(完)どうやら神様の実験に巻き込まれたみたいです。 作:よっこー
「あれ、昨日まで矢印のあった屋台が消えてる…」
朝。目にささる光から目を晒しながら昨日と少しだけ変わっている風景に戸惑う。ちなみに彼女が起きる前にメモに駄文と感謝の気持ちを書き宿から出た。
さて、こういう場合はここの管理者、つまり神に話すのが良いか。
「神様?」
空に独り言を呟く。
「あの、神様ー?ちょっと分からないことが…神様ー!」
「あ、ふぁい!おはようございまう!」
声からでも今の今まで寝ていたことはやはり分かる。
「えっと、屋台の矢印が無くなったんだけど…」
「あ、それね!もうそこの屋台には入らなくていいよ!」
そうか、彼女は回る必要がある所に矢印のマークを設置した。
つまりそれは昨日のやり取りを見られたことを意味していて、少し恥ずかしい。が話を続ける。
「えっと、この道の最後に神様はいるんじゃなかったっけ?」
右を見ながらどの道かを示す。
「それなんだけどね…屋台には目もくれずに走ってくる人達が過去に続出してさ…」
「なるほどね、その対策か」
「そういうこと!…ということでここに繋がるゲートを目の前に設置するけど…まだ屋台回る?」
「うーん…」
もしかしたら、ここの彼女みたいに困っている人がいるかもしれない。…いや、俺がプライバシーに入る意味もないか。今の状態では赤の他人であるし。昨日は特別でここに来る必要があったからな。
まてよ、ということは現世還りはできるということか?…だけど実感がないな、あっさりすぎるよな…。
「そうだ、ゲートを開いて雑談でもしない?」
「え…いやまぁ、いいけど…開くよ?」
「よろしく」
と、彼女の声は消えた。そして嵐の前の静けさが始まる。
さて、その喩をした意味なのであるが、なかなかゲートが開かない。
「ごめん、ちょっと寝てて時間かかっちゃた!開くよ!」
ゲートが、声が終わる直前くらいに開く。寝てて?…その言葉の意味に少し疑問を抱きながらゲートを見る。
「しかし、不気味だな…」
なんせ、先が見えない黄色と黒色が混ざる空間がそこに円状に広がったからだ。
「大丈夫だよ!なんせあの人の力は偉大だからね!」
「あの人?」
「うん、私が転移の魔法は使えないから、手伝って貰ってるんだ!」
「なるほど」
この、円状の枠組みは黄色で、その黄色が渦巻きながら中心の闇に巻き込まれているのはブラックホールか、と想像を描く。
死んだ後の世界で死ぬのはどのような感覚なのであろうか。目を閉じて前へと歩む。
…転移をしたと分かったのは、歩むところが堅くなってからだった。
「ようこそ、天界へ!」
風が吹かないのにまず違和感。地面は白の大理石が切り抜かれ、まちまちと浮かぶ雲とともに浮いている。ここは落ちないのか、という不安は、正面の上の椅子に座っている神様その本人が自信満々に笑ってこちらを見下ろしているので晴れる。
光の髪、光の目。その現世でいない異様で美しい存在が天界にあった。純白色と肌色の黄金比を思わせる、美しい天然の肌。本来の意味を忘れてしまう、華奢で細長い四肢。元を辿ると、布…いや、衣を纏う小さくも、大きい存在を放つ彼女が、そこにいた。
愛とは、このことか。
「雑談するんでしょ!雑談しようよ!」
ジャンプするように勢いよく立ち上がる。
「え、ええ!是非!」
「なんで口調変わったの…」
と、手の平をおでこにつける。まずい、訂正しなくては。
「ご、ごめん!つ、ついね!」
「それでー、何を話すの?」
「んー、現世還りについてもう少し…教えてくれるか?」
非常に疑問だったこのシステムに触れる。そして、それが理想的ではなかった場合は彼女に…。
「いいわよ。えーと、概要だけでいい?」
「そうだね、よろしく」
こちらに顔を傾ける彼女は見ているだけで癒される。
「えっと、現世還りした時の能力や、体の状態は今と同じで還されるよ。そして死因となるその物事がなかったことになって、死んだ時間に戻される」
「つまりはこのまま現世でやり直せる?」
「いや、ただ一つ、どうでも良いけどこちらとしては重要な変更点があるよー」
「それは?」
「記憶が、無くなる」
「えっと、この現世還りに入った瞬間から?」
「そうそう」
…なるほど。
「えっと…どうしたの?」
「いや…」
この彼女と過ごした時間が無くなるなんて嫌だ。たった一瞬でも、たった記憶でも、彼女のことは忘れたくない。そしてできれば、一緒にいたい。
…ならば、もうこれはいらない。
「ちょっとごめん、返すよ、これ」
「…え?どういうこと?」
彼女に近づいて、六文銭を渡す。
「まぁ、これ使って旨いものでも食えよ。もういらない」
「えっと…理由は?現世還りできなくなるんだよ?」
理由…か。怖いな、言うのは。けど、彼女が聞いてきたのだ、答えるか。
「あなたを、忘れたくないから…」
「…え?どういうこと?」
伝わらないか。なら、全てを話す。
「あなたが、好きだから。ここに来たときから不安な時に、元気な所に安心できて、そして好意をよせて、そしてここ、天界に来たときに完全に一目惚れした…でいいかな?」
彼女がきょとん、としたまま固まる。あぁ、終わったな。
「それって…告白?」
「…ええ。あなたが、好きだ」
「…なるほど。ありがとう」
彼女は、俯いた。髪の毛が顔を隠す。
「ねぇ…これどうすればいいのかな…?」
「…え?」
彼女は空に叫んだ。
「ねぇ、神様!私、どうすればいいのかな!この人と離れたくない!」
「…え?」
瞬間、空から光が差した。まるで雨上がり、雲が晴れる間から差す光が。そして、その光の中心から舞い降りた。彼女と同じ格好をしているが、雰囲気が違う。まるで…そう、神のような。
「…え?どういうこと?え?」
「ねぇ、その…神様?私、離れたくない…けど、還りたい…欲張りだよね…私…」
右腕を掴まれる。弱々しく、そして可愛かった。
「あなたが日々、臨んでいたことでしょう?」
と、神は俺達を包むように諭す。
「けど…けど…」
「ならばあなたはここに残りますか?」
「うん…けど…いや、この人が、還るために…私は残る」
「よろしい、あなたは還りなさい」
「え?どういうことですか?」
神の神が舞い降りてまるで状況がつかめない。
「それはね、私、実は人間なの…」
「…え?」
人間?神じゃないの?
「ここに来た最初の人間。そして、あの神様から、神の役を演じるよう命じられたの」
「えっと…なるほど」
…どうやら、彼女は人間らしい。頭でも意味的にも理解はできないがつまりそういう事実らしい。
「俺は還りたくないのですけど…その神様?」
自らの意思を示し、できれば彼女と一緒にいることを本当の神であろうその方に注文する。
「彼女が臨んだことです。許しなさい」
神がこちらの手の平を向ける。
もしかして、現世還りを強制的に実行しようと?…そんなこと、絶対に。
「いやだ。なら、こんなもの…!」
彼女から半場強制的に六文銭を奪い取り、後ろを向いてそれらを投げる。一斉に投げられる銭はばらばらに宙を舞う。そして、ばらばらに砕け散る。
「…これで大丈夫ですよね?」
「いえ、あなたは条件をクリアしてしまった。ならば還るのが道理です」
「道理?…けど…!」
彼女と一緒に居たい。彼女を忘れるわけには、いかない。いや、待てよ。…ならば、間違った選択をすれば…!
「五月蠅い!道理なんて知るか!俺は彼女を愛し続ける!大切にし続ける!例え地獄に落とされようが…ごめん!」
彼女の頭の後ろに手を伸ばし、向かい合わせになる。心臓の音が…いや、考えている場合ではない。
俺は、手を自分の方に引いた。彼女は抵抗せずに、目的の行動はあっさりと達成される。
「…んっ!」
重なる唇。柔らかく、温かく、ぼやける彼女の顔が近い。それは何故か、愛が近くなったような気がした。
「ご、ごめん!これで…これでどうだ!俺は間違っているだろう?神様!」
早く俺を地獄送りにしろ。早く現世還りを中止しろ。
「…私も、私も永遠に彼を愛す!彼に添い遂げ続ける!幸せにしてみせる!ねぇ、もう一回キスして!」
「え、ちょ…」
「いいから!」
その、しなくてはいけない迫力か。それとも性欲のせいか。拒むものはもう何もなかった。
「…了解」
「ありがとう…」
そして、温もりを再び共有する。
「なるほど…貴方たちは、誓いますか?」
「何が?」
「なんでもです」
そして神に向き、全てを言った。
「当たり前だ!俺は誓う。こいつと一緒にいれば、どんな状況でもどうにかしてやる!」
証拠などない。だが、そうする意思はあるし覚悟もある。そして自信がある。
「私も、誓います。全てを、この方に捧げます!」
「…そうですか」
逃げようと背中を向けようと瞬間に、神は手を下げた。
「…え?」
「合格です」
「どういうこと?」
「知っていますか?三途の川では、女性が渉るには初めて性交をした相手と一緒なのを。結婚式でキスをするのは、誓いを封印し、生涯背負っていくという意志表示なのを」
「そ、そうなの…」
「結婚式の方は、私知っていたよ?」
「そ、そうなの…あ、だからキス求めたのか」
「そういうことー!」
「あ、そんで神様、合格ってどういうこと?」
「はい、あなたたちを同時に現世に戻します。記憶も込みで」
「「…え?」」
一瞬の疑問。そして
「まじで?」
「本当!?神様!?」
「ええ、本当です」
「「いやったー!!!」」
ハイタッチ!喜ぶ彼女の顔が可愛い。
「しかし…しかし!」
「は、はい!」
神様って声荒げるのか。
「ここの世界のことは絶対秘密にすること。それと、私をがっかりさせないでくださいよ?」
「「分かりました!」」
もしかして俺が思い出を捨てたくないことに気を使ってくれたのか?
「よろしい」
「ね、誓いのキスしようよ」
「お、またしちゃう?」
「…いい加減自重しなさい」
「は、はい」
少し名残惜しいな…と思ったら彼女が手を握って神様の方を見た。右手に力を入れて握り返し、神様の方をみる。
全然状況がつかめないが結果二人そろって現世還りができるらしい。それが無事にできたら、彼女に聞いてみよう。いい思い出話になりそうだ。
「ねね、良いレポートできそうかな、神様!」
「ええ、これなら人間の良さを説明できそうです」
「だよね!良かった!私もこんな人と出会えて!」
「あ、気になります?」
と、神がこちらに気がついて話にいれてくれた。
「えっと、何話しているかも含めてお願いします」
「分かりました。私がこの現世還りをするきっかけをなった理由から」
どうやらレポートを書くために現世還りをしたのか。
「現在天界では人間は欲に塗れていて汚らわしい、ということで非難されている種族なのです」
…たしかに、思い当たる節があるな。
「ですが、全ての生命はかのお方によって創造された。欲だって使い方で様々な意味を生みます。よって人間は綺麗な時や、綺麗な方はいます。あなたのようにね」
「あ、ありがとうございます」
心が躍るような感覚。尊敬している人に褒められているみたいだ。
「その事を伝えるためにレポートを作成していました。あなたが現れるこの日までね」
「ちょ、ちょっと待ってください」
もしかして。あの一本道の人達の姿が頭を過る。
「この現世還りは、やめてしまうのですか?」
「…ええ、レポートは完成する予定ですし」
「あの、できればこの現世還りは続けて頂けませんか?」
我儘か。だが言ってみる価値はあるだろう。
「このシステムによって俺とこいつは出会えた。それがやめてしまうのは名残惜しいし、やってみて分かったがここの人間たちは現世還りに希望を持ち生きていた。だから」
「…分かりました、あなたの願いならば仕方がない」
「あ、ありがとうございます」
「さて、そろそろ現世還りをしたくありませんか?」
「「是非。お願いします」」
期待と喜びは、右手に伝わる力が強くなることで分かった。
「では、目を閉じて下さい。今から始めます」
「「はい」」
「お幸せに。そして、さようなら」
下を向き、目を閉じると、不安を感じた。
だが、右手に感じるこの感触と温度が、徐々にそれを晴らしていった。
おわり。そしてそれが、始まり。