こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー   作:夜遊

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小野町仁編、救う者の眼

初春は考える。

 

今置かれている状況を。

 

そして、『小野町仁』と言う会ったことの無い人物を。

 

こんなに周りが騒ぎ、もはや争奪戦にも取れる状況になっているこの騒動の中心部にいる『小野町仁』の事を思っている。

 

何らかの実験の事故で『化け物』と呼ばれる様になり、非人道的な人体実験を行われ、それでも現在ではまともな生活を送っている『小野町仁』。

 

彼の心には何があるのだろうか?

 

そして、『小野町仁』は人質を取られると犯罪チームに入ることに了承するのだろうか?

 

そんな回りくどい手口を使わなくては仲間になることは無いだろうと言う『正義の心』を持っているのだろうか?

 

初春は考えて、無意識に呟いた。

 

「……可哀想な人ですね」

 

「オレも同意見だ」

 

「ハヘッ!?」

 

気が付くと『小野町仁』の姉、小野町礼儀が初春を覗き込むように見ていた。

 

その時初春は自分が呟いた事に気付き、頬を赤らめる。

 

「オレは姉として弟には幸せな、違うな、普通の生活を送って欲しいと思っている。いや、本当ならそうならなければならないんだ。だが、周りが騒いでそうさせない。可哀想なヤツだよ。勝手な事ばかり言われて、誰にも相談出来ない、孤独なんだよ弟は、だから幸せになりたい、平和に生きたいそう思っているんだろう」

 

小野町礼儀の言葉に初春は黙って聞いた。

 

(この人は、強い人だ)

 

初春は小野町礼儀にそう言う感想を抱いた。

 

この人は自分が危険になる可能性を知りながらも弟である『小野町仁』を守ろうとしている。

 

兄弟の居ない自分には判らないが、他の兄弟の人達もそうなのだろうか?

 

初春は親友の事を考える。

 

彼女にも兄弟が居る、もしもその人物が危険になったらどうするのだろうか?

 

決まっている。

 

助けようと必死になる筈だ。

 

親友はそう言う人物だ。

 

だが、全ての兄弟がそうするのかと考えると、否定するのも事実だ。

 

きっと彼女らは特別なのだろう。

 

自分には無い絆が強さになり、正しい道を歩む力になり、それが勇気に変わるのだろう。

 

(うらやましいな)

 

初春は少し落ち込んだ。

 

自分にはそんな勇気は無い。

 

けれども、それに似た強さを持ちたいと思った。

 

これに似た感覚を初春は過去にも持った事があった。

 

小学生の時、初春は郵便局強盗に巻き込まれた事がある。

 

その時に、自分と同い年の少女が見せた強さに初春は憧れ、風紀委員になる決意をしたのだ。

 

今回もそれに近い事だと初春は無意識に確信していたのだ。

 

巻き込まれたと言えば簡単だ。

 

だが、自分はなんだ?

 

人を守る風紀委員ではないのか?

 

周りが勝手に騒ぎ、本心とは逆の道に争いに巻き込まれる『小野町仁』。

 

そして、弟をその状況から救いだそうと必死に抗っている小野町礼儀。

 

彼等に必要なのは誰かの助けだ。

 

そして、自分はそれに憧れて風紀委員になったのだ。

 

だったら答えは簡単だ。

 

この兄弟を助ける。

 

この時の初春の眼にはもう、弱さの欠片が無く、あるのは救う者の眼になっていた。

 

 

 

 

小野町礼儀はその眼を満足そうに受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

「さて、オレはちょっと失礼する」

 

突然、礼儀が立ち上がり、初春に背を向けた。

 

「え!?ど、どこに?」

 

「なぁに、ちょっと電話をかけるだけだ。……そろそろアイツにも動いて貰わないとな」

 

「アイツ?」

 

「大丈夫だ、すぐに来る。他ならぬオレからの呼び出しだ。10分以内で必ず来るさ」

 

それ以上何も言わず、礼儀はどこかに、誰かに電話をかけに行ってしまった。

 

その時。

 

残された初春に声をかける少女が一人。

 

「あれ?初春?」

 

初春が振り向くと、そこには見知った親友が居た。

 

「……佐天さん?」

 

初春の戸惑いを知らない佐天涙子は無邪気な笑顔を向け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

『はい!!もしもし!!ちょっと悪いんだけど!!後でかけ直してくれませんかね!?』

 

数回のコール音の後、アイツが電話にでた。

 

電話の向こう側では何やら騒がしい。

 

『オーイコノオタカラボンモラッテイイ?――駄目に決まっているだろ!?そのお宝本は零からコツコツ始めた僕の血の結晶何だぞ!?――オレッチハコノ「イモウトパラダイス」ヲモラウゼ!――話を聞けボケ!!――ダー!?オマエコレオレノホンジャナイカ!?オマエガモッテイタノカ!?――さー?知りません。それってお前が餞別にくれたんじゃ無かったけ?――フザケンナ!?――フザケテイルノハキサマラダロ?トクニキサマショブンシタノニマタフヤシテイタノカ!?――ちょっ!!落ち着いて!!テメェ等部屋の端に避難しているんじゃねー!!あ!!ちょっと!止めて!!ぎぁぁぁぁぁぁ!!』

 

どうやら電話が落ちたのだろうか?

 

ゴトッ。と言う音の後何人かの悲鳴が聞こえまたアイツが電話に出た。

 

『すいません、本当に後でかけ直してくれません?ちょっと本当に今忙しいんです』

 

「学園都市第七学区のショッピングモールに来い。出来るだけ早くな」

 

『はあ?何言って……ちょっと待て……その声どこかで……』

 

「仮初めの平和に満足し始めたらそれが壊れ、どうにも出来なくて最後の時間を楽しんでいる所悪いな『弟』よ」

 

瞬間、電話の向こう側ではアイツが慌てて出ていく音が聞こえ、取り残された人間の呼び止める声だけが残った。

 

『お、おい!?貴様どこに行くんだ!!小野町仁!!』

 

その声を聞き、小野町礼儀は電話を切った。

 

そして呟く。

 

「悪いな……仁……本当は巻き込みたく無かった。だが『仮初めの平和』に満足するんじゃなく、『真の平和』をお前自身が手に入れなくては意味が無いだろう?」

 

 

 

 

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