その方が良いと思いますしね(^^)
彼のいない世界
「いやぁピー子も無事帰って来たし、めでたしめでたしだね!」
エディン事件が終結して数時間、ネプテューヌたちはお疲れ様という感じで笑いあっていた。しかしアイリスだけはそんな空気になれない。それもそうだ、目の前で幼馴染が死んだのだから。
「お姉さん?どうしたの?」
「………ええ?ああ、ちょっと疲れちゃって」
「大丈夫ですかアイリスさん」
「少し休んだら治るわよ」
ちなみにネプテューヌたちには何も話してはいない、トウカは事後処理で忙しいからしばらく帰って来られないとごまかしている。しかし、それも近いうちにバレてしまうだろう。その真実を知った時、彼女は耐えられるのだろうか?もし、耐えられなかったら……考えたくはない。
自分はあの子を頼まれたのだ、だから彼の代わりに自分が守らなければならない。それが彼女にとっての……最後の生きる意味なのだから
「ちょっと外に涼んでくるわ」
そう言ってアイリスはテラスへ出て行った。
無邪気に笑うネプテューヌに真実を伝えなければいけないという重責に押しつぶされそうになってしまうから。
「団長………」
「どうしたの?」
「先輩に……何かあったんですよね?」
「………はぁ、そういうことだけは鋭いわね、昔から」
ライトにはアイリスの様子がおかしいことはわかっていた。
伊達に彼女は聖騎士団副団長を務めていたわけではないのだ。
「先輩が…………死んだ?」
アイリスはライトに起きたことすべてを話した。
やはり、彼女も信じられないと言わんばかりに驚きを隠せないようだ。
「ネプさんには……言ってないですよね」
「言えるわけないわよ、そんなのあの子がどうなるかなんて分かりきってるもの」
しかし、いつかは言わなければならないときが来る。
いつまでも隠し通せるわけではないのだから、だがその真実を告げたときネプテューヌは彼女のままで居られるのだろうか?
「これからどうするんですか、団長」
「そうね、正直に言えばここにいる義理なんてないけれど……任されちゃったのよね、あいつから」
彼の最後の言葉を、アイリスは思い出す。
それは彼が自分に託した最後の願い、あの子がトウカたちが居なくなっても大丈夫なように強くするまで見守るという役目を……
「とりあえずギアちゃんにも言わないこと、あの子も顔に出やすいから」
「そうですね、てもイストワールさんには言ったほうがいいんじゃ……」
「私から言うわ、きっと悲しむでしょうね」
イストワールはトウカが子供のときから今までずっと見てきたからこそ、その悲しみは大きいだろう。それが分かっているから、話すのは辛い。といっても、彼女のことだからもう薄々勘付いているだろう。
「じゃあ行ってくるわ」
「はい」
そうしてアイリスはイストワールの元へと歩き出した。
◆◆◆
「やはり、そうでしたか」
イストワールはやはり気付いていたようだ。
アイリスからトウカの死を告げられても驚いてはいない。
「思い返せばもう何百年も前になるんですね、彼と出会ったのは」
「最初は狼みたいな目つきだったのに、いつのまにか落ち着いた子供にまでなってたわね」
懐かしい記憶が蘇り、お互いに苦笑するイストワールとアイリス、それと同時にもう彼はいないのだと改めて痛感させられる。
「ネプテューヌさんには伝えてないんですね?」
「無神経な私でも言えないわよ」
「そうですか………分かりました。出来る限り伏せておきましょう」
「お願いね」
そう言ってアイリスは部屋を出て歩き始める、もう夜も深い。
空には綺麗な夜空が広がっているが、彼女の気持ちは晴れない。
そんな中、テラスに人がいるのを見かけた。よく見てみると、ネプテューヌの様だ。
「ネプちゃん」
「あ、お姉さん」
アイリスはネプテューヌに声をかけた。
こんな夜遅くにテラスで何をしているか気になったというものあるが、なんとなく放っておけなかったからだ。
「あんまり夜風に当たると体に悪いわよ」
「あはは、大丈夫だよ」
あはは、と笑うネプテューヌはもう一度テラスから外を見渡した。
「こんな時間に何してるの?」
「……トウカが帰ってくるのを待ってるんだよ」
その言葉が、アイリスの心に突き刺さる。
この子は今でも待っているのだ、トウカが帰ってくるのを。
「トウカはまだ帰ってこないわよ、だって「帰ってくるよ」え?」
「帰ってくるよ…………だって、帰って来るって言ってくれたもん……ずっと側にいるって言ってくれたもん…………」
アイリスはネプテューヌの目を見たとき、すべてを察した。
彼女の目は、涙で溢れている。ボロボロと、大粒の涙を流していた。
「私のこと、ずっとずっと見ててくれるって言ったもん……だから絶対帰って来るもん!!!」
そうだ、自分はなんて甘かったのだろうか。
彼女はトウカにいろんなことを教わった教え子なのだ。
そんな彼女が、いつも自分を支えてくれたトウカの変化に気づかないわけがないのだ。
例え忙しくても、重大な事件があったにもかかわらずネプテューヌの元へと帰ってこないなどトウカにはありえないことなのだから。
意外と彼女は鋭い、だから気づいてしまっていたのだろう。
もうトウカが居ないことに。
「だから私は待ってる、必ず帰って来るから」
だが、それを受け入れることはできない。
認めるわけには行かなかったのだ。
自分が彼はもう居ないと、受け入れてしまったら、認めてしまったら、まだ生きているというほんの少しの希望を捨てることになる。
それは嫌だった、もう二度とトウカと会えないなんて、考えたくないのだ。
「ネプちゃん、あいつは死んだのよ」
だが、アイリスは彼女の願いを否定し、覆すことができない真実を彼女に突きつける。
「死んでないよ」
「眼の前で見たのよ、あいつはもう居ないの」
「そんな事ない!トウカは強いもん!この世界で一番強いんだもん!死ぬわけないよ!お姉さんの嘘つき!」
「私だって信じたくないわよ!!!!!!!!」
ネプテューヌの叫びは、アイリスの怒号によってかき消される。
これまでアイリスがここまでネプテューヌに感情を露わにしたのは初めてだった。
「私だって信じたくないのよ、あいつが死んだなんて、もう居ないなんて、でもね、私はこの目で見たのよ。あいつが死ぬところを」
「やめてよ、やめてよ!聞きたくないよそんなの!」
「聞きなさい!!今逃げてどうなるの!?いつかは受け入れなきゃいけない事実なの!」
耳を塞ごうとしたネプテューヌの手を掴んで無理やり話を続けるアイリス、しかし彼女もまた必死に涙をこらえて叫ぶ。
「ここで貴女が逃げたら、あいつはどう思う?良いの?いつまでも弱いままで、トウカを失望させるつもりなの貴女は!?」
「違う、違うよ……私は…………」
アイリスはネプテューヌの手を離し、ぎゅっと彼女を抱きしめながら言う。もう覆す事ができない、取り返す事ができない事を。
「死んだのよ………あいつは」
「う、う………ウワァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ネプテューヌは限界を超えて泣き叫んだ。
もっと一緒に居たかった、もっと一緒にいろんな所に行きたかった、もっといろんな事を教えて欲しかった、もっと遊びたかった、もっと一緒に寝たかった、もっと一緒にご飯を食べたかった、もっと一緒に……過ごしていたかった。
どうして最後に、つまらない事でケンカ別れをしてしまったのだろうか、どうして、もっと自分は大人になれなかったのだろうか。あのとき自分がピーシェにプリンを分けてあげていたら、こんな別れはなかったかもしれないのに
でも、後悔してももう遅いのだ。
もうこの結末を変える事はできないのだ
「ごめんなさい、護ってあげられなかった………」
アイリスはネプテューヌを抱きしめながら、静かに涙を零す。
最近忙しいので遅れていますが、これからも頑張ります!