刃を向け合う艦娘たち   作:秋津洲かも

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一月二日

「早速お出ましか。わたしはここだ!来い!」

 

「ここは絶対に通しません!」

 

「武蔵さん、榛名さん。確認ですが実弾ですからね。発砲されるまで絶対に撃たないでください」

 

 

 

東京湾の入り口、浦賀水道、ここを通過しなければ東京、大本営に海路で向かうことはできない

 

では陸はどうか、現在、東京中心部は半ば封鎖されつつある

 

向かう幹線道路にはゲートが設置され、許可の受けた車両しか通過できない

 

道路を装甲車、戦車、軍用車が埋め尽くし、歩兵が散らばっていく

 

そこかしこで完全武装した憲兵が目を光らせ、不審者を続々と捉えている

 

1時間に数度の発砲音が響き、無理な侵入を試みた者が次々と倒れていく

 

 

 

この厳戒態勢の中、海から敵の侵入を阻もうとする者

 

数十隻の軍艦、そしてその先頭に立つのは艦娘たち

 

軍艦は水道を塞ぐ形で布陣をしき、既に砲を外海へ向けている

 

その足元には3人の艦娘が臨戦態勢で待ち構えている

 

情報によれば敵がまもなくやってくるはず

 

最初に高速で接近してくる影を電探で捉えたのは武蔵だった

 

艦娘の電探が捉えることの出来る存在は2つ、深海棲艦と艦娘、そのどちらかは明白であった

 

電探上の光点が直線からジグザグな動きに変わる

 

このような動きをするのは人間かもしくはそれ以上の知能を有する者

 

つまりこの海上では誰かと問う必要はない

 

続いて榛名、神通の電探も敵の姿を捉えた

 

3人の目線が交差し、予定通りに状況を開始することを確認する

 

しばらく時間だけが過ぎ、何もせずに互いの距離だけがじりじりと縮まっていく

 

こちらの砲撃準備はとうに終えている、あとは覚悟があるかどうか

 

水平線の上に豆粒のような黒い点が現れる

 

武蔵は目を細めると、良く見知った顔が見えた

 

やはりあいつか

 

隣の榛名にはもう見えているのだろうか、顔色に変化はないようだ、覚悟は済んでいるようだな

 

ジグザグ航行が再び直線に戻るやいなや

 

遠方で2つの発砲炎が光る

 

数秒の間をおいて着弾

 

前方の水柱に続き、大気を切り裂く甲高い悲鳴が武蔵の眼鏡を揺らす

 

「撃ってきたか。今のは様子見のようだが、神通、こちらから警告弾は必要か?」

 

「必要・・・ありません。ここまで来たということは金剛さんはこちらの哨戒網を無理矢理突破してきたということです」

 

「そうか、では発砲を開始す

 

2つの発砲音、突如、隣からの爆音に武蔵の眼鏡がずれる

 

音速を超えた衝撃波が円状の雲を砲塔の先に作り出し、炎が尾を引く

 

主砲から放たれた容赦のない弾道は金剛の近接弾となり

 

少なからず損傷を与えたようだ

 

「榛名、お前・・・いいのか?」

 

「はい、たとえお姉様でもここは通せません」

 

緊張も恐れもないいつも通りのその表情に武蔵は少なからず戸惑いを隠せなかった

 

歴史上に類を見ない艦娘同士の戦闘が始まった、演習ではなく、実戦、命のやり取りとして

 

万が一、そのような状況において、わたしは果たして大和を撃てるだろうか、・・・・・・否だ

 

覚悟が足りていないのはわたしのほうだ、神通も恐らくためらいはしないだろう

 

しかし、心情や言葉で表せたとしても行動として同じ艦娘を沈められるだろうか

 

わたしの覚悟は残念ながら『覚悟したつもり』だったのだろうか

 

金剛よ、潔くこの場を退け、いや退いてくれ、くそ!向かってくるな!わたしに撃たせるな!いや違う、榛名にこれ以上撃たせるわけには・・・

 

 

 

 

畜生!!!

 

爆発音とともに体が沈み込む反動、後悔と共に目線を上げると幸い弾は外れてくれた

 

ふと気を抜くと自分に続いて度重なる発砲音、榛名が連射の体勢に入っている

 

果たして正気なのかと顔を見やると榛名の顔がみるみるうちに歪んでいく

 

必死に歯を食いしばり、鬼気迫る顔を涙で濡らしている

 

悔しそうな悲しそうでありながら決して目を閉じず、『目標』を狙い定めている

 

やがて嗚咽が聞こえ、それを抑えるように唇を噛みしめている

 

それでも連射は止まらない、まるで自身を撃っているかのような榛名の表情を見ていることができなくなった

 

辺りが発砲煙に包まれ、視界が奪われていく、その向こうで神通が魚雷発射管に手をかけた

 

本当にやる気なのか?

 

流れるような動作で海面に向け姿勢を低くし、あとは発射を念じるだけ

 

その決意の表情には揺るぎが感じられない

 

そして深海棲艦に向けられるものとなんら変わりがない

 

「やめろっ!」

 

咄嗟に手を伸ばすも、スローモーションの光景の中、魚雷が次々と海面に吸い込まれ、1、2、3、4と航跡を描いていく

 

こちらの言葉にハッとした神通が視線をこちらに向けるも、すぐさま航跡に顔を戻す

 

濛々と立ち込める煙に阻まれ、わたしが航跡の先を追うことは叶わなかった

 

発砲音が止み灰色の視線の中、榛名の静かな泣き声だけが耳に入る

 

 

 

 

わたしは理念に従っているはずだ

 

榛名も神通も志を同じくした、けれども金剛は異なった

 

決して恨みも妬みもない、金剛がわたしと違う道を選んだとき、確か最後は互いに笑顔だったはずだ

 

次に会うときは敵同士だと冗談めかして、手を顔の位置で叩きあった

 

艦娘は兵器ではない、心がある

 

けれど人間ではない、力がある

 

唯一無二のただ艦娘という存在として、一人一人に理念が志がある

 

ある者は戦いを好み、ある者は救うことに存在意義を感じる

 

決して提督だろうと踏み込むことの許されない領域

 

心と力、この二つを併せ持った結果がこれなのか

 

 

 

徐々に煙が晴れていく

 

泣き崩れた榛名が海面にうずくまり、両手で海面を叩いている

 

神通は目をそらし、祈るように目を閉じている

 

 

 

 

突如、視界の隅に上空を超高速で飛翔する物体を捉えた

 

一度ではない、二度、三度

 

 

 

 

徐々に煙が晴れていく

 

その先には全身ずたぼろとなりながらもこちらに砲を向ける金剛の姿があった

 

服は破け、艤装から煙をまき散らしなお、こちらに全速で向かってくる

 

互いの視線がぶつかる、満足そうな笑みを浮かべながら、憎たらしく中指を立てている

 

「ふふ、そうでなくてはな」

 

わたしの心が歓喜に満たされる、あいつにつられて口の端が吊り上がる

 

そして同じく中指を立ててやる

 

 

 

 

 

(続く)




ありがとうございます!

次回、「一月三日」

頑張ります!
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