スレイ達は次の試練神殿のあるであろう場所に向かって歩いていた。
一行は情報を元に、ウェストロンホルドの裂け谷に来ていた。
奥に進むと、慰霊の石柱群が並んでいた。
スレイがそれを見て、
「この石柱も……生贄に関係するものかな?」
「まったくバカげてる!天族が生贄を喜ぶはずがないだろう!」
ミクリオが拳を握りしめて怒る。
エドナも半ば怒り気味で、
「頼まれてもいらないわよ。人間の命なんて。」
それを聞いたライラは悲しそうに俯く。
レイは呟くように、
「それが救いの道だと思い込んでいるからね、人は……」
「ふん。捧げるだの救いだの言ってるが、要は弱いヤツらの逃げ道だろう。」
デゼルは呆れたように言う。
スレイはデゼルを見て、
「死ぬことが逃げ?」
「死ぬことより辛い現実なんていくらでもあるからな。こんな災厄の世じゃ、特にそうだ。」
「でもそれは弱い者にとっての一つの選択肢であり、導き出した答えの一つ。誰しもが、貴方の知る強い人間とは違う。そしてそれは貴方にも言えること。」
レイはデゼルを見上げて言う。
デゼルは帽子を深くかぶり、背を向ける。
ライラは手を握りしめ、
「自らを顧みず犠牲にすることはある意味穢れとは正反対の行為ともいえますが……」
「は!生贄が純粋だと?」
デゼルは口の橋を上げ、冷たく笑う。
ライラは俯きながら、
「もちろん正しいとは思いませんが……」
「どちらも認めたくないな。」
ミクリオも同じように俯いた。
そんな彼を見てエドナは、
「けど間違ってるとも言い切れない。どっちもね。」
「現実なんだな。それが。」
それを聞き、スレイは悲しそうに俯いた。
レイは遠くを見ながら、
「そう。この矛盾こそ、何とも言えない生きるという事の問題。それを選ぶのも、選ばせるのも、それは誰にも解らないし、気付けない。否定したいけど、否定できない。だからこそ、人の世は色々なものに溢れている……でしょ?」
レイは最後、くるっと回って皆を見る。
そこにロゼがやって来て、
「どうしたの、みんな。そんな何とも言えない顔は。」
「何でもない。」
「そうね。ほら、行くわよ。」
と、エドナとデゼルがどんどん歩き出していった。
ロゼは首を傾げながら、付いて行く。
スレイ、ミクリオ、ライラも苦笑いし、後に続いた。
レイは再び遠くを見て、
「どうして今になって、審判者の言葉がいっぱい出てくるんだろう……そしてどうしてこんなに悲しくなるんだろう……」
レイは一呼吸し、スレイ達の後を追う。
道を探していると、レイがどこかを見ている事に気付いたライラ。
そこに近付き、レイが見ているものに気付き、
「まあ、こんなところに……」
「なにを見ている?」
そこにデゼルがやって来る。
ライラがデゼルに振り返り、
「崖の上に鳥の巣が。ヒナもいるようですわ。」
険しい崖の上に小さな鳥の巣があった。
その中心にはヒナが居た。
そして親鳥がヒナを守るように左右に居た。
デゼルはその方向を見て、
「多分シルフイーグルの巣だろう。」
「こんな過酷な場所でも生きているんですね。命が。」
ライラは少し悲しそうに鳥の巣を見る。
デゼルは腕を組み、右手を顎に当て、
「たしかに過酷だがな。岩場は敵から巣を守る城壁でもある。やまない風も高く飛ぶ力に変わる。そう捨てた場所でもないのかもしれん。」
デゼルは最後、流れる風を見るかのように空を見上げる。
そんなデゼルをジッと見つめるライラ。
その視線に気付いたデゼルは、
「なんだ?」
ライラは胸に手を当て微笑み、
「いえ。珍しいなと思って。こうして落ち着いて話すのも。」
「ちっ……気まぐれだ。いい風が吹いているからな。」
デゼルは帽子を深くして歩いて行った。
ライラはもう一度、鳥の巣を見た。
「ええ。本当に。鳥たちを運ぶ風ですね……」
ライラの髪が風になびきながら、その言葉を乗せたかのように、親鳥の一匹が飛んでいく。
レイは横目で彼らを見ていた。
そして小さく笑った後、
「いつの世も、命は強く儚い……か。」
小さく呟いたレイの前に、
「さ、行きましょう。スレイさんたちが心配しますわ。」
レイは目の前に出された手を握り、
『命は長くて短い。人も、天族も、そしてこの世に生きるすべての生き物の命は強いく、それでいて脆い。それでもなお、彼らはその命を燃やす。終わりくるその時まで……でも、私達は……』
レイは胸の服を強く握りしめた。
奥へと行く道を見つけ突き進んで行くと、古い遺跡を見つけた。
上を見上げても見切れない程、高く大きい。
スレイが右手を腰に手を当て、左手を頭にかざしながら上を見上げる。
「すっげえ!こんな高い塔があるんだ。」
他の者達も上を見上げる。
ミクリオは腕を組み、顎に手を当て、
「遺跡としては相当古いな。少なくともアスガード以前なのは間違いない。」
「……なるほどな。風の試練の地というだけはある。確かに風の気配が違う。」
デゼルが真剣な声で言った。
それを聞いたロゼは、
「そうなんだ~。」
と、少し感心する。
レイは見上げていた空を見上げ、
「……あ……」
「「あ?」」「ん?」
スレイとミクリオ、そしてロゼが同じように再び上を見上げる。
すると、上から小さな黒い影が落ちてくる。
それが目視できると、人の形だと解る。
「ちょ!」
ロゼは目を見開いた。
無論、スレイやミクリオ達も。
「人だ!」
スレイはすぐに左手を上げ、
「『ルウィーユ・ユクム≪濁りなき瞳デゼル≫』!」
スレイはデゼルと神依≪カムイ≫化し、竜巻を起こす。
その風に包まれ、人(男性)はゆっくりと降りてくる。
スレイは男性を掴み、
「ふぅ……」
と、安心する。
レイが上を見たまま、
「あ……あー……」
と、小さく呟いた。
デゼルがそれに気付き、
「気を抜くな!まだ何か来る!」
「え?」
スレイは再び上を見る。
そこには宙を駆ける馬に乗った首のない騎士だった。
槍と楯を構えてこちらに降りて来る。
「デュラハン!死を運ぶ首なしの騎士です!」
ライラは眉を寄せて叫ぶ。
スレイは気絶している男性を降ろす。
と、エドナがさらに言う。
「……だけじゃないわ。」
「あれは……」
スレイも見て眉を寄せた。
その憑魔≪ひょうま≫デュラハンの後ろを壁を走って降りて来る天族の男性。
スレイは驚いたように、
「ザビーダ!」
そして、真後ろまで近付くと、憑魔≪ひょうま≫デュラハンの背を蹴った。
憑魔≪ひょうま≫デュラハンは地面に叩きつけられる。
当の本人、天族ザビーダは綺麗に着地する。
その後、憑魔≪ひょうま≫デュラハンから距離を取る。
そして、スレイ達と目が合った。
言葉は交わすことはなかった。
何故なら、憑魔≪ひょうま≫デュラハンが少し動き出したからだ。
レイは一歩下がって、それを見ていた。
天族ザビーダは眉を寄せて、構える。
憑魔≪ひょうま≫デュラハンの前にスレイとデゼルが立つ。
スレイは警戒しながら、
「また殺すつもりか?」
「ああ。行ったろ?憑魔≪ひょうま≫は地獄へ連れてってやるのが俺の流儀ってな。」
彼はポーズを決めて言う。
それを聞いたデゼルは驚き、
「何だと?」
「さ、どきな。」
「どかない。殺させない。」
スレイは天族ザビーダをジッと見つめた。
そしてスレイとデゼルの後ろにいた憑魔≪ひょうま≫デュラハンは立ち上がる。
レイは憑魔≪ひょうま≫デュラハンを見て、頷いた。
それに反応するかのように、憑魔≪ひょうま≫デュラハンは歩き出す。
「スレイ、憑魔≪ひょうま≫が!」
ロゼが叫ぶ。
攻撃しようとする天族ザビーダの手に、デゼルのペンジュラムが絡みつく。
デゼルと天族・ザビーダは睨み合う。
「ちっ!」
「待て。お前、どうやって憑魔≪ひょうま≫を殺す気だ。」
そうしている内に、憑魔≪ひょうま≫デュラハンは消えた。
天族ザビーダはデゼルを睨んだまま、
「グラマラスなお姉さん紹介してくれたら教えてやるぜ?」
「ふざけんな!」
デゼルは怒る。
そしてペンデュラムを外し、構える。
天族ザビーダは、今度はスレイを見て、
「なんか女の子が増えて華やかになったなぁ、導師殿。エドナちゃんも口説き落としてるとはやるじゃん。」
と、口の端を上げて笑う。
ロゼは腰に手を当て、
「超チャラい。こんな天族もいるんだ。」
「あなた、変わらないわね。」
と、ロゼだけでなくエドナも呆れる。
天族ザビーダは嬉しそうに、
「はっはっは。なら……」
そして真剣な表情になり、
「俺様が次に何するかもわかんだろ?エドナちゃん。」
腰にある銃をクルクル回しながら取り出し、自分の頭に当てる。
天族ザビーダの後ろ方にいたライラは眉を寄せ、
「ザビーダさん⁈」
「戦おうっていうのか⁈理由がわからない!」
ミクリオも眉を寄せて、怒りながら言う。
天族ザビーダはニッと笑い、
「この先何度もチャチャ入れられるのはごめんだ。無駄弾は撃てないんでな。この際、ザビーダ先生がしっかり躾けてやるよ。」
「お前が殺さなくても憑魔≪ひょうま≫はオレたちが鎮める!だから……」
スレイは叫ぶが、天族ザビーダは笑みを深くし、
「そうじゃねぇよ、スレイ。譲れないもんがぶつかったら……」
そしてその引き金を引く。
ガクッとうなだれた後、風が彼を包む。
そしてその状態で、
「ケリはこいつでつける!それも俺の流儀さ!」
彼は顔を上げ、睨みつける。
一気に場の雰囲気が戦闘モードに変わる。
『さて、どうなるかな……』
レイは少し間を取る。
スレイも剣を抜き、全員が戦闘態勢に入る。
「さぁて!どれほどのもんになってるかな!」
「ザビーダ!話を聞いてくれ!」
天族ザビーダの攻撃をかわしながら、スレイは叫ぶ。
だが、彼は攻撃の手は緩めない。
「やなこった!あとにしな!」
彼の攻撃は続く。
だが、スレイ達もただやられているだけではなった。
『ほう、少しは成長しているようではないか。導師たちは……』
彼らの戦いを見て、レイは目を細めた。
否、裁判者はジッと彼らを見つめていた。
そして、疲れがではじめたのは天族ザビーダの方だった。
「いてて……何とか言って全然本気じゃねぇの。」
「ではもうやめましょう。」
ライラが珍しく怒っていた。
だが、彼は楽しそうに、
「へっ!むしろ楽しいのはこっからだろ!」
そう言って、スレイに突っ込んだ。
スレイは驚きながらも、
「あー、もう!こうなったら、ごめん‼獅子戦哮‼」
そのまま天族ザビーダを吹き飛ばした。
スレイは吹っ飛び、仰向けになった彼を見て、
「これで終わったか⁉」
「どうかしら。この人に油断は禁物。」
エドナは真剣な表情で彼を見る。
しばらくジッと彼を見ていると、ミクリオが警戒しながらも、
「……動かないな。」
「やり過ぎたかな……手加減できなかったし……」
スレイが心配そうに見つめる。
すると、少し怒った声で、
「聞き捨てならないな。」
天族ザビーダは体を起こし、立ち上がる。
そして続きを話す。
「それじゃ俺様が負けたみたいじゃねーの。」
スレイ達が再び戦闘態勢に入るが、
「負けたんだろ。」
そこにレイが歩いて来た。
レイは風に包まれ、白から黒のコートのようなワンピース服へと変わる。
天族ザビーダを見て、
「お前は負けた。」
「それはあの時のお前さんのようにか?」
天族ザビーダは口の端を上げて、小さな少女に言う。
小さな少女は目を細め、
「何のことだ?」
「わかってるくせにぃ。お宅らも、譲れない何かがあって殺りあったしょ。俺様、見たしぃ。」
「……確かに、あったといえば、あったな。だが、それはつまり私が負けたと言いたいのだろう。」
小さな少女の影が揺らぎだし、
「さて。今度は私と戦ってみるか、風の天族よ。」
「……あー、はいはい。もうーいいって。それこそ無駄遣いになる。」
天族ザビーダは一歩下がり、両手広げて首を振る。
そして彼らに背を向けて、歩き出そうとする彼の背に、
「おい、憑魔≪ひょうま≫を殺すんじゃなかったのか。」
デゼルが若干ぶっきらぼうに言う。
天族ザビーダは背を向けたまま、
「お前らが鎮められなかったらな。」
「ザビーダ……」
スレイは警戒を解き、嬉しそうに彼の背を見る。
だが、デゼルは怒りながら、
「待て!ザビーダ!神依≪カムイ≫に頼らずどうやって憑魔≪ひょうま≫を殺すんだ!」
そう言いながら、彼に近付く。
が、振り返った天族ザビーダは彼に銃口を向ける。
小さな少女は横目で彼ら二人を見た。
デゼルは立ち止まり、
「お前はライラの陪神≪ばいしん≫になったんだろ?それこそ殺す必要なんてないんじゃねえの?憑魔≪ひょうま≫を消せるって事で満足しときな。」
「お前に言われたくない!」
「怒んなよ。」
天族ザビーダは銃口を彼から離し、銃を見ながら、
「これは力を撃ち出す道具だ。俺はこいつで穢れに抗う力を得てる。ま、それはそこにいる裁判者から貰ったもんだがな。」
「俺にも寄こせ。」
デゼルは近くいた小さな少女を見る。
だが、小さな少女は腰に手を当て、
「無理だ。あれはあいつの願いで生み出したものだ。それにあれは使う者の力の問題もある。」
そして天族ザビーダは銃をしまい、
「そうだ、倒してるのは俺の実力。」
デゼルは舌打ちをしながら、視線を外す。
スレイは天族ザビーダを見て、
「ザビーダ、お前は――」
「またにしようぜ?導師殿。今、話してもまたぶつかるだけさ。」
だが、天族ザビーダはスレイの話を切った。
そして彼は歩いて行った。
スレイは目をパチクリした後、
「話はあとにしろって言ったくせに……」
「相変わらずワケがわかない……」
ミクリオも呆れていた。
ロゼは腕を組み、
「確かにさぱらんヤツだけど、なんか嫌いじゃないな~、あいつ。」
「……興味深いヤツではある。」
デゼルはボソッと言った。
小さな少女はそんな彼を鼻で笑った。
デゼルが小さな少女をジッと見たが、
「にしても、デゼル、何でムキになってたの?」
ロゼがデゼルを見て言った。
小さな少女はまた鼻で笑った。
デゼルはそっぽを向き、
「……さぁな。」
「何それ!言え~。」
と、ロゼは彼の首に引っ付いた。
いや、首を腕で挟み、締め上げる。
デゼルはロゼの腕を掴み、
「やめろ!」
と、抵抗する。
……いや、ある意味仲の良い光景だ?
ライラが手を合わせて、
「さぁ、私たちの目的を果たしましょう。」
「うん。人が落ちてきたのも頂上に向かった憑魔≪ひょうま≫もきがかりだし。とにかく登ってみよう。」
スレイが頷く。
ロゼもデゼルを離し、
「んじゃ、行きますか!」
小さな少女はスレイ達の方へと歩いて行き、
「さて、私はこのままお前達を見てる事にしよう。前回のように、変な手出しをされても仕方がないからな。」
そう言って、歩いていった。
エドナは傘を地面に突き刺し、
「アイツ嫌い。」
「あはは、こればかりは仕方ないんじゃ……」
「アイツ嫌い。」
スレイが頬を掻きながら言うのだが、エドナは傘を地面に突く。
が、小さな少女が振り返って、戻って来た。
そして塔の上から落ちて来た男性を見て、
「あれを忘れていた。」
「……あ、うん。」
スレイが男性に声を掛ける。
男性は目を覚まし、立ち上がる。
そして辺りを見渡し、
「生きている……私はもう地霊への供物となり救いを求める資格すらないのか……」
男性は肩を落とした。
ロゼが小声で、
「この人……自分から落ちたんだ。」
スレイは後ろの塔に振り返り、見上げた。
「生贄の伝承のせいで、この塔が身投げの舞台になっちゃったんだな。」
「バカげてる。歪んだ信仰だな。」
ミクリオが呆れたように言う。
スレイは男性に振り返り、
「生贄なんて何の意味もないよ。天族はそんな事望んでません。」
男性は顔を上げ、
「だがあの時確かに神の御使いが見えた……。私は召されたのかと思ったのに……」
「あれが見えたの?」
ロゼが声を上げて驚いた。
そしてそれはスレイもだ。
小さな少女は男性を横目で見上げていた。
ライラがスレイ達に説明する。
「極限の精神状態が『目』を開かせることは稀にありますわ。」
「今はもうそれも閉じたみたいだけど。」
エドナも続けて言う。
スレイは男性を見つめ、
「……あれは人や天族に災厄をもたらす存在です。」
「そうそう。あたしらが助けなかったら救いどころか悪い方に力を与えてたんだよ。」
ロゼが腰に手を当てて言う。
男性は眉を寄せながら、
「君たちは……?」
「スレイって言います。」
「わたしたちは導師様ご一行ってワケ。」
スレイとロゼは笑顔で言う。
男性は驚いた後、眉をより一層深くした。
ロゼは決め顔で、
「あんな高いところから落ちたのを無傷で助けたのが本物って証拠、でしょ?」
と、最後は優しく微笑んだ。
だが、彼は戸惑っていた。
「まだ信じられないようだ。」
ミクリオがスレイを見て言う。
そしてデゼルが腕を組み、
「放っておけ。俺たちの目的には関係ない。」
「って言ってるけど?」
エドナがスレイを見上げた。
小さな少女はスレイをジッと見つめた。
『さて、お前は何を選ぶ。』
スレイは心を決め、
「導師としての力をみせるよ。」
「本気?」
エドナが意外そうな顔をする。
スレイは力強く頷く。
そしてスレイは左手を上げ、
「『ハクディム=ユーバ≪早咲きのエドナ≫』!」
エドナと神依≪カムイ≫化し、地面を叩く。
「うわぁ⁉」
すると、男性を囲む柱が突き出した。
男性は驚き、尻餅を着く。
「強引ね。嫌いじゃないけど。」
エドナがため息をついてから言った。
そして柱は再び地面の中へと消えた。
スレイは神依≪カムイ≫化を解き、
「バカなマネはもうしないで。」
男性は声を出せずに、震えながら首を縦に振る。
デゼルはスレイを見て、
「いくぞ。」
「すぐ側までローランスの辺境巡視隊が来てる。街まで送ってくれるって言ってたから、行ってみてね。」
ロゼがそう言ってから、男性から離れた。
スレイが歩きながら、
「それにしても、自ら命を絶つなんて……」
「事情はあるんだろけど、悲しいよね……。あの人たちも暗殺者に言われたくないだろけどね。」
ロゼも苦笑いしながら言う。
と、エドナが小さな少女を見て、
「で、何でアンタはあの人間が気になった訳?」
「別に、あの人間に用があった訳ではない。ただ、そこの導師があの人間に対してどのような対処を取るか、が気になっただけだ。」
小さな少女は腰に手を当て、片手を上げる。
そして、スレイを見上げ、
「先程のやり方は60点だな。ま、ああでもしないとあの人間は再び同じような事をするだろうな。しかし、人間が伝える伝承は時に残酷だな。確かに自信を極限状態にする為に、自らを追い込んだ試練があったのは事実だが……それが生贄に変わるか。」
「え?」
スレイは目をパチクリさせた。
小さな少女は続けた。
「かつて、導師の器になる為に見習い導師達が多くいた。だが、その中には導師に欠かせない霊応力がない者や、弱い者もいた。そう言った者達の霊応力を上げる為に、自らを極限状態にする為にああいった事をしていた時期があった、ただそれだけだ。」
小さな少女は塔を見上げながら言った。
そして歩いて行く。
ライラは悲しそうに俯き、
「それも一つの方法として信じられ、多くの若き導師の器がその命を失いましたわ。」
場の空気が重くなりかけたが、
「あー!もう!さっさと試練を受けに行こう!善は急げ!」
「急がば回れ、もあるけど。」
「うぅ~~。」
ミクリオが苦笑いで突っ込んだ。
ロゼはうなだれるが、ミクリオは微笑んで、
「だが、礼を言うよ。」
そう言って、歩き出す。
スレイ達も歩き出した。
と、スレイは崩れていた壁を見つけた。
そこを見上げ、
「崩れてるな。」
「俺たちには関係ないだろう。」
デゼルが呆れたように言う。
ロゼは頭に手を置き、
「けど、この高さだよ。無理して登って途中でどうにもならなくなると最悪じゃない?」
「だよな!」
スレイが嬉しそうに言う。
ミクリオは真剣に、
「外周階段の狭い足場で、さっきの憑魔≪ひょうま≫に襲われたら危険だしな。」
「……塔の中が見たいだけでしょ。この遺跡オタクども。」
若干呆れながら、そして怒りながら言った。
スレイとミクリオは互いに明後日の方向を見る。
そこに小さな少女が、
「ああ。やめておいた方がいいだろうな。あそこはお前達には無理だ。」
小さな少女が少しだけ口の端を上げていった。
エドナが再び怒りだす前に、ライラは微笑んで、
「ちゃんと入り口から入りましょう。」
スレイとミクリオは若干がっかりぎみに入り口に向かった。
そして歩きながら、スレイが思い出しながら呟く。
「しっかし、ザビーダの目的ってなんだろ。」
ロゼが顔の横で手を振りながら、
「いやいや。目的もだけど、もっと謎があるよ。」
「え?」
「だって、あいつ上半身ハダカで寒くないのかな?」
ロゼは空を見上げながら言う。
スレイ達は裁判者を含めて全員が無言となった。
そしてスレイは、話を最初に戻した。
「ほんと謎だよな、ザビーダは。」
「うん。面白い天族ってことはわかったけど。」
しかし、再びロゼへと戻ってしまう。
ロゼの話が再び脱線しないように、ミクリオがすかさず言う。
「言葉も行動も読めなさすぎる。」
「ライラ。あいつのことを教えろ。」
デゼルが若干重くなる。
ライラは顎に指を当て、
「教えろと言われましても……」
「憑魔≪ひょうま≫狩りのザビーダ。噂はよく聞く男だ。憑魔≪ひょうま≫との戦いが目的らしいが……」
デゼルが腕を組み、話し始める。
ミクリオがエドナを見て、
「エドナも知り合いだったんだな。」
「微妙にね。」
エドナは悪戯顔のようになる。
と、スレイは小さな少女を見て、
「えっと、裁判者さんもザビーダと知り合いだったんだよね。」
「ん?知り合いではないな。私はただ、あいつの願いを叶えただけだ。それよりかは、そこの陪神≪ばいしん≫の話の方が解りやすいと思うが?」
小さな少女がエドナを見る。
彼女は不機嫌だ。
スレイはエドナを見ると、話し始めた。
「あいつ時々レイフォルクに来るのよ。なにが目的かは知らないけど。」
「結局、謎の天族ってことしかわからないね。」
ロゼが残念そうに言う。
そしてスレイはポンと手を叩き、
「そういえば、デゼルとザビーダって戦い方似てるよな。そこになにかヒントが――」
「知るかよ!」
が、デゼルが怒声を上げた。
スレイ達は驚き、口を開ける。
デゼルは帽子を深くかぶり、
「……俺の技は、俺が磨き上げたものだ。」
「わかった。」
スレイが頷き、歩いていった。
他の者も歩いて行く。
二人を除いて……
「くそ!なぜ俺はアイツにこんな……」
デゼルは小さく呟いた。
小さな少女は鼻で笑った後、彼らの後ろを歩く。
『……お前の記憶には蓋がかかっているからな。復讐に囚われた哀れな天族よ。』
小さな少女は横目でデゼルを見あた後、前に視線を戻す。
そして、彼らは中へと進む。
中に入ると、所々途切れた場所があった。
なによりも、中でもかなり高く、岩肌が見える。
そこを気をつけて進み続ける。
「変わった遺跡だなぁ。」
スレイが辺りを見渡していった。
ミクリオも頷き、
「まさに『試練場』だね。」
「こんなものが試練か……ぬるいな。」
デゼルが口の端を上げて、笑う。
と、ロゼが頭に手をやりながら、
「って、言ってると、そこの裁判者さんがよからぬ事を言い始めるんじゃない?」
「は?」
デゼルを含めた全員が小さな少女を見る。
小さな少女は彼らの視線に気付き、
「では、黙秘しよう。今ここで、試練を中止しても良いのであれば、助言してやるが?」
「はい!みんな、急いで進むよー!」
ロゼが片手を上げて、突き進んでいく。
さらに上に進んで行くと、
「でも、こんなとこ、導師以外は進めないよな。」
「塔そのものの偉容が人の信仰なんだろう。」
スレイに続けて、ミクリオが続ける。
スレイは眉を寄せて、
「それが生贄の伝承と交わって身投げの舞台となったのか。」
「そんなこと、誰も望んでないというのに。」
ミクリオも拳を握りしめた。
小さな少女は目を細め、
『だが、それが事実だ。人の世も、天族の世も。人の行いに天族は止める事は出来ない。そして天族の想いに人は気付けない。』
彼らは進む。
その後ろに、小さな少女も続く。
進むにつれて仕掛けがあり、それを解いて行く。
エドナが仕掛けを動かすデゼルを見て、
「大活躍ね。そのきりもむヤツ。」
「風の試練だからな。」
デゼルはそっけなく言う。
エドナは彼の足を突きながら、進んで行った。
中腹くらいまでくると、休憩を取る。
ミクリオが腕を組み、
「やっぱり、明らかに人の手によるものの造りじゃない。」
「だよな。こういったものがあるから、塔そのものが信仰の対象になったのもうなづけるってとこだな。」
「いや、内部はこんなところに普通の人は来れない。やっぱり外観の尊厳さからだろう。」
と、ミクリオとスレイの討論が始まる。
すると、ロゼが腕をぐっと前に出し、
「も~!そんなことより!そろそろゴールだよね?」
「どうかな~。」
スレイは頬を掻きながら、苦笑いする。
ミクリオも、
「まだ中腹ぐらいじゃないか?」
と、言うとロゼは肩を落とし、
「そっか~……」
「ばてたのか?」
デゼルが優しくロゼに聞いた。
ロゼは腰に手を当て、笑顔で言う。
「ん、だいじょうぶ。ありがと!」
「別に心配などしていない。」
デゼルが帽子を深くかぶるが、
「だめよ。それじゃだめ。」
「何がだ?」
エドナの真顔のダメ出しに、デゼルがムッとしながら言う。
エドナは真顔のまま続ける。
「ミボ。見本を見せなさない。」
「なぜ僕に振るんだ!っていうか何の見本だ!」
ミクリオが怒りながら言う。
エドナは傘についている人形を握り潰しながら、
「ライラ!」
「え?あ、えーっと、ぐるぐるしても大丈夫。まかせて安心デゼル印の『瞬天の迅』。離れた崖でもひとっ飛び、デゼル印の『瞬天の迅』。今ならデゼルさん付きでお値段控え置き500ガルド。」
と、腕を前にぐっと握って、決める。
デゼルがすかさず突っ込んだ。
「安すぎるぞ‼というより、なんなんだこれは!」
「それよ。それを最初からやればいいのよ。」
逆にエドナは真顔で言う。
デゼルは怒りながら、
「何がだ……何でだ……!」
と、言い争いを始める彼らに、スレイが目をパチクリさせてから、
「なんだかんだでデゼルも付き合いいいよな。あんなのエドナの暇つぶしなのに。」
「あはは。楽しそうだし、おっけーおっけー。」
「僕は君の気持がわかるよ……デゼル……」
腰に手を当てて笑うロゼと、呆れたように、それでいて疲れたようにミクリオが言った。
その後ろでそれを見ていた小さな少女は、
「全く。この導師一行は賑やかだな。まるで……あいつや昔の導師や器達みたいに……だが、あの一行も……こんな感じだったな。」
最後の方はどこか遠くを見ながら呟いた。
休息も終わり、さらに上へと突き進んでいく。
そして、また仕掛けを解いているデゼルに、
「まさに大活躍ね。そのきりもむヤツ。」
「風の試練だからな。」
エドナは同じように言うが、デゼルもまた同じように言った。
そこにミクリオが、
「デゼル……違う返し方しないとずっと続くよ。」
「ふん……」
デゼルは颯爽と歩いて行く。
しばらくして、再びエドナは声を明るくして、
「世紀の大活躍ね。そのきりもむヤツ。」
「きりもむからな。」
今回は違う返しをしたデゼル。
それを見たライラが、
「で、デゼルさん!がんばりましたわ!」
「ふん……」
「ただのフォローだから!」
歩いて行くデゼルの背に、ロゼがポンポン叩きながら言う。
小さな少女はワイワイ盛り上がって進む彼らを見て、
『全く。導師の試練をこんなに楽しそうに進む奴なんていないというのに……。だが、これこそが本来の姿なのかもしれんな。互いに助け合う……自分の持たない部分を持つ者が支え、協力する。それでも、それができないのが人であり、天族である。……今の私とあいつがそうであるように……な、審判者。』
スレイ達は最後の間に入って行く。
小さな少女は瞳をゆっくりと開け、彼らに続いた。
外に出ると、すぐに白いローブに包まれ、仮面を着けた護法天族が現れた。
「ようこそ。若き導師よ。」
「お久しぶりでございます、導師ワーデル。」
ライラが彼を見て言う。
そして彼の方も、
「久しいな。ライラよ。」
「導師って……この天族≪ひと≫が?」
スレイが驚いていた。
彼らは優しく、
「もう数百年も前のことだ。」
「……エクセオと同じというわけか。」
ミクリオが腕を組んで考え込む。
護法天族ワーデルはスレイ達の後ろに居た小さな少女を見て、
「……え?」
「久しいな。ん?どうした。」
小さな少女が腰に手を当て、彼を見る。
彼は一歩下がり、
「い、いえ。何でもありませよ。ただ、生前貴女の方には酷く恐ろしい目にあわされたので……」
「なんだ。今でもあれにこだわってるのか。いい加減慣れればいいものを。」
「無理です!今思い出しただけでも……」
と、小刻みに震え出す。
が、そこにデゼルが壁にもたれながら、
「俺たちはそんな話をしに来たわけじゃない。」
「ああ。そうであろうとも。」
彼は平静さを取り戻し、デゼルを見て言った。
そしてデゼルを見たまま、
「若き風の天族よ。」
「デゼルだ。」
「……デゼルよ。この塔の存在そのものが試練。頂上に至ったそなたらは、それを乗り越えたということだな。あとは私の心次第ということになる。」
「なんか。含みあるね。」
ロゼが眉を寄せて、彼を見る。
スレイが眉を寄せ、
「……入り口で会った憑魔≪ひょうま≫と……生贄に関わる事じゃないかな。」
「ふむ。良い洞察だ。さぁ、頂の舞台へと行くが良い。見せてもらうぞ。若き導師、その同胞≪はらから≫よ。」
そう言って、彼は消えた。
スレイ達は上へと向かう。
小さな少女はそれを見た後、彼らとは別のルートで頂上に向かった。
小さな少女は頂上の柱の一角の上に腰を下ろしていた。
そこにスレイ達が来るのが見える。
「さて、どうする?」
スレイ達が頂上まで行くと、中央が大きな円状となった舞台。
そして左右には長い通路が水平に伸びている。
そしてその一角に、一人の女性が立っていた。
ロゼが眉を寄せ、
「人がいる!」
「あの首なしの憑魔はどこだ……?」
デゼルは辺りを見渡した。
ロゼは女性の背に駆けて行き、
「待ったあっ!」
「こないで!」
だが、女性は振り返り、泣き叫ぶような声で叫んだ。
ロゼの動きが止まる。
スレイがロゼの隣まで行き、優しく問いかける。
「なんで生贄になんてなろうとしてるの?」
「もう私は死ぬしかないの……」
そして女性は語り出す。
「私は人を殺めた……家族を食い物にしていた男を……。そのせいで私たち家族は見知らぬ人からも石を投げられ、ののしられ、苦しむ結果となってしまった……。家族の幸せを守りたかっただけなのに。伝承に則りここで神への生贄として身を投じれば、少なくとも私の汚名は名誉へと転じる事ができる……それだけが私の救い……。私は生きていても苦しいだけ……もう死ぬしかないの!」
「もういい。放っておけ、スレイ。」
デゼルが腕を組んでうんざりしたように言った。
スレイは眉を寄せ、悲しそうに、
「デゼル?」
そこに小さな少女が降りてきて、
「全くもって人間とは愚かな生き物だ。そこの陪神≪ばいしん≫がそうなるのも無理はない。あの人間は弱すぎる。」
「え?」
スレイはさらに眉を深く寄せる。
そしてデゼルは怒りながら言い始める。
「……家族のために手を汚した事を後悔するだと?汚名を名誉に転じるだと?こいつは誰かに認められたいだけだ。自分は悪くなかったと。」
そんなデゼルの雰囲気にロゼは困惑しながら、
「何怒ってんの?デゼル。」
「怒ってねぇよ。」
そしてデゼルの言っている事を何となく理解したスレイはどう言っていいか解らない。
小さな少女は横目で彼を見て、再び柱の上に腰を降ろす。
その瞬間、辺りは穢れの領域に包まれる。
「憑魔≪ひょうま≫の領域だ!」
スレイが警戒する。
暗雲の中から馬に乗った首なし騎士が現れる。
そこに突風が起き、女性は後ろに落ちる。
「あっ⁉〰‼」
女性は声にならない悲鳴を上げる。
そして落ちそうになったが、何とか壁に捕まる。
だが、そう長くはない。
「!」「ちっ!」
スレイとデゼルは互いに声を上げる。
無論、同じように見ていたロゼも、驚く。
女性は恐怖にかられながら必死に捕まっていた。
スレイとデゼルは駆け出す。
ロゼはデゼルを見て、
「デゼル!」
「ロゼ!ミクリオ!首なし野郎を止めとけ!」
デゼルは走りながら言う。
ロゼとロゼは、
「おっけ!」「わかった!」
「出番なしってワケね?」
エドナがつまらなそうに言う。
そんなエドナに、ライラが優しく微笑み、
「お任せしましょう。エドナさん。」
ロゼとミクリオは神依≪カムイ≫化をして、二人が憑魔≪ひょうま≫の横を通る時に矢を放つ。
そしてスレイよりも速く、デゼルが走って行く。
「デゼル……!」
「死にたがりがなんで必死にしがみついている……!」
そして力尽きて手が壁から外れた彼女の手を、デゼルが掴む。
「うう……」
「デゼル!」
追いついたスレイが手を伸ばす。
デゼルは掴んでいる彼女の方の手を上げる。
「ふん!」
そしてスレイが女性の手を掴み、引き上げる。
そんな中、憑魔≪ひょうま≫が動こうとするが、
「よそ見すんな、首なし!」
ミクリオと神依≪カムイ≫化したロゼが矢を放つ。
「……さてさて、どうなるでしょうか。」
「知らん。その為の試練だろう。」
「そ、そうですよね。も、申し訳ありません。」
すぐ横に現れた護法天族ワーデルに、小さな少女はそっけなく答えた。
目の前の彼らの方では、女性が恐怖に震えていた。
そしてデゼルも上がってくる。
「はぁ……はぁ……」
そして二人は互いにニッと笑う。
スレイは真剣な表情に戻し、
「自分のした事が正しいのか……わからない時ってあるよね。確かに。一人じゃぐるぐるしちゃったりするし。けど、生贄になるから罪を許してって言われても、天族のみんなもどうしようもないんだ。」
「……私は!」
女性は泣き出した。
スレイは続ける。
「せっかく守った家族を残しても……。……なんの意味もなくても……やっぱり生贄として身を投げたい?」
「……うう。……たくない……死にたく……ない……です。」
女性は泣きながらそう言った。
デゼルは女性に背を向け、
「無様でも足掻け……それが手を汚した者の道だ。」
「偉そうに言ってるけど、オレも仲間によく抱え込むなって言われてるんだ。家族がいるんだからさ。一緒に考えればきっといい方法あるよ!」
「はい……」
女性は涙を拭いながら言う。
小さな少女はそれを見て、小さく笑った。
それを見た護法天族ワーデルは驚いた。
小さな少女は護法天族ワーデルを横目で見た。
護法天族ワーデルはビックンと震えた後、スレイとデゼルの方へ行った。
二人の背に、彼は言う。
「……う、うむ。だが、まだ終わってない。」
「その通りだ!」
スレイとデゼルは彼の横を走り抜けていく。
そしてロゼとミクリオと合流し、
「こいつをやっつけなきゃ!」
ロゼが武器を構えなおす。
スレイ達も武器を構える。
小さな少女は上で、
「さて、ここからが正念場だ。見せて貰うぞ、導師。」
スレイ達は一斉に攻撃を掛ける。
その姿を見て、
「彼らは晴れる事のない想いの塊にして、哀れななれの果てだ。その想いは重く、正当だと信じ身を投げた者。死を覚悟した者ほど、この世の未練を残してさ迷う。その想いに気付けるか、導師。」
スレイはデゼルと神依≪カムイ≫化して、憑魔≪ひょうま≫と剣を交える。
そして、覚悟を決めて一撃を与えた。
憑魔≪ひょうま≫は崩れ落ちる。
それを見届け、小さな少女は彼らの前に降り、
「もう大丈夫だ。お前達の想いは紡がれる。安心して成仏しろ。」
小さく彼らに呟くと、憑魔≪ひょうま≫は青い炎に包まれて、浄化された。
空は領域が消え、青空に戻る。
デゼルが消えた憑魔≪ひょうま≫の所を見て、
「身を投げた生贄のなれの果てだったか。」
「歪んだ信仰が生んだ歪んだ偶像か……」
ミクリオがそれに続けた。
スレイは泣き疲れ、座り込んだままの女性の所に行く。
「さ、もう大丈夫。立てる?」
女性は頷き、立ち上がる。
「……あの……もしかしてあなたは……導師様……?」
「スレイって言います。」
そう言って頭を下げる。
女性は勇気を振り絞って続ける。
「もしや……神……いや天族の方々も側におられる?」
「うん。ここにいるデゼルっていう風の天族があなたの命を救ってくれたんだ。」
スレイはデゼルの居る右を見て言う。
デゼルはぶっきらぼうに、
「余計な事を言うな!」
「あ、ありがとうございます!デゼル様!本当にありがとうございます‼私……これから堂々と生きたいっていいます。私が私自身をもっと信じます。」
女性はデゼルの居る方向に大声で言う。
そして、再び涙を流す。
デゼルは帽子を深くし、
「ふん……」
「超照れてるし。」
ロゼはそんなデゼルを見て笑う。
スレイは女性を見て、
「オレたち、まだここに用があるんだ。一人で下に降りられる?」
「はい。大丈夫です。」
女性は力強く頷く。
「街には辺境巡視隊の方に連れて行ってもらいます。」
「うん。それがいいよ。」
ロゼも頷く。
そして女性は歩いて行った。
その背を見て、
「ホントよかった。でも、信仰って難しいな。」
「そうかな?逆に簡単に信じるからダメなんじゃない?信じるって、結構難しいことだと思うけどな。」
歩きながら言うロゼの前に、小さな少女が見上げていた。
「だが、その事すら考える者も居なくなったがな。」
「そ、そうですか……」
小さな少女は護法天族ワーデルのいる中央の方へ行く。
そこを見ると、護法天族の男性は肩を落としていた。
それをライラが慰めていた。
スレイは頬を掻きながら、
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。」
彼は姿勢を正し、
「ゴホン。力はもちろんの事、心、絆も見せてもらった。風の秘力を得る資格は十分にある。」
「……心?絆だと?ふん……」
デゼルは困惑し、それでいてそっけなく言う。
護法天族ワーデルはデゼルを見て、
「デゼルよ。気付いているだろう?その身に脈付いているものに。それは拒絶するものではない。現にお前は言葉なくとも仲間の声を感じ、自ら動いたではないか。」
「……ご託は済んだか。さっさとやれ。」
デゼルは腕を組んだまま、そっけなく言った。
小さな少女はそれを横目で見て、
「素直ではないな。」
「うるさい。」
デゼルは小さな少女としばらく睨み合った。
そこに、ロゼが不思議そうに、
「仲良くなるのに抵抗があるってワケ?なんで?」
「聞かれているぞ、陪神≪ばいしん≫。」
小さな少女はデゼルを見上げる。
デゼルは小さく舌打ちをした後、
「非常にならなければ成せない事がある。……お前らもそれは気付いているはずだ。」
「……仲間のおかげで乗り越えられるものもあろう。この神殿へと至り、試練を乗り越え、この祭壇に立っている事こそがその証。」
護法天族ワーデルはそう言った。
そして、護法天族ワーデルは二人に言う。
「さぁ、祈りを捧げるがよい。」
スレイとデゼルは膝を降り、左手を胸に当てる。
「若き風の天族、若き導師よ。これからの道程に何が訪れるかいかなる可能性も想像しておくことだ。この旅路の果てに導き出した光を見失うことのないようにな。」
「はい。」
「光など……」
スレイは頷くが、デゼルは小さくそう呟いた。
そして二人は神依≪カムイ≫化する。
と、小さな少女が歩いて来て、
「さて、試練も終わったことだし……私は私の仕事をするか。」
「え?ちょっと待って下さい⁉ま、まさかとは思いますが……」
護法天族ワーデルは、おどおどし始めた。
小さな少女は腰に手を当て、
「仕方ないだろう、来てしまったのだから。」
「そんな普通のように言わないで下さい!」
そんな二人のやり取りに、疑問に思っていると、
「ぐぎゃわああああ‼」
「こ、この咆哮って……」
「……ドラゴン⁉」
スレイとミクリオは目を見開いた。
そして穢れの領域が展開された。
「おいおいおい‼冗談じゃないぞ!」
「せっかく試練が終わったのにぃ~!」
スレイと神依≪カムイ≫中のデゼルとロゼが互いに声を上げる。
小さな少女は彼らに振り返り、
「別にお前達は何もせずともよい。言ったろ、これは私の仕事だと。」
そう言った小さな少女の前に、巨大な図体と鱗や爪、牙を持ったドラゴンが降り立つ。
護法天族ワーデルは、頭を抱えながら、
「って、これのタイプは絶対あなたが呼んだんですよね⁉」
「……だって、楽だろ。それに、ここは絶好の場所だ。」
「あー!何回目ですか⁉」
「確か……百――」
「やっぱりいいです!」
二人が会話を続けるが、目の前のドラゴンは唸りを上げて今にも襲い掛かりそうだ。
スレイ達は緊迫している中、
「さて、動くか。」
「……まさかとは思いますが……」
「この姿では動きづらいからな。諦めろ。」
「…………」
護法天族ワーデルは肩を落とした。
そして小さな少女の足元の影が中の円全体に広がっていく。
それがスレイ達の足元にも来ると、
「なになに⁉この嫌な感じ!」
「これは……なんというか穢れに近いような。」
ロゼは肩を摩り、スレイは眉を寄せて、足元の影を見る。
エドナが傘を握り、
「……相変わらず、嫌な気配ね。」
「ええ。これが時代を長く生きる天族だけが知る、裁判者と審判者の恐ろしさの内の一つです。」
ライラも警戒しながら言う。
そんな中、ドラゴンの足元にも影が行き渡る。
ドラゴンは唸りを強くし、小さな少女に牙をむく。
が、足元の黒い影がドラゴンを飲込み始める。
「本来なら、もう少し弱らせてから喰うのだが……まぁ、問題はないだろう。……今ならな……」
そして、それを見る彼女の瞳は赤く光り、ある種の恐ろしさをかもし出していた。
「まぁ、実際……この導師の試練の遺跡は、彼女たちが創ったので文句は言えませんが……」
「そうなの⁉」
ロゼが肩を落としたままの護法天族ワーデルを見る。
彼はその状態のまま、
「そうです、そうなんです。ここだけでなく、他の試練神殿すべてが、彼らによって一日でできた。だからこの遺跡に関しては、何があっても私達が穢れに直接触れる事はないのだよ。」
「だが、試練神殿は五大神を崇めているはずだ。」
ミクリオが眉を寄せる。
護法天族ワーデルは顔を上げ、
「それも、彼女たちと盟約と契約をしている。だから彼女は、我ら護法天族の出す導師の試練には手を出さない。それ故に、我らは五大神の残した力をちゃんと導師に与えられるように、見極めなくてはいけないのだよ。」
そう言った彼の頭を影が叩いた。
「ぐぇふ!な、何をするんですか⁉」
「しゃべり過ぎだ。お前もここで喰らって、別の奴を置くぞ。」
「ええぇ⁉」
「だが、今は時間が惜しい。次に持ち越しだ。」
「は、はい……」
彼は再び肩を落とした。
知らず知らずのうちに、ドラゴンは体の半分以上が影の中へと飲み込まれていた。
その間も、小さな少女の表情は一つも変わっていない。
「前の時もゾンビ兵の憑魔≪ひょうま≫を、あの影に喰わせていたが……」
「あれは穢れの根元だよ。人、天族、世界が抱える穢れの集合体とも言えるね。それを彼らは、身の内にとどめている。そしてあれは、彼らの力の一部に過ぎない。だから恐いんだよ。底知れぬ彼らの強さに。」
そう言った彼の頭を再び影が叩いた。
彼はただ一言、「申し訳ありません。」とだけ言った。
ドラゴンが跡形もなくなると、領域も消えた。
「さて、これであやつも来世に転生できるだろう。人か、天族か、何になるかは知らんが。」
と、体をほぐす。
スレイが小さな少女を見て、
「……転生?」
「ああ。転生……いや、生まれ変わる、といった方がお前達には解りやすいだろう。私やあいつが憑魔≪ひょうま≫を相手にするのは、大抵もう本体がないものだ。対して、お前のような導師という存在が相手にする憑魔≪ひょうま≫のほとんどはまだ本体があるものばかりだ。事実、導師の力とはそういった事をする為のものでもあるからな。だが、肉体なきものを導師が浄化しても、魂だけは未だにさ迷い続ける。その魂はさ迷い続け、再び憑魔≪ひょうま≫と化す。さっきのはそう言った方の類だ。故に我らは、導師が浄化した魂や本体≪肉体≫がない憑魔≪ひょうま≫を相手にする事で、その魂を流れの中に戻す。そして長い年月をかけ、その魂は再び新たな肉体≪本体≫を得るのだ。それが人か、天族、はたまた草木や生まれながらの憑魔≪ひょうま≫かもしれない。ま、そういう事だ。」
スレイは目をパチクリしていた。
そしてロゼが頭を掻きながら、
「ん~、でもさ。元々、導師の力を作ったのは裁判者と審判者……なんだよね?」
「ああ。そうなるな。」
「じゃ、災禍の顕主もその気になれば、二人だけでも十分って事で、導師もいらなかったかもって事だよね?」
「確かに、私達がその気になれば世界も壊せる。だが、それ故に私達はお前達の和には関わらないのだ。しかし、関わらない事をずっとすれば、世界に対応できず滅びの道を辿るだけだ。だから私達は内側と外側に別れ、それぞれの役割を担っている。……それに、私が今宵の災禍の顕主を倒したところで、世界の穢れは晴れる事はないぞ。根本を変えない限りな。」
そして小さな少女は目を細め、
「そして、私達が直接関与するという事は、災禍の顕主以上の世界の崩壊を招くが……それでもいいか。」
「ごめん。今のはなかった方向で。」
ロゼは両手を前に合わせ、頭を下げる。
小さな少女は腰に手を当て、
「……まぁ、今回はそういう事にしておこう。」
「……根本……もしかしてそれが、ザビーダが言っていた審判者との対立の原因?」
スレイが真剣な表情で、小さな少女を見つめた。
小さな少女は彼らに背を向け、
「……さぁな。ワーデル、続きをやれ。」
「え……あ、はい。」
そう言うと、小さな少女は風に包まれ、レイ≪白い少女≫へと変わる。
護法天族ワーデルはスレイとデゼルに振り返り、
「ゴホン。ではな。導師スレイ。そなたの旅路に光りあらん事を。」
そして二人はやっと神依≪カムイ≫化を解く。
スレイは護法天族ワーデルを見て、
「うん。ありがとう。ワーデルさん。おかげで秘力以外にもいろいろ知れたよ。」
「では、私はこれで失礼します。裁判者の器よ、あまり彼らをいじめてはダメですよ、と……あの人に伝えておいてください。」
そう言うと、彼は姿を消した。
レイは護法天族ワーデルの居た所を見て、
「……え?あ、うん……だ、そうです?」
レイは自分の胸に手を当て、首を傾げながら言う。
ライラはそれを聞き、じっとレイを見つめていた。
『……レイさんはやっぱり……』
ライラが一人考え込んでいたが、そこにやっと側に来れたロゼが、
「で、どう?ばっちり?」
スレイは苦笑いしていた表情を戻し、
「うん。」
そしてスレイは色々と思い出し、ロゼを見つめる。
ロゼは目をパチクリして、
「何?」
「なんか、ありがと。」
そう言って、頭を下げた。
ロゼは腰に手を当て、
「は?」
「デゼルさん、無理なさる事はないのですよ。」
ライラが優しく彼を見て言う。
だが、デゼルは無言であった。
「出番は終わったってことかしらね。」
「……もうここには用はない。いくぞ。」
エドナがそう言うと、デゼルは背を向けて言った。
スレイは肩を落とし、
「ふぅ……」
「大丈夫ですか?また力に当てられたのでは……」
ライラが心配そうにスレイを見る。
スレイは顔を上げ、
「平気だよ。心配してくれてありがとう。」
「四つの秘力はそろった。ヘルダルフに対抗できるかな?」
ミクリオが腰に手を当て、左手を顎に当てて言う。
ライラが眉を寄せ、
「それは……」
「やってみなくちゃわからない、だろ?」
だが、スレイは笑顔で言う。
ロゼも頷き、
「うん。つまりソイツを捜すと。」
「手掛かりナシよ。どこから手をつける?」
エドナが、傘を肩でトントンしながら言う。
ミクリオが眉を深くし、
「最初に会った場所からが鉄則だろうね。」
「わかった。戦場だな。」
スレイが頷いた。