こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー 作:夜遊
「初春?!そこに居るのは初春か?!」
あれからどれくらいの時間がたったのだろうか?
いや、まだそんなに時間は経っていない。
精々5分から10分位の間だ。
今初春は赤沙汰の能力『押花刺繍』を受け、意識が混濁している佐天の肩を抱きショッピングモールの出口近くまで来ていた。
どうやら赤沙汰の能力は能力者が近くに居ないと効力が弱くなる様だ。
礼儀に対抗物質を調整された初春と違い、能力を諸に受けた佐天の顔色が良くなって来ているのがその証拠だろう。
人通りは疎らだ。
それはいまだに赤沙汰が作り出し、礼儀が強化した触れると激痛が襲う刺繍を彫られる花弁のドームが健在だからだ。
皆、逃げる為に出口に向かっている。
ほんの少しだけ前ならばここでも大勢の人が行き交っていたはずだ。
そして今は避難が遅れた人がいるだけだろう。
その中で、初春は呼ばれたのだ。
声の主は今朝会話した男子生徒の物だった。
「円君?」
「大丈夫?って!担いでいるのは佐天か?ハハ……笑えねぇー」
円順は二人に駆け寄ると空いている佐天の肩を取った。
「ハハ……。他の男子が見たら殺させるかな。で?何があった?」
「ま、円君‼佐天さんの事任せていいですか?!外に二人で避難してください‼」
「え?!ちょ‼初春?!ハハっ‼待てって‼」
初春は円に言うと彼の静止の言葉を無視して走り出したのだ。
(これで佐天さんは大丈夫‼間に合って下さい‼礼儀さん‼)
初春はただ駆ける。
元来た道を。
初春に取り残された円は仕方ないので、佐天を外まで連れ出していた。
まだ雨は降っている。
しかし雨脚は弱くなり、少ししたら晴れるのではないのだろうか?
「ちょ……っと……円!戻し……て‼初……春が危……ない‼」
「ハハハ。ダメに決まっているだろ?!佐天お前今凄く辛そうだぞ‼無理に決まっている‼」
「でも……!行かなく……っちゃ‼あの……子また無茶し……ようとして……いるから‼」
佐天の体は手を離すとすぐに地面に倒れるだろう。
それほどのダメージがあるに違いなかった。
しかし、彼女はそれでも戻ろうとしている。
友人の為だけにそれほどの力強い意志が感じられ円は感心してしまった。
さて、どうしたものだろうか?
円は考える。
ここは普通に考えると、風紀委員やらアンチスキルに任せるのが得策だろう。
しかし、佐天はそれで満足する様には見えない。
彼女を現場に向かわせる訳にはいかない。
ならばどうする?
そこまで考えて、円は考えるのを止めた。
「……涙子ちゃん?」
視線の先にはここまで走ってきたのだろうか?
雨で濡れた肩で息を切らせている高校生の男がこちらを、正確には佐天を見ながら人混みの中に立っていた。
「――っ‼」
佐天はその男を見るやいなや、円の手を払い、ボロボロの身体を無理やり動かし、男に駆け寄った。
そして、普段の彼女からは考えられないことに、その男に抱き付いたのだ。
男は訳がわからない様子だったが、佐天を抱き寄せる。
「……助けて」
佐天は恥も外聞も気にせず涙を流し、呟く。
次第にその声は大きくなり、最後には叫びに変わっていた。
「助けて……助けてよ‼初春が!初春を!助けて‼――」
そこで円は気が付いた。
雨が、
今まで散々に降っていた雨が、
止んでいた。
「――助けて、仁ちゃん‼」
夕暮れの赤々しい光を浴び、佐天はその男に助けを求めた。
「助けて」
彼にその言葉は禁句に近いモノだった。
彼は性格上その言葉で力を、行動意義を見出だせない。
だが、
それは悪まで彼の利益に繋がらない場合だった。
彼は訳がわからないまま、問題を突き出され、ここまで来ただけだった。
今彼の胸で泣きじゃくり助けを求める少女。
その少女が何を思い、何を抱えているのかそれは彼にとってどうでもいい事だった。
しかし、それでも、彼女にとっての『救い』が彼にとっての『答え』を得る過程に近いモノだと本能的に見出だしたのだ。
だから、
彼は、
正義の味方側の悪役は、
この騒動の核になっている男は、
『小野町仁』は、
小野町仁は言った。
「―――――任せろ」
と。