こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー   作:夜遊

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小野町仁編、オ・シ・エ・ナ・イ

小野町礼儀はどこにもいない学生だった。

 

常に成績は上位に君臨している癖に、勉強方法はパラパラと教科書を捲るだけ、それも試験開始の5分前にやるだけと言うふざけた勉強法でだ。

 

それに外見も整っており、非常にモテており、それを鼻にかけない。

 

運動も出来て、とにかく絵に書いたような完璧超人だった。

 

しかし、彼女にも人より劣っている部分はあった。

 

弟はこう言う。

 

「アイツは変態だ」

 

と。

 

それが家族として行動を共にしている故に見える部分なのか、小野町礼儀のあまりにも美人力に周りの目が曇ってしまっているかはわからないが、とにかく100人が100人1つの感想を抱くわけでなく、1人はその99人とは違う事を言っていると理解して欲しい。

 

 

 

 

 

赤沙汰朱はどこにでも居る少女だった。

 

成績は中の中、勉強方法はテスト1ヶ月前に徐々に復習をしていると言ういたって普通の勉強法だ。

 

外見は整っているが、少し……女性を象徴する2つの内上の部分が一般的より若干……いや少し……、いや……かなり成長が遅れており、実年齢よりも幼く見られていた。その事に本人は全くのご立腹だった。

 

しかし、彼女をよく知っている人物はこう『騙る』。

 

「あー、アイツはあれだ。ツンデレ?いや違うな。嘘つきだ。本当はしたく無い癖にワザと冷酷に見せている。だからツンデレってヤツなんだと俺は思う」

 

……。

 

ツンデレらしい。

 

 

 

 

 

『小野町仁』はどこにでも居て、どこにも居ない男子校生だ。

 

彼は特筆する才能は無いが代わりに卑下する行いも無かった。

 

良く言えば『普通』。

 

悪く言えば、『無個性』。

 

テストでは赤点は無いが、高得点を取ることは少なく、体育も彼が『化け物』の力を得る以前は他の生徒と変わり無かった。

 

彼の姉はこう語る。

 

「弟は美しく無い。だから無様に必死にもがいている姿勢が美しい」

 

兎に角、彼は良く言えば努力家な性格だ。

 

悪く言えば、無駄足掻きをする人間だ。

 

 

 

 

 

さて、物語は14ヵ月、一年と2ヶ月前まで遡る。

 

まず始めに結果と過程だけ、終わりと始まりだけ、終末と再生だけ、エピローグとプロローグだけ、語らせて貰おう。

 

小野町礼儀は死亡した。

 

何故?

 

どのように?

 

どうして?

 

いくつかの疑問はもちろんだが、本質はそこではない。

 

人魚の涙事件。

 

彼女の死亡した事件はこう命名された。

 

彼女の死亡した経緯は正確には遺族には言われなかった。

 

知っていたのは、その場に居た弟である、『小野町仁』のみだ。

 

姉の死は『小野町仁』にとって衝撃的だった。

 

同時に、彼に生きる活力を与えた。

 

姉と弟の間に何が起きたのか?

 

それは当人同士しか知らない事だ。

 

彼等が語らなければ永遠に知られないだろう。

 

結果だけ言うと、『超人』の姉が死に、弟が『化け物』になっただけだった。

 

何度も言おう。

 

姉は死んだ。

 

小野町礼儀は死んだ。

 

死んでいた。

 

いた。

 

過去形なのは、知っての通り、小野町礼儀は生きているのだ。

 

死んでいるのに生きている、

 

その矛盾を孕んでいた女性が今、この場に居るのだ。

 

そして、『超人』と呼ばれた人間が『化け物』と呼ばれている人間を救う為に頑張っていたのだ。

 

姉が弟を助ける為に頑張っていた。

 

それだけだ。

 

それだけで、初春は疑問を捨てた。

 

 

 

 

 

「っ!?何!!」

 

赤沙汰は目を疑った。

 

初春は踞ったままの佐天に駆け寄ると、肩に手を回し、真っ直ぐに進み出した‼

 

赤沙汰とは反対の方向。

 

つまりは彼女らを包囲している花吹雪の壁の中に向かって‼

 

「何をしている!?『押花刺繍』に自ら突っ込むだと!?」

 

「わ、私には礼儀さんのような大切な人を『守る』力はありません‼ですが大切な人を『助ける』事は出来るんです‼今私に出来ることはこの場から一度逃げること‼そうすれば礼儀さんの助けになるから‼」

 

初春はとうとう、花吹雪の中に侵入する。

 

そして、花弁が彼女の柔肌に触れ、そこから毒々しい紫の刺繍が彫られ始めた。

 

瞬間、これまで経験した中で一番痛いと思う程の激痛が初春を襲う。

 

筈だった。

 

「初春飾利。君の意志は美しい。だからその美しさに敬意を払ってオレは甘えよう‼君にBB-Gを撃ち込んだ‼君は今激痛を感じないように調整した‼さぁ逃げるんだ‼」

 

「何でだ……何で?」

 

「赤沙汰朱と言ったな?今の君は美しくない」

 

初春の逃走劇を目にして赤沙汰は狼狽した、そんな彼女に小野町は幼子を諭す様に言うのだ。

 

「礼儀さんも早く!」

 

初春は花吹雪の外に飛び出すと呼び掛ける。

 

初春はこう思った。

 

小野町礼儀自身にも調整を施せばいい、と。

 

しかし、

 

「……ここでお別れだ」

 

小野町礼儀は残念そうにそう告げた。

 

 

 

 

「え?」

 

初春は小野町の言葉を素直に受けとることができない。

 

今、なんと言ったのだ?

 

お別れ?

 

何でこのタイミングで?

 

「あぁ、お別れだ。勘違いするなよ?別にこの娘に倒されるからじゃないからな。ただ……『時間切れ』だなぁ」

 

「な、何いって?」

 

「さて、残された時間は後僅か、やることは沢山……よかった、アイツを呼んでよかった、後は任せるとしよう」

 

もはや小野町は初春を見ていなかった。

 

まるで自分自身に言いように呟くのだ。

 

「だったらオレがやることは?決まっている」

 

小野町礼儀は指を構えた。

 

指先には彼女の血液で形成された弾丸が一発。

 

BB-G。

 

この世の万物を己の好きなように調整する能力。

 

その照準は

 

「オレは美しいモノが大好きだ。それの為ならもう一度死んでもいいと思っている。だから彼女を逃がすのさ」

 

自身と赤沙汰が内部に居る花吹雪で出来たドームだった。

 

拳銃の発砲音によく似た音を轟かせながらBB-Gが発砲される。

 

血でできた弾丸は花吹雪にぶつかるとそのまま霧散し花吹雪に飲まれてしまった。

 

だが、

 

それだけでは終わらない。

 

勢いよく回転を繰り返していた花吹雪に異変が起きた。

 

止まらない。

 

止まらない。

 

徐々に勢いが増していき、次第には花吹雪自体が見えなくなるほどの、勢いになっていく。

 

初春が何か叫ぶがその声は内部の礼儀には届かなかった。

 

そう、小野町礼儀は逃げる事を諦めたのだ。

 

赤沙汰朱と小野町礼儀には決定的な戦力差は無い。

 

だからあえて、彼女は選択したのだ。

 

負けることを、初春を逃がす為の殿を。

 

「小野町礼儀……貴様は何なんだ?!」

 

その問いに小野町礼儀は、意地悪に、嫌らしく、答えた。

 

「オ・シ・エ・ナ・イ」

 

初春は、戸惑ったが、自分のやるべき事をやるために外に向かい歩き出す。

 

「待っていてください‼必ず戻って来ますから!」

 

その声が小野町礼儀に届いたか定かではない。

 

しかし、これが初春が小野町礼儀を見た最後の姿だった。

 

 

 

 

 

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