比企谷八幡 「・・・もう一度会いたかった」   作:TOAST

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33. 比企谷八幡はこうして新年を迎える

12月31日

雪の降る厳冬の晩

俺たち奉仕部員は平塚先生の住まうマンションで忘年会の準備に勤しんでいた。

その狭い部屋には醤油の甘辛い香りが充満している。

俺はカセットコンロを箱から取り出してテーブルの上にセットしながらリビングのソファーへと目をやった。そこにはスヤスヤと寝息を立てて眠る雪乃の姿があった。

――ったく、何で俺達が?っつーか普段から掃除しとけよ

そんな愚痴をこぼしながら、昼から取り掛かった恩師の部屋の年末大掃除。

そこで中心的に活躍した雪乃は、元より少ない体力を使い果たしたのか、夕方にはグロッキー状態だった。目覚める頃には復活していて欲しいものだ。

「比企谷、大方の準備はできたよ…後は待つだけだね」

キッチンから沙希が食材がみっちり詰まった鉄鍋を抱えてリビングへとやってきた。

すき焼きの具は既に半分火が通った状態だ。後は皆が鍋を囲んで再び火入れをすれば、直ぐにでも食べられる。

忘年会といえばすき焼き…というのは平塚先生の弁だが、当の本人は、準備を俺たちに任せて、他の客人を迎えに外出中である。

「早ぇな。流石の手際だ」

俺は鍋を置くコンロのつまみを何度か捻りながら、そう口にする。

コンロはカチャカチャと音を立て、着火用の青い火花が一瞬らすが、火はつかない。どうやらガス欠のようだ。

「まだ今晩の準備だけだよ。新年の御節はまだ半分ってとこ」

沙希は鉄鍋を俺に手渡しながらそう言った。

パーティの準備と同時進行で新年の用意まで進めていたとは、本当に恐れ入る。

だらしない平塚先生のためにここまでするくらいだ。沙希は本当に良い嫁さんになるだろう。先生が独身を拗らせ過ぎて沙希に目を付けないよう、俺は警戒する必要があるかもしれない。男らしさで俺が平塚先生に勝てる要素はまるで見当たらないのだ。万が一寝取られれば、俺は手も足も出ないだろう。

「サキサキ〜、この昆布の紐は全部解くんだっけ?」

そんなアホなことを考えていると、不意にキッチンの奥から結衣の声が飛んでくる。

沙希はその声を聞き、頭痛を我慢するような表情を浮かべて深いため息を吐いた。

結衣は沙希の手伝いをしながら料理を学びたいと張り切っていたが、この質問だけで沙希の苦労が手に取るように伝わってきた。結衣は恐らく今、昆布巻きのカンピョウを全力で取り外しにかかっている。

俺は沙希と見合って苦笑を浮かべてから、キッチンに届く声で結衣に話しかけた。

「あ~由比ヶ浜、カセットコンロのガスが切れてるんだ。今ちょっと手が離せないから、悪いけど平塚先生にガス缶買ってきてもらえるか、電話で聞いてくれないか?」

「オッケー!」

結衣は俺の頼みを快諾すると、パタパタと足音を立ててリビングへやってくる。

カバンから携帯を取り出して登録された先生の番号に電話を掛け始めた。

「…助かったよ。そろそろ雪ノ下に指導役を代わってもらおっかな」

沙希は結衣に聞こえないよう小声で俺に礼を述べつつ、寝息を立てる雪乃へと目をやった。

「掃除以上に体力削られそうだけどな」

俺はそんなたわいもないやり取りが生まれたこの4人だけの空間に幸福を感じた。だが、それを自覚した瞬間、同時に切なさに胸を焼くような感覚に襲われた。

時間は常に未来へと向かい流れ続けている。奇しくも2度目の人生を歩んでいる俺にとってもそれは同様であり、自分が五感を以って体験した一瞬一瞬の出来事を完全に再現することなど、逆立ちしても不可能だ。

仮に、録画された映像の様に自ら過ごした時間の好きな部分だけを切り取って、何度も繰り返すことが出来たならば。こんな4人だけの時間を全部集めて、永遠に閉じ込めてしまいたい。相変わらずそんな非現実的な願望を胸に抱き続けている自分に嫌悪感を覚える。

「はい。はい。分かりました。じゃぁ、お願いしまーす……先生、コンビニで買って来てくれるって。もうマンションの側まで来てるみたい。あと10分で来るって言ってたよ」

通話を終了した結衣の報告に、俺の意識は現実に引き戻された。

「お客さんも一緒か?」

「…うん」

意図せず発せられた低めの声。

俺の質問に対し、結衣も少しだけ表情を硬くして肯定の返事を返した。

お客さんとは、宮田さん、槇村さんの2人に、雪ノ下陽乃を加えた3人のことである。

俺の過去と未来の人間関係を交差させたようなこの組み合わせが意味することは一つ。

雪ノ下建設に関する情報共有と方針策定の会議。

忘年会と銘打ったこの今晩の会合で、それを実行に移すということである。

☆ ☆ ☆ 

「遅くなって済まないな…おお、いい匂いじゃないか」

「あ、ひょっとしてすき焼き?静ちゃん分かってんじゃん!」

「お邪魔します。頑張って仕事を片付けてきた甲斐が有ったな、宮田」

「…お邪魔します。比企谷は来てるのか?」

きっかり10分後にやって来た4人はそれぞれそんなことを口にしながら家に上がり込む。

ワンルームマンションにこの人数はやや手狭な感が否めないが、平塚先生は元々あまり家具を置かない性分なのか、窮屈に感じる程ではなかった。

はたと、昔先生がどうしようもないヒモ男に家具を根こそぎ持ってかれたというような話を口にしていたような気もするが、それは忘れてやるのが優しさというものだろう。

「姉さん…それにそちらは…比企谷君の血縁の方かしら?」

ドアが開く音で目を覚ました雪乃が、まだ若干眠たそうな目を擦りながら、そう口にした。

既に面識がある結衣と沙希は、俺の背中に半分隠れながら二人に会釈している。

「君の妹さんか?…どいつもこいつも同じことを…比企谷と平塚さんの知り合いの宮田だ。比企谷とは赤の他人だ。よろしく頼む」

宮田さんはウンザリした顔で陽乃さんに尋ねた後、雪乃にそう挨拶した。

陽乃さんは宮田さんの横で苦笑いを浮かべている。きっと道中で彼女も同じ質問をしたのではないだろうか。

目つき以外一切似てないのに、何故皆がそこに反応するのかは謎である。その理屈だと目が綺麗な小町は、俺の他人ってことになっちゃうじゃねーか。

「もう兄弟ってことでいいんじゃね?捻くれ者同士だし…しかし、雪ノ下家はやっぱ姉妹揃ってベッピンだな。こりゃ比企谷も必死になるわけだ。あ、俺は宮田の同僚の槇村な」

普段通りの槇村さんの軽薄な挨拶に、結衣と沙希がムッとなった。

「…年末の貴重な休みに、千葉まで来てもらってすみません」

俺は背中に嫌な汗をかきながら、社交辞令の挨拶を口にした。

「今日は大事な話がある…と言っていたわね。姉さんはさて置き、学校の部外者まで集めて、どういうことかしら?それに、その様子だと由比ヶ浜さんと川崎さんはお二人と既に知り合いの様だけれど?」

雪乃は怪訝な表情を浮かべて小声で俺たちに尋ねた。

結衣と沙希は、気まずそうな表情を浮かべて頷いている。

「それは比企谷君が説明してくれるよ…でも雪乃ちゃん、今日はちょっと覚悟しといてね」

雪ノ下陽乃は普段のヘラヘラした表情を一瞬だけ素に戻してそう言った。

その言葉の通り、今日はこの密室で雪ノ下建設の不正にかかる情報共有と、今後の対策を検討することを目的に集まってもらったのだ。

やむを得なかった事とは言え、当事者たる雪乃本人を、これまでずっと蚊帳の外に置いていたのは事実だ。この件は慎重に切り出さねばなるまい。

「…覚悟……そう。私達の実家の事ね」

「なかなか聡明じゃないか。話が早いのは助かる」

雪乃の呟きに対し、宮田さんは感心したような声を漏らした。

「…以前、比企谷君から少しだけ聞いていたので」

雪乃は表情を伺う様に俺の顔をじっと眺めた後、小声でそう答えた。

将来、自身が親の都合で嫁がされる可能性があること。それはあの夏の日に俺が彼女に話したことだった。

だが俺は、雪ノ下建設の不正に関する具体的な話はまだ何もしていない。

そして今現在、彼女ではなく彼女の姉が、望まぬ結婚を強いられそうになっていることも伝えてはいなかった。

それを知ったら雪乃はどんな反応をするのだろうか。

彼女がショックを受けるかもしれない。その姿を想像すると俺の心はズキリと痛んだ。

☆ ☆ ☆ 

2時間後

既に空になった鉄鍋を囲う様に、全員が輪になって座っている。

難しいことは一先ず忘れて腹ごしらえをしよう、という平塚先生の男らしい提案で皆が一斉に手を付けたすき焼きは、あっという間に無くなってしまった。

成人組は酒を煽り始めており、下らない話で何やら盛り上がっている様子だ。

一方、俺たち現役奉仕部員は、不思議と一人飄々としている雪乃を除き、半分お通夜ムードだった。結衣も沙希も、雪乃に内緒で村瀬の尾行に参加し、実家の不正の話を聞きかじってしまったことに罪悪感を感じているようだ。

そのせいか、高額納税者二人が手土産として持ってきた高級牛肉は、俺達三人の喉を殆ど通らなかった。

そろそろ問題に着手すべき頃合いだろう。

俺は意を決して雪乃に話しかけた。

「雪ノ下、色々と遅くなって悪かった…出来ればお前に負担を掛けずに全部解決したかったんだが…どうやらそう都合良くはいかなそうでな…だから今日、関係者に集まってもらった」

「そう…そんなにビクビクしなくても、別に怒っていないから安心なさい」

――へ?

一つ一つ言葉を選ぶように口にした俺に対し、雪乃の反応はあまりにも意外だった。

結衣も沙希も、目をパチクリさせている。

「以前、貴方が雪ノ下建設でバイトを始めた頃、電話で話したじゃない。貴方に任せると言ったのは私よ。それに…何か不味い事が起こったとしても、比企谷君がその責任を全て被るのであれば、私としてはむしろ好都合よ」

「「なっ!?」」

長い黒髪をフサッとかき分けながら、しれっと雪乃が口にした言葉に、結衣と沙希は両目を目をひん剥く様な表情で反応した。

雪乃は勝ち誇った様な顔で二人を…特に沙希の方を見ている。クリスマスで"足並みを乱した"ことへの報復であると言わんばかりだ。

「あっれ~、雪乃ちゃん、やるぅ!」

傍で様子を眺めていた陽乃さんが囃し立てると、結衣と沙希が更に不機嫌な表情を浮かべた。

「比企谷、貴様~!」

更に一連のやり取りを目にした恩師が、突然俺に向かってがなり立てた。

身に覚えのない不純異性交遊を咎める様な先生のその反応に、俺はケツの座りの悪さを覚え、言葉を詰まらせる。

「…おい宮田。コンプラの厳しい金融業界に一番入れちゃいけない人種は何だと思う?」

「決まってるだろ…下半身のユルイ奴だ」

とどめとばかりに、俺の上司二名が危険球を全力で投げ込んできた。

「そんな関係じゃないっすから!マジ止めてください!ってか、今思いっきりセクハラかましてんのアンタたちだろ!?女子高生の前で何口にしちゃってんすか!」

俺は久々に声を張り上げて二人に抗議した。

下半身がユルイとか、宮田さんはともかく、槇村さんには死んでも言われたくない。アジア出張の時に、どんだけシモの世話をしてやったと思ってんだよ。

「…返してよ」

不意に結衣が俯きながらボソボソと喋り出した。

皆の視線が彼女に集まるが、誰もその表情を確認することができない。

その場の雰囲気が緊張感に包まれる。

ごくり、と誰かが喉を鳴らした。

「…お肉!喉通らないくらい緊張してたのに!返して!」

クワッ、という擬音がピッタリな勢いで結衣は顔を上げると、雪乃の肩を両手で掴んでユッサユッサと揺らし始めた。慣性の法則に従い頭だけをカクカクと前後させながらも、涼しげな表情だけは崩さない雪乃の姿は、どこかシュールだった。

「…アタシも今更になってお腹空いてきた」

「…右に同じ」

俺は沙希のボヤキに同調した。

☆ ☆ ☆

「…冗談はさておき、そろそろ話を始めよう。まず改めて自己紹介するが、僕と槇村は都内の投資銀行勤務の人間だ。比企谷とは、総武光学のディールをウチのファンド運用部門に紹介したのをきっかけに知り合った。雪ノ下の妹さんの方は、その時の来客リストで名前だけは聞いていたが、会うのは今日が初めてだな?」

宮田さんが場を仕切り直すように、雪乃と陽乃さんに対して、今更ながらの自己紹介を始めた。話しかけられた2人は無言でペコリと頭を下げる。こういう何気無い仕草が重なる瞬間、この2人が姉妹であることを改めて実感する。

「そうそう。それから総武高校の文化祭の紹介ビデオも見たぜ。比企谷と部活やってんだろ?ご奉仕倶楽部、だっけか?文化祭でやらかした比企谷を、平塚さんと一緒に説教したのも俺たちな…コイツ、引っ叩かれて超凹んでたぞ。ありゃ傑作だった」

槇村さんが要らぬ茶々を入れると、奉仕部の女子3人が顔を赤くして俯いた。特に雪乃は真っ赤だ。その反応に雪ノ下姉は、実に愉快そうな笑みを浮かべている。

それより、ご奉仕倶楽部ってなんだよ。風俗店じゃねぇんだぞ。槇村さんの相変わらずのオヤジセンスに俺は辟易した。

「槇村、いきなり脱線させてどうする…これまでの調査で、うちの会社の一部の連中が、雪ノ下建設を利用して不正を働いている可能性が極めて高いことが分かっている。その件については社に代わって2人に謝罪させてもらいたい」

宮田さんがそう言うと、槇村さんも姿勢を正し、真剣な表情を浮かべて、雪ノ下姉妹に向けて深く頭を下げた。

雪ノ下姉妹は、成人男性2人のその対応に少しだけ驚いた様な表情を浮かべた。

「…頭を上げてください。その人達の協力を仰いで不法行為に手を染めているのは私達の両親も同じなんです」

陽乃さんは、彼女に似つかわしくない敬語でそう言った。考えてみれば、俺はこの人が敬語を口にするのを俺は初めて目にする気がする。

「…不法行為って?」

雪乃は小声で俺に尋ねた。表情を崩さない雪乃だが、先程と変わって彼女の瞳には不安の色が灯っているのを俺は見落とさなかった。俺はこの段階に至ってもなお、それを雪乃に説明することに戸惑いを覚えたが、意を決して口を開いた。

「…談合だ。雪ノ下建設は公共事業入札で不法に案件を落札してる。その決定的な証拠を、雪ノ下さんが抑えた。俺も雪ノ下建設の社員から情報を裏取りして、案件の詳細まで掴んでる」

「……そう」

少々の沈黙の後、雪乃は残念そうに一言だけ呟いた。そんな彼女の姿を目の当たりにして、結衣、沙希は悲痛な表情を浮かべる。雪ノ下家の無実を望んでいた平塚先生は、悔しそうに唇を噛み締めていた。

「…公共事業落札の見返りに、雪ノ下建設はその談合を仕組んだ人物に金を流している可能性が高い。雪ノ下建設は企業買収を進め、複数の子会社への証券譲渡を通じて海外に資金をプールしているんだが…それは恐らくそのためのマネロンスキームだ。そして、その不自然な企業買収提案をしているのが、うちの投資銀行の人間、という訳だ」

宮田さんは俺の言葉に付け加える様にそう説明した。

俺は話の続きをするに当たって、陽乃さんをちらりと見た。彼女は、一瞬だけ困った様な笑みを浮かべつつも、仕方ないと言わんばかりに軽く頷いた。それを見て、恐らく雪乃にとって最もショックであろう話を切り出す。

「…その談合を仕組んだ人物の目星が付いたのがつい先日の話だ。冨山っていう道路族議員の男…そして、お前の両親は今、その議員の息子と雪ノ下さんの縁談を進めようとしている。さらに言うとその縁談を仲介しているのは、これまた件の投資銀行の人間だ」

「「「え!?」」」

俺の言葉に対して、平塚先生、結衣、沙希は驚きの声を上げた。これは彼女達にとっても初耳となる話だ。

雪乃は半ば呆けた様な表情で実の姉を見ていたが、当の陽乃さんが浮かべる強がりの作り笑いに気がつくと、俺の方を向き直した。

「…どうして姉さんが?」

雪乃の質問に込められた意味を知るのは、奉仕部の人間だけだろう。

結婚を強制されるのは自分ではなかったのか。その疑問に対して与えることの出来る解答を俺はまだ持ち合わせていない。

首を横に振ると、彼女はその意味を理解し、下を向いて考え込んだ。

「…俺からも補足させてもらうが、さっきから話に出てる投資銀行の人間ってのは、俺の上司の市川って野郎と、その配下の村瀬って男だ。冨山と市川は、どうやら過去にMBAの海外留学中に知り合った仲らしい」

槇村さんは、ここ数日間で調べてくれた新たな内部情報をこの場で共有した。

「留学ですか?」

「ああ。年齢は冨山の方が一回り上だが、官僚時代に国費留学で渡米した冨山の面倒を現地で見てやったのがキッカケだそうだ。帰国後も度々会ってるみたいでな。調べるとその殆どが営業経費での接待だったよ」

槇村さんは吐き捨てるようにそう言った。

「私の縁談も、その市川さん経由で打診されたんですよね〜。2人の談合への関与は最早疑いの余地がないと思う。でも…」

「雪ノ下建設から2人への最終的な資金の流れまでは掴めていないのが今の問題…ということかしら」

しばらく沈黙していた雪乃は、姉の言葉を遮る様に、俺たちの調査がどこで行き詰っているのかを言い当ててみせた。雪乃の頭のキレの良さに、彼女の姉を除く皆が舌を巻いた。

その指摘通り、雪ノ下建設が海外に流した証券を、どのタイミングで換金して、どの様に市川または冨山の口座に入金しているのかは謎のままだ。逆に言えば、これさえ分かれば、この一連の不正問題の全容が明らかになる。

「…冨山の黒い噂は業界じゃ有名らしい。だが、談合への関与や不正献金の決定的な証拠は検察でも掴み切れていないらしい」

槇村さんは少し間を置いて、話を再開した。

「検察…君達金融マンはそんな繋がりも持っているのか?」

平塚先生は若干驚いたような表情を浮かべて、槇村さんと宮田さんに尋ねた。

「こう見えても俺は一応法学部出身っすから。そういう道に進んだ同期はむしろ多いんです…他にも、官僚、警察、政治家…市川の野郎が持ってるような横の繋がりは一応俺にもあってね。ま、世代は一回り下ですけど……お前達も同級生との繋がりは大事にしとけよ」

平塚先生の問いに答えつつ、槇村さんは俺たち未成年組を見据えてそう言った。

「…だそうよ、比企谷君に川崎さん?」

「自分だけ棚上げするのって逆に虚しくならない?」

咄嗟に俺と沙希を見据え、涼しい顔で口にした雪乃に対し、沙希が目を細めて言い返す。

「…揉めるな。大丈夫だ。俺達の世代にはエース由比ヶ浜がいる」

「なんか他力本願だ!?」

これ以上ない安心材料を提供しつつ二人の言い合いを諌めた俺を、驚きの目で見ながら結衣が声を上げた。

「…他力本願でも金融業界には就職出来る」

「本職の人まで肯定しちゃった!?」

そのやり取りを見ていた宮田さんが言い辛そうに呟いたのに対し、結衣は再び全力でツッコミを入れる。結衣の奴、今日はいつになく冴えてやがる。頼もしい限りだ。

「ハァ…集団漫才をやっている場合じゃないだろう…検察の調査情報は把握できるのだろうか?」

深めの溜息を吐いた後、平塚先生が仕切り直した。

「こぼれ話程度に、ですね…あっちも組織だから、いくら同期でもそう簡単には情報は出しちゃくれない。だが、冨山の調査については検察も長いこと躍起になってるのは確かだ。逆に言えば、そのスキームの謎が解けないから、未だに検挙できずにいるってことだろう」

「…となると、課題は二つだな」

「2つ?…一つは資金の最後の流れをつかむこと、ですよね?もう一つは?」

「無論、君達姉妹の今後のことだよ」

雪乃が口にした疑問に対し、平塚先生は優しくも、憂いを含む声でそう言った。

雪ノ下建設、投資銀行、国会議員の不正を暴くこと。それは同時に二人の生活基盤の崩壊に繋がる。当然これは、今の生活だけでなく、二人の将来も含めたことだ。現在高校生の雪乃は言うまでもなく、姉の雪ノ下陽乃も本来であれば数年後に就職を控えた学生であることには変わりない。実家の建設会社が談合に関与していたとなれば、二人の社会的信用に与えるダメージは計り知れない。

「…あれから私も色々と考えたんだ。雪ノ下…今後この不正が発覚した後も、君が無事に卒業するための特別カリキュラムの準備も進めている。異例な扱いになるが、何としても職員会で議案を通すつもりだ。経済的な面についても、君たち二人が大学を出るまで、この部屋に住んでもらっても構わないと考えている……だが」

平塚先生は教師として出来る最善の提案をしつつも、最後は言葉にするのを躊躇った。

「…その後、か。実家の不正が明るみに出れば、本人に非はなくとも、望む職業には付けない可能性がある。なまじ君たち二人は有能な分、これは社会的な損失だな」

先生の言葉を補うように、宮田さんが忌々しげに口にした。

「静ちゃん、やっさしぃ~!…でも、大丈夫だよ。それについては私にも考えがあるから。皆に協力してもらうのが前提になっちゃうけど」

「考えとは?」

今度は雪乃が陽乃さんに尋ねた。

「うん…これ見てもらった方が早いかも」

そう言って、雪ノ下陽乃は自分のカバンからノートPCを取り出した。

――地方建設会社の闇、道路族議員と巨大投資銀行の深謀

立ち上げられたPCの画面に映し出されたドキュメントファイルにはセンセーショナルなタイトルが銘打たれていた。

本文には、筆者である雪ノ下陽乃が実家の建設会社の談合の証拠を偶然手にしたこと、同時期に両親から結婚を強要されたこと、調査により一連の談合のスキームを暴いた事が、未完成ながらもドラマチックな文章に仕立てられていた。

「…なるほど。よく考えてるじゃねぇか。若い女だてら胆まで座ってやがる」

それを目にした槇村さんがそう褒めた。

「申し訳ないんだけど、この不正は私達姉妹の手で公にしたいんです。資金の流れを明かした時に、これを新聞・雑誌・メディア各社に投書します」

雪ノ下陽乃は、槇村さんの言葉にニヤリと笑みを浮かべてそう言った。

彼女の計画、それは内部告発だった。

不正の当事者たる雪ノ下建設の息女による不正の暴露。建設会社の談合参加、議員の汚職、大手金融機関の関与、そして彼らが仕組んだ政略結婚。これだけのネタが詰まった事件であれば、メディアは挙って飛びつくだろう。

彼女達が自らの手でそれらを公開すれば、世間は彼女達を犯罪者の娘としてではなく、勇気ある女性として取り上げることは間違いない。

「…であれば、猶更事件の解明を急ぐ必要があるな。検察とのスピード勝負、ということにもなる」

宮田さんの言う通り、この告発は、検察によって富山や市川が検挙された後では手遅れだ。

俺の知る未来では奴らが検挙され、雪ノ下建設の不正が明るみに出たというニュースが世に出ることは無かった。だが同時に、俺たちが雪ノ下陽乃まで巻き込んだ談合の調査を進めたという事実も存在しなかった。これまでの歴史改変がどう影響するかは一切不明である。

となればやはり、自分達の手によるスキーム解明を急ぐのが吉だろう。

「…急ぐんなら、あの村瀬って人を問い詰めればいいんじゃないんですか?」

「そっか!」

話を聞いていた沙希が遠慮がちに呟くと、結衣がそれに同意した。

「それは最後の手段だ。可能であれば雪ノ下姉妹が内部告発した後に、奴に一切を自供させ、冨山と市川の検挙に繋げるのが一番いいだろう。決定的な証拠を掴む前に下手に動けば市川に警戒される可能性がある…奴が香港に異動する2月が調査のデッドライン、ということになるが」

宮田さんは沙希と結衣を見ながら丁寧に説明した。二人はそれに納得の表情を浮かべる。

だが、いずれにせよあまり時間が無いことだけは確かだ。俺がそれを再認識すると、場が再び緊張感に包まれるのを感じた。

「…ま、雪ノ下建設側の内部調査の方は私と比企谷君で何とかするしかないかな。比企谷君、改めてよろしくね」

「そりゃ…もちろん」

雪ノ下陽乃はいつものおどけるような口調で俺に会話を振る。

そして俺の返答を殆ど待たず、今度は雪乃を見て口を開いた。

「それから雪乃ちゃん、お姉ちゃん、年明けから雪乃ちゃんのマンションに引越すから、部屋空けといてね?」

「…は?」

突拍子もない姉の提案に、雪乃は呆けた顔で聞き返した。

「我儘言わないの。どの道コトが露見したら、今のマンションは引払って、一緒に暮らすことになるんだから。静ちゃんはああ言ってくれたけど、まさか本気で迷惑かけるつもりじゃないよね?」

「私は構わんぞ」

「…ダメだよ。雪乃ちゃんの大学の学費は私が何とかするから、雪乃ちゃんが家事全般担、よろしくね」

冗談めかした口調ながらも、雪ノ下陽乃の言葉には姉としての強い意志が伺われた。

就職を前に、自身と妹の二人分の学費、生活費を工面する重圧はどれ程のものだろうか。俺には想像もつかない。

「私は姉さんに借りは――」

「本当なら留学したり、別の地方に行ったり、色々な選択肢があったとは思うんだけど…ごめんね」

雪ノ下陽乃は、雪乃の言葉を遮るようにそう言った。

だが、先程と違いその声は擦れそうな程、力の籠らないものだった。雪乃は言いかけた言葉を飲み込み、口を噤むと、自身の姉を複雑な感情が入り混じった瞳で見つめた。

「雪ノ下…」「ゆきのん…」

沙希と結衣はそのやり取りを見て、再びいたたまれない表情を浮かべる。

この場にいる誰もが言葉を発せられない。そんな重く苦しい雰囲気が、姉妹を取り巻く環境の理不尽さを物語っている様だ。

――切札はいざって時まで取っておくのが定石だが…こいつらにこんな思いをさせたままにするよりはマシか

彼女達のやり取りを見て、俺は自分の持つ有力な手札をこの場で共有することを決意した。

「…あの…盛り上がってるところ申し訳ないんですが、雪ノ下の個人資産なら多分留学も余裕ですよ。むしろ雪ノ下さんの当面の生活も面倒見れるくらいかと…」

「「「「「「「……は?」」」」」」」

その場に醸成された悲壮な雰囲気をぶち壊しにするような発言を放り込むと、全員の視線が一斉に俺に集まった。

槇村さんや宮田さんまで不可解な目で俺を見ている。

やっぱり後でこっそり雪乃だけに教えてやれば良かったかもしれない。

そんな若干の後悔に、俺は後頭部をポリポリと掻きながら、携帯のニュース配信画面をテーブルの上に置いた。

――総武光学、翌年上場か 推定時価総額100億円越! 地方ベンチャー企業の大躍進

画面にはそんな文字が躍るように並んでいる。

これはつい先程、俺の携帯に自動配信された金融市場の観測記事だった。

「いや…ホントすいません。雪ノ下と由比ヶ浜、それから川崎…の弟、その3人は俺が運用する個人ファンドに出資してまして…」

「ハハ!このガキ…俺達を利用して、本当にボロ儲けしやがった!」

槇村さんはニュースタイトルに目を通した直後、驚嘆の目で俺を見ながら嬉しそうに声を上げた。

「IPOの噂は耳にはしてはいたが…お前、周りの人間にも出資させてたのか?」

「まぁ…流石に今の運用体制じゃこんな大金は配当できないんで、近々自分のファンドは法人化する予定ですけど」

宮田さんの質問に対し、俺は若干言葉を濁しながらそう答えた。

元々、小遣い稼ぎを目的に始めた株式投資だったため、借名取引のリスクには目を瞑り、儲けた金は適当にキャッシュアウトして皆に分配するつもりだった。

しかし、総武光学の上場へ向けたプロセスが最近急加速したため、俺はここ数か月間、ファンド運用が不正と見做されないよう、雪ノ下建設の調査の合間を縫って、正式な法人登録にかかる手続きをシコシコと進めていたのだ。

――俺も自主休校だ。総武光学の上場へ向けたリサーチをしてた。学校への連絡は川崎と同じで体調不良だけどな

村瀬の尾行に参加した日も、俺は夜間に各種手続きの調査とドキュメンテーションに勤しんでいた。

あの日、雪乃に対して言った学校欠席の言い訳。その半分は事実である。

元々俺が保有していた総武光学の株式は5%だ。VCファンドからの出資は武智社長の一部保有株譲渡という形で行われたため、この比率は変わっていない。今後、IPOの第三者割当増資で持分が希薄化したとしても、資産価値は億単位だ。当然、既往株主には一定期間のロックアップ期間が設けられるため、直ちに株を売却して現金化できる訳ではないが、総武光学以外の上場株運用でもそれなりにリターンは上がっている。法人化すれば株を担保に金も借りることができるため、贅沢を望まなければ資金の流動性には何の問題はないはずだ。

「…ちなみに、ゆきのんのお金ってどの位になるの?」

結衣は若干申し訳なさそうにそう尋ねた。

「あの時俺たちの持分を計算しただろ?由比ヶ浜も雪ノ下と同額を俺に預けたから、お前達二人が各15/90、川崎が20/90、俺が40/90だ」

あの時、というのはファンド運用の一部資金を沙希の学資に当てると決めた時のことだ。

俺の言葉通り、結衣は”自分も仲間に入れて欲しい”という理由で、なけなしの小遣いの中から現金を俺に預けていた。

「…記事通り時価総額100億円越えなら…総武光学への出資が5%だから…私の持分だけでも8千万近くに…ごめんなさい。頭が痛くなってきたわ」

「そ、そっか~8千円か!す、すごいね、ヒッキー!…あたしもゆきのんと同じ金額なんだ。サブレに新しい服買ってあげようかな…」

「8千"万"だぞ、由比ヶ浜ちゃん。しっかりしろ。何着服買う気だ?」

気が遠くなりそうな表情で言葉を発した結衣に対し、槇村さんが笑いながら突っ込みを入れる。実際には税金でがっぽり持って行かれるから、半分も残れば良い方なのだが、あえてそれは口にするのは野暮というものだろう。

「あ、あのさ。何の話をしてるのか良く分からないんだけど…大志が出資してるってどういうこと?」

唐突に一般人には実感の湧かない単位の金の話を始めた俺達に対し、沙希は説明を求めた。

「あいつ、まだ話してなかったのか…お前が深夜バイトしてた時に大志が俺達に相談を持ちかけたのは知ってるな?そん時に、お前の大学の学費を工面するためにアイツも俺に金を預けたんだよ。だから言ってみりゃ、これはお前の金でもある」

「は?」

「正確には俺個人から20万借りて、俺のファンドに20万出資したんだ。返済分を差っ引くと、100億の5%に20/90を掛けて、そこからマイナス20万で…すまん、いくらだ?」

「…1億1千とんで91万円よ」

雪乃の補足に対し、沙希は体を硬直させた。

「総武光学というのは、アレか?1学期の最後にあった会社見学の…そういえば比企谷に会うために学校まで社長が訪ねてきたな…文化祭の件と言い、学校行事をことごとく金儲けの材料にして、しかも今度は億単位だと?…これは叱るべきなのか?…自分が培ってきた教育理念が崩壊しそうだ…私も預ければ良かった…」

今度は平塚先生が目を濁らせてブツブツと呟いている。

その横で、雪ノ下陽乃は先ほどのPCで作成した告発文を、これ見よがしにカチャカチャと音を立てて修正し始めた。

「えっと、タイトルは…”驚愕の高校生トレーダー、恐るべき金融犯罪の手口” で、いいのかな」

「いや、金融犯罪って…俺は違法なことは何も…」

「…借名取引なんじゃないのか?」

あばばばば。

思わずそんな言葉を口にしかけるほど、俺は宮田さんの呟きに動揺した。

大袈裟だが、行為だけを客観的に見れば、俺は最愛の女性3人を言いくるめて罠に嵌め、金融犯罪者(脱税犯)に仕立て上げた男、と見做されてもおかしくはない。対応が後手に回ったのは明らかに失策である。

幸い、宮田さんと槇村さんを除く女性陣はその辺のマニアックな事情はよく解っていないようだ。仮に知られれば、雪ノ下建設を弾劾する前に、俺が平塚先生と雪ノ下陽乃に抹殺される可能性がある。

「…ちゃんと正式な手続きを踏んで納税させろよ」

「も、もちろん。そのための法人化です…」

元上司の忠告に対し、俺は冷や汗をかきながら返答した。

 

☆ ☆ ☆

 

年明け

1月3日午前

俺達は雪乃のマンションで陽乃さんの私物の運び入れを手伝わされていた。

あの忘年会の話合いの中、雪ノ下姉妹の今後の身の振り方については一先ずの解決が出来た。俺達は、引き続き市川と冨山への金の流れを探ることで合意し、その場は解散となった。

あの晩、雪ノ下さんが雪乃を思いやる気持ちの一端が垣間見え、2人の間のわだかまりが多少なりとも解消されたのは幸いだった。総武光学の上場が実現すれば、経済的な制約も受けずに済む。だが、彼女達が今後、共に実家から独立して生活することは変わらない。であるのなら、姉妹の共同生活に早めに慣れるのは悪いことではないだろう。そんな周囲の説得に、雪乃は素直に応じることを選んだ。

――にしても、荷物多過ぎだろ?段ボール何箱あんの?

俺は雪ノ下陽乃に頼まれた通り、彼女が指定した箱の開封と内容整理を行っていた。

カッターナイフで箱に貼られたガムテープを切っては中身を取り出す作業の繰り返しに辟易とする。雪乃も、いずれ引っ越すのであれば荷は少なくすべきだと主張したが、姉の”ヤダ”の一言を覆すことが出来ずに、頭を抱えていた。俺同様、手伝いに駆り出された沙希と結衣もウンザリした表情を浮かべていた。

「比企谷く〜ん、その箱の中身出して、こっちに持ってきて〜!」

「ハイハイ」

満面の笑みで指示する彼女に生返事した後、俺は彼女指定の箱を開封し、中身を取り出した。

――ん?

俺は手に取った箱の中身に首をかしげた。

黒、ピンク、紫、水色…色とりどりの小さな布切れ。

数秒の間を置いて、それが何かを認識した瞬間、俺は慌てて箱に戻して蓋を閉じる。

が、時すでに遅し。近くで空箱を潰していた沙希が汚物を見る様な目で俺を見つめていた。

「…比企谷…今の…」

「…何も言うな。俺は何も見ていないし、何も触ってない…これは事故だ」

何か言いたげに声をかけてきた沙希に対し、俺は言い訳した。

「比企谷く〜ん!早く持ってきてよ〜!もしかしてお姉さんの下着、物色してるのかな?」

そんなやり取りをニタニタしながら遠目に眺めていた雪ノ下陽乃は、別室で作業していた雪乃と結衣にも聞かせようとばかりに、大きな声でそう言った。

ドタン!バタン!

案の定、そんな音を立てながら結衣と雪乃は別室から飛び出してくる。

「…姉さん、他人に下着を触らせて恥ずかしくないの?それとも、私の姉は下着を握らせて男性の反応を楽しむ変態だったのかしら?」

雪乃は眉間に皺を寄せ、額に血管を浮かび上がらせながら姉に詰め寄った。

自分が吊し上げられるかと思っていた俺は、ホッと胸を撫で下ろした。

「別に~。新生活用に買った新品だから問題ないでしょ?」

「し、新品でも嫌だよね?」

ケロッとした顔で言い放った陽乃さんを見て、結衣は同意を求めるように雪乃と沙希を見て呟いた。

「でも比企谷君は嫌じゃないよね?お姉さん、この服の下にはああいうの着てるんだよ?…ぐっと来ない?」

最後に囁くように発せられた「ぐっと来ない?」の言葉に反応するように、自分の意思と関係なく、脳内に彼女の露な姿が映像として浮かび上がる。

――確かに嫌じゃないないですけどね、うん。実にけしからん。

ハッと気が付いた時には、既に俺の鼻の下は伸び切っていたようだ。

3人の視線が俺の背中に突き刺さった。

「…比企谷君」

雪乃はポンッと俺の肩に手を乗せて、優しい声で俺を呼んだ。

恐る恐る振り向くと、彼女は慈しむような眼差しを俺に向けて微笑んでいる。

そんな彼女の姿に、俺は思わず見惚れ、魅入ってしまう。

が、その直後に俺は痛みに表情を歪めた。

肩に置かれた彼女の手は万力と化し、強烈な力で僧帽筋がギリギリと掴まれている。

「死んで?」

小ぶりで可愛らしい唇から柔らかい口調で発せられたその言葉は、2回の高校生活を通算して、最も直接的かつ辛辣なものであった。

☆ ☆ ☆ 

同日正午

概ね荷物を片づけた俺達は、リビングのテーブルで休憩していた。

部屋には紅茶の香りが漂っていた。無論、雪乃が皆のために淹れてくれたものである。

「…さて。そろそろ出かけようかな」

俺の対面に座っていた雪ノ下さんは、優雅な仕草でティーカップをソーサーにかちゃりと置くと、不意にそう呟いた。

「そろそろお昼の時間ですけど…出かけるってどこへですか?」

それに対し、雪乃と共に昼食の下ごしらえに取り掛ろうとしていた沙希が尋ねる。

「雪ノ下家の新年の会合だよ。両親と挨拶周りにね。告発の準備は進めてるけど、まだ表だって両親に反抗することはできないし…この引越しも、表向きは雪乃ちゃんの生活を監視するためってことになってるから、顔は出しとかないとね」

いつもの表情を崩さずに口にしたその言葉に、雪乃はピクリと反応した。

その様子を見て、彼女は突然ニタリと口元を歪ませた。

この危険な雰囲気の変化は、以前にもあった。

結衣や沙希にとってもトラウマものなのか、2人は一瞬肩を震わせた。

「…雪乃ちゃんも来る?」

本人にその意図があるかは不明だが、その言葉は明らかに刺すような鋭さを持っていた。

彼女が雪乃を見る目は、先程までフザケたやり取りをしていたのと同一人物とはにわかには信じられない程に冷たい。

「…私は」

雪乃は彼女の威圧的な雰囲気に圧倒され言い澱むと、唇を噛んでその場に俯いた。

蛇に睨まれたカエル、という言葉がピッタリなほどに萎縮している。

そして助けを求めるようにチラリとこちらに縋るような視線を向けた。

「…雪乃ちゃん、ダメだよ」

雪ノ下陽乃はそれを厳しい口調で言い咎める。

何度目のデジャブだろうか。

何年も前の光景を思い出しながら、俺は陽乃さんのその言葉の真意を探るように思考を巡らせた。

皆の心配するような視線が雪乃に集まった。

嫌な沈黙がその場を支配する。

「雪ノ下さん、あの――」

見かねて俺が介入しようとした、その時だった。

雪乃は勇気を振り絞るような目で姉を見返しながら、言葉を発した。

「私は行かないわ。普段実家に寄付かない私が突然家族の催しに参加するのはおかしいでしょう?……実家のこと、姉さんにばかり負担をかけて申し訳ないけれど、私は皆といたいの。我儘を言ってごめんなさい」

俺は雪乃の言葉を聞いて、ゴクリと喉を鳴らした。

雪ノ下陽乃はしばし無言で彼女を見つめる。

そして、数秒の後、フッと表情を緩めた。

「よく自分で言えたね、雪乃ちゃん…少しは成長したかな」

そう言った彼女は非常に満足気な表情を浮かべている。

俺は肩から力が抜け、座っていた腰掛の背もたれに寄りかかるように体重を預けた。

同様に、沙希と結衣も安堵の表情が浮かぶ。

オッサンになった今でも、彼女が時折見せるこの急激な雰囲気の変化にはビビってしまう。陽乃スイッチとでも名付けようか。一度オンになると地の性格が発露して大暴れ。周囲の人間の心臓に悪影響を及ぼす危険なスイッチだ。

しかし、雪乃もよくぞスイッチの入った姉を相手に自分の主張を通したと、俺は感心する。

確かにこれは喜ばしい変化だろう。

陽乃さんはこれからも、こうやって稀に試すような態度を取りながら雪乃に接して行くつもりなのだろう。雪乃にしてみれば堪まったものではないのだろうが、今は彼女も自身の姉に対して一定の信頼感を抱いているはずだ。そうでなければあんなセリフが出るはずがない。雪乃が口に出してそれを認めることは無いとは思うが、彼女もこれが雪ノ下陽乃流の妹の鍛え方であるということを理解し、そのやり方を受け入れたのではないかと俺は感じた。

――ほんと、不器用でメンドくさい姉妹だ……でも良かったな、雪乃

俺はそんなことを考えながら、雪乃を見て思わず微笑んだ。

「良かった~!今日はゆきのんの誕生日パーティしようと思ってたから、これで解散になったらどうしようって、焦ったよ~」

結衣は安心した途端に、俺達が別途準備していたサプライズのネタをばらし、カバンからいそいそとプレゼントを取り出した。

「由比ヶ浜…まだちょっと早いんじゃない?」

沙希はそれを諌めるが、その表情は柔らかかった。

「え~?もういいじゃん!…ハイ、ゆきのん!サキサキとあたしから。これからもよろしくね!」

プレゼントを手渡された雪乃は目を丸くしていた。

「あ、ありがとう…私の誕生日、知っていたの?」

「当たり前だし!あたしとサキサキの時も、ゆきのん、ケーキ作ってくれたじゃん。ゆきのんの誕生日を忘れるわけないよ!」

結衣がそんな会話を展開する中、沙希は隠しておいたケーキを運取り出した。

陽乃さんの荷物が無駄に多かっただけに、雪乃もケーキの箱に気が付くことがなかったようだ。

「…こっちは俺からだ」

そう言いながら、俺も彼女へのプレゼントを手渡した。

偶然ショッピングモールで見つけた、あの時と同じブルーライトカットのグラス。

それを掛けながらPCで作業する雪乃の姿は中々様になっていた。

「あ、ありがとう…」

気恥ずかしそうにそれを受け取り、目に掛けた雪乃を見て、俺の胸に懐かしさが湧き上がった。

「…それから、こっちはオマケだ。ちなみに、今、印鑑あるか?」

続けざまにそう言いながら、俺はクリアファイルから書類を3部取出してテーブルの上に並べた。

「何々?ひょっとして婚姻届!?比企谷君、大胆~!」

雪ノ下陽乃はそのプレゼントに食い入るように見入ると、そんな言葉で茶々を入れた。

その言葉を聞いて、結衣と沙紀は迷惑そうな表情で彼女を睨み付けた。

「株式譲渡契約書だ…由比ヶ浜と川崎の分も用意してある。持って帰ってサインと捺印を頼む。正月明けに税理士に提出すりゃ、ファンドの正式な法人登録の手続きは完了だ」

彼女を無視して説明した通り、運用ファンドの最終登録手続きに必要な書類がこれですべて完了する。忘年会の後、今日に間に合わせるため、2日間ほぼ徹夜で準備を進めてきたのだ。

「こ、こんなに高額なオマケ、初めて手にしたわ…」

「は、8000万円…」

「…正直、怖いんだけど」

3人は書類を手にするが、その手は震えていた。

各々のそんな呟きを耳にして、俺は初めて宮田さんの元で株式のトレードをした時のことを思い出し、苦笑いを浮かべた。

クリックひとつ、電話一本で億単位の売買注文が確定する。そんな世界に飛び込んだ俺は、毎回ディールの決済時には、いつも小便をちびりそうな気分だった。

その後も大規模な売買をいくつも経験し、槇村さんの下でプロジェクト投資を始めた際は、金額の単位がそこから更に跳ね上がった。高校生に戻る直前に組成を計画していた中国ファンドはドルで数ビリオンの規模。円換算すれば数千億円だ。

今や、俺の金銭感覚は完全に崩壊している。

「3人とも良かったじゃな〜い。十分な手切金だね!婚姻届はお姉さん用ってことでいいんだよね?」

――くしゃっ

雪ノ下陽乃の笑えない冗談に、3人は無表情かつ無言で手にしていた契約書を握り潰した。

おい。それ一応、超大事な書面だぞ。頼むからスーパーのチラシと同じ扱いすんなよ。

「姉さん…早く出て行ってもらえるかしら?」

「ご両親が待ってますよ?」

「早くしないと雪とか超降ってくるかもしれないし!」

「比企谷君〜!みーんーなーがーつーめーたーいー」

ギャーギャーと喚く大人の女性の背中を、現役女子高生3人は全力で押し出す。

彼女を玄関先へと追いやる中、俺はポツンとリビングに一人取り残された。

「…あ~紅茶うめぇ」

俺は冷たくなった紅茶をズズッと音を立てて吸いながら、そう独りごちた。

☆ ☆ ☆ 

冬休みはあっという間に終了し、新学期が始まった。

あれからまだ俺は雪ノ下建設に顔を出せていない。雪ノ下建設の社員は元から正月三ヶ日にくっつける形で年休を消化して長めの冬休みを取る者が多いらしく、俺のシフトも組まれなかった。

あの日、両親と挨拶回りに出かけた雪ノ下陽乃も、情報を聞き集めようと意気込んではいたものの、結局大した収穫は無かったと悔しそうに口にしていた。後日、市川や冨山への挨拶のため両親に都内まで連れ出された際は、実際の面談時に同席すら許されず、外で待たされるハメになったらしい。

彼女は雪乃のアパートに引越した後も、度々両親の留守を狙って実家に戻り、独自の調査を進めていた。

村瀬渡航までのリミットも迫る中、俺は日に日に焦りを募らせたが、自分の姉を信頼して欲しいとの雪乃の弁もあり、ひとまず通常通りの高校生活を送っていた。

休み明け以降、俺達2年生には進路希望の調査票が配られた。

将来を意識始めた生徒たちによる、ソワソワとして落ち着かない、そんな雰囲気が校内には満ちている。

話は変わって、本日は奉仕部の定例勉強会である。

テーマは英語だ。経済的な制約から解放された彼女達は皆、明確に口にはしないものの、「留学」という選択肢を見据えた学習プランを立てていた。結衣も沙希も、難しい顔でセンター試験のレベルを優に超える高難度な問題集に噛り付いている。

帰国後、中国国内最高学府への進学を狙う1年生、劉海美も俺たちと机を並べて、同レベルのカリキュラムの消化に勤しんでいた。生徒会業務で忙しくないのかと尋ねた所、現在は進路懇談会の会場準備の業務があるものの、ぞの大半は力仕事であり、生徒会からは吉浜1人が教師に拉致られただけで済んだらしい。他のメンバーも比較的暇を持て余しているとのことだった。

哀れ吉浜。奴がいなければ俺は今頃一色のやつに連れ出されて肉体労働を強いられていたことだろう。今度MAXコーヒーでも奢ってやろう。

「…雪ノ下、そろそろディクテーションの読み上げ頼んでもいい?」

勉強開始から1時間余りが経過した後、不意に沙希がペンを置いて雪乃に尋ねた。

雪乃は「ええ」と短い返事を返すと、自分のテキストをパタリと閉じた。

ディクテーションとは、音読された英文を紙に書き取る語学の訓練法だ。ネイティブの発する英語を耳にし、理解した内容を手書きでアウトプットするこの作業は、リスニング能力、文章理解力、作文能力の全てを駆使しなければならない。あくまで俺の持論だが、一定の語彙を身につけた後であればその学習効果は絶大である。

「あ、あたしも!」

「じゃあ私も参加させて下さい」

――3人とも頑張ってんな。雪乃の奴も、内心嬉しそうだ

俺は一生懸命な彼女達の様子を見て破顔した。特に勉強嫌いだった結衣がここまで食らいつくのは感動を覚える程だ。

俺はMAXコーヒーの缶に口をつけると、手にしていた金融系の週刊誌に目を落としながら、密かに聞き耳を立てた。

「では始めるわ……Youth is a lie. It's nothing but evil. Those of you, who rejoice in youth, are perpetually deceiving yourselves and people around you. You distort everything about the reality surrounding you in a positive light...」

――あん?…若さは偽りだ。それは悪に他ならない?なんじゃそら?アラサーコンプレックス拗らせた平塚先生が作ったのか?…宮田さん、そろそろ貰ってやれよ

俺は雪乃の口から織り成された綺麗な英語の発音を耳にし、大きな疑問符を頭に浮かべた。俺がその一瞬の思考に囚われている間に、雪乃はどんどんと文章を読み上げていく。俺でさえも一瞬考え事をしただけで置いて行かれるペースだ。これは3人にはちと厳しすぎるのではないだろうか。

雪乃め、相変わらず容赦ないスパルタっぷりだな。

そんなことを考えながら、俺は聴解を諦めて、自らの意識を雑誌の記事へと戻した。

この雑誌にも、総武光学の上場にかかる観測記事が掲載されていた。昨年の国内年間上場企業数は14社。うち、IPOの公募時価総額が100億円を超えたのは4社だった。それを勘案すれば、総武光学の滑り出しはまずまずと評価されている。だがその一方で、総武光学の上場を好ましく思わないという一部の声も特集されていた。

武智社長の経営手腕とカリスマ性を考えれば、当社の上場は時期尚早であるという意見だ。上場すれば、武智社長の経営支配力は低下する可能性がある。それは経営リスクであり、そのようなリスクテイクをするくらいなら、国内初のユニコーン企業を目指し、間接金融主体の日本の市場に新風を吹込むべきであるとするものだ。

なお、ユニコーン企業とは、時価総額が10億ドル(≒1,000億円)を超える非上場企業を指す単語だ。本来、非公開株に時価もクソもないのだが、これはVCファンド等による増資時の株式評価額を以て想定時価としている。決して、発光するサイコフレームで本社ビルが建設されていたり、NT-Dシステムを開発する企業を指す単語ではない。

――武智社長とマーティンさん達が建てた事業計画に穴はない…このアナリストは逆張りに酔う投資下手だな。だが、日本でユニコーン企業の育成か…それも面白いテーマかもしれん

内部事情を知る俺は、雑誌に投書した証券会社のアナリストを要注意人物としてマークしつつ、「ユニコーン育成」というキーワードに着目した。日本初の、という前置きがあるように、ファンド投資の馴染みが薄い国内には、ユニコーン企業は存在しないようだ。記事によると、世界には想定時価総額が数兆円のモンスターベンチャー企業が存在するらしい。…いや、兆ってお前、総合自動車メーカーかよ。バブッてんじゃねーの?

「...In conclusion, should you enjoy this damn thing called "youth", go blow yourselves up……着いてこられたかしら?」

しばらくすると、雪乃は皆に音読終了を告げた。

日本語に反応して、俺の思考は投資の世界から現実の世界へと引き戻された。

「ちょっと雪ノ下、なんなのその出題?長い上にまるで意味が分からないんだけど?」

「…あたし、ぜんぜん分からなかった」

「私も、全部は書き留められませんでした…」

途端、沙希が文句を口にし、結衣も海美も困ったような声をあげている。

――大丈夫だぞお前ら。ビジネスの世界でも、聞き取れない時はニコニコしながら”please email me”で何とかなる…と思う。

無論、そんな甘えたことを口にすれば、雪乃に何を言われるか分かったものではない。

俺は沈黙を貫きつつも、彼女達に同情の視線を向けて、再びMAXコーヒーを啜った。

ちなみにemail meのemailは半スラングの動詞用法。テストでは不正解とされるため要注意だ。

「少しレベルが高すぎたかしら?…これが模範解答とその和訳よ」

雪乃はそう言いながら、両面刷りのプリントを3人に手渡した。

「…青春とは嘘であり、悪である…なにこれ?しかも最後、リア充爆発しろって、字まで超デッカイ!…高校生活を振り返って…2年F組…これ、ヒッキーの作文じゃん!?」

――ブハッッッッ!!!

俺は口にしていた糖分大目のコーヒーを、その場に思いっきり吹き出した。その一部が、結衣が丁寧に読み上げていたプリントにかかる。

「「「「汚い!」」」」

女性4人が非難の声を上げて俺を見た。日頃、気遣いと優しさの溢れる海美にまで汚いと言われたのは地味にショックだったりする。

「ゆ、雪ノ下…どこでそれを!?」

雪乃が揚々と読み上げていたのが、俺の黒歴史作文の英訳であったことに、この瞬間まで気が付かなかったのは迂闊だった。俺は動揺に声を震わせながら雪乃に尋ねた。

「平塚先生の家よ。年末の大掃除の時に見つけたものを拝借したわ…貴方、惚れ惚れする程の文才の持ち主だったのね」

雪乃は黒髪を掻き分けながら、澄まし顔でそんな嫌味を口にした。

彼女は恐らく気付いている。この作文は、間違いなく”高校二年生”の俺が書いたものであることに。

しかし平塚先生、これは個人情報漏洩だろ。懲罰ものだぞ。後で抗議してやる。

「比企谷さん、少し見てもらえますか?ちょっと自信がなくて…特に最後のはこんな感じでいいんでしょうか?」

俺が怒りに心を震わせていると、不意に海美に声をかけられた。

促されるまま、俺は彼女のノートに目をやった。

青春是一场谎言、一种罪恶。

ー中略ー

结论就是…现充都去爆炸吧!

「…おい、ちょっと待て。なんで中国語に翻訳してんの?つーか、仕事早すぎだろ?」

そのノートを目にして10秒程停止した後、俺は海美の意味不明な行為に疑問を呈した。

「え?材木座さんの教材にもなるかなって…现充(Xian Chong)…現実と充実を略したスラングですけど、”リア充”って、雰囲気的にこんな感じの言葉で合ってますか?」

海美は無邪気な笑顔を浮かべながら俺の質問に一言で答えつつ、更なる翻訳精度向上へ向けて俺に詰め寄った。

「…こうしてみると、漢字文化圏の言語にはやはり深い繋がりがあるわね。大変興味深いわ」

「ホントだ。発音は全く分からないけど、ドス黒い勢いだけは字面で伝わってくる感じ」

「最後のこれ、何て読むの?爆…?爆発しろ!だよね?」

「バオジャーバ!ですね」

「なんか可愛い!」

「返り点を振れば漢文の練習になるんじゃない?」

俺を無視して、女性4人は大盛り上がりの様相である。

俺が奉仕部に入る切欠となった15年前の作文は、今や皆の教材(オモチャ)として大活躍だ。

消えてしまいたい。俺は乾いた笑いを浮かべるのに誠意一杯だった。

――ガラガラ

そんなやり取りの最中、不意に部室のドアが開かれた。

キャッキャと笑う4人の視線が、入り口に立つ人物へと集まる。

「…あのさ…盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっといい?」

「三浦…」

俺が名を口にしたその女子生徒、三浦優美子は不機嫌そうな表情を浮かべながら、自慢の金髪縦ロールを弄っていた。


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