テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第七十二話 過去の世界

とある透き通る青い海。

その海を一隻の船が航海をしていた。

その船には、とある一行が乗っている。

その一行とは、世界を破滅に向かわせているという災禍の顕主とその仲間。

もとい海賊たち。

船の先には長い黒髪と左腕に巻きつけている包帯が風によってなびいていた女性が立っていた。

時折、彼女の包帯から穢れに満ちたオーラが漏れ出す。

そう、彼女こそが災禍の顕主。

導師アルトリウス・コールブランドと聖主カノヌシの掲げる理を打ち壊そうとする者。

その後ろには仲間たちが立っている。

彼らはある場所に向かっていた。

それは、四聖主たちを呼び覚ますために贄にした対魔士四人が復活したと言う噂を聞きつけた。

しかも、導師アルトリウスと合流したとも言われていた。

それに加え、聖主カノヌシの力が増幅され、再び聖寮は聖隷を使役、業魔や聖隷を見ることのできる霊応力も上がった。

彼らと共に行動を共にしていた裁判者は、そのことについては多くは語らなかった。

そして、現在はどこかに出ていた。

しかし、仲間である聖隷アイゼンによれば、裁判者のあの雰囲気と行動を見れば噂は嘘ではないかもしれないということであった。

なので一行は、最初に目撃があったと言われる島に向かっていたのだ。

 

と、大声が響く。

 

「副長!」

「どうした、ベンウィク!」

「そ、空から人が落ちて来ます‼︎」

「なんだと⁉︎」

 

全員は空を見上げる。

確かに、小さな何かが真上から落ちて来ている。

それが次第に形が分かってくる。

上半身裸の黒い帽子をかぶった男性が、何かを抱え込んでいる。

それはどこか見覚えのある……

 

そして、その男性が竜巻を起こし、威力を落として船に落ちた。

マギルゥは若干驚きながら、

 

「おぉ、これはこれは面白い事もあるもんじゃ。空から聖隷が落ちてきおった!」

「ホントだなぁ~。」

 

と、ロクロウもその落ちてきた男性を見る。

その男性は背中から落ち、大の字で寝転んだ。

 

「いってぇー‼︎」

 

が、すぐに顔だけ上げて、腹の上で優雅に座る少女を見る。

 

「エドナ、無事か⁉︎」

「ええ……おかげさまでね。」

 

少女は傘を支えに立ち上がる。

男性も身を起こし、片膝の上に腕を置く。

その二人を見たアイゼンは眉を寄せ、

 

「ザビーダ⁉それに……何故、エドナがここに居る⁈」

「よう、アイゼン。久しぶりだな。」

 

ザビーダはクイッと帽子を上げてニッと笑う。

エドナも傘を広げて、

 

「ホント。久しぶりね、お兄ちゃん。」

「エ、エドナ……」

 

アイゼンはカタカタ震え出す。

エレノアはアイゼンを横目で見て、

 

「アイゼン、せっかく会えた妹さんですよ。ちゃんと、お兄ちゃんらしい事をしたり、言ったりしたらどうです。」

「そ、そうだよ!アイゼン、頑張ってノル様人形集めたくらいなんだから!」

 

と、ライフィセットもグッとガンバレコールを送る。

覚悟を決めたアイゼンが歩み寄ろうとした時、エドナはクルッと背を向けて、

 

「……ホント。カワイイ、カワイイ、可憐でか弱い妹を一人放っておきながら、お兄ちゃんはキャッハウフフみたいなハーレムに囲まれて、楽しそうね。」

「エ、エドナ……」

 

と、最期は傘の間から横目で睨むエドナ。

アイゼンは一歩下がり、肩を落とす。

 

「実物は、本当にアイゼンにそっくりね。」

「それはどういう意味でフ?」

「中身の話よ、中身の。」

「ああ~!なるほどでフ‼」

 

ベルベットの言い分に、ビエンフーが納得する。

と、当の本人エドナは傘で顔を隠し、

 

「でも……本当の意味で、またこうしてお兄ちゃん本人に会えた事には感謝するわ。少し癪だけど。」

「エ、エドナ……」

 

そして顔を上げて、再び歩み寄ろうとするアイゼン。

だが、エドナは半眼で彼を見て、

 

「けど、それとこれは別。随分と、女性に囲まれて楽しそうね。ワタシと言うカワイイ(・・・・)妹が居ながら。」

「エ、エドナ……」

 

アイゼンはガクッと膝を着いた。

アイゼンは手をついて、

 

「誤解だ……誤解なんだ……」

 

と、繰り返し呟いていた。

 

「ったく、エドナも素直じゃないなぁ~。」

 

それをザビーダがケラケラ笑うと、エドナが傘を閉じてバシバシと叩く。

そこに、バタバタと走り音が響く。

 

「副長‼」

 

だが、膝を着いて落ち込んでいるアイゼンを見ると、

 

「副長‼そんなとこで、そんなことしてる場合じゃないすよ‼」

「……今度はなにが起きたのよ。」

 

ベルベットが腰に手を当てて、ため息交じりに言う。

船員ベンウィックは焦りながら、

 

「あーもう!落ち着いている場合でもないんだよ!今度は空からバカでかい白いドラゴン(・・・・・・)が落ちてくるんだ‼」

「はぁ⁉」

 

ベルベットは真上を見る。

太陽の光に反射する何かがある。

他の者たちも見る。

 

「そんなバカなこと!」

「って、何じゃ、何じゃ!本当ではないか!」

「おぉ~、斬るか‼」

「無理でフよ~‼ビエーン‼ソーバッド‼」

 

と、各々悲鳴を上げ出す。

ザビーダとエドナも空を見上げ、真剣な表情になる。

 

「おいおい。どうるよ、エドナ。ありゃあ、完全に気絶してるぜ。」

「無理もないわよ。あの時、ワタシとアンタを護って直撃を何発も食らっていたから。アイツならともかく、おチビちゃんには荷が重すぎたのよ。」

「けどよ。どうする。このままじゃ、ホントにヤバいぜ。」

「仕方ないわね。ここはワタシがなんとかしてあげるわ。」

 

と、エドナは傘を開く。

ザビーダも立ち上がり、

 

「もしかして、お前……」

 

ザビーダは耳を塞ぐ。

エドナは大きく息を吸って、

 

「おチビちゃん!目を覚ましなさい!」

 

と、叫ぶ。

近くに居た彼らは、

 

「うおぉ⁈」「きゃっ⁉」「何じゃ、いきなり⁉」「うるさいわね……」「ビエーン‼」

 

アイゼンに至っては、やっと顔を上げる始末である。

エドナは続ける。

 

「でないと、スレイとミボ(・・・・・・)がおチビちゃんの下敷きになってしまうわよぉーー‼」

 

と、何度も最後の方の「わよぉー」と言う声が木霊する。

空高くいた白銀のドラゴンはピクリと動き出す。

そして、カッと目を開いた。

クルリと反転すると、魔法陣が白銀のドラゴンを包み込む。

そして、小さな塊が落ちてくる。

ザビーダはそれを確かめると、

 

「よっしゃ!ここは俺様に任せろ!」

 

と、位置を確認して受け止める体勢を取るが……

 

「あ……」「ぐおぉ⁉」

 

その小さな塊はクルリと一回転すると、ザビーダの顔に蹴りを繰り出した。

彼はグルグル回転して、大の字となって倒れ込んだ。

着地したその小さな塊こと、レイは驚きながら、

 

「ごめん、ザビーダ!生きてる?」

「お、おうよ……こ、このザビーダお兄さんはとても丈夫だ……」

 

と、グッと親指を立てると、パタリとその腕は落ちた。

レイは「うわー」と言う顔になり、

 

「どうしよう、エドナ。」

「別にいいんじゃないかしら。捨てておきなさい。」

「はーい!」

 

と、エドナが半眼でザビーダを見て、レイは笑顔で左手を上げた。

すると、すぐにザビーダが起き上がり、

 

「ヒデーよ、エドナ!嬢ちゃんも、もっと心配してくれ!」

「面倒よ。」「えぇー、だってザビーダ、丈夫って言ったよ。」

 

と、エドナは呆れながら、レイは小首を傾げながら言う。

今度はザビーダが肩を落として落ち込む。

 

「あー……もういいわ……」

 

そのやり取りを見たベルベットは半眼で、

 

「なんなのよ、コレ。」

「さぁ?」

 

と、エレノアは首を傾げる。

が、マギルゥは眉を寄せて、レイに近付き……

 

「とおぅ‼」

 

レイを脇を掴んで抱き上げる。

そしてジーとその顔を見て、

 

「やはり、お前!裁判者ではないか‼」

「何だと⁉」「嘘でしょ⁉」

 

そう言われ、ロクロウとエレノアも顔を近付けて見始める。

二人は一歩下がり、

 

「マジか……」「嘘です……」

 

と、ワナワナしている。

レイは頬を膨らませて、

 

「なんか酷い~!」

「大体、何じゃ!その姿と性格は⁉」

「えぇ~?何か変かな?」

 

と、レイは口を尖らせて「ムムム。」となっていた。

ベルベットがジーとレイを見て、

 

「実は審判者とかじゃないの。」

「違うよ、裁判者だよぉ~♪」

 

と、ホッペに指を当てる。

その姿に、ベルベットは一歩下がる。

ビエンフーに関しては恐怖のあまり、物陰に逃げ出していった。

エドナが傘を閉じて、

 

「おチビちゃん、おふざけもそこまでにしておきなさい。」

「はーい。マギラ……マギルゥ、降ろして♪」

 

レイは笑顔で言うが、

 

「嫌じゃ。」

「は?」

 

エドナが面倒臭そうな顔になった。

マギルゥはレイをぶらぶら揺らし、

 

「こんな面白そうな裁判者を、弄らずしてなんとするか!」

「意味わからないわ。」

 

エドナはレイを見る。

レイは「うーん」と悩むと、

 

「いいから降ろせ、マギラニカ。」

 

そこには無表情かつ冷たい赤い瞳で、マギルゥを見据える小さな少女。

マギルゥは一瞬固まった後、

 

「う、うむ……」

 

と、そっと降ろす。

ライフィセットは脅えながら、

 

「ほ、ホントに裁判者さんなんだ……」

「みたいね。」

 

ベルベットも「うっわ」って顔になっていた。

降りると、今度はアイゼンがレイをつまみ上げた。

 

「裁判者!てめぇ!人の妹捕まえて何してやがる‼」

「…………」

 

レイはキョトンとした顔をして、ジッとアイゼンを見ていた。

すると、アイゼンの腹に傘が突き刺さる。

 

「ぐっ‼」

「おっと!」

 

レイはザビーダに掴み上げられ、二人を見る。

アイゼンは右腹を抑え、横を見る。

そこにはエドナが傘を肩でトントンさせていた。

エドナはアイゼンを睨み上げ、

 

「いい、お兄ちゃん。おチビちゃんは裁判者だけど、裁判者(アイツ)じゃないの。おチビちゃんに手を上げるなら、ワタシが相手になるわよ。」

「い、いや……エドナ!裁判者というヤツは――」

「言っておくけど、裁判者は知っているわよ。会った事もあるし、会った事もあるし、会った事もあるし!ワタシはアイツが嫌い。大っ嫌いよ!」

「な、なら――」

「でも、おチビちゃんは嫌いじゃないの。なにより、おチビちゃん(・・・・・・)は、大切な仲間なのよ。」

 

と、傘についているノルミン人形を握りつぶしていた。

それを見たアイゼン達の心中は「フェニックス――‼」と、叫ばれていた。

レイは思い出したかのように、「あー……」という顔になっていた。

ザビーダも、何かに察して同じような顔になっていた。

 

「わ、わかったから……その人形をそんな風に扱うのはやめるんだ。」

「あら、ワタシがワタシのモノを、どうしようと勝手でしょう。」

「だ、だが――」

「わかったわよ。」

 

エドナは人形を離し、傘を広げる。

と、レイは海の方をじっと見つめ始める。

そして顔を上げて、

 

「ザビーダ。もう降ろして。」

「おっと、そうだったな。」

 

レイは降ろされると、船の端に立つ。

 

「で、何の用?」

 

レイは海を見つめていう。

すると、どこからか声が響く。

 

「どういうことだ、裁判者。」

「どうも、こうも……裁判者()がここに居る、それでわかるバズだよ。アメノチ。」

 

レイがそう言うと、エレノアが驚いたように辺りを見ながら、

 

「アメノチって……あの、四聖主アメノチ様?」

「確かに何かの気配はするけど……」

 

ライフィセットも辺りを見渡す。

レイはそれを横目で見た後、

 

「それに、ここにくる事は事前にあなた達に言っている。文句があるやらなら未来の自分(・・・・・)に言え。」

「終末の使者は理解してるのか。」

「………………帰ったらね。」

 

レイは視線をサッと流し、長い沈黙の後に言う。

それで、了承は得てないことを理解するエドナとザビーダ。

レイは腰に手を当てて、

 

「それはともかく!色々あったとしても、君たちにだってある程度の記憶の共有が来ているはずだよ。大体、今回の件に関しては、こうする方がやりやすいの!彼ら(・・・)にも連れて来た方が動きやすいし、何かあった時の対処にかなり(・・・)慣れてるし、役に立つの!」

 

と、ドヤ顔になる。

四聖主の一人であり、未来では五大神と呼ばれているアメノチの声は依然と重い。

 

「だからと言って、今の我々(・・・・)がそれを許せると?それ以前に、お前のその姿や性格は何だ。それではまるで、人間(・・)ではないか。」

「それが、今の私だからね。今の君たちに分からなくとも、私は変えるつもりはないよ。なにより、これは譲れない。私は、私として今回はここに居るし、この先も居続ける。この時代の君たちや自分達に何を言われようとね。」

 

レイは目を細めて言う。

その瞳は裁判者と同じだ。

が、笑顔に戻ると、

 

「ま、ある程度は大人しくしているから安心していいよ。私たちは歴史を乱すつもりはない。ある程度ね。」

 

彼らは思う。

今、彼女は二回言った。

エドナとザビーダに関しては、一波乱……いや、それ以上は起こるだろうと。

これは一刻も早く、スレイとミクリオを保護……合流しなければマズいと。

 

四聖主アメノチは長い沈黙の後、

 

「……まあいい。だが、世界を乱す行為だけは避けて貰おう。」

「だから、ある程度は配慮するって。」

 

レイは船の端から降り、クルリと回る。

 

「それでもまだ、いちゃもんをつけるなら……こちらは殺り合ってもいいのだが?以前の闘いの決着でもつけてみるか。」

 

例の赤く光る瞳と影がゾッとここら一帯を重圧に押し込む。

エドナ、ザビーダはもちろんのこと、ベルベット達も冷や汗を流す。

四聖主アメノチは少しの間をあけ、

 

「見た目や中身が少し変わればと思えば、変わらぬところもあるようだな。なに、お前たち(・・・・)が役割をしっかり果たすのであれば、我らは動かぬ。それを行うのは、お前たちの役目だからな。」

「はいはい。」

 

そう言って、四聖主アメノチの気配は消えた。

レイは沈黙していた彼らを見て、

 

「どうしたの?」

「……お前は、またあれ(・・)をやろうと言うのか。ふざけるなよ。」

 

アイゼンが凄いにらみを利かせて睨めつける。

レイは頬を膨らませて、

 

「ふざけてないもん。だって、アイツらは冗談効かないもん。」

「もんって……」

 

ベルベットが、そのレイの姿を見て半眼になる。

レイは真剣な表情に戻ると、

 

「さて……」

 

空を見上げ、

 

「えっと……ああ、なるほど。そういう事になっているのか……厄介な。にしても、居場所はわからないか……」

 

レイはエドナとザビーダを見て、

 

「なんかね、すでにズレが起きてるみたい。で、お兄ちゃんたちの居場所はわかんない。」

「あら、そうなの。で、そのズレは何とかできるの?」

「うーん、できるって言えばできるけど……ちょーと、面倒なのは確かだよ。」

 

レイは赤く光る瞳で、エドナとザビーダを横目で見る。

ザビーダは腕を組んで、

 

「で、スレイ達の方も手掛かりなしっと言うことか。」

「うん。眼を使ったけど、居場所が掴めなかった。」

 

と、少しムッとしているレイ。

ザビーダは笑いながら、

 

「ま、ゼロが側に居るから大丈夫だと思うさ。」

「当然!側に居ながら、何かあったその時は(・・・・・・・・・)――」

 

レイの眼がスッと細くなり、

 

「「叩き潰せばいい(・・・・・・・)。」」

 

ゾッと駆け抜ける何かを、ザビーダは感じ取る。

ザビーダは笑顔の表情のまま固まっていた。

否、心の中ではゼロが無事にスレイ達を護る事を。

そして、スレイ達が何かしでかさない事を願う。

 

レイは笑顔に戻り、

 

「さて、と言うワケで、少しの間この船に居させてもらうから!よろしく、アイゼン(・・・・)♪」

「あぁ⁉何が、どういう訳だ‼」

 

アイゼンは深く眉を寄せて睨みつける。

レイは瞳を潤わせ、エドナに駆けて行く。

 

「わーん、エドナ!アイゼンがイジメる~。」

 

そして抱き付いた。

エドナはレイをギュッと抱きしめ、

 

「お兄ちゃん‼」

「うっ!」

 

エドナの凄い睨みに、アイゼンは一歩下がる。

ザビーダはアイゼンの肩に腕を回し、

 

「まぁ、こっちにもこっちの事情があるんだよ。勿論、お前らの目的にも関わりがある。つー訳で、世話になるぜぇ、アイゼン。」

「ふざけるな‼」

「おいおい、良いのかぁ~。エドナ(・・・)と、一緒に船旅ができるチャンスだぜ。嬢ちゃん曰く、嬢ちゃんの側に居れば、死神の呪いも薄まるらしいからな。」

 

ザビーダがニヤリと笑う。

アイゼンは葛藤を繰り返し、

 

「…………いいだろう。少しの間だけ、乗船を認めてやる。」

「んしゃあ!やったな、嬢ちゃん!」

「いえーい!やったね、ザビーダ!」

 

と、ザビーダと彼の元に駆けて行ったレイはハイタッチをする。

その姿に、ベルベット達は各々微妙な表情で見る。

 

「ホント、あれは何なのよ。」

「なんか、裁判者さんとは思えない……」

「じ、実は裁判者の妹……いえ、先程本心出てましたものね……」

「エレノア様の気持ちは分かるでフ!長年、裁判者と言う存在を知る僕ですら違和感半端ないでフから!」

「ま、何はともあれ、いいじゃねえか!何より、こっちのおチビの裁判者の方が親しみやすくていいじゃねぇか。」

「くだらん。どう変わろうと、裁判者であることには変わりはない。」

「全くじゃ!何なんじゃ、あの裁判者はーー‼」

 

と、やっているのだった。

 

そんなわけで、彼らの船旅に同行する事になった。

船の端に座って海を眺めていたレイ。

そのレイの背に、

 

「落ちるなよ、お嬢ちゃん。」

「うーん……じゃあ、落ちたら死神のせいにしておいて♪」

「落ちて魚のエサにでもなれ。」

 

アイゼンがすました顔で言う。

レイは船の端から降りると、エドナの元に駆けて行った。

 

「エドナ~、アイゼンがイジメる~!」

「お兄ちゃん‼」

 

と、エドナは肩で傘をトントンさせていた。

アイゼンはグッと一歩下がる。

ちなみに、レイはエドナの影に隠れてアイゼンに向かって、「べー」と舌を出していた。

ザビーダが笑いながら、肩に手を回し、

 

「がはは!諦めな、アイゼン。嬢ちゃんを裁判者だと思って接するからいけねーんだ。似た顔の別人だと思え。」

 

この時、ザビーダは思っていた。

嬢ちゃん(レイ)は完全にアイゼンで遊んでいると……

 

アイゼンは腕を組み、

 

「はっ。随分と裁判者と仲良しになったものだな。」

「ま、なるようになった……ってところだがな。」

 

アイゼンは視線をレイに向ける。

そこには普通の子供のように笑い、会話している裁判者。

最初でこそ戸惑っていたエレノア達も、今では平然と会話している。

そこにはエドナも供に居る。

あの幼かったエドナが、少し違う雰囲気を纏って自分の前に現れた。

聞けば未来から来たらしい。

だが、未来のオレがどうなったのかは聞いていない。

それは自分の望むところではない。

が、エドナのあの瞳を見た時には察した。

けれど、こうして元気でいる事が解ったことは素直に嬉しいと思う。

思うけれども……

 

「おい、裁判者!」

「レイ、だよ。」

「……どっちでもいい。」

「ダーメ。じゃないと、聞いてあげない。」

 

と、そっぽ向く。

アイゼンは拳を握りしめ、

 

「くそっ!レイ!」

「何?アイゼン♪」

 

レイは笑顔で振り返る。

ザビーダは本気で思う。

嬢ちゃん(レイ)は、完全にアイゼンで遊んでいる。

アイゼンは睨みをきかせながら、

 

「エドナに何かあったら、ただじゃ済ませないぞ。」

「安心して……とまでは言えないけど、できる限りの事はするよ。エドナは大切な仲間(・・・・・)だからね。」

「本当に、お前は裁判者とは思えないな。」

「うーん、別に解ってもらえなくてもいいけど……少なくとも私は、君たちと争う意志はないと言うことだけは分かって貰えたらいいな。」

「冗談だろ。」

「ん、冗談。」

「は?」

「ま、気長に行けばいいという事だよ。アイゼン。」

「意味が解らんな。」

「でーも!何かあったら、すぐにエドナに言い付けるから!」

 

と、レイはアイゼンに指を指す。

エドナは傘を開き、クルクル回しながら、

 

「任せない、おチビちゃん。ワタシが叩き潰してあげるわ。ザビーダを巻き込んで。」

「うん、よろしく♪」

 

レイは両手を上げて笑顔で喜ぶ。

アイゼンとザビーダは二人を見て、

 

「おい、エドナ⁉」「ちょ、おま⁉」

 

そんな感じで日常茶飯事のように、繰り返される。

レイは今日も船の端に座っていた。

と、船員の一人が、

 

「お、嬢ちゃん。いつもそこに居るが……つまらないんじゃないか?」

「うーん、別に。見たり聞いたりしてるし。」

「ん?」

「ま、人間には少しわからないかも。でも、意外と暇かも。」

「お!じゃあ、これをやらないか。」

 

と、釣りざおを渡す。

レイはそれを受け取り、垂らす。

 

「おいおい、お嬢ちゃん。エサもなしに釣れるワケ――」

「はい。」

 

レイは釣りざおを上げる。

そこには魚が二、三匹掛かっている。

 

「お⁉マジか!」

「ん。」

 

レイは魚を外してもう一度落とす。

船員はその魚を持って調理室に向かう。

そこにエドナとベルベット、エレノア、ロクロウもやって来て、

 

「おチビちゃん。何をやってるの。」

「魚釣り♪」

「へぇー、あんたでもそういうことするのね。」

「するする♪」

「すでに何匹か釣れているみたいですね。」

「うん!」

「まさか、エサなしに釣ってんのか?」

「勿論!」

 

と、竿を上げると魚がまた二、三匹ついていた。

 

「「「おぉ~‼」」」

 

ベルベット以外の三人は拍手を送る。

レイはそれを外して再び落とす。

エレノアがレイの横に行き、海を見下ろす。

 

「何かコツでもあるんですか?」

「うーん、これと言ってないよ。」

「そうなのか?」

 

ロクロウも横に来て、同じように海を見下ろす。

レイは笑顔で、

 

「うん。だって、釣れろ(・・・)って念じれば釣れるもん。」

「「え?」」

「でも、なかなか釣れないもんだねぇ~。」

「な、なにがです?」

「えー。だってほら、ここってアメノチの治める領土だよ。ペンギョン(・・・・・)が居るんだよ。だからさ、キンギョン(・・・・・)が釣れるように念じてるんだけど、釣れないんだよね。キンギョンが釣れれば、ちゃんと処理するんだけどね。」

 

と、目が本気で、細くなる。

エドナが傘を閉じ、

 

「……全く。おチビちゃん、釣りはほどほどにしなさい。変に弄って、後々面倒事が起きるのもごめんだわ。」

「そうね。キンギョンに関わると、ろくな事がないし。」

 

ベルベットもそれに同意した。

レイは空を見上げ、

 

「それもそっか。」

 

と、竿を上げて船員に竿を返しに行った。

エレノアは胸に手を当て、

 

「何でしょう……お魚が可哀想になってきました。」

「よかったな。ペンギョンも、キンギョンも釣れなくて。」

 

ロクロウは頭を掻きながら言う。

と、そこにマギルゥがやって来る。

 

「むむ?なんじゃ、何じゃ!この暗い雰囲気は!」

「アンタって、ほんとのんきよね。」

「何じゃ!儂の顔を見るなり、その言い草は!納得がいかんぞ!」

「はいはい。」

 

ベルベットはマギルゥを素っ気なくあしらう。

そこにレイが戻ってくる。

 

「あ!マギルゥだ。」

「げ!チビ裁判者!」

「だから、レイだって。レイ、わかる?レーイ。」

「そう何度も言わずともわかるわい!」

「もぉー、子供なんだから。」

「うるさいわい!儂にだって、譲れないもんがあるんじゃ!」

「あー、はいはい。」

 

と、レイも最後の方は軽くあしらった。

マギルゥは「ぶう」と頰を膨らませる。

レイはハッとして空を見上げる。

ジッと空を睨むと、

 

「全員、何かに掴まれ!」

 

全員は「は?」と言う顔になる。

そこに咆哮が聞こえてくる。

それも、ドラゴン(・・・・)の咆哮だった。

黒い大きなドラゴンが、船の横を横切る。

波と風で船は大きく揺れる。

全員とっさに何かに捕まる。

収まると、レイはザビーダを見て、

 

「ザビーダ!上!」

「おうよ!」

 

レイは駆け出す。

ザビーダは両手を合わせて、彼の掌に足を乗せてジャンプする。

レイは空中でまた白い大きなドラゴンへと姿を変える。

そして、黒い大きなドラゴンとぶつかり合う。

そのまま、二匹は近くの島へと落ちていく。

 

「お兄ちゃん!早く追って!」

「その前にエドナ!あれはなんだんだ⁉」

「ドラゴンよ。見てわからないの?」

「それはわかる。何故、裁判者と同じ力(・・・・・・・)を持っているんだ⁉」

「そんなの、あれが裁判者や審判者と同じような存在だからよ。」

「何だって⁉」

「それこそ、そこに居る災禍の顕主(・・・・・)と同じような、ね。」

 

と、エドナは傘を閉じて、ベルベットを見る。

ベルベットはジッとエドナを見て、

 

「何が言いたいのよ。」

「別に。ただ、実物(・・)を見るのは初めてだったけど……そうね、お兄ちゃんの言う通りであり、噂通り(・・・)だったな、って思っただけ。」

「は?」

 

ベルベットは眉を寄せて困惑する。

エドナは傘の先をアイゼンに向け、

 

「さて、それはいいから……早く船をあの島に向けて!おチビちゃんに何かあったらどうしてくれるのよ!」

「だな。色々と思うところは多いだろうが、こっちにもこっちの理由があるからな。」

「ちっ!しかたねぇ!」

 

アイゼンが指示を出して船をそこに向ける。

船を岸に寄せる。

と、奥の方で聖寮の対魔士の姿が見えた。

アイゼンはベンウィックを見て、

 

「ベンウィック!聖寮どもがここにいる。鉢合わせになると面倒だ。俺達が降りたら船を出せ。後で連絡を入れる。」

「アイアイサー!」

 

彼らが降りると、船は出る。

彼らは対魔士達の会話を聞く。

 

「見たか⁉」

「ああ!大きなドラゴンが二体!」

「白と黒のドラゴンだ!」

「白い方は負傷して動けないでいた。捕らえるなら今だ!」

「黒い方はどうした⁉」

「わからん!いきなり目の前から消えた!」

「そんなバカなことが⁉」

「本当だ!」

「そんな事は後回しだ!今は白いドラゴンを捕らえる事に集中しろ!」

 

対魔士達は世話しなく走って行く。

エドナは傘を開き、

 

「ホント、聞いた通りの状況ね。けど、おチビちゃんが負けてるってことかしら?」

「さてな。嬢ちゃんが本気を出せないとはいえ、負傷して動けなくなるまでとなると……」

「本気で厄介ね。早く、スレイ達と合流した方がいいわ。」

「だな。」

 

二人は真剣な表情で見つめ合う。

ベルベットが二人を見て、

 

「あんたたちが何をしようと、私には関係ない。けど、何が目的なのかは教えて欲しいものね。あの黒いドラゴンに、あんたたち言うスレイ達(・・・・)についても。」

「今はダメよ。少なくとも、おチビちゃんの口から教えると言わない限り、ワタシたちの口から言うことはないわ。ま、でも……」

 

エドナはジッとベルベットを見て、

 

「アンタに目的がある。そしてワタシ達にも目的がある。それは変わらない。そして、今の私たちの目的はおチビちゃんの回収よ。」

「……正確には、あんたちの目的でしょ。」

 

そう言って、二人は睨み合った後、同じ方向に歩き出す。

その後ろに、他の者たちも続く。

ザビーダとロクロウが木の陰に隠れて様子を見る。

そこには一体の白いドラゴンが横たわっていた。

噛まれたり、爪で抉られたり、尾で叩き合ったような傷がたくさんある。

 

「でかいな……」

「すぐに結界を!」

「アルトリウス様に報告だ!」

 

と、ドラゴン(レイ)を囲み始める。

ザビーダは目を細めて、

 

「さってと、どうするかね……」

「叩き斬るか!」

「いんや、それは避けたいところだな。お前たちはともかく、俺らは深く関われねぇ。下手なことをすれば、裁判者と一線やらねぇといけなくなる。」

「それは大変だな。」

 

だが、後ろの方で、

 

「何だ⁉貴様らは!」

「ちっ!」

 

ベルベットが腕を開く。

エレノアも横に立ち、

 

「すみません!」

 

対魔士達を気絶させていく。

アイゼンは新たにやって来た対魔士達をボコっていく。

エドナとライフィセットが詠唱を始めて、対処を始める。

無論、その前からの対魔士達と戦っていた。

と、使役聖隷の攻撃がエドナに直撃しそうになる。

アイゼンが飛び込み、

 

「エドナ‼」

 

アイゼンにそれが当たりそうになった瞬間、白い尾がそれを防いだ。

彼らがそこを見ると、ドラゴン(レイ)が目を覚ます。

身を起こすと、受けていた傷が修復されていく。

 

「な、何だと⁉」

「傷が!」

「ええい!全員、戦闘態勢‼」

 

と、陣形を組み始めるが、

 

「ぐわぁあああおぉ‼」

 

レイが対魔士達を赤い瞳で見下ろす。

唸りを上げて、腕を振り上げる。

地面を叩くと、地面が揺れる。

レイは再び咆哮を上げる。

対魔士達は震え出し、駆け出す。

 

「て、撤退!全員、撤退‼」

 

彼らが撤退すると、レイは首をエドナに向ける。

 

「エドナ、怪我なかった?」

「ええ、大丈夫よ。」

 

エドナは傘を開く。

そしてレイを見上げ、

 

「おチビちゃんの方はどうだったのよ。」

「逃げられちゃった。いいとこまではいったつもりだったんだけどね。」

「そう。それは残念だったわね。」

「ホントホント。」

 

と、レイはドラゴンの姿のまま頷く。

そしてレイは頭をエドナの方に降ろし、

 

「ま、あいつは本物の裁判者の力(・・・・・・・・)が欲しいみたい。ゼロはともかく、私の方はあれだからね。だから私をギリギリのところまだやれば、裁判者が出てくると思ったんだろうけど。」

「おチビちゃんのままだったから、撤退したって訳ね。」

「ん。追いかけようかと思ったけど、エドナ達が来るのが分かったから寝てた。そしたら、なんかどんちゃん騒ぎが始まって、起きたら凄いことになってた。」

「随分と余裕ね。」

「だって、普通の対魔士や精霊の張る結界とかは簡単に壊せるし♪私を本当の意味で捕まえられるのはクローディンの術式くらいだよ。」

「……まぁ、いいわ。船に戻りましょ。」

 

エドナはレイの頭を、もとい口元を撫でる。

レイは首を上げ、

 

「じゃ、背に乗って。今から船をこちらに戻すより、こちらから行ったほうが早い。それに、変に対魔士と会うのも避けられるし。」

「そうね。」

 

と、レイは身を低くして羽を傾ける。

エドナとザビーダは乗ら始める。

 

「お前らも、早く乗っときな。」

 

ライフィセットやエレノアは目を輝かせ、

 

「ド、ドラゴンの背に乗れるなんて思わなかった!」

「本当です!落ちないように気をつけましょう、ライフィセット!」

「うん!」

 

と、二人は乗り始める。

ロクロウとベルベットも互いに見て、

 

「行くか。」

「そうね。」

 

二人も乗り始める。

ビエンフーはマギルゥを見上げ、

 

「マギルゥ姐さん、乗らないでフか?」

「……お前は平気なのかえ?裁判者の背に乗るのに。」

「……ボ、僕はマギルゥ姐さんの中に居るでフ!」

 

ビエンフーはマギルゥの中へと入る。

マギルゥは少し唸った後、登り始めた。

レイはアイゼンの方を見て、

 

「アイゼンは乗らないの?怖い?」

「誰が貴様など怖がるか!」

「じゃあ、高い所苦手?」

「そんな訳あるか!」

「じゃあ、何なのさ。」

「…………俺は泳いでても行く!お前に借りは作らん!」

「別にどうでもいい。」

 

と、アイゼンの襟を咥える。

 

「おい!」

 

そのまま羽を広げ、

 

「落ちないでねぇー♪」

 

羽ばたき、飛んで行く。

水面ギリギリの所を飛んで行くレイ。

背に乗るライフィセットやエレノアは大いにはしゃぐ。

ベルベットやロクロウ、エドナやザビーダはくつろいでいた。

マギルゥに関しては腕を組んで頰を膨らませていた。

アイゼンに至っては、未だに咥えられたまま黙り込んでいた。

船が見えてくると、

 

「アイゼンを落とすと、やばいことになりそうだから最後ね。みんなは帆を使って降りて。」

 

レイは帆の辺りに近づく。

アイゼン以外の皆は、そこを滑って降りる。

 

「なんか前にもあったわね、コレ。」

「確かに!」

 

ベルベットとライフィセットは互いに見合って笑う。

そして最後にレイがアイゼンを影で掴んで捨てた(・・・)後、

 

「おぉー、こんな感じなんだ♪」

 

みんなと同じように滑った。

アイゼンも滑って来た後、

 

「てめぇ、裁判者!何しやがる!」

「仕方ないじゃん。影で掴んだら、アイゼンが嫌がるんだもん。」

「当たり前だ!そもそも、俺は泳いでても行くといったはずだ!」

「そんな事してたら、一生船には戻れないよ。それに、魚の餌になるのがオチだって。」

 

レイはそっぽ向きながら言う。

アイゼンは拳を胸あたりのところで握りしめてた。

それを聞いたベルベットとエドナは、

 

「以外にも、根に持ってたみたいね。」「おチビちゃんも、中々根に持つわね。」

 

と、レイは自分の後ろを見る。

そこにはゼロ……いや、この時代の審判者が居た。

レイは風に身を包み、同じくらいの背格好の黒い服へと変わる。

そう、お馴染みの裁判者の姿に。

 

「げっ、ホントに裁判者じゃ!」

 

マギルゥが明まさに嫌な顔をする。

裁判者は着けていた仮面を取り、

 

「さて、何か用か。審判者。」

「分かっているくせに。で、どういう事?」

 

審判者は睨むように裁判者を見る。

裁判者は右手を腰に当て、

 

「何って、見ての通りだ。」

「だから聞いているんじゃないか。何で、君が人間(・・)やってるのさ。」

「正確には、『人間に近い』だがな。」

「どちらにせよ……なんで未来の君たちはそうなってるのさ。特に君!何あれ、さっきの小さい君!」

 

審判者は裁判者を指差す。

そして後ろに居るマギルゥもまた「そうだ!」と言うばかりに唸っている。

裁判者は変わらずの無表情で、

 

「だから言っているだろう。天族……いや、ここでは聖隷だったな。彼らが清らかな器を得るように、我々は心ある者たちとの関わりを得るための手段として器を創った。お前の方はともかく、私の方は元々それ自体がなかった。だからこそ、レイ(アレ)が生まれたんだ。」

「だからって……」

 

審判者はムッとしている。

裁判者は空を見上げ、懐かしむように口にする。

 

「かつて、ある奴が言った。どんなモノにも生まれた意味はある。」

「は?」

「それはきっと君たち(我々)もそうだ、と……あいつは言った。そして我々……いや、私は今になって気付いた。確かにそうかもしれない(・・・・・・・・・・・)と。」

「何を言って――」

「私たちはずっと天の頂で過ごしていた。次第に色々な命が溢れ、我々は地に降りる彼らと共に降りた。それからずっと、我々は見続けていた。そして知ったのだ。関わりを持っても意味がないと。」

 

裁判者は視線を審判者に向け、

 

「我らもまた、生まれた意味があったと言うワケだ。ま、今のお前にはわからないだろうさ。今のこの世界で、お前らがミケル(アイツ)に……そして、スレイとミクリオ(アイツら)に会えるかどうかは解らんがな。だが、ミケル(アイツ)との出会いによって我らは成長した。そして何故、自分達が存在したのかもな。」

「…………」

「ま、そんなに疑うなら未来の自分でも見たら……いや、それはやめておいた方がいいな。」

 

裁判者はため息を一つつく。

審判者は最後に凄い顔でムッとした後、

 

「どうでもいい。けど、この時代の裁判者は認めないだろうね。」

「それはそれで構わないさ。今の私にとってここは、所詮過去でしかない。今の裁判者が、私を見て何を想うが、私とこの世界(時代)の私とは異なるからな。」

「…………ま、せいぜい僕らの世界を壊さないようにしてくれよ。」

 

そう言うと、審判者は風に身を包んで消えた。

裁判者は視線を横に向ける。

そこには物凄い顔で睨んでいるエドナが居る。

 

「なんだ、陪神。」

「なんだ、じゃないわよ。何でよりにもよって、アンタが現れるのよ!おチビちゃんでいいじゃない‼」

「それは難しいな。器では、喧嘩になるぞ。」

「は?」

「ここまで来て、審判者とまた一戦交えるのは得策ではないからな。」

 

と、彼女はエドナをスッと見下ろした。

エドナは傘についている人形を中身が出るのではないか、と言うくらい握りつぶしていた。

裁判者は斜め後ろに居るマギルゥを少しじっと見た後、

 

「それに、お前らの所で言う……『友を救うのに、理由がいるのか』、と言う感じか。」

「は?」

「殺りあって、この船を壊されても意味がないしな。何より、本命を潰す前にこちらが潰されては元もこもないだろう。」

「あんたねぇ!」

 

と、エドナはさらに強く人形を握り潰す。

ザビーダがエドナの横で腰をかがめ、

 

「まぁまぁ、エドナ。少し落ち着こうぜ。」

「ザビーダ!てめぇ、エドナに近付き過ぎだ!」

「おいおい、アイゼン!今は置いとこうぜ!」

「あぁ⁉ふざけんな!」

 

と、勢いよく絡むアイゼンとそれを柔軟に受け流すザビーダ。

その姿にエドナは半眼で、ウザそうな顔で見ていた。

裁判者は視線を戻すと、

 

「そうだ、陪神共。お前らの導師(・・・・・・)は、どうやらこいつらの目的の場所に居るようだぞ。」

 

と、親指をクイッとその方角に刺す。

エドナはキッと睨みつけ、

 

「アンタ、もしかして!」

「ああ、最初から居場所を知っていた(・・・・・・・・・・・・・)。審判者が側に居るんだ。何かあれば、後で叩き斬ればいいだけだ。」

「な⁉なら、おチビちゃんがドラゴンで闘ってた時も!」

「ああ、見ていただけだ。私でもよかったのだがな。何分、あの導師共と別れてから、器のストレスが溜まっていたみたいでな。いいストレス発散相手になると思ってな。」

「ホント、ムカつくわね。」

「せいぜい、頑張ってくれよ。私はそんなに表に出るつもりはないからな。」

 

そう言って、裁判者は彼らに背を向ける。

 

『………ふっ。どんなモノにも生まれた意味はある……確かにそうだったよ、クローディン。我らはやっと、本当の意味で『己』という存在を知った。我らが生まれた理由を。何故、我らが存在するのか、とな。ああ、今になって色々解るとは、なんとも歯がゆいものだな。』

 

裁判者は身を風に包み、レイが現れる。

レイは頬を膨らませて、

 

「もぉ!解っているなら、私にも教えろっての!」

 

と、甲板を蹴り叩くレイ。

ベルベットが腰に手を当てて、

 

「なんとも、さっきとは違う対応で。」

「けど、なんか口調が変わってません?」

 

エレノアが首を傾げる。

ザビーダがハッとして、

 

「嬢ちゃん!そんな言葉づかいしちゃいけません!」

「だってさ!なんか、ムカつくんだもん!私は全然見えなかったのに!大体さ、お兄ちゃん達の事が解ってるなら、先に言えっての!そうしたら、私だってあんなに暴れないっての!」

「スレイ達がどういう状況か解らなくて、いつも目を使って視て、捜していたのは知ってるさ。だ、だからってそんな言葉使いしちゃいけません!」

 

ザビーダはアイゼンをはり倒して、レイに手をあたふたさせて言う。

エドナが傘をクルクル回して、

 

「必死ね。」

「エドナ!お前はいいかもしれんが、俺様嫌だぜ。スレイやミボにガミガミ後から説教されるのは。それによ、災厄の場合はライラに火あぶりにされるわ!」

「そうね、ガンバりなさい。」

「エドナァ~‼」

 

と、ザビーダは肩を落とす。

レイはプンプンしながら、歩いて行く。

そして船の端に座って、足をぶらぶらさせれていた。

ライフィセットは首を傾げ、

 

「えっと……これからどうするの?」

「決まっているわ。私たちは、導師アルトリウス・コールブランドと聖主カノヌシを倒す。」

 

ベルベットは左手を握りしめる。

エレノア、ロクロウも互いに見て、

 

「ええ!私たちは、その為にこうしているんですから!」

「おうよ!いっちょ、暴れてやるぜ!もう一度、シグレと殺りあえるかもしれねぇんだ!あの時とは違う俺を見せてやるぜ‼」

 

その横奥では、

 

「まあよういわい!儂も、やらねばならぬ事があるのじゃからな!」

「マギルゥ姐さん、何を怒っているでフか?」

「うるさいわい!」

 

マギルゥはビエンフーと何やらやっていた。

エドナは傘を閉じ、

 

「そうと決まれば善は急げよ。私たちも急いでボウヤ達と合流するわよ。お兄ちゃん、急いで向かって。」

「任せろ、エドナ!」

 

アイゼンは船員たちの方へと走って行く。

ザビーダは疲れ切った顔をして、

 

「死神の呪いが出ないといいが……」

 

そして、横目で未だにプンプンしているレイを見て、

 

「嬢ちゃんの機嫌も早く治るといいが……」

 

彼らの乗る船は、ライフィセットの指示の元進む。

向かうは復活した特等対魔士シグレ、メルキオルや対魔士オスカー、テレサ。

そして導師アルトリウスと聖主カノヌシ。

なにより、そこに居るであろうスレイ達。

彼らに会うため。

彼らとの決着をつける為。

起きている事象を調べるために進む。

それぞれの想いを馳せて、そこに向かうのであった。


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