あやか「この邪気は……!?」
総一「えっ、邪気?」
※三人称SIDE※
時は少し遡り、放課後の女子寮。
用事を済ませた3年A組の委員長こと雪広あやかは帰宅すべく、自分の寮部屋へと向かっていた。
「あ、こんにちは。いいんちょさん」
「こんにちは、ネギ先生」
その最中、寮の廊下にて彼女は自分の担任教師である少年、ネギ・スプリングフィールドに声を掛けられた。ネギがあやかの服を見て、「綺麗ですね、似合ってます」と褒めると、あやかは「まぁ!」と顔を赤く染めた。
「では、失礼します、
「はい! また明日!」
去り行くネギに手を振り、あやかは部屋へと足を進めた。
少年をこよなく愛するあやかは、ネギに褒められたことで、表情がとても明るくなり、その足取りはかなり軽やかになった。
「やはり少年はああでなくては。ネギ先生はまさしく“天使”のような……いえ、“妖精”のような方ですわ」
もし、この場に彼女の "悪友" がいたら、『なんで言い直した?』とジト目で訊いただろうが、あやかはそんなことはちっとも気にせず、ルンルン気分で足を進め、自分の寮部屋へとたどり着いた。
「えぇって――できるってェ!!」
「ほほほ――逃げても――」
「なにやら、随分と騒がしいですわね……」
中から聞こえる騒がしい声に首を傾げながらも、あやかはドアノブに手を触れた。
だが、手を触れた瞬間、中から感じる“やや強い気配”に、あやかは動きを止めた。
(……“誰か”いますわね)
ルームメイトのモノとは明らかに違う、その“気配”に警戒しながら、あやかはゆっくりと玄関の戸を開ける。
すると、中からの騒がしい声とともに少年が一人、あやかに向かってまっすぐぶつかってきた。
衝突する寸前、あやかは少年の肩を持ち、動きを止める。
「あっ、す、すまん!」
少年はあやかの顔を見て、ばつの悪そうな表情を浮かべた。
「…………はぁ」
対して、あやかは謝る少年を見て敵意がないことを確認し、短くため息をついた。
「まったく、初対面の女性に向かっていきなり頭突きしてくるなんて、礼儀がなってませんわね」
自身の頭に手をやりながら、あやかはやれやれと顔を横に振る。
「あら、あやか。おかえりなさい」
「千鶴さん、これは一体どういうことか説明してください」
横に立つ少年――小太郎を指しながら、あやかは奥から出てきた千鶴に事の説明を要求した。
☆☆☆
玄関からリビングへと移動した三人は、夏美を加えて、テーブルを囲うように席についた。『囲う』といっても、テーブルの一辺は壁と接しており、夏美はあやかと対面している千鶴と小太郎のやや後ろに座っている。
「それで、これはどういうことですの? ここは男子禁制、まだ幼いとはいえ、ここに少年がいるのは問題がありますわ」
「この子はね、夏美ちゃんの弟の村上小太郎君よ」
「なっ!!」
「え!?」
千鶴の突然の言葉に夏美と小太郎は声を洩らした。
二人のそのリアクションからなにかを察して、あやかは千鶴を細い目で見る。
「……ウソですわね?」
「あら、バレた?」
「当然です!」
千鶴はテヘッと自分の頭をたたく。
対して、あやかは千鶴から小太郎に視線を移し、警戒の眼差しを向けた。
小太郎の戦闘能力の高さを“覇気”で感じ取っているあやかは、その力量から彼がただの少年でないことを理解していた。敵意がないことから、とりあえず戦闘の構えは取らないでいるが、それでも小太郎が良からぬことを企んでいる可能性も捨てきれないでいるため、先程からずっと疑いの目を向けている。
そんな彼女の視線を不快に感じたのか、小太郎はムスッと表情を歪ませた。
「な、なんや、“おばさん”!」
「なっ!!」
まさかの言葉に、あやかは身をのり出して、小太郎の頬を引っ張り出した。
「十四の乙女をおばさん呼ばわりとは、一体どういうつもりですか!?」
「嘘っ! 十四!? 老け過ぎや!!」
「こ、この悪ガキィ!」
「
「
互いに頬を引っ張り合い、あやかと小太郎は取っ組み合いのケンカを始めた。
「こらこら、二人ともケンカしちゃダメよぉ」
「だって、このおばさんが!!」
「まだ言いますか! この悪ガキは!!」
「けど、
「少年なら誰でも良いというわけではありませんわ……」
千鶴と夏美の二人が止めに入るが、あやかと小太郎の気は落ち着かず、互いに火花を散らす。
しかし、ふとあやかの表情が変え、ある方向に顔を向けた。その方向にはカーテンの閉まったベランダのガラス戸があるだけだが、あやかの視点はそれよりも遠くを向いていた。
「…………この“気配”は?」
「な、なんや?」
その変化と微かな呟きに小太郎は疑問を持つが、すぐにあやかは玄関へと足を向けた。
「とにかく、事情は知りませんがなるべく早く出行ってくださいね! すみませんが私は用事ができましたので、少し出てきますわ」
「え、でもあやか、もう少しで夕御飯が……!」
「すぐ戻りますので。先に食べてもらって構いませんわ」
あやかは部屋を出て行った。
残された三人は顔を見合わせ、あやかの謎の外出に、ただただ首を傾げるだけであった。
☆☆☆
部屋を出たあやかは一人、寮の入口にやってきた。
そこから見える外の風景は荒々しく、大雨と強風、落雷によって散々なものとなっていた。
しかし、そんな嵐にも関わらず、寮の前にある広場にはコートを着た老人が一人、ゆっくりと此方に向かって歩いていた。
傘も指さずに暗い嵐の中を歩くその風貌は怪しいことこの上ないものであった。
「おや、これは美しい御嬢さん」
老人――ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵は寮の入口に立つあやかに気付くと、ニコリと作為的な笑みを浮かべた。
そんなヘルマンを、あやかは警戒の色を含んだ凛とした表情で見据えるが、ヘルマンの発する“気配”に一層警戒を強めた。
「……こんな時間に、一体なんの御用ですか?」
「なに、美しい御嬢さんに花を一輪と思いまして」
ヘルマンは懐から小さな花を取り出した。
「生憎ですが、知らない人から物はもらわないように教えられているんですの」
「そうかね、それは残念だ」
花を渡そうと、ヘルマンはあやかに近寄ったが、断られるとすぐに足を止めた。
「どなたが存じませんが、ここは男子禁制の女子寮。お帰り願いますか?」
「ふむ。しかし、私はこの寮にいる“小太郎”という少年に少し用があってね、良ければ連れてきては、もらえないかな?」
「……あの子に、何の御用ですか?」
「君には関係のないことだよ」
「………」
「………」
あやかとヘルマンの間に緊張が走る。雨が地に打ち付け、強風が吹き、雷鳴が轟くが、対称的に二人の間には妙な静けさが流れた。
「……関係があろうとなかろうと、貴方のような怪しい殿方の言うことを聞く義理はありませんわ」
「そうか……仕方ない。女性に手をあげるのは、あまりやりたくないのだがね」
瞬間、あやかの横を何かが横切った。
「すまないが、通してもらうよ」
手刀を入れたヘルマンがあやかの後ろに立つ。
あやかは膝をつき前に倒れた。
しかし、そこにあやか本人の姿はなかった。
「むっ、これは……“雪”?」
ヘルマンはそこに倒れる“雪の塊”を見て、目を大きく広げた。そして、まるで彼の体を通り抜けるように“冷気”が流れ、彼の後ろに影が差す。
その影である“雪の塊”は瞬時に人の形を作り、あやかへと姿を変えた。
「
あやかが姿を現すと同時に、彼女の体から“吹雪”が生じ、嵐並みの強風が辺りに走る。
その不自然な“冷気”に危険を感じ、へルマンは後ろの広場まで後退した。
あやかを中心に吹雪が吹き荒れ、寮の玄関はあっという間に雪に覆われた。
「なるほど、これが悪魔の実、“ユキユキの実”の
寮の玄関から広場へと侵食を進める“雪”を見て、へルマンは興味深そうに言った。彼は雪風で飛びそうになる帽子を押さえながら、あやかを見据える。
そのへルマンの反応を見て、あやかは微かに目を細めた。
「……悪魔の実を、御存知で?」
「あぁ、
「人の個人情報を調べるなんて、随分と悪趣味な方ですわね」
「情報収集は基本だよ。“相手”の情報を知らずに敵地に行くほど、私は間抜けではないのでね」
「一体、何が目的なんですの?」
「なに、ただの“学園の調査”だよ」
「……調査?」
ヘルマンの言葉にあやかは表情を曇らせた。
対してヘルマンは帽子を押さえ、表情を隠す。しかし、あやかには端から見える表情が、とても鋭く、不気味に見えた。
「さて、時間が惜しい。私にもやることがあるのでね。力づくでもそこを通してもらうよ」
「させるものですか!」
ヘルマンが戦闘態勢に入った瞬間、彼を中心に強風とともに雪が渦巻いた。
やがてその雪は半球状に形作り、ドームとなってヘルマンを中に閉じ込める。
「カマクラ」
まるで舞うように手を動かして、あやかは自身の“雪”を操る。
「
そして、カマクラの内側の前後左右、上方のあらゆる角度から、ヘルマンを狙うように“雪の棘”が出現した。
「なるほど、“雪を自在に操る”か、便利なものだな。まるで
『大人しく帰った方が身のためですわよ』
外にいるあやかの声がカマクラの中に響いた。
「生憎、子供の御使いで来てるわけではないのでね、そういうわけにもいかんのだよ」
ヘルマンは拳を握りしめ、まっすぐ突き出した。
「
魔力の乗ったその拳は、雪の壁を
カマクラが崩落したことで、ヘルマンの周辺には雪煙が舞った。
「雪景色」
続けて、あやかのその言葉をきっかけに、冷気が広場中に広がり、雨粒や水溜まりなどの周辺にある
広場はすっかりと色を変え、その一面を例えるなら、まさに“雪景色”。初夏を感じる時期にも関わらず、辺りは真冬の寒さが流れている。
「くっ!」
水気がすべて凝固したことで、へルマンの服にも雪が積もった。瞬間冷凍により血の気が引いた顔になったへルマンであったが、なにより問題なのは、地面が凍結したことで、自分の足が封じられたことだった。
「万年雪」
「むっ!」
更に周辺から帯状の雪が現れ、へルマンを捕らえるように巻き付いた。雪の帯はへルマンに巻き付くと、今度は身動きがとれないように固く絞め付ける。
「ふん!」
へルマンは腕の力で巻き付いた雪の拘束を解き、力付くで体中の雪を飛ばした。加えて脚を蹴り上げることで、足元の雪も散らす。
「やれやれ。流石、能力者。一筋縄では行きそうにないな。長引けばこちらの
口にする言葉とは裏腹にヘルマンの表情には余裕があった。彼のその表情を見て、あやかの表情には疑惑の色が差した。
(あの
しかし、ヘルマンの狙いを考える前に、突如、あやかの背後に影が差した。
「なっ!?」
その影はあやかを覆うように体の面積を増やしていく。
(水っ!?)
あやかは咄嗟に左に移動するように地を蹴った。
しかし、それが敵の策略でもあった。
「かかった!!」
辺りから、ややかん高い少女の声がする。その声に聞いたと同時に、あやかは周辺の“三つの気配”を感じ取ったが、もうすでに手遅れだった。
気配を探った瞬間、あやかの体を覆おうとしていたモノとは、別のなにかがあやかの腕に纏わりつき、“黒色の手錠”をつける。
「海楼石!?」
腕につけられた“手錠”により、あやかは体中の力が抜け、地に倒れた。
「ふむ、“本来の用途”とは違ったが、用意して正解だったな」
「まさか、仲間がいたなんて……」
「私が一人で調査に来たと言った覚えはないよ」
「しかし、何故? 近付かれるまで“気配”を感じませんでしたわ」
「我々は、あの“
「くっ!」
力が出ない自分の体にあやかは悔しさを噛み締める。
「“
「一つしかないので、もったいない気もしますが……」
「問題ないでしょう、"水牢" に入れて錠を取れば、また使えますし」
あやかの周辺に現れた液状の生物――スライム悪魔三人は、小人の少女へと姿を変えた。
「能力者といっても、所詮はただのガキだな」
「こんな“石ころ”で弱るとは……」
「あまり大したことないようですね」
「いやいや、彼女はとても強い。あのまま長引いていたら、こちらが負けていたかもしれないよ」
ニッコリと笑みを浮かべながら、へルマンは倒れるあやかの横に立つと、何かの呪文を唱えた。すると、水の渦が倒れたあやかの体を捕らえ、水たまりの中へと引きずり込みはじめた。
「……私をどうするつもりですか?」
「なに、心配ないよ。少し“彼ら”を呼ぶために協力してもらうだけだ。まぁ、“水牢”の中は能力者にとって居心地が悪いかもしれないが、少し我慢してくれたまえ」
そうして、あやかの体は水の中へと姿を消した。
水たまりは波紋を広がらせてだんだんと量を減らし、その場から消失する。
「さて、邪魔者はいなくなったし、仕事に掛かろう。君達は手筈通りに頼む」
「「「ラジャ」」」
スライム悪魔三人は液体となって姿を消した。
三人がいなくなったのを確認したヘルマンは、寮の中へと足を進める。
「ぬっ!!」
しかし、歩き出した瞬間、彼の体に痛みが走った。へルマンは反射的に痛みを感じたわき腹に手を当てる。
「凍傷か……この私に傷をつけるとは、流石は能力者……いや、ネギ君の生徒、といった所か」
そうして、ヘルマンは笑みを浮かべながら、一人、寮へと入っていった。
TO BE CONTINUED ...
前に読者様から一人称と三人称が混じって読みにくいという声がありましたが、今回、総一の一人称ではおかしいので、三人称視点です。
あやかの一人称すれば、良かったのかもしれませんが、私の作文能力では無理でした。|||orz...
なるべく統一しようとは思いますが、今後、総一が出ない回、戦闘描写の回では、三人称が入るかもしれません。その点、御了承してくださると嬉しく思います。m(__)m
予定では、あと2~3話で麻帆良祭編に入るはず……。
では『待て、次回!』
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音