かんこれとらんすものがたり!   作:れすてう

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度重なる円安によりほのぼのさんの価格が高騰してしまいましたので、シリアスさんの出番が増えることになりました。やったねほのぼのさん!出番が増えるよ!!


再開

突然の痛みと冷たさに飛びかけた意識が戻る。

機関部に直撃でも受けたのだろうか。回避運動どころか、動くことすらできない。体が異常なほど重たい。自分の脳に答えを求める。徐々にはっきりとしていく意識の中、彼女の意識は一つの答えにたどり着いた。まるであの時のような―――

 

―――ああ、直撃を受けたのは、私自身なのです···

 

 

セーラー服は元々の形をやっとのことで保っている。おそらく右腕に直撃を受けたのだろう、彼女は痛みに耐えるように左手で右腕を抑える。絞り出すように出した息は弱々しく、意識が朦朧としている様が見てとれる。激しい雨は彼女をいたぶるように体温を奪っていく。

 

顔はまっすぐ前を向いている。数年前に突然現れ、海上交通路、いわゆる「シーレーン」を強奪。人類を筆頭とした生態系を脅かす存在―――「深海棲艦」。その中でも「軽巡ホ級」と呼称されるそれを見つめている。

 

砲口が彼女に向けられる。

その砲口には殺すと言わんばかりの憎悪や悲しみを含めたかのような黒い殺意が込められている。その殺意には慈悲などない。今、砲口を向けられている彼女自身が一番理解しているだろう。

 

自分の立場を察し、目を伏せる。目を伏せた表情は、砲口を向けられている為の恐怖の表情ではなく、過去の出来事に対して恐怖しているようであった。

―――「彼女達」の最期と、今訪れるであろう最期を、重ね合わせ恐怖していた。

 

一瞬にして記憶がよみがえる。フラッシュバックというものだろうか。見たくなかった。聞きたくなかった彼女達の最期が。今、彼女の中で呼び起こされてていた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

―――最初は、四隻の中で一番上のお姉ちゃんだった。夜戦が激化していくさなか、太陽のような眩い一線の光―――「探照灯」が敵艦を刺した。

―――そこからは一瞬だった。探照灯を照らした艦の末路なんて当時は海軍関係者なら、ましてや彼女達は知って当然の事だった。―――降り注ぐ鉄の塊。夜だというのを忘れる程に彼女は轟轟と燃えていた。探照灯を照らしたまま。それは彼女に乗員している乗組員達の最期の灯火のように、彼女自身の命の灯火のように、まっすぐ前を―――敵艦を照らしていた。

 

五分経った。十分経った。そして、十五分経った。不意に、光が上に傾いた。とっさに向こうを見る。―――その向こうには、沈んでいく彼女の姿があった。それは早すぎる死の訪れであった。

 

その後のことはよく覚えていない。ただ、たくさんの犠牲があった。そういったことを後から聞いた。その中には、確かに一番上のお姉ちゃんの名が―――「暁」という名があった。子供っぽくもお姉ちゃんだった彼女の名が。

 

 

 

―――次は、一つ上のお姉ちゃんだった。よくにた容姿から、間違われることが多かったが、それを疎んだ事は無かった。自慢のお姉ちゃんだった。一緒に行動することが多かったから、続けて「雷電」なんて呼ばれたこともあった。

 

―――彼女の最期は、聞いていない。行方不明になったという知らせだけだ。なんでも輸送船の護衛中に行方不明となったらしい。潜水艦の反応があったらしいから、おそらく彼女のことだからわざと輸送船から離れて潜水艦を追い払おうとしたのだろう。対潜装備が充実していなかった当時、潜水艦はまさに海のスナイパーであった。

 

―――二ヶ月後、彼女の、「雷」という名が艦隊から消えた。優しかった彼女が、明るかった彼女が。いとも簡単に、容易く、消えてしまった。

 

 

―――そして、ついに来てしまった。ルーレットのように、無作為に、しかし、それが定めであったかのように。

 

その日は少し曇りの空で、護衛する位置を交代したばかりだった。正直、予想はしていた。いつかこうなるのではないかと。遅かれ早かれその時が来てしまったということを。結果、脚の部分とお腹の部分に激しい痛みを覚えた時、視界は前ではなく、上を向いていた。

 

 

―――私が、「電」が、沈んだ瞬間だった。

 

後に残されたお姉ちゃん―――「響お姉ちゃん」は大丈夫だろうか。普段はクールに振る舞う彼女だが、泣きやすい一面もあったから···きっと泣いているだろう。

慰めることは、もうできない。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

光のような速度で巡る思考は、海を掻き分ける走航音のようなものにかき消される。それはあちらも気が付いたのだろう、ホ級はそちらへ目を向ける。―――その刹那、ホ級の「前」で爆発がおきる。

 

おそらく目の前の兎を追い詰めた為に、狩人としての勘や警戒心が緩んでいたのだろう。本来であれば容易くかわせるはずの航跡を、聞こえたであろう走航音を、ホ級は兎を追い詰めたが故に見落としていた。実際のところ電も目を閉じたとはいえ、直前まで聞き逃していた。この「激しい雨」に気をとられたが故に。

 

連鎖する爆発。―――煙が晴れた時、ホ級はそこに居なかった。おそらくいまの爆発が致命的となったのだろう。そこには最初から何もなかったかのように、雨が海を叩く音が聞こえるだけだ。

 

それにしても、一体どんな艦がホ級を沈める決定打となる「それ」を放ったのだろうか。当たると確信があったのだろうか。航跡はすべてまっすぐホ級を捉えていた。ここは電を、私を巻き込む可能性を加味しても、ほぼ命中が期待できる扇形に発射すべきだろう。

助かりながらも理論的に考えてしまう自分におこがましいと思いながら、それが発射された方向を見る。助けて貰ったからにはそれなりの感謝をしなければならない。そう思い向かって来るその人影を見て、驚愕する。いや、まさか。そんなはずはない。しかし、姿は変わっても彼女は一人、自分が知る限り一隻しか知らない。

 

―――もう会えないと思っていた。死人は生き返らない事と同じように、沈んだ艦はもとには戻らないから。そう思っていたから。自分が置かれている状況との矛盾に気付くよしもなく。

 

ただ、再会という事実が電の涙の理由となるには充分であった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

全速力で海上を駆けながら、二つ思ったことを挙げるのであれば、明らかに「電と対峙しているヤツがいるということだ。」そしてもう一つ挙げるのはその「ヤツ」に対して「砲撃出来ない」という事だろうか。

トラウマだとかそういった類いではなく、砲撃するための「砲」自体がない。神様に愚痴の一つも言いたいところではあるが、今はこの状況を打開できる案が必要である。なにか、なにか、決定打となるものは―――あった。当たれば確実に仕留められる日本海軍の秘密兵器「魚雷」。後ろの機械に付いていたこれならヤツを沈める事は出来なくても小破あるいは中破まで持ち込むことが―――いや、沈めないと駄目か。中破まで持ち込めたところでヤツがこちらを脅威と認識するかは微妙なところだろう。脅威と認識したところで彼女を―――電を先に沈める可能性が高い。沈めなければ。

しかしながら、そもそもどう発射したらよいのだろうか。気合いを入れたら発射されるものなのだろうか。いや、発射出来たとして、方向はどうなる。電の方向に飛んでいったらそれこそ目も当てられない。ヤツがかわす可能性も否定出来ない。一体どうしたら、一体どうしたら―――ん?雨か。この辺りだけの局地的な豪雨といったところか。頭でも冷やしてろってことか。

 

―――どうやら天気の神様だけは俺の味方らしい。この魚雷はかわされなさそうだ。後はどう発射するかと方向だけだが、そんなことを考えるよりも電を助けなければ。

 

大きく息を吸って、吐く。狙うはヤツ一匹。

 

「全魚雷、一番から六番菅。ってー!」

 

―――後部の機械から出る六つの魚雷。それは隊列を組むように、吸い込まれるようにヤツへ向かっていく。発射音と同時に電が膝を附く。大丈夫。この魚雷は当たる。

 

―――大きな爆発音。命中したのだろう。そうでなかったら詰みだが。

 

煙が晴れて、ヤツが居ないことを確認して、電に駆け寄る。こちらを警戒しているのだろうか緊張がとけないのだろうか。固まっている。···この生きながら殺されるような空気をどうにかしよう。死地をくぐり抜けたあとにこの空気は生殺しもいいところだ。

 

しかし、先に口を開いたのは電の方だった。

 

「―――ぇちゃん―――」

 

え?ちゃん?

 

「お姉ちゃん···?」

 

え?お姉ちゃん?俺はどちらかというとお兄ちゃんなんだが―――今はたしかに見かけはお姉ちゃんか。

 

「雷ちゃん!!」

 

そう言って泣きながら抱きついてきた。―――ああ、道理で何処かで聞いたことある声な訳だ。この髪も、この服も、全て。―――電にはすまないがこの雷お姉ちゃんの中身は男なんだ···すまぬ···まぁ、でも、もう少しこのままでいさせてもらおう。電が泣き止むまで、そして、俺の気が済むまで。

 

まぁ、電の無線というべきものですぐに途切れることになってしまったのだが。

 

「―――いなづまさーん。おーい。感動の再会の所申し訳ないけど、今抱きついているであろう人は誰か説明してくれー。僕さっきからおいてきぼりだよー」

 

 

 

―――そちらこそだれや。

 

 

暗雲立ち込める空が晴れるのはもう少し先のようだ。




回想部分は史実を参考に申し訳程度のフレーバーを入れながら。

次回からはほのぼのさんが導入されると思います。
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