堕ちた青の行く先は   作:星月

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第三話 光の行く先

「いーい? 絶対にいつもみたいな口調で話したり、生意気な事を言ったらダメなんだからね!」

「うっせーな。そんなに何度も言わなくてもわかってるっての!」

「だって青峰君今までの面接で散々酷い有様だったじゃない!」

 

 事実を指摘されると青峰は反論する気がなえてしまい、黙り込んだ。

 あの日、青峰が進路について諦めかけた後、桃井がお得意の情報収集と帝光バスケ部のつながりを使ってギリギリのところである高校の自己推薦枠を掴み取った。

 向こうの監督もキセキの世代という大きすぎる戦力を放っておくのはあまりにも勿体無いと判断したのだろう。二つ返事で応じてくれたらしい。

 ともあれどうにか高校進学の道が繋がったのだ。この手を無駄にするわけにはいかない。

 面接当日、服装を整えた青峰は桃井の声援(?)を背に、試験会場へと向かった。

 この日のために遊びも辞めて面接の練習に励んだ。バスケの実力はもはや誰も文句が言えないほどなのだ。つまりあとは面接さえ通ってしまえばよい。

 頼れるマネージャー、桃井の指導もあって準備は万全。

 

『中学の三年間はとても有意義なものでした。仲間と共に汗を流し、掴んだ栄光は今でも目に浮かびます』

『ハイ! 僕も先輩方に負けないよう、精一杯努力したいと思います!』

『チームのため、身を粉にしてバスケに励みます!』

『高校三年間、誠実にバスケと勉学に勤しむつもりです!』

 

 今一度、予想されるであろう質問に対する答えを再考する。

 よしバッチリだ。ところで身を粉にするってどういう意味だ。

 

「えー、では次。試験番号2番」

「お……はい!」

 

 危ない危ない。さっそくいつもの口調になりかけ、すかさず丁寧な言葉に直す。

 連れ添われて面接の部屋へと向かい、部屋の前に着くと誘導の人は下がっていった。

 この先に面接担当となるこの高校の監督がいる。

 下手な真似はできない。

 青峰は中学二年の全中にも似た緊張感を覚え、身体を沈めるように深呼吸。

 二度目に目を開けたとき、集中力に溢れた目に変わっていた。

 覚悟を決めて扉を三度ノックする。

 

「どーぞ」

「……失礼します」

 

 入出の許可を得て、青峰はゆっくり静かに扉を開けた。

 さあここから数分あるいはそれ以上の間失敗は許されない。

 絶対にこの試験で決めてみせろと自分を奮い立たせて青峰は監督の姿を見据えた。

「フハッ! なんだ、久しぶりだなぁ、あおみn」

 

 ポケ○ンのオタ○ロみたいな眉毛をした顔が見えた瞬間、青峰は扉を閉めて元来た道を振り返った。

 鍛えておいてよかった反射神経。おかげでクソな考えをするクソみたいなクソ野郎の顔をすぐにシャットアウトできた。

『おい! テメ、何勝手に帰ってんだ!』

『生意気なことしてんじゃねえぞ? 今の俺がどんな立場かわかってんのか?』

 何か後ろから耳障りな怒鳴り声が聞こえてきたが知ったことではない。

 青峰はそのまま一度も振り返る事無く帰路についた。

 

 

――――

 

 

 そしてその後、家に帰ってきた青峰を待っていたのは、幼馴染の怒声だった。

 

「何をやっているの! 青峰君!」

「だから耳元で喚くんじゃねーっての」

「花宮さんから連絡きたのよ! 面接もせずに帰ってくるなんてどういうこと!?」

「それはこっちの台詞だ。なんであんな野郎に試験の相手をしてもらわなきゃなんねーんだ」

「今年からあの人、霧崎第一の監督を勤めているの。面識もあるし、実力者を募っているって青峰君のことも評価していたのに」

「誰があんな野郎に従うってんだ。馬鹿にすんじゃねーよ」

 

 あんな野郎の下につくくらいなら舌噛んで死ぬ。

 かつて中学時代に一度だけ戦った時のことを思い出し、青峰は嫌悪感を隠す事もせず悪態をついた。

 花宮真。かつては帝光中と戦い、キセキの世代と互角以上に戦いぬいたことから『無冠の五将』とも謳われる実力者だが、あの緑間をもってして『反吐が出る選手』といわせるほど性格が悪い。青峰にとっては尚更語るまでもない。

 今年から霧崎第一の監督に着任したというが、どうせ碌な手を使っていないのだろう。

 そう判断して青峰は即座に先ほどの花宮の歪んだ笑みを記憶から消し去った。

 

「でも、どうするの? 霧崎第一だって自己推薦は監督に無理やりお願いして何とか通ったというのに。このままじゃあ、本当に……」

 

 桃井が悲しげに視線を下げる。

 釣られるように青峰も表情が暗くなった。

 この状況は非常にまずい。何がまずいかと言えば、このままでは高校進学さえ出来ぬまま春を迎えてしまうということだ。

 すでにあの黄瀬でさえも進路を決めたという。信じられない。

 このままでは「ちょっ。青峰っちまだ進路決めてなかったんスか。受験にも勝てないなんて。青峰っち、いつも口にしていたセリフ言ってみてくださいよ。俺に勝てるのは何でしたっけ?」とか笑われかねない。とりあえず黄瀬は後でシバこう。絶対に。

 

「さつき。何か、俺でも受かりそうな高校ないのかよ?」

「…………私の情報収集能力でもね、難しいことってあるんだよ」

 

 つまり、ないということなのだろう。

 それくらいは周囲から馬鹿だと認識されている青峰でも理解できた。

 だが勉学を今から身につけようにも無理があるということはすでにわかりきっている事。

 ならばどうすればよいのかと青峰は髪をかき上げて思考を集中させた。

 

「どこの強豪校も有る程度は学力も必要としてくるからねー。実績のある高校とかは余計に性格とかも重視しているだろうし」

「あー。やっぱりそうかよ。……ん? ちょっと待てさつき」

 

 納得しかけて、桃井が聞き逃してはいけない事を呟いていたことに気づき、青峰は問い返す。

 

「なに?」

「お前、ひょっとして俺の志望校、強豪校からしか探してねえのか?」

「そうだけど?」

 

 『それがどうしたの』と桃井は首をかしげてみせる。

 きっとそこらの男ならば惹かれる仕草なのだろう。だが見慣れた青峰にとっては怒りを助長させるものにしか考えられず、突然立ち上がって桃井を怒鳴りつけた。

 

「何でだよ!? もうこんなことになったらそんな事気にしてられねえってことくらいわかるだろうが!」

「ええっ!? だって青峰君、今まで強豪校にしか行かないみたいな感じだったし、それに弱いところに行ったら絶対『つまんねえ。所詮この程度かよ』とか言うと思ったし」

「それはそれ、これはこれだ」

「何なのこの身勝手さは……」

 

 納得いかない様子の桃井を無理やり黙らせる。

 事実、もはや入学してからのことは未来の自分に任せるしかない。きっと上手くやってくれるだろう。

 入学してしまえばこっちのもの。とにかく今は入学することが最優先だと、青峰は桃井を説得して再び進学校の模索を依頼する。

 渋々と桃井は資料を探しなおし、十分ほどしてある高校の名前を目にしたところで彼女の指は止まった。

 

「……ここ、なら行けるかな。東京都内だから交通の便もよさそうだし」

「お、都内とか滅茶苦茶いいじゃねえか。ちなみにバスケの方は?」

「やっぱりバスケ部の実績の方も気にするんじゃない」

「いいからいいから」

「え、っと、去年設立されたばかりなんだけど、新入生だけで編成されたチームで都予選決勝リーグにまで出場。つまりIH出場目前まで勝ち進んでいるみたい」

「……へえ。結構やるみたいじゃねえか」

 

 全国出場まではいけなくとも、その目前にまでたどり着いたとなれば相当なものだ。

 しかもわずか一年で、新入生だけの若いチームともなれば尚更だ。おそらくはその原動力となった有力な選手が一人や二人いるのだろう。

 青峰の口角が自然と上がる。

 学力で進学できそうで、しかもバスケ部もそれなりの実力を有する。

 これ以上恵まれた選択もそうないだろう。

 断る理由も特になく、青峰はここに来てようやく自分の進学先を決めようとしていた。

 

「いいぜ。何の文句もねえ。進学できるってんならそこにするわ」

「……一応、勉強はしてもらうからね!」

「あー、あいよ。で、さつき。その高校はなんて所なんだ?」

「え? えっと」

 

 釘を刺された青峰はその矛先を変えるように疑問を投げかける。

 桃井はもう一度その高校の名を見たとき、何故か既視感を抱きつつも青峰の問いに答えた。

 

「――誠凛高校、だって」

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