もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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総一「効かないねぇっ、天使だから」




31. 天使VS悪魔

 

 

 

 ネギの感情による魔力の暴走に、へルマンは一瞬圧倒されたが、その攻撃はネギ自身の本能に任せたもので、彼にとっては反撃するに容易いものだった。まっすぐ突っ込んでくるネギに向け、彼は口から石化の呪いをかける光を放つ。だが、その光線は、小太郎の助太刀によって(かわ)されてしまった。

 光線を躱したことに、明日菜や水牢に入っていた木乃香達は安堵した。

 しかし、その安堵も一瞬のことだった。その光線の先には、倒れていた総一がいた。光線は総一に直撃し、光が消えると共に総一の体を石へと変えた。

 

「加賀美さん!」

「総一!!」

 

 その場にいた全員が総一の石像を見て、声を上げた。

 

「ふむ、狙いとは違ったが……まぁ、結果オーライと言ったところか……」

 

 悪魔の姿をしていたへルマンは、悪魔の体から老人へと姿を変え、地に降りた。

 

「加賀美くん!」

「総くん!」

「師匠!」

 

 古菲達が総一に呼び掛けるが、返事は返ってこない。

 

「総一! ちょっと、アンタ!! 総一を元に戻しなさいよ」

「残念だが、私は呪いをかけることはできても、解くことはできないのだよ」

「ふざけんじゃないわよ!」

「………」

 

 明日菜がへルマンを睨む。

 しかし、彼は明日菜に背を向け、帽子を押さえて静かに顔を隠すだけであった。

 

「そ、そんな……僕のせいで……」

「アホか! お前のせいちゃうやろう! 全部、あのオッサンがやったことや!!」

「で、でも!」

 

 ネギの顔に絶望の色が差す。

 彼は総一の石像を見て、同じように石化したウェールズの村人たちを思い出した。

 雪の降る夜、燃え上がる炎、崩壊する建物、石化する人たち、襲いくる悪魔。

 過去の絶望的な光景がネギの脳裏を過る。

 

 ――ピキッ

 

 しかし、突然、辺りから何かが割れる音がした。その音は嵐の中でもはっきり聴こえ、一発だけではなく、二発、三発と、音程を変えてその場に響いた。やがて、音はガラゴロと何かが崩れ落ちる音を含み始める。

 その場にいた全員は、それらの音のした方に目を向けた。

 

「な、なに……?」

 

 自分たちが目にしているモノに、皆一様に目を見張った。

 皆が見ているもの、それは体に亀裂が走っている総一の石像だった。亀裂からは微光が漏れている。そしてその亀裂は背中を中心にして全体へと伝播していた。

 やがて、背中の石が剥がれ、バラバラと地に落ちた。代わりにそこから、大小二対の羽が姿を現す。純白のその翼は小さくも神々しい光を放ちながら大きく広がっていく。

 

「これは、一体……!?」

「な、なんなの!?」

 

 その場にいる者達は、その光に目を奪われ、総一の体の変化に、驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 これは総一がこの世界――ネギまの世界――に生を受ける、少し前の話。

 

(あれ? 空が真っ白だ……)

 

 意識を取り戻した総一は身を起こして、周りを見た。

 辺りには何もなく、無機質な白い空間が広がっている。総一は白装束を着せられ、頭には謎の三角の鉢巻きがつけられていた。

 

(あれ? 何で俺はこんなところにいるんだ?)

 

 総一は頭を押さえながら、記憶を探る。

 

(あれ? そういば、俺、確か車に引かれて……)

 

「其方の命は尽き、その魂はここ、天界へと導かれた」

「誰だ!?」

 

 何処からか聴こえてきた声に、総一はまた周りを見回した。

 しかし、周りには誰の姿もなく、どこを見てもただ白い(もや)なようなものが漂っているだけであった。

 

「人は天寿を全うし、初めてその魂を天へと還すことができる。其方は再度その魂を下界に落とし、生を遂行しなければならない」

「おい、誰だ? さっきから一方的に物言いやがって! 人と話すときは相手の目を見て話せって、習わなかったか、コラ」

 

 現状が理解できず、混乱して半ば喧嘩腰になる総一だが、ふと背後から聴こえた物音に反応し、身を翻した。

 

「転生するなら何処に生きたい?」

 

 そこには、ベージュのマントに身を包み、自身の身長と同じ長さの杖を持った老人がいた。

 老人の身長は、総一とは頭ひとつ分低いが、腰はまっすぐと伸びており、何処か神々しい雰囲気を醸し出している。

 

「……あなたは?」

「我は神なり」

(エネルかよ……)

 

 どこかで聞いたフレーズに、総一は内心でツッコミを入れた。

 

「今より其方の魂を下界に還す。其方が望むなら、その下界を選ぶことも可能なり」

「おい、『下界に還す』って何んだ!? というか、現状が飲み込めなさすぎて、話が全く入ってこないんだよ! 最初から話せよ」

「良かろう。そもそもの始まりは天界ができた三千二百四十五垓、三百七十九京、五百二兆、六千百七十七億、八千六百二十一万、二千七百十八年前、我々の先祖たる神々は世界を創造し、七日の日時をかけて、(ことわり)を創った。創造主たる七神の一柱、整頓と混沌を極めたタレスは、同じ七神の一柱であり、生き物の魂を管理するキロンと、時間と空間を司るビアスと共に、世界を構成する秩序と法を示したが、それらを良しとしなかった他の七神、ソロン、クレオブロス、ピッタコス、ミュソンの策略によって、天界の(まつりごと)から身を引くことを余儀なくされた。だが、これを聞いた元老院の一人、パトリキの―――」

「長ェーよッ!!」

 

 声をあげ、総一は老人の語りを止めた。

 

「年数の具体的な数字とか、神々の抗争とかなんてどうでも良いんだよ! 良いから、俺の身に起きたことだけを簡潔に話して下さい! お願いします!!」

 

 相手が老人だと意識する余裕ができたのか、総一の口調が変わった。

 老人は、うむ、と頷き、再度口を開く。

 

「……人の魂は死を迎えて天へと還る。しかし、下界で生を遂行する中で、まれに魂が自然の理に背いて天に昇ることがある。(ことわり)に背いた魂は天に還るには、まだまだ未熟。その未熟な魂をそのまま天へと還すと、その魂は天界を律する上で、少なからず災厄をもたらす。よって我々はその未熟な魂を下界に還し、再び、生を遂行させなければならない。其方の魂も、また、その例にもれず。下界でまた生を遂行させなければならない」

「えぇーと、つまり……俺は早死にしたから、また生きろってこと?」

 

 老人の言葉を聞き、総一は首を傾けながらも、自分なりに話を纏めた。

 

「うむ」

 

 老人は深く頷いた。

 

「じゃあ、そう言ってくれません? ただでさえ現状理解できてないのに、難しい言い回しされたら、分かることも分からないんで」

「なるほど、承知した……」

 

 老人は目を閉じ、また深く頷いた。

 そしてしばらくすると、目を開け、まっすぐ総一を見据える。

 

「お前、事故って死んだから、わしが今から転生させちゃるよ」

「うわぁ、なんか一気に軽くなったな……」

 

 このノリ、どっかで見たことあるぞ、と総一は思った。

 その後、総一は自分がここに至るまでの詳しい経緯を老人から聞いた。

 

「……うん、大方は理解しました。要はネットによくある二次創作みたいな感じですよね?」

「そういう事じゃ」

 

 口調が軽くなった老人から話を聞き、総一は自分の現状を理解した。

 

「それで、転生特典はどうする?」

「あぁ、あるんだ。特典」

「うむ。よく転生するもの達が選ぶ“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”から、マイナーな“相手をメガネ好きに変える能力(ちから)”まで、なんでも御座れじゃ」

「前者はともかく、後者は絶対誰も選ばないですから!」

「そうか? なら“鼻毛真拳”など、どうかの」

「もっとねぇーよ!!」

 

 まるで威厳の無くなった神に、総一は顔をしかめた。

 

「まぁ、なんでも良い。はやく選べ……あぁ、できれば、漫画やアニメの設定を引用してくれると助かるの」

「そんなこと言われても急には出てこないですよ……そうだなぁ」

 

 総一は考えた。

 自分の欲しい能力――つまり、自分が人生において欲しいと思うもの、それがなんであるかを総一はまず考え出した。

 

「うぅーん……“健康”かな……」

「ん?」

「いや、次の人生は、無病息災でいたいかなって……」

「御主、年の割に随分と爺臭いことを願うな。こういうときは、もっと夢のあるものを頼むのが普通じゃろうに……」

「そうは言いますけどね、リアルな話、インフルエンザとか地味に苦しいんですよ。癌とか動脈硬化とかも怖いですし、血圧とか尿酸値とか悪玉コレステロールとか、そういうの気にして生きたくないんですよ!」

「……御主、ホントに十代か?」

「もう少しで二十代ですけど?」

「嘘つけ、本当は四十代後半とかじゃろ!?」

 

 総一の願いを聞いて、老人は思わず声を荒らげた。しかし、そこは個人の思考と割りきり、老人は話を進める。

 

「まぁ、良い……それで、どんな能力が良いんじゃ? 健康第一は良いが、その類の能力も色々とあるぞ」

「そうだなぁ……こういうとき、パッと出てこないな。えぇーと、無病息災……“不老不死”は不死身になりたいわけじゃないから、ちょっと違うし……“サイヤ人の超人的肉体”とか……あ、でも、悟空って病気で死んだりしてたな……」

 

 あーでもない、こーでもないと、一人ぶつぶつ呟く総一に、やがて老人はやれやれと首を横に振った。

 

「……仕方ないのう、決まらんようなら、わしが御主の希望に沿うような能力を決めてやろう」

「え?」

「要は健康に過ごせればよいのじゃろう? つまり、身体や精神に害を及ぼす要因とは無縁な体であれば良いということじゃ」

「……まぁ、そうですね」

 

 言葉の齟齬がないよう、総一は老人の言葉を何度も頭で繰り返した。

 

「なら、わしがそれに適した能力を選んでやる」

「一体どんな?」

「それは……うぅーんと……えぇーと……」

 

 老人は懐から何かを取り出そうと、自分の服のポケットのあちこちに手を伸ばした。

 やがて、「お、あったあった」と老人は懐からなにか取り出した。

 

「……なぜ、ジャンプ?」

「いや、なに、この少年誌の中から御主の希望に沿うものを探そうかと……」

「あぁ、そうですか? でも、俺、少年誌はサンデー派なんだけど……」

「別にこの少年誌のことを知らないわけでもあるまい」

「まぁ、当然、知ってますし、日本男児だったら誰しもが読んでるかと……けど、俺、ジャンプ作品は気に入ったモノだけを単行本で熟読するタイプだったから、知らない作品の方が多いし……」

「構わんじゃろ。要は御主に与える能力について知れば良いのじゃからな」

 

 老人はペラペラとページをめくり、あるところで指を止めた。

 

「うむ……これにするかの」

「え、なに?」

「このマンガの“悪魔の実”、これを使おうと思う」

「悪魔の実? ……あぁ、“オペオペの実”とか“チユチユの実”の能力者になれば……」

「うむ、そういう手もあるの」

「えっ、違うの?」

 

 老人が選んだものは総一が購読していたものらしい。しかし、老人は総一の考えにゆっくりと首を横に振った。そして、その老人の言い回しに、総一は疑問を覚える。

 

「御主が得たいのは健康的で無病息災な体であろう、これに出てくる既存のモノでは、それには不十分じゃ」

「……まぁ、確かに。たしかオペオペは外科的な治療、チユチユは一時的な超回復だったな」

「御主がそれでも良いなら、別に構わんが、それでは不満じゃろう?」

「えっ、いや、別に不満はないですけど。まぁ、イメージとは違うかな……」

「そうじゃろう。あとで体を壊して言ってたことと違うと恨まれてもつまらんからの」

「別に恨みませんよ。悪質なものならともかく、便利な特異能力くれるって言ってるのに、それにケチつけるとか、どんだけ図々しいんですか」

「いやー、でもたまにおるんじゃよ、そういうヤツ」

「クズだな、そいつ」

 

 どこの誰とも知らない、その人間を総一は見下げ果てた。

 

「それに、これでもワシは完璧主義なんじゃ。要望には百二十パーセント答えるぞ」

「それは……まぁ、ありがとうございます」

 

 神が全員こんな風ならば、信者が神に祈る理由も分からなくはないなと、目の前の老人を見ながら、総一はそう思った。

 

「では、御主の能力じゃが、この“悪魔の実”というやつで良いかな?」

「えぇ、別に構いませんけど、具体的にはどんなのですか? 既存の物じゃないなら、オリジナルとか?」

「ふむ……ヒトヒトの実、モデル天使でどうじゃ? 能力は御主の望んだ通り、無病息災な体じゃ。空も飛べるし、多少の身体能力の強化もできるぞ」

「それは有り難いですけど、天使っていうわりには能力が地味じゃないですか?」

「なんじゃ? 納得いかんのか?」

「いえ、能力その物に不満はないです。でも“天使”って明らかに名前負けしてません?」

「確かにの……まぁ、しかし、気にするな。生きてるうちに慣れるじゃろう」

「そう、ですか?」

 

 一抹の引っ掛かりを覚えながらも、総一は渋々と了承した。

 

「それで、最初に問うたが、御主は何処に生きたいのじゃ?」

「別にどこでも。強いて言うなら……えぇーと……“現代日本”。というか治安の良い場所なら何処でも良いです」

「……御主は本当に年に似合わず現実的じゃのう。もっとこう、夢のある世界で生きようとは思わんのか?」

「夢のある世界って、例えば?」

「あるじゃろ、こう……“魔法”のある世界とか」

「じゃあ、“魔法がある治安の良い現代日本”でお願いします」

「……もう良い、分かった」

 

 老人は呆れたように首を縦に振った。

 

「では、御主の魂を下界に落とすぞ。付与した能力の把握は、御主自身でしてくれ。下界は御主の要望通り、“魔法のある現代日本”じゃ。御主の能力の存在に無理があるといかんから、多少、違う所もあるが、その辺の把握も御主自身で頼む」

「アイアイサー」

「……まったく、最後までよく分からんヤツじゃのう」

「そうですか? 結構、単純だと思いますけど」

「どうかな……では行ってこい」

 

 

 ――こうして、総一の二度目の人生は始まった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 視界が一瞬なにかに遮られたが、すぐに総一は自身の“能力”によって、気を取り戻した。

 体の表面についていた石がボロボロ崩れはじめ、石化していた身体は動きを取り戻していく。そして同時に、頭には光の輪が現れ、背中には二対の翼が生えた。

 

「ほう、これは……」

「アレは!?」

「か、加賀美さん!?」

「なんや、あの兄ちゃん! 妖怪か!?」

 

 総一の姿の変化に周りにいる者は、驚きの声を漏らした。

 

「それが君の能力というわけか、私の石化を解くとは中々なモノではないか」

「ペッ……みたいだな。正直、はじめて使ったけどな」

 

 口の中も石化していたようで、総一は口の中の石を吐き出して言った。

 

「流石は、“悪魔の実の能力者”だな。私の想像の上を行く」

「えっ!?」

 

 この場で唯一聴き覚えがあるであろうネギが、驚きの表情をしてへルマンを見た。

 

「ネギ君、君なら知っているだろう。“悪魔の実”という果実を」

「悪魔の実!? そ、そんな、アレはおとぎ話に出てくる空想上のモノじゃ!」

「悪魔の実は実在しているよ。今の加賀美君の姿がその証拠さ。それに、君はあの雪の日の夜に見ているはずだ。悪魔の実を口にした人間、“能力者”の姿を。あの時、建物を破壊して回っていた(マンモス)、アレも能力者だよ」

 

 ヘルマンの言う“(マンモス)”に、小太郎以外の全員が同じ存在の姿を頭に過らせた。

 

「悪魔の実?」

 

 しかし、同時に聴き慣れない単語に明日菜を含む全員が疑問を持った。

 

「小太郎君や君たちは初めて聞くのかね? まぁ、知らなくとも無理はない。魔法使い達にとっても悪魔の実の名を知れど、実態を知るものは少ないからね」

 

 面白そうな表情を浮かべながら、へルマンはネギを見ながら口を開く。

 

「我々、悪魔の間では、悪魔の実は祖先が自身の力を残すため、体の一部を果実に埋め込んだ物だと語られているが……まぁ、実際の詳細ついては知られていない。分かっているのは、悪魔の実を口にしたものは、海の悪魔の化身になるということだけだ」

「悪魔の化身!?」

「じゃあなんや、あの兄ちゃんはオッサンの同族ってことかい?」

 

 へルマンを睨みながら、小太郎は訊ねた。

 へルマンは、小太郎とネギを一瞥すると、ふっ、と笑い、顔を伏せる。

 

「……さぁーね。確かに彼は“ある意味”私と同格な存在かもしれない」

「適当なこと抜かすな、くそジジィ!」

 

 惚けたように誤魔化すへルマンに総一は声を上げた。

 

「適当、か……果たして本当にそうかな? 君からは微かに私と同じ匂いを感じるがね」

「誰があんたみたいなジジィと同じ加齢臭なんて出すかよ」

 

 総一の返答に、へルマンは「参ったね」と笑った。

 

「では訊くが、総一君……君は一体何者なのかね?」

 

 へルマンは総一を見据えた。

 

「………」

 

 少しの沈黙の後、総一はギュッと拳を握りしめた。

 

「……“ヒト”だよ、コノヤロー」

 

 その言葉を残して、総一はその場から姿を消した。

 

(速い!!)

 

 急に目の前に現れた総一の姿に、ヘルマンは身構えることすらできなかった。姿を消した総一は、すでにへルマンに手が届く位置へと移動していた。

 総一は“覇気”を纏った拳を突き上げた。ヘルマンは顎に痛みを感じると共に、見ていた光景が残像と化す。

 

「くっ!!」

 

 体が宙に浮き、へルマンは体勢を立て直そうとするが、直後、彼の背中に衝撃が走る。

 感じる痛みに耐えながらも、彼は目を開けた。視界に移る影を追い、己の体をそれから守るように身を固める。

 

嵐脚(ランキャク)

悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)

 

 斬撃と打撃がぶつかり合い、衝撃波となって消失した。

 ヘルマンは自分の体を悪魔の姿へと変えた。幽々たる大きい翼を広げて、長身の体を宙に浮かせる。同じく総一も白い翼を動かして、へルマンと向かい合うように体を浮かせた。

 

「へへっ、空中なら気兼ねなく戦える」

「ふっふっふっ、同感だな」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、二人は互いに相手を見据えた。

 

「ハァァァ!」

「ふん!」

 

 二人は一気に間合いを詰めた。

 翼を羽ばたかせ、拳を突き、脚を振り、打撃を飛ばし、斬撃を走らせ、轟音を鳴らしながら、二人は闘う。

 攻撃が衝突して空気が震え、二人が動くことで突風が吹く。

 

嵐脚(ランキャク)

 

 総一が脚を振り上げて斬撃を飛ばすが、へルマンは上へ移動することでそれを避けた。

 

「ハァ!」

「武装」

 

 へルマンの連続的に放たれる強力なパンチを、総一は黒く染めた手で受け止めた。

 

「くっ……たァ……」

「ハァ……むっ……」

 

 どちらも、一瞬の間も生じさせない激しい攻防。互いに攻撃を受け合い、やがて、両者の体の傷が目立つようになってきた。

 

「ハッハッハッ、そうだ! やはり、闘いはこうではなくてはな!!」

「戦闘狂か、めんどくさいな」

 

 へルマンの笑い声に総一は顔を引きつらせた。

 

「君は楽しくないのかね?」

「あぁ、全く楽しくないな」

「では、何故、君は闘う?」

「……は?」

「君の戦う理由はなんだ? 彼女達を巻き込んだ責任感か?」

 

 へルマンの問いに総一は沈黙した。そして、次第に総一の額に青筋を浮かび上がる。

 

「……お前がケンカ売って来たからだろうがァァ!!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 地上にいる者達は、ただただ呆然として二人の闘いを見上げていた。

 

「……す、すごい」

「動きがまったく見えへん……」

「一体、なにがどうなってるの?」

 

 少年達は彼らの闘いに息を飲み、少女達は二人の微かに見える動きを追うので手一杯であった。

 

「あれが能力者の闘いか……やっぱり、人間技じゃねぇ」

「なにか知っとるの、カモ君」

 

 水牢の中で、カモの呟きを聞き、木乃香が訊ねた。

 

「俺っちも、悪魔の実の能力者ってのはおとぎ話でしか聞いたことがねぇが、あれを見る限り、総一の兄ちゃんはどうやら本物みてぇーだ」

「カモ、その能力者って一体なにアル?」

「能力者ってのは、悪魔の実っていう悪魔の宿った果実を食うことで、なにかしらの能力(ちから)を得た者のことだ。俺っちの聞いた話じゃ、能力者になると体に悪魔が宿って人間の体を乗っとるらしい」

「えぇ!」

「じゃあ、加賀美君って悪魔なの?」

 

 木乃香が驚き、和美が訊ねた。

 

「わからねぇ、俺っちにはなんとも……とりあえず、総一の兄ちゃんがあのオッサンを引き付けてる今がチャンスだ」

「うん、そうやね。皆、はよ――」

 

 水牢から脱出を計るため、木乃香は隠し持っていた杖を取り出した。

 しかし、途中、木乃香の言葉が途切れた。

 そして目の前の光景を見て、水牢の中にいるもの達は、また目を丸くした。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 上空の闘いの中で、優勢にいた総一であった。八つ当たりのように攻撃する総一だが、その思考は極めて冷静ではあり、少しずつへルマンを劣勢に追いやっていた。

 

「ハァ!」

「武装」

 

 へルマンの攻撃を総一は“武装色の覇気”で防ぐ。そして翼を羽ばたかせ、上へ飛び、体を回して、カウンターにと足を蹴り下ろした。

 

「くっ!!」

 

 戦闘経験でいえば、へルマンの方が圧倒的に上であったはずだが、総一の予想外の強さと戦略に彼は虚をつかれ、普段の力を出せないでいた。

 つまり、へルマンは油断していたのだ。

 

(ソル)

「はっ!?」

 

 やがて、へルマンは総一を見失った。

 

「武装色硬化」

 

 総一はへルマンの後ろに現れ、武装した拳を振り下ろした。その拳は見事へルマンの後頭部に直撃し、彼をステージへと突き落とした。

 

来れ(アデアット)

 

 総一は落ちるへルマンを追う中、アーティファクトを取り出した。そして金色に輝く神弓を双剣として両手に持ち、同時に振り下ろした。

 へルマンの体が仰向けになる形で、ステージに落ちた。彼は向かってくる総一に対抗すべく、すぐに身を起こそうとした。

 だが、その体は動かなかった。彼は自分の体に違和感を感じた。自身の翼に目を向けると、そこには地に刺さる黄金の剣。右左両方の翼と共に刺さったその剣によって、へルマンはステージに固定されていた。

 

「オリャァァァ!!」

 

 黒く染まった総一の拳がへルマンに向かって振り落とされる。

 その拳は辺りに突風を広げ、へルマンを中心にクレーターを作った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「はーい、終了」

 

 へルマンの顔の横に置いた拳を引っ込め、総一は立ち上がった。頭上にある光の輪と背中の翼を消し、地に刺さっている自分のアーティファクトをカードへと戻した。

 へルマンもそれを見て、自分の体を老人の姿へと戻した。

 

「……なぜ、当てなかった」

 

 地に倒れたまま総一の後ろ姿を見て、へルマンは言った。

 

「俺の狙いは人質の解放。“それが果たされた”のならアンタを倒す意味はない」

 

 それを聞いて、へルマンは驚き、ステージ上の少女達に目を向けた。

 するとそこには水牢はなくなって、代わりに一面が“雪”で覆われていた。部下のスライム悪魔は固められて雪像と化し、人質は解放されて隅で凍えている。

 

「ネギ先生!! 大丈夫ですか?」

 

 この光景を作ったであろう“彼女”がネギへと駆け寄る。

 

「委員長さん!?」

 

 ネギと小太郎は駆け寄ってくる少女――あやかに目を丸くした。

 

「委員長さん、これは一体……?」

 

 ネギに訊かれ、あやかは困った表情をした。

 

「……黙っていて申し訳ありません。私も悪魔の実の能力者なのです」

 

 あやかの言葉にネギは驚愕した。

 

「彼女か……けど、どうやって?」

「俺がやったんだよ」

 

 へルマンの呟きに、総一は答えた。へルマンは、その答えに不思議に思う。そして、彼はさっきの闘いの中で総一がいつあやかを解放したのかを思考した。

 

「……まさか、あの時の“斬撃”」

「正解」

 

 さっきの闘いの中で、へルマンにはひとつだけ、心当たりがあった。

 上空での戦闘中、総一はへルマンの上をとり、何度か嵐脚(ランキャク)を放った。へルマンはそれを受け流していたが、その中の一撃があやかの入った水牢に当たっていたのだ。

 

「ハッハッハッ……まったく、してやられたよ」

 

 今思えば、あの攻撃を躱すのはかなり容易だった、とへルマンは思った。

 

「じゃあ、少年」

 

 総一に呼ばれ、ネギは、「えっ」と声をもらした。

 

「コイツの始末は少年に任せるわ」

 

 総一はその場に座り込んだ。

 今、へルマンの姿は総一のアーティファクトの“退魔の性質”によって、体が煙のように消失していき、トドメを刺すのは難しくない。

 ネギは表情を変え、杖を握り、へルマンのそばに立った。

 

「……僕は……あなたにトドメは刺しません」

 

 しかし、ネギは何もしなかった。

 へルマンは静かな目でネギを見た後、その答えに笑い声をあげた。

 やがて、へルマンは木乃香ならばウェールズの村人たちを治すことができると話した。

 

「――村人を救う方法はもうひとつ……総一君」

「……なにか?」

 

 更に、へルマンは続ける。

 

「悪魔の実の能力者には、稀に“覚醒”をする者がいるそうだ」

「……あぁ、知ってるよ」

「私の調べでは、覚醒した者は自身の能力を強化することができるそうだ。もし君が覚醒すれば、村の人達の“呪い”を解くことができるかもしれない」

「………」

 

 総一はへルマンを見据えた。しかし、その眼は焦点があっておらず、何かを考えているようであった。

 

「……覚醒か、難しいことを言う」

「ハッハッハッ。まぁ、これは私の想像に過ぎない。私としても、コノカ嬢が治す方が成功する可能性が高いと思っている」

 

 へルマンの体が全て煙と化した。

 

「ふふっ、礼を言おう、ネギ・スプリングフィールド君。またいつの日か会うとき、君の成長を楽しみにしているよ……」

 

 周辺にヘルマンの笑い声が響く。彼の体だったと思われる煙が天へと昇る。そして、いつの間にか空は晴れ、少し欠けた月が優しく光っていた。

 

「………」

 

 総一は天を見上げ、その煙が消えたのを見た後、ゆっくりと視線を下げた。しかし、途中、世界樹の上方にある枝に立つ三人の人影を見つけ、その中の一人に目を止めた。

 

 

「……“覚醒”ねぇ」

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 






やっと、ここまで来たなぁ……長かった。
次回からは、麻帆良祭準備編ですね。ここまで長かったけど、ここからもまた長い。
一応、予定では、麻帆良祭が終わったら完結。
おまけエピソードとして、魔法世界編、エピソードオブエヴァンジェリン、エピソードオブ超(未来編)を書こうかなって……まぁ、あくまでも予定ですが……。
そして、完結した後にこの三つの予告編を書いて、どれを書くかを読者様のアンケートで決めようかなって……はい、あくまでも予定ですよ、えぇ……。

超素人作者の暇つぶし駄文作品ですが、とりあえず、完結させるまで頑張ります。
そして、私が書いていく中で読者の皆様が少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。

では、『待て、次回』

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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