こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
斎藤誠は珈琲を吹き出しそうになるのをグッと堪えた。
(おいおい!!なんだ!?俺らの狙いバレているじゃないか!!)
現在、斎藤誠がいるのは初春達から少し離れた休憩所のベンチだ。
離れた初春達の会話が聞こえているのは彼の能力『空間加速』を応用している。
簡単に言ってしまえば盗聴だ。
原理はわからないが風を操作し風向きを初春達から斎藤誠側に流れるようにし、風から乗せられた会話を聞きやすくしているのだ。
断っておくがこれは本来の空間加速ではない。
本質的に攻撃的な斎藤誠がこんな落ち着いた使い方が出来ているのは彼の右隣に座っている女性が関係していた。
「ちょっと大丈夫?」
髪を短くカットした彼女は先程から斎藤誠の手を握っている。
大村義。
『能力調整』と言う他人の能力を操作する能力を持つ女子高生である。
彼女に触れられた能力者は、能力を文字通り調整される事ができ、簡単な話が1つの能力を2人で操作する事ができるのだ。
最も調整するには皮膚に触れなければならず、調整した能力も個人や内容で制限時間がついてしまうデメリットはあるが。
斎藤誠は特定のレベルを持たず、能力の性能がその精神状態でブレてしまう、学園都市では珍しい能力者だ。
しかし、その威力は凄まじく、論理上ではレベル6になりうるかもしれないと言われる反面、大村の能力調整が無ければ自身にさえも被害が及んでしまう。
何やともあれ現在、風を操作し盗聴をしているのは斎藤誠ではなく、彼の能力を調整している大村義だと言った方がいいだろう。
彼等はエンデュミオン事件後『イレギュラーズ』のリーダーに誘われこのチームに入っていた。
理由は簡単だ。
斎藤誠は実験で、大切な人を巻き込む恐れがある組織に居るのに我慢できず、脱走した。
しかし、そうしたら戻るところといったら過去に犯した罪で少年院になってしまうので、代わりの組織として身を保証する力を持つらしい『イレギュラーズ』に入った訳だ。
大村義はもっと簡単で単純に斎藤誠の近くに居たいだけと言う理由で一緒に入っていた。
それはいい。
問題は彼等ではない。
(……赤沙汰朱。コイツ一体なんなんだ?)
斎藤誠は大村義と反対に座る少女を見る。
赤沙汰朱は斎藤誠の視線を気にしていない様で、クレープを頬張っていた。
初春達の襲撃に失敗した彼女は斎藤達と合流し、この場に居るのだが、両者に会話は無かった。
一体何の理由でこの組織に入ったのか、彼女の能力はどんなものなのか、それすら知らない斎藤誠は若干赤沙汰朱に警戒をしている。
対して、赤沙汰朱も斎藤誠に警戒をしているのだが、どうやらその理由は少し違うらしい。
なんと言うか、軽蔑を含んだ視線を送っているのだ。
まぁ、斎藤誠はどれ程言葉を綺麗にしても本質的には『ストーカー』で、女の敵として見られているのかも知れないが彼自身はそれはもはや常識になっているので、その考えは思い付いていなかったりしている。
斎藤誠達の任務は初春達の確保と尋問なのだが、どうやらその理由は盗聴ですみそうなのだ。
別に無理に拷問にかける必要はないのでは無いのか?
どう聞いても初春と言う少女が『小野町仁』と関わりがあるとは思えなかった。
そんな考えすら斎藤誠の頭にはあった。
その時である。
携帯が鳴った。
「……もしもし?」
『見付かったか?』
その声はイレギュラーズのリーダーのモノだ。
「あぁ、だがあの女の子を尋問する必要があるのか?なんかアイツとは関わりが無いと俺は思うんだが?」
『……そうか。確かに俺も「初春」は「小野町仁」とは無関係と思っている』
「だったら……」
『だが、それでもやれ』
「……は?」
『「初春飾利」は「小野町仁」とは接点は無いだろう。もはや彼女には人質としての価値は無いだろう。だが、「もう一人の女」はどうだ?俺はその女こそ「小野町仁」の交渉になりうる人物だと見ている。ならばその女の事を尋問しろ。俺達は知らなくてはならない。俺の予想通りなら女はそれ以上の価値があるのかも知れないのだ。今現在、その女の情報は「初春飾利」しか知らない。だからやれ』
「……大村。能力を戻せ、赤沙汰。準備しろ」
斎藤誠は少し考えた。
そして、二人の女子に命令する。
いい忘れていたが、過去に『小野町仁』と一悶着あった斎藤誠個人としては宿敵とも言える彼を同じチームに入れることにどう思っているのだろうか?
そして、斎藤誠はその事を考えているのか?
『小野町仁を仲間として向かえ入れようとしている』斎藤誠は果たして本心で動いているのだろうか?