整理されたリビングは、どうしても他人の家に来たみたいで変にかしこまってしまう。俺は何となく部屋全体を見渡す。気づいたことは家族の写真が多いということだった。
「当麻さんに言われて、押し入れからたくさん思い出の物を出してたの。そしたら思ったよりたくさん出てきたの」
テーブルの上に数冊のアルバムや両親のために描いたものだろう似顔絵がきれいに並べられていた。
俺は一つ一つじっくりと見ていった。
誕生日にケーキを食べてご満悦な表情を浮かべる少年。
壊れたおもちゃの前で泣きじゃくる少年。
父さんの背中ですやすやと気持ちよさそうに眠る少年。
母さんの後ろで恥ずかしそうにしている少年。
どこを見ても見知らぬ自分に似た少年がいた。
何を見ても他人のアルバムを見ている気分だった。
俺は他のことに夢中になって逃げていた現実に吞み込まれた。
どこを見ても俺がいない。どこを探しても見覚えのある景色がない。
それは想像以上に俺の心を削っていった。
そして途中で俺はページをめくる手が止まってしまった。
「当麻君」
隣にいる美琴の心配した声が聞こえる。
「大丈夫」
俺は小声でつぶやいた。美琴の声で俺は止まっていたページを再びめくった。大丈夫俺の隣には今を知ってくれている美琴がいる。
一通り見終わり時計を見るとまだ昼過ぎだった。時間的には小一時間ほどしか経っていなかったが気分的には長かった。無意識にページを早くめくっていたのだろう。
美琴がそっと手を握ってくれた。それが俺の凍った心を溶かしてくれた。
「もうお昼ですね。当麻さんお雑煮好きだったでしょ。美琴ちゃんも一緒に食べていってね」
「椎菜さん私もおせち持ってきたのよー、息子さん食べ盛りでしょー」
「あらあら、ありがとうございます。当麻さん、よかったわねー」
「あ、美琴ちゃん。イチャイチャするのもいいけど、当麻君のおふくろの味を教えてもらいなさい。男はね胃袋つかめば一発なんだから!」
あれよあれよという間に上条宅でランチタイムになってしまった。
俺と美琴は互いに顔を見せ合い、何とも言えない表情になった。俺たちの心境と母親たちのマイペースさのギャップがおかしかったのだ。
「ありがとう」
俺は無意識にそう言ってしまった。そして気づいてしまったのだ。記憶には思い出はない。
でも、心には受けた愛情が残っている。
俺は下を向いて涙が出るのを抑えた。
この温かい感情が俺の過去だ。
「あらあら」
母さんは俺の心を読んでいたのだろう。何も言わないのは信頼の証かもしれない。いつかすべてを話そう。
みんなは俺を残してキッチンに行った。
俺は本当に幸せ者だ。恋人と母親の愛情を噛み締めながら静かに涙を流した。
数十分後四人で囲んだ昼飯はなんだか懐かしい気がした。
でもなんでかな。
今の俺にとって初めてだからかな。
なんだか心がまだ足りないと叫んでいる気がした。