動画ではっちゃけ多分こっちは真面目にやらないとね。
「トウカー!おはよー!」
今日も高く大きな声が牢獄内に響いてくる。
この数ヶ月毎日欠かさずに超えてくるその声は、最初の頃は鬱陶しかったが、慣れて来るものだ。
「寝てるのー?おはよー!」
「うるさい、もう2時間36分前に起きてる」
「細かいね!?」
いつも鉄格子の向こう側にいる薄紫色の髪をした子供は俺に他愛ない話をする。俺が適当に相槌を打っているだけでもとても嬉しそうだ。そんなに話し相手が欲しいのか?あれだけ明るいなら同年代の友達くらいいるだろうに
「一つ聞いていいか」
「なに?」
「なぜ俺のところで話をする?同年代の友達と話せば良いだろ」
「うーん、そうなんだけどさ…………」
あはは、と気まずそうに笑う。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか
「私、友達いないんだよね。教会の外に出してもらえないから」
「教会の外に?お前は教会の人間か」
「人間っていうか、この国の女神候補生なんだ」
………驚いたな、まさかこんな子供が女神候補生とは
「だからいっつも部屋で一人ぼっちでゲームしてるんだ。でも最近はトウカと話してる時間の方が多いかな?」
「俺なんかと話して楽しいのか」
「楽しいよ!」
そしてその少女は今の俺にとって太陽の様な少し眩しすぎる笑顔で俺に言った。
「だって、トウカは私の話聞いてくれるもん!」
この少女が、俺の人生を変えるなんて思ってもいなかった。
◆◆◆
ビチャ、ビチャ、と水の跳ねる音が聞こえてくる。
地面に広がった一面の血の池、、血と肉が焼けるような匂い、赤い炎と黒い炎が燃えて、周り一面には肉片になった何かの死体が散乱していた。
人が見たなら、地獄の様だというだろう。
そんな中を、アイリスは進んでいた。
「……昔みたいね……本当に」
こんな光景を、彼女は昔見たことがある。
いや、何度も見てきた。こんな地獄のような景色を。
彼が戦場を、敵国をこんな風に地獄にしていく様を、何もできない自分の弱さも、何度も味わってきた。
「見つけた!」
一箇所だけ大幅に地面が削られている箇所を見てみると、その中央に彼がいた。アイリスは急いでその地面を滑り降りてトウカの元へと向かう。まだ暴走は始まっていないのならばいくら手間も打ちようがある。そうしてアイリスは彼の所へたどり着く。
「見つけたわよ、トウカ」
「……………………」
トウカは何も答えず、ただその場に膝をついて俯いていた。
「あの黒い鎧は?」
「……………殺したよ」
目の前には何かに突き刺していたのであろうゲハバーンが突き刺さっていた。
トウカは静かに、ヴェアフルの正体を話し終える。
「そう……………あの子がネプちゃんの未来ってこと?」
「そういうことだ………あはは、一番守りたかったものを……俺は殺したんだ」
絶対に守りたかった、何に変えても、自分の命を引き換えにしても守りたかった。その存在を、彼は今自分の手で殺してしまった。
いつぶりだろうか、こんな感情を抱くのは。
罪の意識も、悲しみも、そんな感情はない。
ただ、消えてしまったという空虚な感情が、彼の中に残されていた。
「でも、この世界のネプちゃんは守れたじゃない。それでも貴方がいた意味はあったのよ」
「いずれヴェアフルの様になってしまうのなら、なんの意味もない。俺は目の前の少女すら救えない!いつもそうだ!たった2人の幼馴染を守ろうとしても、結局2人とも救えない!お前も、うずめも!誰1人救えなかった!悲しい思いをさせてしまった、俺の手でこの世から消してしまった!!何が科学の神だ、何が女神の保護者だ、何が最強だ!俺はただ何も救えない愚か者だ………何ひとつ救えない」
ずっとそばにいたアイリスでさえ、彼の心の声を初めて聞いた。
もうほとんど失われている感情を吐露し、叫ぶ。
「しかも、ああなったのは全部俺のせいだ………俺があの子にしてきたことは…………全て無駄だった…………俺が居る事であの子が不幸になるのなら………俺なんていなければ良かった…生まれてこなければ良かった!!!!」
「っ!!カイナ!!!!!」
思わず彼の名前の本当の名を呼び近くアイリス、しかし、手を伸ばしたその手は何かによって弾かれた。
手を見てみると、熱い鉄板に手を押し付けた様な大きな火傷を負っていた。そしてトウカの周りに炎と黒いオーラが溢れ出てくる。
「カイナ!!!ぐうっ!!」
とてつもない高温の空間がアイリスの体を焼く、細胞レベルで人間ではないアイリスでさえ近づくことができない。
おそらく力を制御していないプロトタイプだからこそ、改良されて力を制御している第一世代では対抗できないのだろう。
今、彼の力は制御されていないのだから。
「………カイナ!」
だが、そんなことは関係ないのだ。
今彼を助けられるのは自分だけなのだから、今度こそ助けるのだ。今度こそ、自分の元から、自分の手に届かないところへ行かない様に。
「貴方の悪い癖はね!なんでも1人で抱え込んで失敗することよ!!1人で出来ないなら頼りなさいよ!!!それにね、何も救えなかったっていうけど」
体が焦げる様な暑い空間の中を、一歩一歩確実に進んでいき、懸命に手を伸ばす。
「少なくとも私は救われた!!!貴方がネプちゃんから新しい名前を貰ったように、私も貴方から名前を、新しい自分を貰ったから!!」
誰も救えてないなど言わせない、自分は彼に救われたのだから。
だから今度は自分が彼を救う番だ。
「貴方が生まれてこなければこなかったなんて言わせない!他の誰にも、貴方自身にも!!!だから………」
一歩一歩進むたびに体に帯びる熱が高まる。
そして伸ばした指先が焦げ始めた。
これから先に進めば全身が焦げてしまうかもしれない。そんな時だ、その指先に感触が現れたのは
「カイナ……………」
そして、アイリスの視界が暗い布のようなもので覆われ、足元には剣が突き刺さる。
「アイリス……いや、プルルート」
黒い物を取り除き視界が開ける、するとそこには
「ネプテューヌを頼む」
昔、一度だけ見た…………彼の笑顔だった。
「カイナっ!」
その瞬間、とてつもない閃光と衝撃がアイリスを襲い彼女を数十メートル先の湖へと叩きつけた。
◆◆◆
「ガバッ!ゴホォ!」
湖へと吹き飛ばされたアイリスは水中で目を覚まして水面へと泳ぎ、陸へと上がった。
「はぁ、はぁ、カイ…………トウカは!?」
辺りを見渡すが、一面の焼け野原しか見当たらない。
彼の姿はどこにも無かった。
「トウカ、ねぇトウカ?何処なの?返事しなさいよ!ねぇ!ふざけないで!どうせまたタチの悪いドッキリでしょ?ねぇ?」
彼女の声に反応するものはいない、それでも彼女は言葉を発する。叫び続ける。
「トウカ、トウ…………カイナ、ねぇ!冗談でしょ?カイナ、カーくん!返事してよ!お願いだから!!私……貴方まで居なくなったらどうすればいいのよ!!ねぇてば!カイナァァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼女の叫びが、雨の降り始めた空へと木霊していた。
◆◆◆
「大丈夫?お姉ちゃん」
「平気平気、ありがとネプギア」
ネプテューヌ達は戦いを終えて休んでいた。
エディンは勢力を失い消滅したそうだ。洗脳されていた人間達も無事に解け、今は大丈夫だという。
「あとはトウカが戻ってくるだけだね!」
「うん、そうだね」
「心配しなくても大丈夫だよネプギア、トウカは強いもん。必ず帰ってくるよ」
笑顔で言うネプテューヌとは対照的に、空から雨が降り出した。
「ねぷぅ!?雨だ!」
「わわわ!どうしようお姉ちゃん!?」
「とりあえず教会に帰ろっか」
「うん、そうしよっか」
そう言って姉妹は走り出した。
(これでいつも通りに戻るよね?トウカ………でも、なんか……嫌な雨だなぁ)
彼女の望みは、もう叶えられることはない。
あともう少しでこの章は終わるでしょう。
この章だけ長かったなぁ