翌日、ネプテューヌは他の人間にバレないようにいつもと同じように過ごしていた。その様子を、アイリスは不安そうに見つめていたが、誰にも気付かれる様子はなかった。
そしてその日の夜
「ネプちゃん」
「お姉さん、どうかしたの?」
「ちょっと付き合ってくれない?」
そう言ってネプテューヌを連れ出したアイリスはプラネテューヌタワーの頂上へとネプテューヌを連れ出した。
空は真っ暗であたりには星がキラキラと輝いていた。
その景色はいつもよりも綺麗で、幻想的な風景だった。
「綺麗でしょ?」
「うん、すっごく綺麗……………」
ネプテューヌはキラキラと目を輝かせていた。
それが、かつての彼とそっくりだったためアイリスはクスッと吹き出してしまう。
「その反応、昔のトウカそっくりだわ」
「そうなの?」
「ええ、昔はトウカもそんなに可愛い顔してたのね」
懐かしむように思い出す、昔から無表情で、目つきが悪いことは変わらなかったが、子供らしく可愛いところはあったのだ。
「ねぇネプちゃん、トウカって昔何になりたかったと思う?」
「トウカがなりたかったもの?科学者とかじゃないの?」
「それがね?子供過ぎて笑っちゃうわよ?」
かつての彼は科学の道など微塵も志してなどいなかった。
そんな子供の頃の純粋な夢、それを昔この場所で彼は語ったのだという。
「俺は誰も泣かない世の中にしたい、だって」
誰も泣かない世の中にしたい、という子供の頃の夢を語った彼の姿をアイリスは忘れない。だが、だからこそ胸が痛くなる。
彼の歩んできた道は誰も泣かない世の中とは真逆の人生だったのだから。
「そっか………よし……!」
寝転がって夜空を見上げていたネプテューヌはすくっと立ち上がり、手を夜空に伸ばす。
「なら私はトウカの子供の頃の夢を実現する!!」
いきなりの事で、アイリスはネプテューヌを見つめたまま固まってしまう。
「認めるよ、トウカはもう居ないって……死んじゃったんだって」
「良いの?」
「だっていつまでもメソメソしてたらトウカに怒られるし、それにさ、死んでまで心配掛けたくないんだ」
やはり、辛いのかいつのまにか彼女の目からは涙が流れていた。でも、彼女は笑顔を崩さない。
「それにさ、今までトウカやみんなに守られてばっかりだったからさ、今度は私がみんなを守れるようになりたい」
今まで守ってくれていたトウカの分まで、トウカが何百年も守ってきたこの国を自分が守り続ける。そうネプテューヌは誓った。
この国の国民がずっと笑顔で居られるような、そんな世の中を作っていく、それがトウカの願いで、今ネプテューヌが決意した事だ。
「ねぇお姉さん、手伝ってくれる?」
「……はぁ、めんどくさいとか言ったらあいつに祟られそうね」
「白装束でアイリスさんの枕元にいるかもね」
「怖いような怖くないような幽霊ね」
くすくすと2人は笑いあう。
ようやく2人の間に本当の笑顔が戻った瞬間かもしれない。
「頑張りなさいよネプちゃん、あなたはあいつの教え子だもの。きっと出来るわ」
そう言って、アイリスは小指を出す。
「私はあなたの道を手伝うわ、だから指切りしましょ」
「うん!」
こうしてネプテューヌとアイリスの指は重なり、二人は約束を交わしたのだった。
◆◆◆
「ネプさん大丈夫かな」
一方その頃、ライトはネプテューヌの事を案じていた。
アイリスはネプテューヌにすべてを話したと言っていたが、彼女は今日も変わらず笑顔を振りまいて元気そうにしていたからこそ、無理をしているのではないかと心配になったのだ。
「ライトさん」
「あ、ギアさん。どうしたの?」
廊下を歩いていると、ネプギアが彼女に声をかけてきた。
こんな夜遅くにどうしたのだろうと、少しライトは疑問に思う。
「ちょっと、部屋に来てくれませんか?」
「構わないけど………」
急にどうしたのか、少し不安になるライトはとりあえずネプギアの部屋まで付いていく。そして彼女の部屋に着くと、ネプギアはベッドに腰掛け、ライトは近くにあった椅子へと腰を下ろした。
「………トウカさんは……亡くなったんですか?」
ライトは体に電流が流されたのかと思うほどの衝撃を受けた。
どうしてネプギアが知っているのだろうか、全くわからなかったからだ。
「アイリスさんとお姉ちゃんが話しているのを聞いてしまったんです」
「……そっか」
それならば仕方がない、そう思いライトはネプギアに事の顛末をすべて話す事にした。彼女はライトの話を取り乱す事なく、静かに聞いていた。
「これが、先輩の最後だよ」
「そう……ですか………」
何も、言えなかった。
二人の間に沈黙が流れ、重苦しい雰囲気が立ち込める。
その重々しい沈黙を破ったのは、ネプギアだった。
「じゃあ、これからは私とお姉ちゃんは甘えられないんですね」
「そう………だね」
今までとは全然違う生活になってしまうのは明白だ。
「お姉ちゃんもいつか、死んじゃうのかな」
命あるものに終わりは来る、それは避ける事のできない事実として生きる者たちに重くのしかかる。それは遅いか早いかの違いだ。
「私は、お姉ちゃんが死ぬところなんて見たくない……」
「………ギアさんは似てるね、先輩に」
かつてトウカも、幼馴染である二人を守るために戦っていたのだ。
たとえ自分が国から恐れられようとも、恨まれようとも、蔑まれようとも。二人から恐怖の感情を、負の感情を抱かれる事になったとしても。
「トウカさんは、昔どんな人だったんですか?」
「目的のためなら手段は選ばない人だったよ、人に言えない様な恐ろしい事もしてたみたいだよ」
そんな人物が、恐れられないわけがない、嫌われないわけがない。
そんな中で彼は一人で自分の守りたい者を守り続けていたのだ。結果は、報われることはなかったが。
「私は、お姉ちゃんみたいにいつでも明るくなんて出来ません」
ネプギアはネプテューヌに比べて地味だなんだと言われてきたが、本人もそれは自覚しているのだ。
自分は姉の様にはなれない、けれど力はなれるはずなんだと。
だから、今度は自分がトウカの代わりに彼女を守る。それが今ネプギアがやるべき事だと思ったから。
「私はもう、大切な人が死ぬのは見たくないです。だから、私が守ってみせます」
「先輩と同じ道を辿るっていうの?でもそれは……」
「わかってます、きっと私じゃ考えられないほどの苦痛でしょうし、重圧もあるでしょう。でも、私はこのまま何もしないのは嫌です」
その目は、どこかで見た様な目だった。
今までの彼女とは、いや、アイリスとの訓練で見せた一瞬の殺気、トウカと同じ才能だ。
そして、アイリスが一番恐れていた事が今起きようとしている。
ネプギアがトウカと同じ道を歩む。
それはつまりネプギアが外道を通り越した悪魔になるという事だ。
そうなったトウカを見た事があるライトは、あまり賛成出来ない。
あまりにも、その姿は辛そうだったから、いや、辛いという感覚すらなくなってしまったのかもしれない。そんな道だ。
「本当に、そんな道を進むの?」
「今すぐじゃないですよ、その時が来たら……私はトウカさんの様に鬼にでも悪魔にでもなってやります」
ネプギアの目を見たとき、ライトはようやく理解した。
彼女の目は、もはやトウカと大差ない恐ろしい殺気を孕んでいた。
「分かった……じゃあ、私はそれを見届けるよ。私だけは、ギアさんの味方でいる」
「ありがとう、ございます」
こうして、二人の姉妹はお互いの道を違える事になった。
姉は、自分の師がたどり着けなかった理想の道へ
妹は、憧れていた男がたどり着いた地獄の先へ
確実に、二人の道は変わってしまった。