こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
話は少し前に遡る。
佐天涙子は自宅にて雨に濡れた身体が冷えないようにシャワーを浴びていた。
「もー……初春ってば勝手な事ばかり言って!」
彼女は昼休みに初春に恋話についてしつこく聞かれたことをいまだに腹をたてている様だ。
「そりゃ……あの時は浮かれていたけどさ……あぁ!!もう!何であんなこと言っちゃったのかな!?私!?よりにもよって『王子さま』なんて!!」
彼女の頬が紅いのは何もシャワーの熱だけではないだろう。
その時である。
「あれ?メール?」
浴室の側に置いていた携帯電話がメールの着信音を鳴らした。
「誰だろう?」
彼女は浴室の扉を開け身体を軽く拭きながら、携帯電話を開き、差出人の名前を見て驚いた。
メールにはこう書かれていた。
『大切な話がある。学園都市第七学区のショッピングセンターに来てくれ。小野町仁』
「あわっ……あわわ!!大切な話があるって?!??それって!!こ、こ、こ、こ、告は!?いやいや!!え!!仁ちゃんが!?あわわ!!」
気が付けば佐天涙子は傘を手に持ち、家を飛び出していた。
今、『本物の小野町仁』は自室で引っ越しの作業に追われていて、メールなど打つ暇がないのを知らずに。
屋内に居る初春の耳に雷鳴が聞こえた。
外の豪雨がますます酷くなったようだ。
その証拠に私服に着替えた佐天の服は今朝ほどではないが、雨に濡れており、傘だけではカバーできなかった部分はビショビショになっている。
「どうしたんですか?佐天さん」
「あー……ちょっとね。って初春こそどうしたの?確か風紀委員の先輩に呼ばれていたんじゃなかったけ?」
歯切れの悪い様子で佐天は話をはぐらかす。
まるで、誰かに見られてはいけなかった事を思い出したかのような様子だった。
初春は佐天のこの様子に覚えがあった。
確かあれは、クラスメイトに告白された時の様子にそっくりだったと、初春は思い出す。
まさかまた誰かに告白された、もしくはそれを言う為に呼ばれたのでは無いのだろうか?
(考えすぎですかね)
初春はここまで考えて、考えるのをやめた。
理由は簡単だ。
いや、簡単と言ってよいのかわからない事が起きた。
「……あれ?なにこの花びら?何かのイベント?」
「……え?」
初春は視線を上に向けた。
そして、自分達を中心に無数の花びらがまるで花吹雪のように降り注いでいることを知る。
綺麗だった。
彩り様々な花びらはまるで幻想的に思える。
他の客達も脚を止め、この幻想的な場面を楽しんでいた。
しかし、
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
突如それは悲鳴に変わるのだった。
「っ?!」
何が起きたのか?
初春は辺りを見渡す。
始めに悲鳴をあげた、女性は踞り自分では歩けないみたいだ。
悲鳴は女性だけでは収まらなかった。
女性の悲鳴を皮切りに至るところで悲鳴が上がり始めた。
何が起きたのか、初春には理解できなかった。
(能力による無差別な攻撃!?でも何で!?どうやって!?)
「え?な、なに?初春どうなっているの?」
隣では同じ様に佐天涙子が戸惑っている。
(……え?『戸惑っている』)
おかしい。
こんなに大勢が何らかの攻撃を受けているのになぜ自分達は無事なのか?
その答えは初春の後ろから答えた。
「『押花刺繍(フラワータトゥー)』これが私の能力の名前だ。無闇に動くなよ?花びらはすでに貴様の周りを包囲している。あれに触れたら貴様も激痛を与える事になるんだからな」
初春が振り向くと、そこには先程自分達を襲った侵入者の少女がこちらに歩いていた。
少女の周りにも花びらは舞っているが、少女に当たる事はないようだ。
「これでようやく話せるな」
「あなたは……何者なんですか?」
「ふんっ、貴様に言ってもわからないだろうさ、それに貴様はすでに『質問することは許されない』状況であると気付かないといけない」
少女は次に佐天の方を向いた。
「お節介なリーダーだな……。この女を呼んだのはこうする為なのか?」
「こうする為?」
「さてさて、問題だ。『何で私は貴様達には攻撃しないと思う』?」
「?……」
「無言は不正解だと見なすぞ、答えは『貴様を逃がさない為だ』」
その言葉で初春は理解してしまった。
佐天涙子は騙され呼ばれたのだ。
人質として!!
敵は今度は初春を逃がさないつもりだ。
元々、『小野町仁』に対する人質を求めていた連中だ。
汚い手を平気で使って来るに決まっている!!
同じ事、つまり『交渉の為に人質をとる方法』を初春にもしたのだ!!
初春は周りを見渡す。
辺り一面に吹雪く花びら、あれに触れると、周りの人のように激痛がはしるのか?
ここで少しでも初春が相手の意に添わない行動をしたら後ろに居る佐天にもあの激痛が起こる筈だ。
少女が次に取った行動、それは初春には意外な事だった。
少女はポケットから携帯を取り出すと初春に見せる。
どこにでもある携帯電話だ。
携帯電話の画面は通話中を現しており、さらにスピーカーになっていた。
拡大された音声が叫び声で溢れている筈のホールに埋もれることなく初春の耳に届く。
『こんな形を取ったことはすまないと思う』
それは男の声だった。
『初春飾利、君は今とてつもない価値があるのを知っているか?』
初春はこの電話の向こうに居る人物が自分達を追っている、引いては『小野町仁』を仲間にする為に人質を探している、組織の中心だと理解した。
「あ、あなたは勘違いしています!!」
『……ん?』
初春の震える声に男は疑問を出す。
「わ、私はあなたの思っている人材ではありません」
『何?』
「私は『小野町仁』さんとは全く面識はないんですよ!!だから人質としての価値はないんです」
初春の言葉でなぜか後ろに居る佐天が驚きの言葉を出したが、今はその事を気にする余裕は無かった。
初春はこの言葉で電話の男が狼狽すると思っていた。
しかし、電話の男は笑い声を漏らしたのだ。
『ふっふっふ……なるほど……そうか。君は勘違いしているな』
「な、何がです?」
『言った筈だ、君は今とてつもない価値があると』
「だからなにがです?」
『……あぁ。そうか。通りで話が合わないわけだ。面白い。両者とも全く違う事を考えていたのか……。なるほど』
「だから何だと聞いているんです!!」
こちらを無視して何かを呟き出す電話の男に初春はつい、強い口調で声を荒げた。
『……君はこう思っているな、「あのハッキングを止めた人間は小野町仁の仲間で俺達はソイツを人質として捕まえようとしている」と』
「ち、違うんですか?だって現に今あなた達は私を追い詰めて居るじゃないですか!?」
初春は混乱した。
今更、人質を求めていないと言われたのだ当然だろう。
ではなぜ初春は追われているのか?
『ん?言い方が悪かった。俺達は君を人質としてではなく別の目的で欲していると言ったほうがよかったな』
電話の男が何の躊躇もなく言った言葉に初春の頭は真っ白になった。
「……え?」
『初春飾利、君は俺達に必要な事を知っている、だから君を捕らえなければならないんだ』