「貴様ら、どういうつもりだ?」
長門は現在の状況の解を求めて1つ1つ可能性をつぶしていく
視線の先、川内3姉妹が深海棲艦タ級と共にいるという事実は何を示すのか
まず情報の一つが思い当たる、深海棲艦が艦娘に化けている可能性
いや待て・・・深海棲艦では酸素魚雷を使えないはずだ
加えて我々に命中しないように魚雷を放ってきた
初雪が飛び出してきたことで、算段は狂ったが水雷戦隊旗艦に相応しい大した練度だ
そして魚雷には爆薬が装填されていなかった
最初から攻撃する意図はなかったのか
他の鎮守府では停戦派となった艦娘がいることは知っている
私とて決して口には出さなかったがその気持ちを理解できないわけではない
目の前の3姉妹は深海棲艦に操られているのか
それとも自分の意志で私の前に立ちはだかっているのか
静寂の中、私の言葉に軽巡洋艦神通は微笑みを返した
「長門さん、軽巡洋艦川内と那珂の非礼をお詫び致します。貴方とお話がしたいという方がいるのです」
神通が目で促すと、タ級はゆっくりと前へ進みだした
咄嗟に艤装を構えようとするも、初雪をかばう際に緊急分離してしまった
せめて戦意を示そうと目に力をこめ睨み付ける
見るとタ級は艤装を装着しておらず、セーラー服1枚の状態、そしてぶつかり合う目には戦意が無い
オーラと表現するのが近い、そういったものが一切感じ取れない
腕の中の初雪が怯えたように私を抱きしめる
他の駆逐艦3人は体を震わせながら懸命に砲口をタ級へと向けている
◇
開戦から既に13名が沈んだ
けれども誰もそこには目を向けない
ミッドウェーで失った空母4名を惜しむ声が聞こえてくる
そしてソロモンで失った戦艦2名を惜しむ声が聞こえてくる
誰も13人の名前を語ろうとはしない
最初は怒りが沸いてきた
なぜ守りきれなかったのか
水雷戦隊の誰もが戦艦を、空母を護るのが使命だと分かっている
私達の力が及ばなかったがために『主力』を失った
その事実は変わらない
あの時、提督は勘違いをしていたようだが、私達は足手まといでもなければ守られる存在でもない
私達が空母を、戦艦を命を賭して護るのだ
提督の頭の中は主力を失ったことで一杯だったのだろう
そして目の前の長門さんが聞けば激怒するだろう、私達水雷戦隊こそが貴方たちの守護者だ
確かに非力な私達と貴方がたには生まれ持って絶対的な力の差がある
攻撃機を運用することは出来ないし、大火力も装甲も持ち合わせていない
けれども・・・、けれどもそれを埋めるだけの圧倒的な『数』がある
『誰か』が倒れても、すぐさま同等の性能を持った『誰か』が代わりに戦場へと向かい、護る
そしてその結果が13名の犠牲だった
私は戦いを重ねるごとに臆病になった
『歴戦の水雷戦隊旗艦』と呼ばれる度に、「そんなことはありませんよ」と謙遜しながら答える度に失った者の顔を思い出す
もはや水雷戦隊の長を続けていくことは生きながらにして四肢を刻まれていくことに等しい
このまま戦争を続ければ、再び確実に誰かがいなくなる
思えば私は駆逐艦の皆さんには命を削るような過酷な訓練を強いてきた
辛い、苦しい、もう辞めたとこぼす駆逐艦たちを無理矢理立たせてきた
それは彼女たちに生きてい欲しいと願ったからこそだった
なんとしてでも生きて、そして戦争を終えて幸せになってほしいと誰よりも願っていた
でも心の中でこそ、そう思っていたが、実際はどうだっただろうか
私が彼女たちを死地へと追いやった
口に出さずとも行動で「護り、そして死ね」と背中を押してきたのだ
未熟でろくに判断もできず立ちすくむだけの彼女たちのままであれば、勇敢に自ら犠牲になることは選ばなかったのではないか
戦場に背を向け逃げ出せば、13名も失うことはなかったのではないか
こちらに砲を向ける白雪、敷波、磯波、そして長門の腕の中を離れた初雪の表情が答えを示している
彼女たちは未熟な練度にも関わらずここにやってきた
私には分かる、英雄長門を護るがためにやってきたのだと
彼女たちの目は一兵士そのものだ
その立派な姿こそが私のしたことの罪の証明に他ならない
あと2ヶ月で深海棲艦を殲滅できるかもしれないが、その2ヶ月の間に何が失われるのかをこの子たちは知っているのだろうか
決して平和への芽を摘ませるわけにはいかない
◇
身動きが取れない
タ級の姿は私の、この長門のそれと変わりなかった
体のあちこちに細かい亀裂が走り、白い肌に無数の傷跡が走る
放っておけば崩れ去ってしまうかのように、一つ一つの動作がぎこちない
痛みに耐えるように顔をしかめながら、足を引きずりこちらに向かってくる
幾多の戦場を駆け、勇敢に戦った証
そして何より表情が語っている
兵の上に立ち、その多くの死を経験して初めて得られる戦場での達観
ふと自分とタ級の姿が重なる
多くの深海棲艦を率いて戦う自分の姿
艦娘との戦いに敗れ、沈んでいく者たち
奇妙な親近感が心の奥深くから湧いてくるのを止められない
く・・・来るな!!!
「貴方が長門さんですね、お待ちしていました」
微笑みと共に投げかけられた言葉が私の心に素早く侵入してくる
敬愛の意味を示す差し出された手に言いようのない気持ち悪さを感じる
恐怖に似た嫌悪感が瞬く間に全身にいきわたる
もしこの手を取ってしまったら・・・
嫌だ・・・
私の全てが・・・
戦場での日々が・・・
私に希望託す者たちが・・・
『過去の者たち』全てが・・・
否定される
「撃てーーー!!!!」
駆逐艦4人の発砲音と共に静かな海は再び戦場となった
(続く)
ありがとうございます。
水雷戦隊旗艦という立場は想像を絶するほどに大変だろうなと思いました
次回、「一月六日」
頑張ります!