もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
――この話の登場人物――
あやか「さぁ、始まりましてよ!」
亜子「ほな、いくでぇ!」
明日菜「おぉーー」
総一「まともに始めろ、こらぁ!」
ネギ(苦笑)
シャークティ(苦笑)
その後、俺と雪広の検証の末、和泉はクロだった。
検証といっても、やり方は和泉に海に入ってもらうという簡単なモノだったが、結果は海に足を入れた瞬間足を滑らせ転けるという、何時間か前に見た雪広と同じような反応だった。唯一雪広と違って脚のすね位の深さで転んだので、溺れはしなかったが、『ホテル部屋のバスタブでも良かったのでは』と試した後に思い付いて、少し後悔した。
そんなことも思い付かない位、俺達には心理的に余裕がなかったんだろう。
和泉が悪魔の実を口にしたと分かった俺と雪広は和泉に全てを説明するため、誰もいないホテルの一室へと移動した。
悪魔の実について説明した時、和泉は「とても信じられへん」というリアクションだったが、自身が海水に触れると力が抜ける体質になっていること、雪広の "タネなし瞬間雪だるま作り" (俺命名)を見たら、驚きながらも話を信じてくれた。
その際、俺が雪だるまの下敷きになる必要があったかどうかは疑問だが……。
「それで、亜子さんの食べた悪魔の実は、一体どんな実なんですの?」
「あの実は
「ホルホル? “穴堀り人間”にでもなるんですか?」
「いや、穴掘りの“掘る”じゃなくて、ホルモンの“ホル”。生体のあらゆるホルモンを体に注入することで、自分や他の人間の身体を内側から変えることができる“ホルモン自在人間”になる実だ」
「ホルモン?」
ベットに座っている和泉が首を傾ける。視線を移すと横で立っている雪広も腕を組ながら、頭に『?』を浮かべていた。
「一体、どうやって?」
「俺の見た“悪魔の実大図鑑”では、『爪先から注入する』って書いたあったな」
俺の悪魔の実についての知識は、昔エヴァさんにもらった図鑑から得た知識もあるが、ONEPIECEの原作からの知識もある。今回の実の特定、爪先
「爪先って………うわぁ!!」
俺の説明を聞き、和泉が自分の指を見ていると、急に彼女の右手人指し指の爪が注射針状に変化した。
「えっ、ちょっ、ウチの爪、爪が!!」
「落ち着け! 大丈夫だから」
「それが先ほど説明した悪魔の実を食べて得た能力です。害はないので安心してください」
「そんなん言うても、こんなん見せられたら、ビックリするで、普通」
御尤も。
「和泉の能力は、その尖った爪を生物に刺すことで、ホルモンを注入することができる」
「ホルモンを注入って、具体的に何ができるのですか? 内側から変えると言っていましたが……」
「ホルモンってのは生物が体を構成する上で重要な役割を果たす物質で、それの種類や量が変わることで、生物の身体に変化を及ぼす。けど、和泉の能力は性別とか身体の部位とか通常では変化し得ない部分も変えることが可能だ。性別とか体温とか色素とかな。つまり、ホルホルの能力ってのは生物にホルモンを注入することで、その生物の性別や体調をコントロールする能力なんだ」
「えぇーと、つまり……どういうこと?」
「要するに、和泉はその尖った爪を刺すことで、人間の性別を変えたり、一部怪我を治したり出来るようになったってこと」
「へぇー! すごいなぁ」
感心したような表情で自分の尖った爪を見る和泉を見て、俺はポリポリと頭を掻いた。
本人が気にしてなさそうとはいえ、やっぱり本人の意思関係なく食べたのは良くないよなぁ……。
『貴様には分からないだろう、望まずに能力者になった者の気持ちなど……』
ふと、エヴァさんの言葉と七年前の事故が頭をよぎる。
「………」
あまり気にしないようにしてはいたけど、反省してなかったわけじゃないんだけどなぁ……。
「……では、実際に試してみましょう」
「えっ、試す?」
雪広の言葉に和泉は顔をあげた。
「そうです。何事も百聞は一見に如かず、能力を知るには実際にやった方が早いですわ。それに力加減を知っておかないと、何かの拍子に能力が発動しては困りますし」
「そうかもしれへんけど、一体どうやって」
「感覚を掴めば案外上手く行くものですよ。回数熟せば、慣れるのも早いでしょうし。そうですわね………では手始めに、この加賀美さんを女性に変えてみてはいかがですか?」
「あっ、イケね。風呂沸かすの忘れてた。じゃあ、俺、部屋に戻るわ」
「万年雪」
部屋から出ていこうと身を翻したら、どこからか現れた縄状の雪に捕獲された。
くそっ、離せ!
「さぁ、亜子さん。遠慮なさらずに」
「止めろ! 俺の女体化なんて誰も望まないんだ! せめてアドレナリン注入とかにしろ!!」
「あなたの不注意で亜子さんは能力者になったんです。その責任は取るのが
「いや、責任は取るけど、こんな、ちょっ、ま、アアアアァァァァーーー!!」
☆☆☆
陽が沈みきった夜のビーチ。
さんざん実験体にされ、疲れ切った俺は、夜の冷たい風に当たり気分転換をするために砂浜の上に腰を下ろしていた。
前からは波の音が、後ろにある茂みからは虫の鳴き声が聴こえてくる。
「………」
俺はさっきの記憶から逃避するため、夜空を見上げた。
「……はぁぁぁ、確かに悪魔の実の管理を怠った俺が悪いよ。けど、顔面成長ホルモンってなんだよ、何の役に立つんだよ。髪の毛育成ホルモンの方が万倍役に立つだろ。しかも、黒だの赤だの青だの黄色だの茶色だの、ころころコロコロ人の翼の色変えやがって………大体、人の身体を女体化しといて、自分より可愛いのが腹立つってアイツ等、理不尽にも程かあるだろうが。俺は
「何、一人でぶつぶつ言ってるのよ。気持ち悪いわね」
後ろから聴こえた声に反応し、振り返ると、ジャージ姿の明日菜が立っていた。
「あ、アスナ! いつからそこに!?」
「今きたばかりよ。散歩してたら、何かぶつぶつ聴こえるから来てみただけ」
どうやら俺の愚痴は聞かれなかったらしい。
「そうか……助かった」
「何がよ?」
「いや、別になんでもない」
内心安堵しながら、俺は明日菜から顔を逸らした。
「それより、お前、まだネギ君と仲直りしてないの?」
「うっ!」
話題を逸らす意味も込め、俺が話を切り出すと、明日菜はばつの悪そうな顔をした。
「お前の事だから、もうすでに許してんだろ? ならさっさと仲直りすれば良いじゃん」
「べ、別にアンタには関係ないでしょ!?」
「………」
「………」
続ける言葉が思い浮かばず、俺は口を閉ざした。
それは、アスナも同様のようで、しばらく周辺に波や草木の音だけが響く。
「……ねぇ」
「ん?」
「アンタの
「なんだよ、藪からスティックに……」
「別に……アンタみたいなヤツをパートナーにするなんて、どんな人なのかなって思っただけよ」
「さり気無く毒づくな………どんなもなにも普通の魔法使いだよ」
“普通の魔法使い”っていうと、なんか矛盾して聞こえるが、この“普通”とは、ネギ君の“英雄の息子”というような肩書きがあるわけでも、高畑先生のように強い魔法先生なわけでもないってことである。
「けど、魔法使いたちにとってパートナーって確か……その、恋人とかそんな関係なんでしょ?」
「別に魔法使いの従者が皆そんな関係ってわけじゃねぇよ。お前だってそうだろ?」
「そうだけど……じゃあ、なんでアンタはその人の
「……成り行きでな」
「どんな成り行きよ!?」
「なんで教えなきゃならねぇんだよ」
「良いから! 教えなさいよ!」
「………」
真剣な表情で訊ねてきた明日菜を見て、俺は「はぁぁぁ」と長いため息をついた。
そして、しばらく口を閉ざした後、俺はゆっくりと口を開く。
「……昔さ、なんでも一人でやろうとしてた頃があったんだ」
昔って言っても、初等部の低学年位だが……。
拾われっ子ながらも幸い通常の生活を送れるような環境にあった俺は、転生者であることもあって、当時は子供ながらも家事や学校でのやり取りなど、割と何でもできた。
「そんで、実際に色々と一人でやってたんだけど、ある時、それがきっかけで同居してた人とケンカしてさ……」
「ケンカ?」
「今にしてみれば、ただ心配してくれてただけなんだけどな……お前とネギ君みたいな感じだよ」
拾ってくれた上に家族でもない俺の面倒を見てくれるその人に、俺はある種の申し訳なさを抱いていた。だから俺はなるべく迷惑を掛けないように、その人を遠ざけていた。
それがその人にとっては、納得いかなかったらしい。
「俺が『家族でもないのにこれ以上面倒見てもらうわけにはいかない』って言ったら、その人、『子供のくせに気遣うんじゃない』って……その後も色々言ってたら、お互いに引けなくなってな」
その後は、暴言こそ言わなかったが、『子供扱いしないでくれます?』『子供じゃない!』『自分のことは自分でできるって言ってるんですよ!』『たまには人に頼りなさいって私は言ってるの!!』などと言い合い、次第に俺とその人の仲は悪くなった。
「………」
「それからケンカムードになって、お互いに片意地張って、一週間くらい口きかなかった」
「……どうやって仲直りしたのよ」
「別にどうって程のことはしてねぇよ。意地張るのやめただけだ」
もともとお互いに悪意があったわけじゃない。だから仲直り自体はそう難しいことではなかった。
「それで、その話とアンタの
「そのケンカした人ってのが、今の俺の
……いや、正しく言うと少し違うな。
俺はポケットから仮契約カードを取り出した。
「
契約する時、シャークティさんは言ってくれた。
『あなたが理由がないと人に頼れないと言うのなら、私があなたのパートナーになる。もう“家族でもない”なんて言わせない。あなたを一人になんてさせないから!』
一人が寂しかったわけじゃない。
皆から避けられていたわけじゃない。
今の世界に不満があったわけじゃない。
けど、シャークティさんから言われたその言葉が、ただ嬉しかった。
たとえ中身が子供じゃなかろうと、たとえ自分が望まなくとも、誰かに大切に思われるのが嬉しかった。
契約の時のことを思い出すと、気恥ずかしさから顔が火照る。
もしかしたら、今も顔が赤くなってるかもしれない。
「……ふーん」
明日菜の頷いたような声を聴き、俺は仮契約カードをしまい、砂の上で横になった。
島の電気が少ないせいか、星の光がやけにはっきり見える。
この暗さなら、俺の顔が赤くなっててもわからないだろう。
俺は目を閉じて、汐風を感じながら、辺りの音に耳を澄ます。
「さっさと仲直りしろよ。お前が素直になれば済む話なんだからな」
「わかってるわよ……ふん!」
身を翻して、明日菜はその場から去っていった。
☆☆☆
翌朝、俺は一人ホテル部屋の屋根にいた。
目的は、ネギ君と明日菜が無事に仲直りするかどうか見届けるためだ。
人が気恥ずかしい過去を教えてやったんだ。これで仲直りしなかったら、脱出不可能な密室に二人を閉じ込めてでも、仲直りさせてやる。
「こんな朝早くに、こんな屋根の上で、何してるんですの?」
しばらく屋根の上に座り込んで待っていると、何故か雪広がやって来た。
「別に、ちょっと日の出を見に……」
「嘘ですわね」
「嘘じゃねぇよ……三割くらい本当だよ」
「ほとんど嘘じゃないですか……」
雪広はそう言って、俺の横に座った。
「何のようだよ?」
「別になんでもないですわ……」
「何もないなら帰れ。風邪引くぞ」
「寒さには強いので、御心配なく」
……あぁ、そうでしたね。
「………」
「………」
しばらく沈黙が続いた。
朝の海は昨晩と違って、波が穏やかなせいか、やたら静かに感じる。
「あなた、また落ち込んでいますね」
「……なんのことだ?」
「あなたは人が能力者になることをひどく嫌ってますから……どうせ今回、亜子さんが実を口にしてしまったことを自分のせいだと思っているのでしょう?」
「………さぁな」
別に能力者になること自体はなんとも思ってない。ただそこに本人の意思がなかったのがマズいんだ。
「まったく、過ぎたことを考えても仕方がないとか言ってたのはあなた自身ではありませんこと?」
「だからって、実際に後悔しないようにするのは難しいんだよ………って! 別に落ち込んでねぇって言ってんだろ!?」
「そうですか。その割には随分とへこんだ顔をしていますが?」
「気のせいだろ」
「………」
「………」
また、
「まぁ、何にせよ、あまり考えすぎるのはよくありませんことよ。あなたが落ち込んだところで、どうなるわけでもないんですから」
「あぁ、わかってるよ………あれ、ひょっとして俺、励まされてる?」
「どう受け取ろうと、あなたの自由です」
「……あっそ」
東の空に明るい日が昇る。
陽が昇ったことで周りの景色は色を変えた。水面が輝き、風が吹くことで暖かな空気が辺りに流れる。
朝焼けに包まれた海の風景は、とても綺麗だった。
「それで、あなたは何故ここに?」
「“アレ”を見るため」
俺はそう言って、離れたところにあるホテルの一室を指した。
「あれは……アスナさんとネギ先生?」
そこのテラスでは、明日菜がネギ君を部屋から連れ出し、そこにある階段から海へと向かっていた。
雪広と共に二人の様子を窺っていると、明日菜はネギ君を海へ突き落し、自分も(ネギ君に飛び蹴りをする形で)海へ飛び込んだ。
「な、またあの人は!!」
「ちょい待ち!」
その光景を見て、雪広は顔を赤くして立ち上がったが、俺は空かさず手を掴んで動きを止めた。
「せっかく仲直りしようとしてんのに、横やり入れるな」
「何が仲直りですか!?」
やがて、急に明日菜がネギ君を抱きしめた。
そのせいで、雪広の手を解こうとする力が増したが、俺はなんとか力ずくで抑え込む。
「ネギ先生を抱きしめるなど、私がしたいですわ!!」
「ただの嫉妬じゃねぇか!! 良いから、大人しく見守ってろ!」
てか、
「放してください!あのおサルを雪埋めにィーー!!」
「ここで能力使ったら言い逃れできねぇからやめろォーー!!」
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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