もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
翌日の放課後、犯人を取っ捕まえるため、俺は犯行現場となっている更衣室がある建物に向かっていた。現時刻、午後二時少し前。今日は午前授業ということもあり、辺りから部活に勤しむ学生の声が聴こえている。
「やぁ、来たね」
建物の前に着くと、そこにはすでに高畑先生と葛葉先生がいた。
「早いですね」
「教師としての立場があるからね」
なるほどな。
「それでどうやって捕まえる気だい?」
「あぁ、その前に少し待って下さい。まだ今回呼んだ助っ人が来てないので」
「助っ人?」
高畑先生が首を傾けた。
「えぇ、昨日の夜、今回の件の事情を話したら手伝ってくれるとのことだったので、ここに来るよう言っておいたんですよ」
「ちょっと、部外者を巻き込むのは」
「大丈夫ですよ。ソイツも能力者ですし、いてくれた方が色々と心強い人ですから」
俺の返答に葛葉先生は「なっ! 能力者!?」と目を丸くした。昨日に続き、葛葉先生は驚いてばかりである。
「あ、あの、いったい能力者はどれくらいいるのですか?」
「麻帆良学園の中では、俺が知ってるだけで俺の他に三人ほどですかね」
俺と青藤先輩と“エヴァさん”と“ソイツ”。
学園長は怪しいが、俺が勝手に能力者だと推察してるだけで、本人から能力者だとかは聞いたことがない。
けど、あの“頭”、絶対能力者だと思う。
☆☆☆
「お待たせしましたわ」
「おぉ、来たか」
俺が着いてから数分後、俺が呼んだ助っ人さんが来てくれた。
「悪いな、突然呼び出して」
「いえ、今回はことが事ですし、私の協力が必要というなら、喜んで協力させてもらいますわ」
「ありがとな」
察しの良い人は口調だけで大体分かっただろう。
「助っ人というのは雪広君のことだったか」
「えぇ、昨日、この人から急にメールがありまして、協力して欲しいとのことだったので」
そう、高畑先生が言った通り、俺が呼んだ助っ人とは、2年A組の“いいんちょ”雪広あやかである。
「あの、加賀美さん。此方の方は?」
「あぁ、この人は葛葉先生。俺の担任で、今回の件を最初に任された人」
雪広に問われ、俺は葛葉先生について軽く説明した。
「そうでしたか……。はじめまして、女子中等部2年A組の雪広あやかといいます」
「此方こそ。男子中等部2年A組担任教師の葛葉刀子です」
「葛葉先生は魔法使いの方ですか?」
「いえ、私は神鳴流の剣士です。“気”を使う事は出来ますが、“魔法”は使えません」
「そうでしたか。因みに神鳴流とは?」
「神鳴流は私が使う剣術の流派のことで――」
しばらく、雪広と葛葉先生はお互いに自己紹介をした。二人とも女性とあって――雪広は年齢的には女子だが――すらすらと言葉を交わす。
しかし、いつまでも話してばかりというわけにもいかないので、俺は切りの良い所で「さーてと」と声を挟んだ。
「じゃあ、人も揃ったことですし、早速犯人を取っ捕まえましょうか」
「そういえばさっきも訊いたけど、どうやって捕まえるんだい? 相手は普通の方法では知覚できないよ」
「えぇ、私も気配察知には人並み以上の自信がありますが、今回の犯人は私でも察知が不可能でした」
高畑先生に同意するように葛葉先生が小さく顎を引いた。
「葛葉先生はどういう風にして調査したんですか?」
「主に更衣室の周辺での見張りをしていました。魔力や気などの不自然な動きがあれば、すぐに動けるようにと」
なるほどなぁ……。
けど、今回の犯人は能力者。魔力や気は多分一般人のソレと変わらない。
「犯人察知、確保については策がありますし、俺と雪広がやるので大丈夫です」
「では、私達はどうすれば?」
「取り合えず、先生たちは一般人が来ないように“人払い”をお願いします。あとは――」
俺は雪広と先生達に今回の作戦を話した。
☆☆☆
へへッ、今日も向かうは体育館横の建物にある女子更衣室。この能力を手に入れてからというもの、盗み放題、覗き放題、盗撮し放題で儲け放題だぜェ。
最初、自分の姿が消えたときはマジで焦ったが、モノは使いようだな。
誰にも俺の姿が見えねぇってのもイイ気分だぜ、ホントあの“糞マジぃ果物”を拾ったのはラッキーだった。
なんの果物なのかは知らねぇが、食ってみるもンだなぁ。
ん? てか、今日はやけに人がいねぇな? 少し早く来すぎたかぁ?
……まぁいい、先に更衣室に入って待ってりゃいいんだ。例え、誰か中にいたとしても、俺の姿は見えねぇ。
へへッ、この能力の良い所は、俺が触れている物も透明にできるってトコだな。どっかの映画みたいに自分の身体だけが消えるわけじゃねぇ。手に持ってるカメラも消えるから女の子の前に出て、堂々と写真を撮りまくれる。まったく、こんだけ盗み撮りに最適な能力はねぇなぁ。
「見つけましたわ!」
な、何だァ!?
俺が更衣室に入って間もなく、“変化”は起きた。誰か女の声が聴こえたと思えば、室内が急に暗くなりやがった。何かと思い、上にある磨りガラスの窓を見ると、ガラスが何かで覆われていた。
な、あ、アレは……“雪”!?
「逃がしませんことよ!」
窓ガラスについているのが雪だとわかるや否や、更衣室中に“吹雪”が現れる。
なっ!? どうなってやがる!! 俺の姿は消えてるはずだろ!?
クソッ、わかんねぇが兎に角ここは退散だ。
俺はすぐに更衣室の扉を開け、建物の出口へと走った。
たしか、この建物から出て少し走れば人通りの多いトコに出られたはずだ。人混みに紛れてやり過ごせば、なんとか逃げられるだろう!!
しかし、俺の考えは甘かった。
俺が出口から脱出しようとしたとき、いきなり白い壁が下から生えてきやがった
よく見たら、ソイツも“雪”だった
「クソッ!! 何なんだよ!?」
俺は引き返して、建物の裏口に向け、走り出した。途中にある階段を見つけ、駆け上がろうかとも思ったが、見ている内にそこに雪の壁が生え、道を塞ぐ。
俺は迫ってくる雪に内心怯えながらも必死に廊下を走った。何とか、裏口が雪の壁で塞がれる前にこの建物からでなければならない。外に出れば、あの "雪" が追ってこなくなるなんて保証は何もない。
けど、このままこの建物内にいれば“袋の鼠”。
俺はただ走った。
“雪”から逃げるために。
そして、やっと建物の裏口を通った途端――
――俺は意識を失った。
☆☆☆
「あ、やっと来たっぽいですね」
建物の周りを警備して三時間とちょっと。俺は犯人がやって来たのを“感じた”。
「そうなのかい? 僕には全く分からなかったけど……」
「でしょうね。俺も目だけで見てたら分からなかったです」
今、犯人のモノと思われる“気配”が更衣室に堂々と侵入し、雪広の放つ吹雪に当てられている。
「確か、“覇気”だったかな?」
「はい、正確には、“見聞色の覇気”です」
「ははは、雪広君も含めて心強いよ」
今回、俺が考えた作戦はいたって単純。先生達に建物周辺の“肉眼で確認できる人を対象とした”人払いをしてもらい、ノコノコやってきた犯人を見聞色の覇気が使える俺と雪広で察知し、雪広が追い込み、俺が捕まえる、というものである。
さてさて、犯人が建物からノコノコと出てきた。相変わらず、目では見えないが。
俺は神経を集中させ、今裏口から出てきた気配を察知し、ソイツに向け拳を放った。その拳は見事ヒットし、“何か”が数メートルほど吹っ飛んでいった。
「ふぅ、任務完了」
犯人は今のストレートで気絶したらしく、能力が解除され、姿を現した。
「彼が今回の犯人かい?」
「えぇ、みたいですね」
倒れた犯人に近寄り、様子を伺うが見事に気絶していた。
学ランを着てるから察するに高等部の生徒だろう。犯人君の所持品を物色すると、小型のデジタルカメラがあり、データを見ると、女の子の写真が沢山あった。
「はい、犯人確定。じゃあ、高畑先生、起きる前にコイツを縛っといて下さい」
「そうだね」
高畑先生は懐から学園長からもらった“黒い手錠”を取り出し、犯人を拘束した。
「上手くいったようですわね」
「あぁ、サンキューな」
「これくらい楽勝ですわ」
高畑先生が犯人を拘束していると、雪広と葛葉先生が建物から出て来た。
「葛葉先生も人払いと見張りしてくれて、ありがとうございました」
「いえ、仕事ですから」
かっこいい事、おっしゃる。
「この人が犯人の能力者ですか?」
雪広がやや強面な顔で犯人を見ながら、俺に訊ねた。
「あぁ、自身と自分の持っている物を透明にする。言うなれば、スケスケの実の能力者ってとこだろうな」
犯行が拙い事から考えるに、恐らく彼は何かの拍子に悪魔の実を口にしたのだろう。それで、自身の身体が透明にできる事が分かって、調子に乗って今回の犯行を行った……そんな感じだろう。
「この人はどうするんですか?」
「まぁ、それは学園長が決めることですけど、多分、“本国”とやらに連行されるでしょうね」
訊ねてきた葛葉先生の問いに俺は答えた。
「大丈夫なんですか? また姿を消されて逃げたりしたら」
「大丈夫ですよ。もうコイツに能力は使えないですから。今、高畑先生が使った黒い手錠には仕掛があって、能力者の能力を使えなくする効果があるんです」
「そんな物が……魔法ですか?」
「いえ、海楼石です」
「海楼石?」
首を傾ける葛葉先生に対して、俺は犯人に掛けられた“黒い手錠”を指差した。
「海楼石というのは、別名“固められた海”と呼ばれ、能力者が海の中に入るのと同じ力が働く石なんです」
「海? どうしてそれで能力が封じられるのですか?」
「悪魔の実を食べると海に嫌われて一生泳げなくなる体になるからですよ。だから能力者が海のエネルギーを発している海楼石に触れると体の力が抜けて、能力も封じられるんですよ。んで、この手錠はその海楼石でできたものなんです。普通にやっては作れない物ですから結構レアなものなんですよ」
「そんなものが……」
えぇ、あるんです。
だから、俺ではなく、高畑先生に持ってもらってたんです。
「そんじゃまぁ、これで盗撮事件は解決ってことで」
「あぁ、彼は僕が運んでおくよ。雪広君も今回は協力してくれてありがとう」
高畑先生は今回の犯人を担ぎながら、葛葉先生と一緒に去っていった。
恐らく、地下にある牢屋に閉じ込めとくんだろう。
☆☆☆
「ありがとな、助かった」
「いえ、今回は私としても許しがたい事だったので、別に構いませんわ」
雪広と二人になり、俺達は自分達の寮に帰るため、足を進めていた。
「そっか。正直、雪広いてくれて助かった。俺だけだったら、捕まえるの結構難しかったからな」
「ふふ、では“貸し一つ”ということで」
「ちゃっかりしてんな……。まぁ、いいけどな」
察しの良い人は、分かったかもしれない。雪広は
彼女が能力者となったのは、初等部にいた頃。“とある事件”が切っ掛けで悪魔の実を口にし、能力者となった。その“とある事件”というのは、すでに全て解決しており、現在において問題となるような事は何もないので、今は語らない。
「……後悔してないか? その能力を手にしたの」
「まだ気にしてるんですの?」
「……まぁ、な」
しかし、その事件に関わった俺としては、そのせいで能力者となった雪広に今だに負い目を感じている。俯いてる俺を見て、雪広は溜息をついた。
「言っているでしょう。私がこの能力を手にしたのは、私自身の選択です。貴方が負い目を感じる必要はありませんわ」
「けどよぉ」
「大体、何年前の事を言っているんですの? そんな昔の話されても困りますわ」
そりゃ、お前にとっては幼い頃の昔話だろうが、俺にとっては違うんだよ。少なくとも“幼く”はなかった。
「それに能力を得たからといって、日常生活が何か変わったわけではありませんわ。強いて言うなら、今回のように貴方から協力をお願いされる程度です」
いや、泳げなくなったのは結構、変わった事だと思うんだが……。
「それに、本人が良いと言っているんです。それでもまだ気にするのなら、それはただの“自分勝手”でしかありませんことよ」
「……あぁ、分かったよ」
「よろしい」
まったく、気を使ってくれてるのか、それとも本当に気にしてないんだか……。
けど、どちらにしても“良い性格”してる。この辺は、原作と変わらなくて安心……かな?
「では、私は女子寮なので、ここで」
「あぁ。じゃあ、何かあったら連絡してくれ。“借り
「えぇ、分かりましたわ。それではまた」
「あぁ、またな」
そう言って俺達は自分達の寮へと帰った。
原作開始まで、あと数ヵ月。
さて、この世界の“物語”はどう進んでいくことやら。
TO BE CONTINUED ...
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