刃を向け合う艦娘たち   作:秋津洲かも

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一月六日

提督という存在は孤独である

 

艦娘を束ねる者として自らそれを口に出す者はいないが、鎮守府で唯一の男性であり絶対的な権力者である

 

大本営や他の鎮守府との連絡手段の奪われた今、鎮守府運用の全責任を負う立場となった

 

信憑性に欠ける情報が立て続けに飛び込んでくる中、責任感の強い提督ほど艦娘を守るために苦難の日々を強いられていた

 

停戦の二文字は提督たちに安堵を与えるどころか、現状に対して無力であるという烙印を押し、この先どうなるのかという不安だけが残る

 

やがて提督たちは自身の心の拠り所を何よりも欲するようになった

 

ある提督はケッコンカッコカリを交わした艦娘に心の内を語り、ある提督は戦艦長門のようなリーダーシップに長ける艦娘に相談を持ち掛けていた

 

それでも鎮守府の最終的な意思決定は自身で下さなければならず、結果、大多数の提督が苦悩の末に選んだ結論は『状況が動くまで何もしない』であった

 

しかし、思わぬところから一石が投じられた

 

それは『軽巡洋艦 大淀』からの1通の手紙であった

 

大淀は提督であれば誰でもが士官学校時代にお世話になった教官である

 

艦娘として士官学校の教壇に立ち、鎮守府の運営から艦娘の運用、提督としての心の持ち方まで指導を行っていた

 

手紙には提督本人と大淀しか知りえない士官学校時代の情報が含まれており、各提督の信用を得るのは難しくなかった

 

その内容が語るところは『深海棲艦との停戦協議開始は真実である。無用な出撃を行うな』であった

 

多くの提督は自身の導き出した『状況が動くまで何もしない』と手紙の内容が合致したことから出撃を控え、最低限の防衛行動に徹した

 

しかし少なからずこの大淀の手紙は波乱を招くこととなった

 

既に積極的継戦に傾きつつあった鎮守府では提督と艦娘の確執をさらに深める結果を招いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特にその傾向が強かったのが横須賀にほど近いとある鎮守府であった

 

「あの、瑞鶴先輩?」

 

「葛城、何度も言うけどその先輩ってのむずがゆいからやめてくれる?」

 

「えっと・・・瑞鶴さん、私達このまま出撃しなくていいんですか?」

 

「そうね、うちの提督さんは鎮守府正面の警備以外に何もするなっての一点張りだから」

 

「はあ、葛城の出番まだかなあ」

 

二人の空母娘は艦載機の整備をしながら言葉を交わす

 

手にはそれぞれ紫電改二と彗星を持ち、エンジンにオイルを継ぎ足していく

 

「あ!ちょっとあんたオイル入れ過ぎ!こぼれてるわよ!」

 

「ふぇ?わ!とと!う・・・、どうしましょう?」

 

「しょうがないわね。ほら、ちょっと貸しなさいよ」

 

オイルまみれになりながら半べそをかくのは正規空母葛城、竣工してようやく艦載機の扱いを覚えたばかりのひよっこ空母

 

全くこの子はどこか抜けてるんだから、私がしっかりしないとだめね

 

半年ほど前のミッドウェー大反攻以来、空母のリーダーは私、瑞鶴が務めている

 

正直、私にリーダーは向いてないと思うんだけどなあ

 

翔鶴姉が適任だと思うのに背中を押される形で決まってしまった

 

頼りになる龍驤さんや隼鷹さんは他の鎮守府にいるし、鳳翔さんは・・・今頃どうしているんだろうか

 

あの雪の日、鎮守府を飛び出して大本営に向かっていた私は鳳翔さんに出会い、互いに弓を向け合うことになった

 

そしてこてんぱんにやられた

 

一瞬にして弓と飛行甲板を壊され、艦載機発艦さえできなかった

 

『鎮守府に戻りなさい!』と一喝され、いそいそと鎮守府に帰ってきた

 

翔鶴姉を泣かせて勢いよく鎮守府を飛び出して・・・戻って来た時は気まずいったらなかったな

 

それにしても・・・鳳翔さんは戦場ではあんな目をするんだな

 

「瑞鶴せんぱーい!たいへん!たいへんです!」

 

「へ・・・?今度は何よ?」

 

「プロペラとれちゃいましたー!」

 

はあ、これだから雲龍型は・・・

 

 

 

『正規空母瑞鶴、正規空母瑞鶴、至急執務室へ来ること。繰り返す』

 

 

 

「あら?葛城!ちょっと私、執務室に行ってくるから待ってなさい。プロペラを無理にくっつけて壊すんじゃないわよ」

 

「はーい。いってらっしゃーい!」

 

全く、元気だけはいいんだからなあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  コンコン

 

 

 

「正規空母瑞鶴参りました。入ります」

 

「ああ、入ってくれ」

 

執務室の扉を開けるとそこには提督さんと翔鶴姉の姿、二人の視線は机上の一枚の写真に注がれている

 

「ちょっと私、忙しいんだけど・・・提督さんどうしたの?」

 

愚痴でもこぼそうと思ったけれどいささか真面目な雰囲気なので頭を切り替える

 

「この写真を見てくれ。偵察機が送ってきたんだが、この鎮守府の哨戒線より外で深海棲艦が確認された」

 

「それでどうしろって言うの?」

 

提督さんとはこの間の無断出撃から少し険悪な雰囲気が続いている

 

最近は深海棲艦が現れても哨戒線の内側に入ってこなければだんまりを決め込んでいる

 

いつまた深海棲艦の被害が広がってもおかしくないというのに、敵に時間を与えることは不利な条件に他ならない

 

あれ・・・何これ?いや・・・誰?

 

写真に写っているのは深海棲艦だけではないと・・・思う、確証はないけれど恐らくは艦娘、一対四で戦っている

 

撮影された時刻を確認すると約15分前、すぐに助けに行かなきゃ

 

「分かったわ、出撃ね。翔鶴姉!行こう!」

 

「待て!艦娘かどうかの確認がまだとれていない」

 

「哨戒機は何してるのよ!次の連絡無いの!?」

 

「哨戒機からの連絡は途絶えた。撃墜された可能性はあるが、停戦が進んでいる今、下手に手出しはできん」

 

「何言ってるのよ!自分の管轄の艦娘じゃなきゃ見捨てるってわけ!?私、行くからね」

 

見捨てるなんて冗談じゃないわ、出撃ドックへ急がないと

 

「おい!また勝手に出撃するつもりか!処分は免れんぞ!」

 

「ちょっと瑞鶴!・・・申し訳ありません、提督、私も行きます」

 

「翔鶴!お前まで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑞鶴!待ちなさい!」

 

振り返ると艤装を装着し、息をきらした翔鶴姉の姿

 

「翔鶴姉!来てくれたんだ!」

 

やはりこんな時に頼れるのは翔鶴姉だけだよ、提督さんはすっかり及び腰になっちゃって

 

「瑞鶴、貴方場所は分かっているの?」

 

あ・・・、聞いてくるの忘れてた

 

「慌てん坊なところは変わらないわね。瑞鶴、場所はここよ」

 

私が言葉を発する前に事態を悟ったのか翔鶴姉から地図が手渡される

 

鎮守府から全速で30分はかからない地点、戦闘機ならものの5分で到着する

 

出撃したらすぐに戦闘機を発艦、先行させて制空権をこちらのものとする

 

「翔鶴姉、出撃したらすぐに戦闘機を発艦して・・・」

 

ふと地図に目を戻すと地図をのぞき込む背の低い黒髪の少女がいた

 

「瑞鶴先輩!私も行きます。すぐに準備してきますね」

 

言葉と共に艤装格納庫に一目散に飛び込む姿は

 

「ちょっと葛城!あんた何言ってるのよ!いい?着いてきちゃだめだからね!」

 

声をかけるも返事はなく、艤装格納庫の中でどたばた艤装を装着する音だけが返ってくる

 

「・・・翔鶴姉。どうしよう?」

 

「瑞鶴、葛城も貴方と一緒に戦いたいのよ。あれだけ訓練したんだもの。大丈夫よ」

 

確かに戦力的には一人でも多くいた方がいいけれど、そそっかしい葛城はなにかと心配の種である

 

はあ、このまま翔鶴姉と二人で出撃すると帰って来た時に散々駄々をこねるだろうからしょうがないか・・・

 

手のかかる子だなあ、きっと加賀さんでさえ私のことをそこまで思っていなかったと思う

 

あ・・・

 

先に逝ってしまった四人の先輩のことを思い出すと今でも胸が締め付けられる

 

鳳翔さんに出会った時と同じ感覚が襲ってくる

 

写真の中の四人が私に微笑みかけてくる

 

周囲の風景が朧げになり、五感が失われていく

 

ふと見上げると少しはにかんだ表情の加賀さんが私の頭に手を置こうと・・・

 

「瑞鶴先輩!準備出来ました!葛城、準備万端です!」

 

!!!

 

・・・いけない、今は目の前のことだけ考えないと

 

すぅーと息を吸い込み、気合いを入れる

 

「翔鶴姉!葛城!出撃するわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの出撃は呆気なく終わった

 

敵に空母はおらず、戦闘機で制空権を確保した後に攻撃機と雷撃機を発艦させ第一次攻撃で大破へと追い込んだ

 

最後にふらふらと編隊飛行を崩しながら飛ぶ葛城の雷撃機でとどめをさした

 

葛城は低空飛行がいまだに苦手なようで、おっかなびっくり高度を上げたり下げたりしている

 

ちょっと葛城にお小言を言おうかと思ったけど本人は一生懸命だったので、鎮守府に帰ってからにしよう

 

さて私達が目標地点に到着する前に戦闘は終わり、残すは艦娘の救助だけ

 

攻撃隊の報告によると戦艦の艦娘は大破の状態で艤装をぼろぼろにしながらも健在のようだ

 

「瑞鶴先輩!わたし、やりましたよ!見ててくれました?」

 

満面の笑顔で葛城が海上を飛び跳ねている

 

戦闘で活躍すると嬉しい、そんな感覚は今の私には無くなってしまったけれど、目の前の後輩の姿は以前の私のものとさして変わらなかったのだろう

 

「見てたわよ。葛城!でも慢心はだめよ!戦闘は完全に終わったわけじゃないの。索敵に気を配って」

 

こんなとき加賀さんならきっとこう言うはずだ

 

「はーい!えへへー」

 

無邪気な姿を見ていると思わずこちらも口の端に笑みが浮かぶ

 

翔鶴姉が微笑ましそうにこちらを見ている

 

6人だった頃の空母機動部隊、真珠湾作戦が懐かしい

 

 

 

 

 

 

 

ほどなくして戦艦の姿が波間に見えてきた

 

良かった、彼女は無事なようだ

 

誰なのかはもう少し近づかないと分からない

 

艤装のあちこちから煙が立ち昇っているがちゃんと海上に浮かんでいる

 

 

 

海面に力なく座り込んでいて、顔は天を仰いでいる

 

泣きながら誰かを呼ぶ声がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧島

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(続く)




お読み頂きありがとうございます!

瑞鶴は改二で18歳、改で16歳くらいでしょうか
迷彩服が好きです
ズイカツはいいものです

頑張るずい!
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