もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
白く輝く無機質な砂浜、満ち引きする波。
周りにあるものはすべて人工物であるにもかかわらず、それらには自然的な美しさがあった。
「くっ……!」
「ハァ!!」
しかし、周りの穏やかな風景とは裏腹に、砂浜に立つ俺達は激しい攻防を繰り返す。
次々と放つ俺の攻撃に、
「ほらほら、目で追わずに相手の気配を探れ! 目で追ってたんじゃ、速い攻撃は躱せねぇぞ!」
「ぬうぅぅぅ………」
俺の攻撃を受け流すことに必死になり、古の表情には余裕がなくなっている。
「剃!」
瞬間、俺は古の前から姿を消した。古は急いでその残像を追い、上を向く。
しかし、それが俺の狙いでもあった。
古の視線の先には、俺の姿の他に、この魔法球内を照らす光源があった。
光源と重なった俺を見て、古は思わず、目を伏せる。
「うっ!!」
「月歩!」
古のスキを突き、俺は間合いを詰め、回し蹴りを放った。
「うひゃぁぁぁ」
攻撃によって古は吹き飛び、海面にたたき付けられた。
高い水柱が上がり、水しぶきが辺りに飛散する。
俺は構えを解いて、強く波打っている海面に目をやった。
やがて海に落ちた古が海面から顔を出し、ゆっくりと浜へと上がって来る。
「ぬぅぅぅ、目くらましなんてズルいアル」
「目で追ってるからそうなんだよ。気配で探れ、気配で」
ずぶ濡れになった古を見て、俺はやれやれと首を横に振った。
「ケケケ、調子ハドウダ?」
古が水気を払っていると、急に後ろから声を掛けられた。
振り返ると、キラー
「まぁまぁだな。そっちこそどうなんだ?」
「全然ダナ。弱過ギテ、サッキ
「……あぁ、そう」
全然って。
一体この人形はどういう基準で強さを判断してるんだか……。
「んで、こっちに何しに来たんだ? ネギ君に稽古つけなくていいのか?」
「アノ餓鬼ナラ御主人ト“オ楽シミタイム”ダ」
「お楽しみって……“吸血”のことか?」
楽しんでるのは、エヴァさんだけだと思うが……。
「ソノ間、暇ナンダヨ。オイ、総一。ソイツノ修業、オレニモ
「……別にいいけど、殺すなよ。ナイフ使うなら峰打ちで頼む」
「生憎、オレノハ両刃ダ」
「じゃあ、片刃のヤツか、模擬刀使え」
「………チッ、仕方ネェナ」
そう言って、チャチャゼロは取り出した片刃のナイフを、峰を前に向けて両手に持った。
……本当に分かってるのか?
「おっ、今度はチャチャゼロが相手アルか?」
「あぁ、俺だけ相手してても飽きるだろ」
「別にそんなことないアルけど、相手にとって不足はないアル、掛かってくるヨロシ!」
「ケケケ……」
古はチャチャゼロに向かい、身構えるが、当のチャチャゼロは静かに怪し気な笑みを浮かべていた。
やがて、チャチャゼロは地を蹴り、一気に古との間合いをつめる。
しかし、俺と古は見逃さなかった。
間合いをつめる最中、チャチャゼロがナイフの刃を前に向ける所を……。
チャチャゼロの行動に驚きつつも、古はなんとか斬撃を避けた。
しかし、攻撃の手が一撃で終わるわけもなく、続けて放たれるチャチャゼロの斬撃に、古の頬に一つの赤い筋が走った。
「ちょ、斬れてる! 斬れてるアル!!」
「躱セバ問題ナイダロ、ケケケ」
冷血な笑い声をあげながら、チャチャゼロの素早い斬撃は続く。
「ケケケケケケケケケ」
「チャチャゼロ、なんか怖いアルよ……」
単調に笑いながら、斬りかかるチャチャゼロを見て、古はだんだん顔を青くしていく。
「ケケケ、血二染マレヤ! キャハハハハハハハ」
「ひっ!」
チャチャゼロの普段はしない笑い方に、古だけでなく、俺も寒気を覚えた。
「……あぁーぁ、入っちゃったよ」
チャチャゼロの
☆☆☆
「何やってんのよ、アンタ」
「ん?」
しばらく、古が涙を流しながら、チャチャゼロの攻撃から逃げているのを見ていると、また急に誰かから声を掛けられた。
「なんだ、お前らも来たのか」
振り返ると、明日菜と木乃香と桜咲、宮崎に綾瀬に朝倉という、最近ネギ君と魔法関係で絡んでいるであろう面々がいた。
「………」
……あれ?
明日菜達がここにいるということは、今日ってもしかして――
「総くんも、おったんやな」
「……まぁーな、ネギ君と同じく古の修業するのに時間がいくら合っても足りないからな………エヴァさんからここの仕組み、聞いたか?」
「えぇ、さっき聞いたです。なんでも外での一時間がここでは一日になるようで」
綾瀬の言葉に俺は「あぁ」と頷き、視線を古達へ戻した。
それにつられて、明日菜達もそっちに目をやる。
「アンタもここでくーふぇの修業してたのね。何の修業か知らないけど……」
「あれは一体何やってるですか? 私にはくーふぇさんが襲われてるようにしか見えないですが」
「………まぁ、間違ってはないよ。あれはな――」
確かに綾瀬の言う通り、今、目の前の光景を一言で言えば、古がチャチャゼロに斬られそうになっているだけである。
このまま、現状を見せ続けるのもあれなので、俺は仕方なく、古が取得しようとしている『覇気』について、明日菜たちに説明をした。
「はぁ、覇気ですか……。とても信じがたいですが、魔法があるのですから、そのようなものがあっても不思議とは思いませんが」
「一応、補足するが、覇気は魔法使いでも知らない人が多い力だからな」
「そうなんですか?」
綾瀬の問いに、俺はまた「あぁ」と頷いた。
「魔法や気と違って、覇気はかなりマイナーなんだよ」
「じゃあ、なんでアンタはそんなこと知ってるのよ?」
「成り行きでな」
「どんな成り行きよ。前もそうだけど、アンタって何か隠し―――」
「ひょえぇぇぇーーー!!」
明日菜が続けて何やら言おうとしたが、その言葉は古の悲鳴によって掻き消された。
「師匠! 助けて欲しいネェ!!」
「はいはい」
俺はため息をつきつつ、素早くチャチャゼロの後ろに立ち、襟を掴んで宙吊りにした。
「何ダヨ。モウ終ワリカ?」
「ハァ、ハァ……チャチャゼロ、超怖いアル! S級ホラーネ! 夜、トイレ行けなくなるアルヨ!」
「ケケケ、餓鬼ダナ」
膝をつきながら、目を潤ませている古を見て、チャチャゼロは不気味に笑う。
いや、あれは大人でも普通に怖いからな!?
子供が見たら永遠のトラウマものだよ、絶対っ!!
☆☆☆
その後、魔法球内を照らす光源が沈み、今日の分の修業を終えた俺達は、疲れを取るべく床についた。
異性の多さから隅で小さくなって寝ていた俺だが、やがて付近に誰もいなくなったのに気づき、身を起こした。
辺りを探すと、ネギ君と明日菜を除く全員が宮崎の
ふと、端にいたエヴァさんがこちらに気づき、目があった。
「何してんの?」
雰囲気を壊すまいと、俺は小さい声で訊ねた。
「ぼーやが神楽坂明日菜に自分の記憶を見せているようでな、それを全員で覗き見ているところだ」
……あぁ、ネギ君の過去をね。
「あ!」
「こ、これは!」
「ひどい……」
突然の全員の緊迫した声に反応し、俺とエヴァさんは宮崎のアーティファクト――『いどのえにっき』だっけ?――に目をやる。
そこには子供チックな絵でネギ君の過去、故郷襲撃時の事が書かれていた。
俺は文を読まず、悪魔により村の建物が崩壊する絵、人々が石化している様子を表した絵などを見て、自分の原作知識と照らし合わせながら、ネギ君の過去の流れを追う。
今、日記ではネギ君が悪魔に襲われ、魔法使いの爺さんとネギ君のお姉さんらしき人が助けに入る絵が描かれている。
悪魔の石化攻撃により魔法使いの爺さんとネギ君のお姉さん――ネカネさんだっけ?――は石化されてしまうが、その後、爺さんが完全に石化しきる前に襲ってきた悪魔を封印した。
……大体、俺の知ってるのと一緒だな。
そう、思っていた。
しかし、この世界でのネギ君の過去は少し違った。
「なっ!?」
「えっ!」
「危ない!」
ネギ君のピンチに他の皆は声をあげるが、俺は違った意味で声をあげそうになった。
えっ、なに? このでかい“象”の絵……。
宮崎のアーティファクトには、ネギ君(襲撃当時)の50倍はある大きさの“
“象”は石化した爺さんやネカネさん諸共、ネギ君を吹き飛ばそうと、長い鼻を振るう。
だが、間一髪、ナギさん(と思われる人)の攻撃魔法によって、その“象”は吹き飛ばされ、強力な追撃により、その身は地に倒れた。
やがて気を失った“象”は、体が縮みはじめ、屈強な男に姿を変える。
そして、場所は移り、ネギ君は無事救出された。
その後は、俺の知っている原作と同じ展開だった。
ネギ君の過去を見終え、俺は隣にいるエヴァさんの肩を叩き、皆と背を向け、声を潜めた。
「なぁ、さっきの最後に出た“
「あぁ、悪魔の実の能力者だろうな。“ゾウゾウの実”古代種とは、珍しいな……」
“ヒトヒトの実”幻獣種が何言ってんだか。
…………俺もだけど。
「なんで能力者がネギ君の故郷を?」
「さぁーな。大方、“黒幕の誰か”に雇われたか、利害が一致して手を貸したかしたんだろう。かなりおおざっぱな予想だがな」
まぁ、そうなんだろうけど……。
「魔法使い達にとって能力者は空想上のモノなんじゃ……?」
「一般的にはな。だが、魔法世界の国の上層部や“裏の人間”なら知っていても不思議ではない」
「“裏の人間”?」
「簡単に言うと、“海賊”とか“賞金稼ぎ”だな」
「それって――」
「何こそこそ話してんのよ」
明日菜に声をかけられ、俺とエヴァさんの話は中断した。
「ん!? い、いや、別になにも……」
「大した話じゃない」
「……ふぅーん、二人でこそこそして、仲が良いのね」
「良くねぇーよ」
「だ、誰がこんなヤツと!」
俺とエヴァさんは声を合わせて否定するが、声を合わせたことが、逆に周りの皆をニヤニヤさせてしまった。
それにしても、能力者か……。
なんかイヤな予感がするけど………気のせいだといいなぁ。
☆☆☆
その後、魔法球内の夜が明け、外へと出た俺達は、それぞれ自分たちの寮へと帰って行った。
エヴァさん宅でネギパーティと別れた俺は、雨がかなり強い勢いで降っていることに、少し辟易しながらも男子寮へと帰宅すべく、足を進める。
道中、そろそろ寿命を終えようとするビニール傘をさしながら、俺は携帯を取り出し、“ある人”へ電話を掛けた。
『おぉー、加賀美君、どうかしたかね?』
「えぇ、ちょっと気になることがありまして」
俺は電話相手の学園長に向かって、要件を話す。
「実はさっきネギ君に故郷の村が襲撃されたときの事を聞いたんですけど、どうやら襲撃した悪魔の中に、悪魔の実の能力者もいたようなんです」
『なんと!?』
受話器から聞こえた学園長の驚きの声に、俺は思わず携帯を耳から遠ざけた。
学園長はネギ君の過去について詳細を知らなかったのか……?
そんなわけないよな。
悪魔の群れが村を襲うなんて、事件にならないはずがないし、確か魔法学校の校長は学園長と知り合いだったはず。だとすると、悪魔の襲撃については大なり小なり耳にしたはずだろう……。
襲撃の事は知っていたが、能力者がいたことは知らされてなかったのか。
「それで、その件に関連したことで学園長に至急調べて欲しい事があるんです」
『何かな?』
「その襲撃した能力者が今どうなっているか調べて欲しいんです」
『うむ、それは構わんが、その者の能力は?』
「ゾウゾウの実の古代種です」
『分かった、少し時間をくれんか』
俺は「頼みます」と一言添え、電話を切った。
そして携帯をポケットに仕舞うと同時に、強い風が吹く。
その風に耐えられなかったのか、または片手だけで無理やりバランスを取ったのが悪かったのか、傘の芯からポキッと嫌な音がした。
「あぁーあ、これだから百均は……」
☆☆☆
「ありがとうございましたー」
こんな荒れた天候でも開いてるコンビニってすごいなぁ。
そんなどうでも良い感想を思いながら、俺は微妙に屋根の下になっているゴミ箱の前に立ち、小腹を満たすため、傘と一緒に買ったおにぎりの包装を解いた。
おにぎりにかぶりつきながら、鉛色の空を見上げる。
さっきから雨の勢いが強くなり、近くで雷も鳴り出していた。
「まったく、イヤな天気だなぁー」
《そうですねぇ》
「……え?」
《えっ!?》
予想外の同意の声に、俺は目を丸くして、声のした方を見る。
すると、コンビニの入り口の横に立っている“姿の透けた少女”も同様に目を丸くしていた。
どうやら、彼女がさっきの声の主らしい。
「………」
《……あの、私のこと、見えてます?》
「……あ、やべっ、ビッグカツ買うの忘れてた」
《ちょ、ちょっと待ってください!!》
反射的にその場から去ろうとしたが、涙目で訴えてくる少女に罪悪感を感じ、俺は足を止めた。
《あ、あの、わ、わわわ、私、相坂さよっていいます!! そ、そそ、その私は、別にあ、あく、悪霊とか、そういうんじゃなくて、この女子中等部に取りつく自爆霊なんです!!》
自爆霊……爆ぜるの?
「……うん、とりあえず、一旦落ち着こう?」
《す、すみません》
幽霊少女こと相坂は一呼吸置き、再度口を開く。
《私、人と話すの本当に久しぶりで……それに姿が見える人に会うのも初めてなんです……ぐすっ……》
「あ、あぁ、そうなの?」
多分、エヴァさんとか気づいてると思うけど……?
《はい、だから本当に嬉しくて……ぐすっ……》
「まぁ、その……事情は分かったから、そう泣くな。嬉しいなら笑っとけ」
《ぐすっ……はい!!》
目元に涙を貯めながら相坂はニコリと笑った。
「え、えぇーと、自己紹介が遅れたけど、俺は加賀美総一。男子中等部3年で広域指導委員してる」
《はい、よろしくお願いします! そ、それで……あの、お願いがあるんですが……》
「なに?」
《私と……お友達になってください!!》
「別にいいけど……」
《ホントですか!?》
「あぁ」
《い、良いんですか!? 私、幽霊なんですよ》
「なにか問題でも?」
俺がそう訊ねると、相坂は顔を隠して、また涙を流した。
《……ぐすっ……うぅぅぅ》
なぜ、また泣く……?
《ふぇぇぇ……あ、ありがとうございますぅぅ……!!》
「えっ……あ、あぁ、どういたしまして?」
いきなりの泣きながらの御礼に、俺は間の抜けた言葉を返した。
ダメだ、なんか調子狂う……。
☆☆☆
しばらくして、俺はなんとか相坂を落ち着かせた。
《すみません、さっきから私、泣いてばかりで……》
「気にすんな、人と話すの久しぶりなんだろ?」
どれくらいか知らないけど……。
《はい、幽霊になってからですから、60年ぶりくらいになります》
「うわぁ、気が狂いそうになるな」
もし『お前、不死身にしてやるから、その間、人と会話せず、飲まず食わずで生活しろ』とか言われた、俺だったら、堪ったもんじゃねぇな……。
ブルックと違って、果たすべき約束があるわけでもないし……。
ん? “ブルック”?
……まさかな。
《それにしても、なんで加賀美さんには私の姿が見えるんでしょう?》
「……さぁーな」
俺が相坂を見ることができる理由。
心当たりがないわけじゃないけど……。
『♪~~ You've Got Mail♪』
その時、俺の携帯に一件のメールが届いた。
「……何回聴いても、“夕方メール”にしか聴こえないんだよな」
一瞬、学園長からかと思ったが、送信者名を見ると、“雪広”からであった。
予想してなかった差出人の名に俺は疑問に思いつつメールを開いた。
「なっ!?」
しかし、その内容に俺は思わず目を見張る。
《どうしたんですか?》
「………悪い、用事ができた」
《え?》
「じゃあな」
相坂は俺の表情の変わりぶりに、キョトンとしていたが、俺はそんなことは気にせず、傘もささずに全速力で足を動かした。
メールには一つの写真が送付されていた。
それは、水の塊に閉じ込められた、雪広や木乃香たちの姿であった。
そして、件名には一文、こう添えられていた。
『巨木の下のステージにて待つ』
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
-
ネギ・スプリングフィールド
-
神楽坂 明日菜
-
雪広 あやか
-
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音