もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
西に橙色に輝く夕日が沈んでいく時間帯。男子寮に帰る為に歩を進めていると、ふと野良猫に餌をやっている一人の女子中学生が目についた。俺はその人のいる方へ方向を変え、歩きながら声をかける。
「おぉーす、茶々丸さん」
「加賀美さん、こんにちは」
猫達に餌をやっている茶々丸さんに声をかけると、茶々丸さんは顔だけこちらに向け、返してくれた。その頭にはちょこんと一匹茶色の猫が居座っている。
「何故、ここに?」
「教会掃除の帰り。ほら、教会すぐそこだから」
俺はそう言って、後ろにある鐘のついた尖った屋根を指した。そして、茶々丸さんを中心に群れている猫の一匹へと近づきよしよしと頭を撫でる。
意外に人懐っこいな。
そして、ふと近くにある“二つの気配”を感じ、そちらに視線を向けた。
「……んで、そこに隠れてる二人は何してんの?」
「な、ばばば、バレた!?」
「そんな! ちゃんと隠れてたのに!?」
俺が傍にある建物の陰に向かって言うと、その陰から慌てたような声が聴こえた。
二人は小声で何やらアワアワとしているが、俺は更に続ける。
「バレてるよ。少年とアスナだろ?」
あと、オコジョが一匹。
俺がそう言うと二人は観念したのか、ゆっくりと建物の陰から出てきた。
二人の姿を確認して、後ろにいる茶々丸さんは立ち上がる。そして、茶々丸さんが立ちあがったことで周りにいる猫達が散開して、その場から姿を消した。
「……こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん」
茶々丸さんは頭の後ろに刺さったネジ巻きをとる。
「油断しました……でもお相手します…」
「茶々丸さん、加賀美さん。あの……僕を狙うのやめてくれませんか?」
「申し訳ありません、ネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」
茶々丸さんはペコリと頭を少し下げた。
「ねぇ、総一もエヴァンジェリンさんのパートナーなの?」
「いいや、違ぇよ」
明日菜が訊いてきたので俺は素直に否定する。
「じゃあ、なんでアンタがネギを狙うのよ」
「別に俺は少年をどうこうしようなんて考えてねぇよ」
「「えっ!?」」
ネギ君と明日菜は同時に頭の上に『?』を浮かべた。
「じ、じゃあ、どうして!?」
「……んー、なんと言ったものか?」
俺は頬をポリポリ掻きながら、視線を横に向ける。
「あの場にいたのはエヴァさんが桜通りで何か善からぬ事をしてるって聞いたから。別にエヴァさんを手伝ったりとか少年に手を出すつもりはなかったよ」
「じゃあ! アンタがエヴァンジェリンさんに何とか言ってやんなさいよ!! アンタも魔法使いなんでしょ!?」
「いやいや、俺、魔法使い違うから」
魔法使いの従者ではあるけど……。
俺の魔法使いではないという発言に、ネギ君は疑問の表情を浮かべるが、隣の明日菜はさらに続ける。
「けど広域指導委員でしょうが! 不良生徒の指導しなさいよ!」
「まぁ、それはそうなんだけれども………」
俺は頭の後ろに手をやり申し訳なさ気に言う。
「エヴァさんには色々と世話になってるからさ、あんまり口出しできないんだよね」
それを聞いて、ネギ君と明日菜はどういう意味かと揃って疑問の表情を浮かべた。
しかし、俺は詳しくは答えず、更に続ける。
「だから、エヴァさんのやる事について俺は特に咎めたりはしない。そして、今ここで少年とアスナが茶々丸さんを叩くのも別に止めたりはしないさ。好きにすればいいよ」
俺は、「んじゃ、そういうことで」と言って、その場を去った。
「あ! ちょっと待ちなさいよ!!」
「ちょ、ストップっす姐さん!! 理由はよくわかんねぇっすけど、相手の一人が何もしねぇで帰ろうとしてんだ! ここは素直に帰らした方がこっちとしては好都合っすよ!!」
「け、けど!」
「あの兄ちゃんが誰かは知らねぇけど、隠れてる姐さん達を見つける気配察知といい、相当な腕なのは間違いねぇ! ここは素直に帰らせるのが吉っす」
後ろでカモと明日菜が小声でそんな会話をしているのが聴こえる。俺は建物の角を曲がり、二人と一匹の前から姿を消した。
しかし、そのまま帰る訳もなく、俺は建物の屋根に飛びのり、様子を窺った。
☆☆☆
数分と経つことなく、事は俺の知る原作通り進み、ネギ君は光の射手魔法を茶々丸さんに当てることなく、自分に受けることで気絶した。
「……ネギ先生……ネギ・スプリングフィールド……」
今、茶々丸さんは二人から離れ、屋根の上で明日菜によって搬送されているネギ君を見ている。
「やさしいねぇ、ネギ君は」
「“やさしい”? 敵を倒さずに情けをかけるのがやさしさですか?」
後ろに立っている俺に向かって、茶々丸さんは訊ねた。
「その言い方は少し違うけど、ネギ君はお前のことを敵とは見ていないんだよ、少なくとも“完全には”な」
「敵と見ていない? ……何故ですか?」
「それは……自分で考えなさいな」
茶々丸さんはもっと人を知った方が良いな……まぁ、いずれ知るんだろうが……。
俺は茶々丸さんに背を向けて、その場を去った。
さて、これからネギ君は初めての挫折を経験して、翌日位にプチ家出するんだろうが……俺も少しやっておく事がある。
☆☆☆
夕暮れの帰り道、俺は周りの人気が少ない事を確認した後、ポケットから携帯電話を取り出して、ある相手に電話を掛けた。
数回コールがなり、やがて目的の人物の声が聴こえた。
《――もしもし》
「よぅ、今、大丈夫か?」
《大丈夫ですが、名前くらい名のったらどうです?》
「画面に名前が出てんだろ?」
《それでもです。マナーとして当然です》
「あぁ、そうかい。じゃあ、次は気を付ける」
《この会話、あなたから電話が来る度にやってる気がしますが……》
気のせいだろ?
《それで、何か御用ですか?》
「あぁ、ネギ君のことでちょっとな」
《なっ!! ネギ先生の!!》
電話から聞こえた相手の大声に、俺は思わず携帯を耳から遠ざけた。
再度、携帯電話を耳につけると、向こうからは《どうしたのー?》《な、何でもありませんわ!!》という相手のルームメイトとの声が微かに聴こえる。そして後に、ドタンバタンと凄い物音が聴こえた。おそらく会話が聴かれないような場所に移動しているのだろう。
《どういう事ですか!? 説明してください!!》
「はいはい、ちゃんと話すから落ち着け」
“ネギ君”という言葉を聞いてのこの焦りようから分かる通り、俺が現在話している相手は、2年A組……じゃねぇや、3年A組の“いいんちょ”こと雪広あやかである。
「最近のネギ君、元気ないだろ?」
《えぇ、授業中も上の空でしてなにか落ち込んでいるというか怯えているとうか、私としても、もう心配で心配で。なんでもアスナさんによるとパートナーが見つからなくて困っているとの事だったので私が立候補したのですけれど、クラスの皆さんのせいでうやむやになってしまい、それで――》
相槌も打てないほど次々と話す雪広に、俺は「お、おぅ」と若干引き気味に冷や汗を搔きながら、言葉を挟むタイミングを窺う。
……なんでコイツはショタ関連になると、こんなキャラになるんだ?
《――そういえば、何故あなたがネギ先生のことを?》
なかなか話を遮るタイミングを摑めずにいると、雪広の方から話を振ってくれた。
「だから、その事について話すことがあるって言ってんだろ」
俺がそういうと雪広は話を聞くために口を閉ざしてくれた。男子寮近くの広場に来た俺は、隅にあったベンチに腰を掛ける。
「そんで、ネギ君が元気がない理由だけどな、エヴァさんが関係してる」
《エヴァンジェリンさんが!?》
俺がエヴァさんの名を出すと雪広はまた声を上げた。
雪広が中学生になり、エヴァさんとクラスメイトになって、二人の間に交流があったのか俺は知らないが、“悪魔の実”関連のことで、二人はクラスメイトになる前からの付き合いである為、雪広はエヴァさんが能力者であり、魔法使いの間では有名な人物である事は、すでに知っている。
《エヴァンジェリンさんがネギ先生になにかしたっていうのですか?》
「まぁな。そんでそのゴタゴタがまだ終わってないんだよ」
雪広が声を荒げて訊いてきたが、声色に憤りが混じっているのが分かる。
《一体何を!?》
「んで、それについてなんだけど――」
詳しく訊ねてきた雪広の言葉を遮るように無視して、今回の本題を話す。
「結論を先に言って、今回、エヴァさんがネギ君に何をしようと、お前は手を出さないで欲しい」
《な、何ですって!?》
“覇気”を使えるコイツの事だ、大規模停電当日に気配を感じて二人の所に行かないとも限らない。そしてそうならないように、俺は今、忠告をしているのだが、当然、何も知らない雪広は、俺の言葉に怒りを混じらせながら驚愕した。
《ど、どういう意味か、説明しなさい!!》
「うッ、わかったから叫ぶな!!」
雪広が声を荒げるため、俺はまた携帯から耳を話した。
……地味に耳が痛い。
「あと数日で、メンテナンスの為に大規模な停電があるのは知ってるよな?」
《えぇ、存じてます》
「実はその時に、同時に麻帆良学園を覆っている結界も消えるんだよね」
《結界が? 何故ですか?》
「麻帆良の結界が電気を使って行使されてるからさ。だから停電の日、麻帆良中の電気と一緒に結界も消える」
《そうですか……けど、それがどうしたというのですか?それとこれとは関係ない―――》
「まぁ、聞けって」
雪広の言葉を遮り、俺は話を続ける。
「結界が消えるとエヴァさんに掛けられた呪いも一時的に解けるんだよ」
《呪いが解けるって事は、つまり……》
「そう、本来満月の夜に少ししか戻らないエヴァさんの魔力と能力が元に戻るってことだ」
俺の言葉を聞いて、雪広は暫し沈黙した。
おそらく、今俺が言っていたことを踏まえ色々考えているのだろう。耳を澄ませると、電話の向こうから、微かにブツブツと呟いているのが聴こえる。
《………えぇ、言いたい事はなんとなく分かりました》
おっ、分かったのか?
《つまり、停電の当日にエヴァンジェリンさんに掛けられた呪いが解けるために、その日にネギ先生を襲う計画を立てていると?》
「そうだ……よく分かったな」
《えぇ、考えてみれば、ネギ先生の様子が変わられたのは満月の日の翌日からでしたわ。もしあの日の前夜にエヴァさんに一度襲われたと考えれば、すべて納得がいきます》
この頭の回転の速さには、目を見張るものがあるな。
流石、学年成績トップクラス。
《しかし、それでも分かりません。何故エヴァンジェリンさんはネギ先生を狙って、あなたはそれについて私に手を出すなというのですか?》
雪広の問いを聞きながら、ふと周りを見ると、道の端に立っている街灯の明かりがついたのが見えた。
「エヴァさんがネギ君を狙うのは、ネギ君の父親がエヴァさんに呪いをかけたから。そしてその呪いを解くためには血縁者のネギ君の血が必要だからだ」
《ネギ先生のお父様が……》
「そして、お前に手を出すなって言う理由は、二つ……」
俺は顔を上げて、橙色から藍色へ変わろうとしている空を見る。
「一つはお前が能力者であることを、まだネギ君に知られて欲しくない。もしお前がエヴァさんを止めるとするなら、多分、能力を使って無理矢理止めようとするだろうからな」
まぁ、雪広がいきなり仕掛けて、即能力者バトルになる事はないだろうが……。
《………》
雪広は口を閉ざし、電話の向こうからは特に何も聴こえてこない。更に俺は続ける。
「二つ目はこの問題はネギ君自身がどうにかして解決しないと、エヴァさんは納得しないからだ。仮にお前が出て行ってエヴァさんに勝てたとしても、それじゃあ、この問題の根本的解決にはならない」
実際、雪広がエヴァさんと
「だから、あくまでお前にはこの件に関して、普段通り一般人の立ち位置でいて欲しい」
《……しかし、ネギ先生が襲われるのが分かっていて黙って見ているのは》
「もちろん、俺としても黙って放っておくつもりはない」
当日は大橋の上で起きるネギ君対エヴァさんのバトルを遠目ではあるが見ておくつもりでいるからな。
「エヴァさんが女子供は
《なら私も!》
「却下。お前の場合、ピンチになったネギ君を見て、すぐに手を出しかねないからな」
《そ、それは、その……》
自信がないのか雪広は口籠った。
《そ、それにもし停電当日より前にエヴァンジェリンさんがネギ先生を襲ったら――》
「それはない。今回の件で桜通りの件が学園長に目をつけられたからな、エヴァさんも当日までは大人しくしておくはずだ」
確か、今日の昼頃に学園長が釘を刺すことになっているはずだ。だからエヴァさんも次の満月まで派手に動くことはないだろう。
「とにかく、今回の件、お前は無関係でいてくれ、頼む」
《………》
「……いいな?」
《……えぇ、分かりました》
納得していないような暗い声色で雪広はゆっくりと返事をした。それを聞いて、俺は「分かってないな」と思いながら、口を閉ざす。
「………」
《………》
数秒の間、俺と雪広の間に沈黙が流れた。周りの草むらからは、微かに虫の羽音が聴こえる。
やがて、俺は観念して「はぁぁぁ」と溜息を吐いた。
「仕方ない、どうしてもなにかしたいなら、当日、寮から二人の様子を“見聞色”で探ってろ」
《え?》
「どうせ黙ってろって言っても、お前は大人しくいるつもりはないんだろ?」
俺は立ち上がって、目の前に見えている男子寮に向かって歩き出した。
「だから、見聞色で探って、もしネギ君が命に関わるようなピンチになったら、手を出してもいい。その代り、それ以外の理由でお前は手を出すな」
《はい、分かりましたわ》
心なしかさっきよりかは明るい声色で雪広は返事をした。
俺は「じゃあな」といって電話を切る。
「……これで良いのかなぁ」
携帯電話をポケットに入れ、寮へ向けて歩を進める。
あと一人に同じ種の話をしないといけないが……
「……まぁ、あの人なら楽な方だろう」
一人でそう呟き、俺は寮に入って自分の部屋へと帰り着いた。
TO BE CONTINUED ...
………煮詰まった |||orz
今回は文章が更におかしな事になっているかもしれません。
ホント見苦しい文章で、すみません。
では……『待て、次回』
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音