍しい事ではないです、中には自分の腕を試そうって理由で仕掛ける人間もいるくらいですから」
「だが、実際は『24時間以内に見付けた』」
「それは貴女が依頼したからじゃないですか?」
「そうだ、それはオレのミスだった。あの時のオレは『弟を守る』と言う単純に目の前の事柄だけで行動してしまっていた。だから、奴等の『真の目的』にはまってしまったんだ」
「そろそろその『真の目的』を教えて下さいよ」
初春の言葉に小野町はたっぷりと考えて言った。
「『小野町仁の重要度を知っていて、それでいて小野町仁を守る為に行動した人物』つまりは『小野町仁を仲間に入れる為の人質になりうる仲間の発見』だ」
小野町礼儀の言葉に初春飾利のアイスが静かに溶けていった。