こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
高さ的には十階建てのビルの中は暗く足元にはゴミが散乱していた。
なんとかビルに浸入した僕は一階一階、捜索していたのだが、
「ぜぇ、ぜぇ……死ぬ!!これは死ぬ!!」
工事中と言うことで当然エレベーターなんて便利な物は無いわけで(むしろ電気すら無いのだが)、必然的に階段を使うしかない、さて今の僕は包帯を所々に巻き付け、更に全身傷だらけで今までの移動も自分の足をフル活動してきた訳で、ぶっちゃけ体力がなくなってきていた。
「ハァ…ハァ…ハァ」
それでもビルを九階まで調べあげた僕は十階に向かう階段を上っていた。
「ちくしょう!!これで最後!この先に姫がいるんだ!!頑張れ、勇者もとい僕!!」
そして最後のドアをおもっいきり開けた!!
「ジャーン!!勇者様の登場だぁぁぁ――」
するとそこには呆気にとられた吹寄と斉藤が!
居なかった……
「――ぁぁぁあ…?…………居ねぇのかよ!?」
僕の絶叫は虚しく無人のビルに響くのだった。
「もうやだ………」
最後の推理がハズレ、更に体力が無くなった僕は床に倒れている。
なんかもう恥ずかしい!!
よく考えたら別にこのビルにいる保証なかったじゃん!!
無駄に体力が無くなったじゃけじゃん!!
ヒントはもう完全に無くなった、僕はもう前に進めない。
ここじゃないならどこだよ!?
写真を見る限りこの近くのはずだし、隣のビル?いや、ここ以外は全部何らかの会社が入っているし……場所が違ったのか?いや、写真の風景があるのはここの一帯だ…………………………………………………………………………………………………もう無理!
諦めよう
もう僕には無理だ、騒ぎが大きくなるのは吹寄が嫌がるからなるべく避けたが、もうそんな事言ってられない、ここを出たらアンチスキルに連絡しよう、その前に新鮮な空気を吸いたい……
ビルは埃が舞い、今の僕には害になるだろう。
僕は近くの窓に近づいて身を乗り出した、
新鮮な空気が顔を撫で気持ちよい。
そこで見たのだ。
開けた窓は隣のビルに面した形で設置されていた。
隣のビル、
その下の階、
空き部屋の広告が貼られた窓の向こうの暗い室内に誰かがいる。
よく目を凝らせば誰かに似ている。
いや、似ているというより、はっきりいって本人だ。
ここ数時間僕が必死に探している人だ。
それは半裸状態でガムテープで口を塞がれ、
同じくガムテープで体を拘束されている吹寄制理と彼女に近づく斉藤誠だった。
どうやら神様は僕を見逃さなかったみたいだ。
「……見つけた」
しかし、どうする!?
なんか今から襲っちゃうよ雰囲気満載だし!!
今から下に降りて、隣のビルを上ってからじゃ遅い!!
どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?どうする!?
「おい、おい、マジかよ!?なにやってんだ小野町仁!!」
僕は窓に足をかけ、身を完全に乗り出した。
(下を見るな!!下を見るな!!下を見るな!!下を見るな!!)
呪文の様に頭で呟きながら、覚悟を決める!!
「南無三!!」
窓を蹴り
僕は
飛んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いくら隣のビルと言っても間隔はかなりある。
僕の体は重力の力を受け下に落下しながら彼女達の部屋に向かう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
走馬灯が駆け巡る!!
死を覚悟する!
だがなんとかちょうど部屋に入れそうだ!!
ここで誤算があった。
ビルを飛び越える時、力み過ぎた。
そう、僕の体は吸い寄せられるように吹寄達のいる部屋の窓に近づいて行った。
近づいて来る窓をまるで夢を見ている感覚で眺めていたが、
体がガラスに触れると勢いよく砕けちり傷だらけの僕の体を更に切りつけた。
更に強い衝撃を受け、意識が一瞬飛んだ僕に追い討ちをかけるかのように、床に落ちた僕の体に鋭いガラスの破片が降り注ぎ、いくつか体に突き刺さる。
それでも僕は生きていた。
その真実が体の奥底から力が沸き出し、近くにいた、斉藤を殴り飛ばす。
「オラッ!!」
「ガフッ!?」
拳は鼻を直撃し、鼻が折れたのか斉藤は激痛て床を転がった。
「吹寄!」
吹寄のもとに駆け寄り、ガムテープを外し、体の拘束を解く。
「小野町!!お前!!なんで?」
「なんでって……助けに来たに決まっているだろ?」
この台詞歯痒いな…、それに身体中傷だらけだし、格好つかないし。
「とりあえずここを出よう」
「そうはさせない……」
振り向くと鼻血で顔を赤黒くした斉藤が立っている。
「ふざけるな…制理を守るのは僕だ!!貴様じゃない!!僕が制理のヒーローだ!!」
斉藤の右手から能力で作られた鎌鼬が噴出する。
空間加速。
その能力は周りの空気を風というベクトルで一ヶ所に凝縮するだけの能力だが、
これにより発生し凝縮した空気の塊の一ヵ所だけ少し意図的に壊す事により壊れた箇所から凝縮されていた空気が噴出される仕組みだ。
それに空気を凝縮する際小さな異物を混ぜ合わせることで風に乗せ対象を切り裂く、鎌鼬を作りあげる。
それが僕が盗んだ資料と体験談をもとに考えた斉藤誠と言うストーカーの能力だ。
背中に激痛が走り、肉が抉られるのを感じた。
「……こ、小野町…」
鎌鼬が噴出される寸前、僕は吹寄を強く抱き、背中でその攻撃を受ける事で彼女を守った。
しかし、ゴツゴツした小石と違い、今回は僕が浸入した際に破壊した窓の鋭いガラス片が風の中に混ぜ合わされていた。
ガラス片はより綺麗に鋭く皮膚を裂き、肉を切り、体内で止まる。
血が吹き出す。
力が入らない。
視界が赤く染まる。
気が付けば僕は床に倒れ自分の血に沈んでいた。
「…、………、…………!!……!!………………………………………………!?……………………!!…………!!」
「………!!………!!………!!」
斉藤や吹寄の声は耳に入るが脳まで届かない、雑音を聞くような感じだ。
そんな中、はっきり聞こえた一文があった。
「お願い助けて!!」
助けて、彼女が初めてまともに僕に救いを求めた声だ。
その言葉を早く、そうあの下駄箱の時に言ってくれたのなら、僕ももっと頑張れただろう。
その言葉を言うのに彼女の中でどれほどの迷いや戸惑いがあったか想像はできない。
そんな重い言葉が詰まった想い一言を聞き、僕は……。
(……駄目だ…まだ、力が……)
動けなかった。
足らない……やはり僕は悪人だ、助けを求められても力が出ない。
上条当麻なら、あの正義の味方なら、その一言で動けるだろう、だが僕は正義の味方側にいるだけであって、正義の味方ではない。
他人の為に戦う正義の味方、
自分の為に戦う悪人。
その違いが今現れた。
救えない、だけど救いたい。
他人の為ではなく、自分の為に。
正義ではなく悪の為に。
尊敬ではなく自己満足の為に。
何故だ?
そもそもなんでこんな目にあって、犯罪を犯してまで、僕は吹寄を助けたいんだ?
クラスメイトだから?
自分の世界を守りたいから?
違う、そんな堅苦しいものじゃない、
もっと純粋でより強い願い。
ごちゃごちゃした言い訳ではなく、もっとシンプルな思考。
(あぁ、なるほど)
わかった。
瞬間気が付いた。
解ってしまった。
受け入れてしまった。
なんとも僕らしい濁って、ドロドロで、最悪な欲望だろう。
全身に力が甦る。
同時に世界が戻る、
気が狂った見たいに意味不明な言葉を吐き続ける斉藤誠、
僕を心配しながら助けを求める吹寄制理。
僕は自分の血に滑りながら、ゆっくりと無様に立ち上がった。
僕の動きに斉藤は恐怖する。
僕の動きに吹寄は希望を持つ。
僕は空気を思いっきり吸う、
酸素は身体中の細胞を刺激し覚醒させた。
「吹寄、さっきお礼になんでもするって言ったよな?」
「え、えぇ」
「決まったよ、僕がお前にしてもらいたい事は――」
拳を握る。
指が掌に食い込み血が溢れる。
足に力を込める。
中の筋肉が膨張し、足の震えが無くなる。
斉藤を睨み付ける。
霞んでいた視界は斉藤をはっきりと見据える。
空気を吸い込む。
自分の想いを正直に伝える為に!!
「一回抱かせろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
なんとも最悪で醜く汚い欲望を吐き出しながら、僕は斉藤に向かい走り出した。
距離は約六歩、しかし一歩踏み込むごとに体が激痛をあげる、
それがどうした!?
欲望の為に僕はどこまでめも頑張れるのだ!!
拳を振り上げ、能力を使われる前に斉藤の顔面に文字道理渾身の一撃を放つ!!
拳が斉藤誠の頬に激突する。
拳から衝撃がまるで波のように駆け巡る。
全身の筋肉、骨、神経、内臓全てが悲鳴を上げ震える。
そんなことを実感しながら、しながらも最後まで僕は拳を振り下した。
斉藤の体は後ろにぶっ飛び、出入り口にぶつかり、ドアごと廊下に飛び出し、壊れた壁から大量の埃が舞う。
埃が舞う中に今回の事件の元凶であるストーカー、斉藤誠が意識を失って撃沈しているのを確認した。
吹寄に迫っていた危険を完全に取り除いた事を確認し、
そこで僕の意識は完全に無くなった……
小野町仁にとって正義とは他人を守る事で悪とは自分を守る事と考えています。
彼の本質はここにあり、さらに彼は自分を悪と考えています。しかし彼は正義に憧れていますので皮肉を込めて自分は正義の味方側の悪役と卑下しているのです。
さて!!次回エピローグ!!
お楽しみに!
ご意見、感想、等々お待ちしていますのでよろしくお願いします!!