もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
月日が経ち、停電当日の昼休み。
俺は男子中等部にある学園長室に来ていた。横には青藤先輩が退屈そうな表情で立っており、前にはデスクを挟んで学園長が座っている。
「今日、君達を呼び出したのは今夜起きる停電時についてでのう」
学園長は話を切り出した。その表情はあまり明るい物ではなく、いつも陽気な学園長にしては珍しく真剣そのものであった。
「今夜の停電によって学園の結界が一時的に消えるのは、二人とも知っておるの」
「あぁ、年にニ回もやってんだ。言われなくっても分かってますよ。いつも通りやれってんでしょ」
青藤先輩は手を後ろに回し、怠そうに言った。
先輩の言う通り、俺と先輩は年に二回あるこの停電の日に学園長に召集され、停電時に学園内を警備するように言われる。結界が消えているとき、魔法使いの先生や生徒が学園の外を警備している間は、俺と青藤先輩とエヴァさんの能力者が学園内を警備する事になっているのだ。
「うむ、しかし今日の停電は少し状況が変わっておってのう。今日の停電でエヴァのヤツが何か善からなぬ事をするかもしれん」
「………」
一瞬、学園長の視線がこちらを向いた。しかし俺は何も言わずに立っていた。横で青藤先輩が「エヴァの奴が?」と顔を歪めた。
「だから、今日の学園内の警備は君達二人で行ってほしい」
「オイオイ、何かするってわかってるのに、何もしていないってのは、何か考えがあっての事ですか?」
学園長は「うぅむ……」とデスクに肘をつき手を組んだ。
「実際にエヴァは何か企んでおるのじゃろうが、如何せん、具体的に何をするのかは分かっておらんのじゃ」
学園長は再度、俺に視線を向けた。今度はじっと俺を見据える。
「加賀美君は何か知らんかね?」
「……さぁ、知らないです」
学園長は「そうか」と呟き、視線を下げた。しかし、その眼差しは俺の事を疑っているようであった。
「因みに、加賀美君はどう思うかの?」
「エヴァさんについてですか? ……特に放っていても大丈夫だと思いますよ」
学園長は「ふむ」と頷いて、ゆっくりと椅子から立ちあがった。
「では、今夜の学内警備は君達二人でやってもらう。担当は加賀美君が北側、青藤君を南側を中心に頼む」
俺と青藤先輩は『了解』と返事をして、その場を後にした。
北側……あの "大橋" の近くだな。
☆☆☆
「んで、なに企んでんの?」
「何がですか?」
「惚けちゃって、まぁ……今夜エヴァの奴が何をするか、お前、知ってんだろ?」
部屋を出て廊下を歩きはじめると、青藤先輩が見透かしたような口調で訊いてきた。俺は「はい」と肯定して、「話があります」と青藤先輩と一緒に屋上へと向かった。
都合が良い事に屋上には誰もいなかった。屋上に着くと俺は手すりに寄りかかり、先輩は腰を下ろして、ぐたぁっと寝転がった。
「今夜のことですけど、学園長が言った通り、エヴァさんが何かやろうとしてるんですよ」
先輩は「へぇ」と相槌をうち、大きなあくびをした。一見、話を聞く気がないような態度であるが、この人の場合、これがデフォなので俺は特に気にせずに話を続けた。
「んで、何をしようってんだ?」
「簡単に言えば、呪いの解呪です」
「呪い? ……あぁ、“登校地獄”だっけか?」
「そうです」
「なんだ、そんなことか」
そんな事って……。
青藤先輩は腕を枕にして、本格的に寝る体勢になった。
「……って! もう終わりですか!? もっとなんか詳しく訊いたりしないんですか?」
「あぁ? 別にそんなことに興味はねぇよ」
耳の中に小指を突っ込みながら、先輩はいつもの怠そうな口調で言った。
……なんだろう、この人にはそんなに強く言わなくても、今回の事に手を出さないと思っていたが、ここまで話に興味を持たないとは思わなかった。
エヴァさんが呪いの解呪を企んでるなんて、もし魔法使いの先生や生徒に知られたら、血相を変えて何かしらのアクションを起こすだろうに……。
この人はどこまでも自然体である。
しかし、これはこれで俺にとって面倒が無くて良い。
「じゃあ先輩、今夜のエヴァさんの計画は黙っていてくれますか?」
「あぁー、はいはい、分かった分かった」
手を挙げて軽く横に振った青藤先輩を、俺は目を細くして見た。
本当に分かっているのだろうか?
☆☆☆
《こちら放送部です。ただいまより学内全域は停電となります。生徒の皆さんは外出をしないよう―――》
学園内全域にアナウンスの放送が響き、学内の路上の街灯を含めた電気が消えた。
辺りに
しかし、寮以外にも人の気配が点々と存在していた。俺はその中から目的の人物の物であろう気配を探す。恐らく、点々とした気配の中から魔力の高い者を見つければ、そのどちらかがネギ君かエヴァさんで間違いないだろう。
《――総一、聴こえますか?》
気配を探っていると、突然頭に女性の声が響いた。
《はいはい、何ですか?》
俺は懐から契約カードを取り出して、念話を飛ばしてきたシャークティさんに返事をした。
《停電と同時にこちらで学園内にある微弱な魔力を確認したのですが、何か問題ありませんか?》
“こちら”?
ココネ辺りが察知したのかね? 多分、シャークティさん本人が確認したわけではないのだろう。
《学内は特に問題ありませんよ》
《……そうですか、では何かあれば連絡してください。いいですね?》
《了解》
頭に当てていたカードを懐に戻して、俺は再度、目的の人物の気配を探した。
――バキィィーーン
……必要なかった。
ガラスの割れる音が聴こえ、俺はそちらに顔を向ける。
もう、すでに戦闘が始まったようだ。
俺は騒がしい音が聴こえる女子校舎に向けて足を進めた。
☆☆☆
大橋の上では、今、魔法使いの少年と吸血鬼の二人によって、けたたましい爆音が響いていた。少年は“雷”や“風”、吸血鬼は“氷”や“闇”の魔法を駆使して戦っている。片方の魔法は一度、自分の身を持ってその威力を体感したことがあるだけに、二人の呪文がぶつかり合う、その衝撃はかなりの物だというのが分かる。
しかし、そのぶつかり合いは長くは続かないだろう。
「持ってる魔力量はネギ君の方が上だな」
俺は大橋の近くにある建物の屋上で魔法バトルを見ていた。
時計を見ると、電力復旧まで後、十分とちょっと。
しかし、おそらくもうそろそろ電気が付くだろう。確か、記憶では何分か早くメンテナンスが終わるはずだ。
ふと、俺は視線を二人から外して後ろを向いた。
「……殺気?」
何者かの凄まじいオーラを感じた俺は、屋根から道路の上へと飛び降りた。そのオーラを放っている何者かは、すごい勢いでこちらに迫ってくる。
俺は辺りを漂う冷気にぶるっと身が震えた。
「この感じ……まさか」
迫りくるソイツが誰か理解したと同時に、俺はその姿を確認した。
建物の角から現れたソイツは俺を見ると――走ってきたはずにも拘らず息一つ乱さずに――その場に止まる。
「加賀美さん」
「よぉ、雪広……」
俺は内心かなりビビりつつも、目の前にいる般若……ではなく、雪広に手を振った。
今の彼女が放つオーラは“魔”そのものだ。
「其処を退いて頂けますコト」
「……こわいよぉ」
人間は何か気に入らない事で怒って頭に血が上れば、普通、顔は赤くなるはずであるのに、今の雪広は寧ろ血の気が引いて、白くなっている。“色白美人”といえば聴こえは良いが、冷気を漂わせるその姿は、まさしく“雪女”そのものである。
てか、コイツ、なんでこんなに怒って………。
……まさか
「あの“おさるさん”を氷漬けにしてヤリますわ」
やはり、コイツは明日菜の仮契約を“見て”、ここへ来たのだろう。
いや、だけど………。
「フフフフフフ」
雪広はアイライトの無い瞳でこっちを見て、不敵に笑う。
この何とも言えない取り乱し方は何なんだ?
前に明日菜がネギ君を高畑先生に見立てて告白の練習を目撃した時は、もっと素直な取り乱し方してただろ。
……キスをしたか、してないかの違いか? 相手が明日菜だからってのもあるだろうけど、キスしただけでこんなにも取り乱すか、普通! コイツは今にも『この泥棒猫ォ!!』といって明日菜を包丁で刺しにかかる勢いだぞ?
「最後の警告です。退いてくれませんカ?」
「……無理」
今のコイツをあの大橋に行かせるのは、色々と危険だ……“色々と”な。
「ここを通りたければ俺を倒してから行け」
「では――」
雪広が右手を横に広げると、辺りに冷気と雪が吹き荒れる。俺は身を構え、目の前の雪広を見据えた。
「――力ずくで行きますわよ」
その言葉を残して、雪広の姿は吹雪の中へ消えた。
☆☆☆
俺はすぐに三百六十度、気配を探った。
吹き荒れる風と雪のせいで、視界があまりはっきりしないが、目を細めて辺りの雪の動きを見る。冷気の移動をたどると、頭の後ろに雪が結集しているのを感じた。
頭を横にずらし右に体を移動させると、白く細い腕が横切った。
雪広の手刀を避け、体を翻して、俺は雪広に殴りかかった。しかし、拳が接触する直前に雪広の体は雪像へと変わった。
死角から攻めてくる辺り、雪広の本気度が窺える。いつものじゃれ合いなら、俺の頭に雪だるまを落として終わりなのだが、今回は“マジ”らしい。
「……ギャグパートで出す力じゃないだろう?」
数メートル先に再度現れた雪広に愚痴りつつ、俺は翼を出現させて体を浮かせた。
「
風の勢いが増し、俺の周りに冷気を含んだ風と雪が吹き荒れる。
俺は翼で体を覆い、身を護った。しかし、視界にはしっかりと相手を捕えている。
「
「チッ……武装」
鋭く尖った長い円錐状の雪を見て、俺は自分の翼を光沢のある黒色へ変化させた。
金属音がぶつかり合うような音をたて、雪で出来た氷柱は俺の翼に弾かれた。
「
雪広の攻撃は凄まじく、攻撃の手を止めない。
氷柱を弾き、武装を解いて翼を広げると、俺の斜め左右の前後から大きな鎌状の雪が向けられていた。
俺は懐から仮契約カードを取り出した。
「
呪文を唱え、弓状の双剣が現れる。
それを持った俺は、体を回転させながら剣を振る事で四方から飛んでくる鎌を切り裂いた。
ふと視線に入った街灯を見ると、その電灯は眩しく光っていた。すでにメンテナンスが終わり、電力が復旧しているようだ。
……だとするとマズいな。
電気がついたという事はネギ君とエヴァさんの戦いに決着がついて、もうすぐこっちに来るかもしれない。
この光景を見られるのはあまり
「
俺はアーティファクトを弓に変え、矢を生成し、下へ向けた。魔法でできた矢が地面に当たると、爆発を起こし、周囲の雪を吹き飛ばすとともに辺りに爆煙が広がった。
雪広は爆煙で周囲が視界が遮られる中、覇気を使って俺の気配を察知しようとした。そして右から迫る気配を感じて、素早く身構えた。
「
雪広の足元にある雪が飛んできたものを捕えた。そこには、黄金に輝く双剣があった。
しかし、雪広は目を見開いて驚く。
「なっ!! “剣だけ”!!」
爆煙の中、雪広の背後に回り込む途中で俺はアーティファクトを囮の為に雪広に向けて投げていたのだ。
驚く雪広に俺は背後から迫り、拳を武装させた。
雪広の首筋に向け手刀を打つと、雪広は気を失いドサッと地面に倒れてくれた。
☆☆☆
「……はぁ、疲れた」
雪広が気絶したことで周りに吹雪いていた嵐が止んだ。時間は短かったが、威力そのものはかなり強く、大変しんどい戦いだった。
ドサッと地面に腰を下ろし、倒れている雪広に目をやると、本人はグルグルと目を回していた。
「どうしたものかねぇ」
俺は夜空を見上げた。
とりあえず、雪広を――強制的に――落ちつかせたが、目を覚ませばコイツはまた暴走するだろう。
一番良いのは、今夜の記憶を魔法を使って処理すれば済む話なのだが、俺は魔法を全く使えない。
俺はしばらく思考を巡らせた。
「……仕方ないか」
やがて、一つの結論に辿り着き、俺はそばに落ちていたアーティファクトを拾った。そしてカードに戻して額にあてる。
《もしもーし、シャークティさん、聴こえる?》
《……総一、何かありましたか?》
念話を発信して数秒後、シャークティさんから返信が来た。
《今、時間あります?》
《はい、警備も終わって今から撤収するところなので大丈夫ですが……》
《じゃあ、すぐに来てもらっても良いですか? ちょっとやってほしい事があるんですよ》
その後、やって来たシャークティさんに今回の経緯を洗い浚い全てを話し、必死に頼み込んで、特別に雪広の記憶処理をしてもらった。
だがしかし、案の定、エヴァさんの計画を事前に知っていながら黙っていたこと、能力者とはいえ女子生徒に手を上げたことについてお叱りを受け、シスター様からのありがたーい御説教を長々と聞かされた後、俺は反省文三十枚と一カ月間の雑務を言いつけられた。
今年、四月の夜風が非常に身に染みた……。
……もう二度と暗躍なんてしねぇよ!!
TO BE CONTINUED ...
加賀美総一の仮契約カード
名称:CAGAMI SOUITI
称号:FIDES NIL ANGELUS(信仰なき天使)
色調:Album(白)
徳性:justitia(正義)
方位:oriens(東)
星辰性: Uranus(天王星)
アーティファクト:天界の神弓
◆契約者
シスターシャークティ
◆能力
様々な性質を持った矢を放つ弓。真ん中から二つに分け、双剣としても使用可能。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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