もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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17. 天使と大仏、そして雪女

 

 

 

 呪符の効果によって無人となっている駅の前を、四月の夜風が吹き抜ける。

 浴衣の下にTシャツとジャージのズボンを着ているが、夜になるとやはりまだ少し寒い。

 

「こらーー待ちなさーーい!!」

 

 壁に寄りかかりながら、目的の人物が来るのを待っていると、旅館がある方向の道から本人達の叫び声と走ってくる音が聴こえてきた。

 

「……やっと来たか。来れ(アデアット)

 

 入口にある改札の前に立ち、俺はアーティファクトを出現させ、双剣状に持って構えた。

 

「なんや、兄ちゃん」

 

 声が聴こえて間もなく、サルの着ぐるみを来た女の人が木乃香を抱えてやって来た。

 俺を視認した女――天ヶ崎千草は立ち止まるが、俺は双剣を構えて攻め寄った。

 

「二刀流、弐斬り――」

 

 抱えられている木乃香を傷つけないように、斬りかかる直前、俺は地を蹴って飛び越えながら、相手の首を狩りに行った。

 

「――なぁーんつって」

 

 しかし、俺の斬撃は相手の体に当たらず、サルの着ぐるみを斬るだけに終わった。

 

「あら? 着ぐるみのわりに固いな……まぁ、峰打ちだし、仕方ないか」

「チッ、あの子らの仲間かいな」

 

 着ぐるみの頭がとれた千草は舌打ちしながら、振り向いてこちらを見た。

 

「ここで決めるつもりだったんだけどねぇ~。仕方ない、“プランB”だ。去れ(アベアット)

 

 “プランB”――つまり、原作通りへ移行だ。

 

「生意気やなぁー、そう簡単にこのかお嬢様は返さへんぇ」

「加賀美さん!!」

 

 後ろからネギ君と明日菜、桜咲が走ってやって来たが、彼女達が来るやいなや千草はまた舌打ちをして駅の中へ向かって走り出した。

 

「あ、待ちなさい!」

 

 無人の駅の中に入ると、千草は更に電車の中へと逃げ込んだ。

 

「ちょっと、アンタ! 先回りしてるなら、ちゃんと捕まえなさいよ!」

「……無茶言うな」

 

 明日菜に言われ、俺は苦笑いで冷や汗を流しながら、俺達は電車の中へと逃げこんだ千草を追った。

 俺達は閉まる電車の扉を見て、慌てて中へと飛び乗った。

 

「あっ!」

「どうしたんですか!?」

「イヤな予感が――」

「お札さん、お札さん、ウチを逃がしておくれやす」

 

 千草が呪文らしきものを唱えると、御札から大量の水が出現し、車内に充満した。

 能力者で泳げない俺は、当然、溢れる水の勢いに逆らう事はできず、そのまま流されてしまった。

 

「おぼらぁるぅ!!」

「らずてぇ――」

「nだグBzV」

「ホホ、電車の中で溺れ死なんよーにな」

 

 千草のニヤけた声が聴こえ、ネギ君が呪文を詠唱しようとするが、水の中とあって、できるわけがなかった。

 やべぇ、普通に死ぬーー!!

 

「斬空閃!!」

 

 しかし、桜咲の斬撃によって俺達は、水中から解放された。

 水の流れに押され、相手を含めた全員が電車の外へと押し出された。

 た、たすかった……やべぇ、マジで死ぬとこだった。

 てか、体中、水に濡れて、まだ力が出ねぇ……。

 

「か、加賀美さん、大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……俺のことは良いから……先に行け。すぐに追いつくから」

「え、でも――」

「ちょっと、あの人が逃げるわよ!!」

「え! あ、は、はい!」

 

 地面にだらんと伸びている俺をおいて、ネギ君達は急いで千草を追いかけていった。

 

 

 あぁぁ、かっこわりぃーー。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「――よろしゅう、月詠はん」

「では、おてやわらかに――」

 

 体についた水気を払い、急いで駅の広場へ向かうと、千草の指示を聞き、相手のメガネ剣士が桜咲に斬りかかろうとしていた。

 

「――来れ(アデアット)

 

 俺は二人の間に割り込み、メガネ剣士の刀を受け止めた。

 メガネ剣士は、急に現れた俺に驚き、すぐさま体を後ろへ退いた。

 

「か、加賀美さん!」

「桜咲、コイツの相手は俺がやる。お前ははやく行け」

「すみません、ありがとうございます!」

 

 そう言って桜咲は千草を追いかけた。

 

「あらまだ御仲間がいたんどすか~、でも邪魔するなら手加減しませんえ~」

「別に構わねぇよ、(はな)から手加減なんて期待してねぇし。それにさっき倒れてた分、こっちも気張(キバ)って行かねぇとな」

「ほな、行きますぇ」

 

 相手はそれなりの長さのある刀と小刀を使い、俺に斬りかかって来た。右、左、右、上、左、斜め下からと、体と腕を器用に使い、相手は次々に二つの刀を振るう。

 俺は手に持った双剣で、相手の刃を受け流し、相手の刀の流れが止まったのを見計らい、二つの刃を水平にして、斬りかかった。

 相手――月詠は二つの刀を十字にして持ち、俺の剣を受け止める。

 しかし、俺は受け止められた刀に力を入れて、一気に押し切った。

 

「おっとっとぉ」

 

 月詠は一度後ろに下がる事で剣を躱し、再度前に出て刀を振った。

 

(“右”と見せかけて……)

 

 俺は右から振るわれる刀を無視して、左手で持った剣を裏手に構えた。

 すると、左の剣に衝撃が走り、金属がぶつかり合う音が響く。

 

「うっぜぇ」

 

 相手の短刀を受け止め、すぐに俺は右の剣で月詠を刺しにかかる。

 月詠は突きをいなし、後ろへさがった。

 

「へぇ、兄さん、意外にできる人みたいやなぁ。けど太刀筋が色々とデタラメなトコ見ると、剣は習ろうたことないと違いますか?」

「正解。でも――」

 

 俺は地面を蹴って、月詠に攻めかかった。

 

「――だから弱いとは限らない」

「ふふふ、エラい自信どすなぁ」

 

 体を旋回させて双剣を振ったが、月詠はニコニコした顔で、それを受け流した。そして回転している俺の体が後ろを向いた瞬間、月詠は斬りかかる。その剣の動きを察した俺は飛び上って躱し、すぐに体を回して月詠へ蹴りを振り下ろした。

 月詠は身を引き、それを躱した。

 

「剣士に体術使うなんて、兄さん、怖いもの知らずやなぁ」

「どうかなぁ」

 

 俺は蹴り飛ばすが如く、また月詠に回し蹴りを放つが、月詠は刀を構えてそれを受けようとした。俺の“武装した足”と月詠の二本の刀がぶつかり合い、金属が擦れるような衝撃音が鳴った。

 

「およ!?」

 

 足が斬れない事に不思議に思ったのか、月詠は声を漏らした。

 そのスキを逃すことなく、俺は足に力を込めて、相手を蹴り飛ばした。

 

「あぁぁれぇぇぇ」

 

 力の抜けるような悲鳴を上げながら、彼女は飛んで行った。

 飛んで行った先を見ると、千草が裸で何やら驚愕している。横を見ると、木乃香が倒れているのが見えた。

 どうやら、俺と月詠が戦っている横で、ネギ君達が上手くやっていたらしい。

 木乃香を手放した千草は、額に「2」と書かれたサルに、メガネがとれた月詠と共に乗り込んだ。

 どうやら、撤退するつもりのようだ。

 

「なっ! アイツ――」

「深追いは無用です。相手が退くのでしたら、素直に退かせましょう」

 

 桜咲はそう言うが、俺はダメ押しにと、アーティファクトを弓状にして魔弾を生成した。

 

「加賀美さん、何を?」

 

 ネギ君が驚いたように言った。

 

「ダメ押し……爆弾の矢(ボム・アロー)!」

 

 俺が放った魔法の矢は空中で三つに分裂して相手が乗っているサルに、見事、直撃した。

 爆煙と共に二人の悲鳴が木霊する。二人は空へと飛んで行き、夜空の星と化した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 夜が明けて、翌日。

 

「あぁぁぁ、頭がガンガンするぜ」

「なんだよ、修学旅行中にも関わらず、風邪でもひいたか?」

「大丈夫だろ、なんとかは風邪ひかないって言うし」

「おい、コラ」

 

 織戸が頭を抱えながら歩いているのを見て、相川が気を使っているが、俺は欠伸をしながら、何事もないように言った。実際、織戸の頭痛はただの二日酔いである為、特に気にする事はない。

 

「それで、俺達って今どこにいんの?」

「もうすでに奈良公園の中には入ってるね……ここをまっすぐ進めば、東大寺だよ」

 

 結城がパンフを手に持ちながらナビをしてくれ、俺達は東大寺へと向かった。

 数分後、結城の言う通り、俺達は古風な雰囲気の建物を見つけた。

 境内には砂利がひかれている他、寺の入口からまっすぐ伸びた広い石の道があり、大勢の人が行き交っていた。よく見るとその中にはうちの生徒も何人か見える。

 

「おぉ、でけぇー」

 

 境内の道を通り、寺の中に入ると、よくテレビや教科書で見る、あのデカイ大仏が鎮座していた。

 俺達はその大きさに感嘆としながら、大仏の前に立ち、呆然と見上げた。

 

「流石は世界遺産って感じだな」

「そうだね……。折角だし、賽銭入れて拝んでおこうか」

 

 結城の提案に俺達は同意して、それぞれ賽銭を入れ、大仏の前で手を合わせた。

 “センゴクさん”、ちぃーす。

 

「あなたが大仏を拝んでる所を見ると違和感を覚えますわね」

「ん? おぉーす、雪広」

 

 手を合わせて軽くお辞儀をすると、ふといきなり後ろから声をかけられた。

 振り向くと、後ろでは雪広が腰に手を当ててなんとも言えない微妙な表情でこっちを見ていた。

 

「どうした? 顔色が悪いな」

「えぇ、少し頭が重くて……」

 

 お前も二日酔いか?

 

「あら、あやかの知り合い?」

 

 俺が首を傾けると、後ろにいた雪広の班員である生徒――那波千鶴が雪広に訊ねた。

 

「ほらちづ姉、あの人だよ。指導委員でいいんちょと幼馴染みの――」

「へぇ、そうなのぉ」

 

 那波さんの言葉を機に、他の班員、村上夏美や長谷川千雨、朝倉もそれぞれ寺の中へとやって来た。

 

「やっほぉー、加賀美君。ひさしぶりー」

「どうも、確か朝倉……だったよな?」

「正解。けど忘れるなんてひどいなぁ」

「あぁ、悪い。でも最後に会ったのって数ヶ月くらい前だぞ、覚えてなくても仕方なくないか?」

 

 本音を言うと、朝倉ってのは覚えていた。けど下の名前がハッキリと出てこない。

 ……和美だっけ?

 

「うおぉぉーー、お前は良いな! 女子と話せてぇぇ!!」

「うるせぇ!」

 

 突然、横で叫び声を上げた織戸に俺は回し蹴りをぶつけた。織戸は勢いよく隅へと転がる。

 

「何ですの?」

「気にすんな、ただの織戸(バカ)だ」

「……お前、今、織戸と書いてバカって読まなかったか?」

「さぁーな」

 

 相川に訊かれたが、俺はサラッと流して外へ出ようとした。

 ふと視線を横に向けると、長谷川さんこと千雨が冷や汗を掻きながら、ジト目で隅で泣き崩れる織戸を見ていた。

 ……まぁ、無理もない。

 

「おい、織戸! こんな所で跪くな、置いてくぞ」

「うるせぇ、お前に俺の何が☆◎&¥%」

「分かんねぇよ、せめて日本語で話せ」

 

 胸ぐらを掴んできた織戸を無理矢理引き剥がし、俺達は寺の外に出た。

 

「結城、次に行くところってどこだっけ?」

「春日大社だね。地図によるとあっちみたい」

「おや、奇遇だねぇ。私達も春日大社にいく予定だよ」

「折角だから、一緒に行きませんか? 大勢の方が楽しいですし」

「「是非、お願いします」」

 

 朝倉と那波さんの提案に、相川と織戸は敬礼するかの如く手を上げた。

 欲望に忠実というかなんというか……。

 下心見え見えだな。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「そういえば、何やらおかしなことが起きているようですが、大丈夫なのですか?」

「別に大したことねぇよ。関東と関西の魔法使い達の仲が悪いから、そのせいで少しゴタゴタしてるだけさ」

「仲が悪い? それで急に蛙が湧いたり、落とし穴に掛けたりしていると?」

「ゴタゴタっていうか嫌がらせだな。けど相手も魔法使いだから、一般人に怪我を負わせたりはしねぇよ」

「そうですか。では特に気にしなくても良いのですね?」

「あぁ……というか、寧ろお前は何もするなよ。能力者だってバレたら、どっちにしろめんどくさい事になるからな」

「えぇ、分かりました」

「……つぅーか」

 

 俺は振り返り、少し距離をあけてついて来る団体さんを細い眼で見た。

 

「なんでお前らは、そんな後ろに下がってんだよ!?」

「いやぁー、仲の良い二人の邪魔しちゃ悪いと思って」

「「仲良く(ねぇよ・ないですわ)」」

 

 ニヤニヤした朝倉に向かい、俺と雪広は揃って声を上げた。

 

「そのわりに、息ピッタリだな」

「そうだね、喧嘩するほど仲が良いっていうし」

「う、ううううらうら、ウラヤマシイィーー!!」

「織戸!! 落ち着けェ!」

 

「ふふ、あやかも素直じゃないわねぇ」

「なっ! 勘違いしないで下さい、千鶴さん!! 私が愛するのはただ一人ですわ」

「あらあら、私は素直じゃないって言っただけで、愛してるなんて言ってないわよ」

「え! なっ、なななな、ち、違いますわ!!」

「おやおやぁ、いいんちょ、顔が赤いよー」

「あなた達が変なこと言うからでしょーが!!」

「でも、さっき二人で仲良く話してたよね。何話してたのかわかんないけど」

「そ、それは、その……」

 

 それぞれの班員から様々な目で見られ、(主に那波さんと朝倉から)からかわれる中、俺はヤレヤレと溜息をつき、雪広は顔を赤くして否定した。

 

「加賀美ィ! 羨ましすぎるぞ、お前ェ!!」

「は?」

「なんでお前にだけ、そんな美人な彼女ができんだァ!!」

「いや、彼女違うから」

 

 息を荒げながら叫ぶ織戸に、俺は手を横に振って否定した。

 

「黙れェ! 俺には分かるぞ!!」

「何が?」

「お前、彼女とそんな風にケンカしてはいるが、どうせ、いずれふとしたきっかけで、異性として意識するようになり、色々あって、イチャイチャするようになるんだろォ!!」

「んなわけねぇだろ……」

「いーやッ!! 絶対そうなるに違いない! 俺のサイドエフェクトがそう言ってる!!」

 

 お前はいつから実力派エリートになったんだ?

 

「織戸、お前……」

「「「「気持ち悪い」」」」

「がーーーーん」

 

 俺は間を少し開け、織戸を睨みつけながら……いや、寧ろ見下しながら言ったが、どうやらその場の皆が同じ感想を持ったらしい。

 俺だけではなく、女子勢からも言われた事がよほどショックだったのだろう、織戸は顔を白くして、その場に膝をついた。

 

「なぜだ、なぜだ……何故だ何故だ何故だーーッ!!」

 

 織戸は立ち上がり、涙を流しながら走り出した。

 

「何故、加賀美だけがモテるんだァァァーーー!!」

「あ、ちょ、織戸!」

 

 軽いドップラー効果を起こしながら、走り去って行く織戸を呆然と見送り、俺達は立ち尽くした。

 

「アイツ、どこ行くんだ?」

「……さぁ」

 

 織戸がどこへ向かったのか疑問に持ちつつも、いずれ戻ってくるだろうと思い、俺達は次の春日大社へ向かった。

 

「神様、神様ァ!」

 

 しかし、意外に早く俺達は織戸を発見した。

 織戸は賽銭箱の前に立ち、手を合わせて、呪詛の如く何やら唱えていた。

 

「加賀美が地獄へ落ちますようにィ!!」

「何やってんだ、アイツ」

「……さぁ」

 

 相川が織戸を指さしながら訊ねてきたが、俺は首を傾ける事しかできなかった。

 『人を呪わば穴二つ』って言葉を知らないのか、アイツは……。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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