もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
夕方。
特にこれといってやることもない俺は、寮部屋のテレビに配線したとある据え置きのゲームに一人興じていた。目の前の画面では、俺の持つ
「早く出ないかな、
『♪~♪~♪~』
「ん?」
ドラゴンの帆船が颯爽と海を渡るのを見ていると、ふと机に置いてあった携帯が鳴った。俺は片手で携帯を開き、画面に表示された番号を見る。
……誰の番号だ、これ?
「はいはい、加賀美ですけど、どちら様ですか?」
☆☆☆
現時刻、午前零時半。
月が高い所に上り、学園都市の人達はすっかりと寝静まった時間帯。昨日――時間的には一昨日――の電話の主との約束を守る為、俺は世界樹の近くにある階段広場に一人やって来た。
広場に着くと、そこではネギ少年の弟子入りテストが行われており、茶々丸さんとネギ少年が壮絶な殴り合い(?)をしていた。
「総一ジャネェカ。何シニ来タンダ、オ前?」
「ちょっと野暮用がな……それより、これはアレか? ネギ君の弟子入りテスト?」
俺が来たことに気づいたチャチャゼロが「ヨォ」と話しかけてきた。俺は彼女が座っている――というか置いてある――椅子の横に立ち、二人の戦いを見物しながらチャチャゼロに訊ねた。
俺の言葉に「ソウダ」と肯定すると、チャチャゼロは二人へ視線を戻した。
目の前ではネギ君がカウンターを仕掛ける形で茶々丸さんの懐に入り、肘打ちをキメようとしていた。しかし、茶々丸さんはそれを受け流し、逆にネギ君の顔面に掌底をぶつける。攻撃を受けたネギ君は後ろに飛ばされて倒れるが、体を震わせながら立ち上がり、また茶々丸さんと向き合った。
「………長くなりそうだなぁ」
俺はその場に座り込み、ことの行方を見守った。
☆☆☆
時は経ち、現時刻六時すぎ。
ようやく茶々丸さんとネギ君のバトルに決着がついた。
結果はネギ君の粘り勝ち。茶々丸さんが油断したところをネギ君が顔に一発入れる形で幕を閉じた。
「やったーーーっ!!」
「ネギくーーん!」
「コラーーッ、茶々丸!!」
「す、すみません、マスター!」
ネギ君が勝負に勝ったことに喜びの声を上げるギャラリー達と、負けた茶々丸さんを叱るエヴァさんの声に反応して、コクコクと船を漕いでいた俺は目を覚ました。
「ふぁぁ、なげぇ戦いだったな」
傷ついたネギ君を介抱している明日菜と佐々木を薄目で見た後、俺は欠伸をしながら立ち上がった。
「よし、次は私の番アル!!」
同時に、電話で俺を呼びつけた主が声を上げた。
「へっ? どうしたのくーふぇ?」
急に声を上げた中国拳法少女、古菲に明日菜が何事かと声をかけた。
「さぁ、加賀美! 私と勝負するネ!!」
「はいはい」
御指名を受けた俺は、先程までネギ君と茶々丸さんが戦っていた
「えっ、どういうことなん、これ?」
「今度はくーちゃんと総吉が勝負するの?」
「そうなの?」
「てか、総一! アンタ、いつからそこにいたのよ!?」
「かなり前からいたよ」
ギャラリーの運動娘三人が首を傾げ、明日菜が声を上げた。
六時間位いたのに、なんで気づかないんだよ……影薄いのかな、俺。
「どういうことなん、くーへ?」
「加賀美は私が呼んだアル。私、前から加賀美と勝負してみたいと思ってたネ。だから昨日ネギ坊主のテストの後に勝負しようと電話で申し出たらOKしてくれたヨ」
「いつぞやに約束したからな」
木乃香の問いに古がギャラリーに説明したので、俺は補足も兼ねて同意した。
俺は体をほぐすため、手足を伸ばし準備運動を行う。
「修学旅行では負けたアルが、今回は油断しないアル! 全力真剣で行くアルよ!」
古がグッと拳を作り、身を構えた。
「おぅ、どっからでもかかって来い」
「行くアル!」
その言葉をきっかけに古は地を蹴り、俺の手が届く間合いに一気に攻めよって来た。
初手は迫り来る勢いを利用した肘打ちで、俺の腹部を狙って突いてきた。だが、俺は体をずらすことでその攻撃を避けた。そして古の後ろへまわり込む。目の前にある古の首筋に手刀をいれようと手を上げるが、古は片足を軸に体を回し、手刀を腕で受け止めた。続けて古は体の回転を利用して、受け止めた手とは反対の手で拳を放つ。
「崩拳」
「
まっすぐ突いてくる拳がまた俺の腹部を狙う。だが、俺は動きを止めて、その拳を受け止めた。
殴った感触に違和感を感じたのか、古は一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。
「堅いアルね、どんな体してるアルか?」
「鍛えてますから……
人差し指と中指を立て、手でピストルの形を作り、俺は攻撃を打ち込もうと腕を伸ばす。
しかし、古はすぐに後ろへとさがり、攻撃を回避した。
「変わった体術アルね……今のソレ、貫手の類アルか?」
「あぁ、まだまだ試験段階だがな」
俺は殴られた箇所を手で擦った。さっき鉄塊で受けた箇所だが、微妙に痛みがある。
まだまだ実戦では使えないな。
「けど、そんなんじゃ私には勝てないアルヨ。真面目にするヨロシ」
「いやいや、これでも一応真面目にはやってるから」
それに全力でやったら建物壊れたり、クレーターできたりして、大変だしな……。
「私には、その程度で十分というわけアルか?」
「まぁ、うん……けど決してやる気がないわけじゃないから、勘違いすんな」
「むぅ、何か実験台にされてるようで納得いかないアルけど……“力”を出さないなら出させるだけアル!」
「やってみろよ……
俺は古の後ろへ回りこんだ。
「「消えた!?」」
あまりの速さにギャラリーの人達には俺の姿が消えたように見えたのだろう。ギャラリーの二人――多分、明日菜と明石――が声を上げた。
しかし、古には俺の動きを見ることができたらしく、背後の空中で回し蹴りの構えをとる頃には、振り返って俺の姿を捉えていた。
「――ッ!」
俺の回し蹴りを受け止め、古は反撃する体勢に入った。
「
(ナッ、空中移動アルか!?)
カウンターを避けるため、俺は一度後ろへと下がり、着地と同時に地を蹴った。
「
マシンガンのような指銃の連射を打ち込むが、古は手で軌道を逸らしたり体を動かしたりと、全てを避ける。
威力こそあまり無いけど、指銃の速度はかなり速いんだが……コイツ、どんな動体視力してんだ?
☆☆☆
一方、その頃、ギャラリー(明日菜と木乃香と桜咲)は……
「総くん、すごいなぁ~。あのくーへを圧倒しとるえ」
「けど女の子相手に本気になって、男としてどうなのよ、アイツ」
「あはは、けどくーへのことやから、全力出してあげな、納得せんのとちゃう?」
「それでもよ。ねぇ、刹那さん」
「…………(さっきの動き、“瞬動”のようだったが、気や魔力は一切使ってなかった。ということは、加賀美さんは肉体の力だけで、あの動きを? しかし、そんなこと、できるわけが――)」
「刹那さん?」
「せっちゃん?」
「えっ、あ、はい!?」
「どうかしたん?」
「いえ、別に! 少し考え事をしていただけで!!」
「考えごと?」
「いえ、大したことではありませんので、気にしないで下さい」
「そう? なら良いけど……」
☆☆☆
「くーへー、頑張れぇーー!」
「こらーっ! 総吉ぃーー! 女の子相手なんだからもう少し手加減しろーー!」
いや、これでも結構手加減してますからね?
(今ネッ!!)
和泉と明石の声に気を取られ、俺がそんなことを思っていると、俺の意識が逸れたのを古は見逃さなかった。
「八極拳六大開『頂』――」
古は俺の手を捕まえ、カウンターの構えを取る。
「――攉打頂肘!」
「チッ、鉄塊!」
俺はカウンターの肘打ちをなんとか受け止め、すぐに古と距離をとった。
ガードしたとはいえ、さっきより痛みがでかい。
「ったく……明石に言われたから一応訊くが、手加減は?」
「愚問アルね。今でさえ全力でないのに、これ以上手を抜かれたら、格闘家としての名が廃るヨ」
「……だろうと思った」
俺は「はぁぁぁ」とため息をつき、肩を落とした。
正直、古の強さをナメていた。
“六式”(未完成)を使えば、すぐに終わると思っていたけど、なまじ手加減しているため、この勝負、終わりが見えない。本気でやれば一瞬で片が付くだろうけど、異性相手にそこまでするのは大人げないというか、なんというか――別に俺に某誰かさん達みたく『女は殴らん主義や!』とか『死んでも女は蹴らん』とかいうモットーがあるわけではないが――流石に異性を必要以上に傷つけたくはない。
まして今の相手は敵ってわけでもないしな。
かといって、今から手加減しまくって、ぼこぼこにやられたとしても、古は「手抜いたアルね!」とか言って、納得しないだろう。
……どうしたものか。
「いい加減、加賀美も本気でくるヨロシ。私はお試しレベルの体術にやられるほど、弱くないネ」
思考を巡らせていると、古がいつもより真剣な表情でこっちを見た。
「修学旅行の時に使った技……“
いや、それよりコイツ、“覇気”を感覚で認識しているのか?
人間離れしすぎじゃない?
…………けど、“覇気”ねぇ。
覇気を使うか使わないか、頭で迷いつつ、ふと俺は古にまた目をやった。
「………」
古は相変わらず、闘志溢れる表情をして――どこか楽しんでいるように見えるのは気のせいだろう――こっちを見ていた。
「……はぁぁ、分かった分かった」
ここで手を抜けば、後々ずっと何か言ってくるだろうと結論を出し、一呼吸置いた後、俺は戦闘体勢をとった。
「かかって来い」
「行くアル!!」
そう言って、古はさっきと同様、俺に向かって攻めよってきた。最中、俺は目を閉じて周りの気配を探る。
「――ハァッ!」
古は拳でまた俺の腹部を突いてきた。さっきから腹を狙ってくるのは、おそらく身長的に攻撃しやすく、俺が構えずに、基本突っ立ってるのが理由だろう。
「
しかし、俺に古の拳は当たらなかった。
「ヌっ!?」
既視感でも覚えたのか、古は何かを感じとったような声を漏らした。だが攻撃の手を止めはしない。
放たれる拳や蹴りの速度はかなり速いが、それでも俺の体に当てることは出来なかった。
(くっ、気配だけでここまで攻撃を避けるアルか)
突きや肘打ち、回し蹴りなど、多彩な中国拳法の技を繰り出すが、その攻撃はどれも俺の体に当たることはなかった。
やがて俺は目を開き、古の放つ拳を手の平で受けた。その攻撃は手の平に当たった瞬間、まるで弾かれた様に反発した。
「――ナッ!?」
予期せぬ体の動作に驚き、古の構えにスキができた。そのスキを見逃すことなく俺は追い打ちにと、受けた手を伸ばし、額に掌底を打ち込んだ。
「――グァッ!」
本人が当たる瞬間、後ろへ飛んだこともあり、掌底そのものに大した威力はのらなかったが、纏った“武装色の覇気”によって、その威力は古の体を後ろへ飛ばすほどになっていた。
飛んだ古の体は、地面に当たって弾んだ後、地に倒れた。
「はい、お終い」
仰向けに倒れた古から戦意が無くなったのを見て、俺は構えを解いた。
☆☆☆
戦いが終わるとギャラリー達が倒れた古に駆け寄った。
「だ、大丈夫、くーふぇ!?」
駆け寄った明日菜が古の上体を起こす。
「くーへ、大丈夫?」
「大丈夫アル。悔しいアルがなんだかんだで加賀美は手加減したネ」
木乃香の問いに答えながら、明日菜の手を借りて立ち上がった古は、額を擦りながら「私もまだまだアル」と満足そうな笑みを浮かべた。
「けど、今ので確信したヨ。加賀美は私がまだ知らない“力”を持ってるネ。最後の一撃でそれがよく分かったアル」
やっぱり、コイツ、常人じゃねぇだろ? 主に、感覚が……覇気なんて、知らないで感じ取れるようなものじゃねぇよ、普通。
……まぁ、いいや。
古のヤツが覇気を感じ取れるようが取れまいが、俺には関係ないし。これから自力で身につけていくかもしれないが、それはそれで一興。
なにも困ることはない。
「そんじゃ、気が済んだなら、俺はもう帰るな」
やることやって、この場にいる理由も無くなった俺は寮へと帰るため、古たちに背を向けた。
何だかんだで、もう朝だ。
幸い今日は休日だし、帰って寝よう。
「待つアル!」
俺が「ふぁぁ」と欠伸をしながら帰路に着こうとしたら、古に呼び止められた。
「最後に頼みがアルネ」
俺は「なに?」と首だけ動かして後ろを見た。古は真剣な表情でこっちを見ていたが、周りの明日菜達はなんだろうと古を疑問の目で見ている。
「私を弟子にして欲しいアル!!」
…………は?
『『えっ!?』』
まさかの古の発言に、その場にいた全員の時間が止まったようであった。
えっと……弟子?
弟子ってことは、俺からなにかを教わりたいと?
今のこの状況で、俺に教わりたい事っていったら……やっぱり“覇気”だよな。
皆がキョトンとしている中、俺はなんとか頭を回転させ、古の言葉の理由を察した。
「えぇーと……あぁ、うん。まぁ、なんでお前がいきなりそんなこと言ったのかは、大体、察せるけど……一応理由を訊いても良かですか?」
「加賀美の使っていた“力”を私も使えるようになりたいアル」
やっぱり。
想像通りの古の理由に、俺はため息をついた。
「あのな、“アレ”は一朝一夕で身に付けられるようなモノじゃないんだよ。才気あるものでも、基本を押さえるのに一年半は掛かる。それも一日中ぶっ通しで修業した場合だ。お前と俺には学校があるし、お前はネギ君に拳法も教えないといけない。只でさえ時間がないなかで、“アレ”を習得するとなると、時間がいくらあっても足りないんだよ。だから、却下!」
「そこをなんとか頼むアル! 習得には、いくら掛かってもかまわな―――いや、寧ろ、短期間で身に付けてみせるアル。だからお願いネ」
「アホか、気合いでどうにかなるもんじゃねぇーんだよ! それにいくら身につけるために修業しても、素質がなけりゃ、どんなに頑張っても身につかないんだ。お前には自分には素質があるって断言できるのか?」
「できないアルけど、やってみないと分からないネ。だからお願いヨ」
なんて頑固な……。
「なんでそんなに頑ななんだよ。お前は今のままでも十分強いし、このまま自力で強くなって行けば良いだろ?」
「私の夢のためアル」
「夢?」
予想外の返答に俺は思わず首を傾げた。古は真剣な表情で、いつにない静かな口調で語る。
「私は強い格闘家になりたいアル」
「……うん、そんで?」
「そして、もっと強い格闘家になって、世界中にいるもっともっと強い者と戦って、私は世界で一番強い格闘家――“格闘王”になりたいアル!」
「“格闘王”?」
「そうネ。“格闘王”になって世界の色んな強い者たちと戦う、それが私の夢アルネ!」
「………」
まさかの理由に、俺は思わず口を半開きにして固まった。周りの明日菜や木乃香達は、その理由を聞いて、目を丸くしている。
「…………くすっ」
だがやがて、俺は開いた口を閉ざし、徐々に口角を上げ、ニヤリと笑った
「くくくっ、はははは」
「何が可笑しいアルか?」
「くくっ……悪いな。いや、別にバカにしてるわけじゃないんだ」
口に手を当てて笑いを押し殺す俺を、古はムッとした目で睨んだ。
俺は表情を改め、古に向き直る。
「いいぜ、お前が知りたがってた“力”について教えてやる」
「ほ、ほんとアルか!?」
俺が了承すると、古はパッと表情を変えた。
「あぁ、今日からは流石に無理だが……そうだな、明後日から稽古つけてやる。詳しくは追って連絡するから」
「ありがとうアル!」
その後、古の礼を受け、俺は「じゃあな」と手を上げて、その場から立ち去った。
まさか“王”になりたいと夢見るヤツがいるとは……。
今後、どうなるか楽しみだな。
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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