こんなに頑張っているのになんで俺にはヒロインがいないんじゃー   作:夜遊

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小野町仁編、エピローグ

生命循環は反省する。

 

「やはりうまくはいかないな。まぁ大半の原因はお前のお陰だかな、円順」

 

円順は笑う。

 

「ハハハ、おいおい、アンタ自分の現状を考えて行動を起こすべきだったな?常にアンタが『表』に居る訳じゃないんだから、だったらアンタが『裏』に居る内に邪魔をするだけさ」

 

生命循環は苛立つ。

 

「クソっ!元はバグで産まれた人格の癖に途中で混乱を生むような指示を出しやがって‼お陰で催眠をかけていた斉藤誠や長谷川砂鉄に気付かれる始末。無茶苦茶だ‼」

 

円順は笑う。

 

「ハハハ。おいおいおかしな事を言うなよ?そもそもどっちがベースだったか互いに忘れているんだ、そんなこと笑って忘れろよ」

 

生命循環は溜め息を吐く。

 

「……やはりままならないな、貴様の存在は。すぐに消さなくてはならないのに出来ないのは」

 

円順は笑う。

 

「フフフ、それはお互い様だよ、『本当の敵は自分』とは俺らの為にある言葉だよな。なぁ?『俺』?」

 

生命循環は笑う。

 

「あぁ、全く能力の弊害で生じた障害、『多重人格』が敵とは良くできた話だよ『俺』」

 

円順(生命循環)は歩き出す。

 

片方は学園都市の闇を壊す為に暗躍し、もう片方はそれをそれを阻止する為に活躍する為に。

 

 

 

 

 

初春が目を覚ましたのは、病院のベットの上だった。

 

時刻は夜。

 

カーテンの隙間から月明かりが綺麗に入り込んで室内を明るく照らしている。

 

「……あれ?私?」

 

「ん、気付いたんだ?」

 

「はわっ?!」

 

ベットの横に誰かいた。

 

彼は、小野町仁は初春の奇声に驚いた表情を浮かべているが、また優しい笑顔に戻る。

 

「悪いな。BB-Vはダメージを受けた『結果』を擦り付けるだけで受けた『真実』は変わらないんだ、だから身体の疲労感は拭えないみたいなんだよ」

 

初春は自分の身体を確かめる。

 

確かに『押花刺繍』による刺青は無くなっているが、確かあれは時間が経てば自然に消えるものだったようなので、どちらにしても外傷は残らなかったのだろう。

 

初春は小野町仁を見た。

 

(この人が、小野町仁さん)

 

「医者が言うには単なる疲労から気を失っただけだって、驚いたよ、あの娘が倒れたと思ったら君まで倒れるんだもん」

 

あの娘。

 

その言葉で初春の意識は完全に覚めた。

 

「そ、そうだ‼赤沙汰朱は!?て言うか何であなたがあそこに!?っんん!?」

 

疑問を投げる初春の唇を小野町仁は人差し指で抑え黙らせる。

 

「聞きたいことがあるのは僕の方なんだ、と、言うようり僕は全然蚊帳の外だったんだから、そういう疑問は他の人に聞いてくれ」

 

「う……」

 

「確認したいことがある。君は小野町礼儀を知っているか?」

 

「むしろ一緒に行動していました」

 

小野町礼儀。

 

目の前の小野町仁の姉。

 

すでに死んでいるらしい人間。

 

「そいつは、本物か?誰かが成り済ましていたとか無いのか?」

 

「その、わかりません」

 

確かに、そうなのだ。

 

初春は今回始めて小野町礼儀と会った。

 

彼女が小野町礼儀と言う証拠は無いのだ。

 

「だよな……だったら何が起きていたか聞かせてくれないかな?」

 

それくらいなら、と初春はこれまでの経緯を簡潔に小野町仁に伝える。

 

そして、それを聞いた小野町仁は、

 

頭を抱えていた。

 

「……多分それは本物だよ、本物の小野町礼儀だ」

 

「そうなんですか?」

 

「学園都市の中で同姓の可愛い女の子に世話とちょっかいを出すのは僕の姉くらいだからな。よく無事だったな?服とか脱がされなかったか?キスとかは?」

 

「されていませ………あ」

 

思えば、雨の中を走らせて服を濡らされ、替えの服を買うのに身体を触られたような?

 

思えば、二人でアイスを食べた時スプーンをワザワザ初春のを使って食べ合わせていたような?

 

「まぁ、今回は時間が無かったとかだろうな、もう少し余裕があったら危なかったね」

 

さてと、と小野町仁は立ち上がる。

 

「そっか、居たんだ。たくっ、だったら少し位顔を見せやがれってんだ」

 

「あの?」

 

「ありがとう、明日には退院出来るって蛙顔が言っていたから、今日はお休み。君が無事でよかった」

 

「~~~っ」

 

不覚にも、初春は自分の安否に安心した小野町仁の笑顔に、心を震わせてしまう。

 

そして、彼が出ていった扉を見ながら呟くのだ。

 

「……王子さま見付けちゃった」

 

 

 

 

 

小野町仁編、完

 


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