もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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総一「ヒトヒトのーー、(ピストル)!!」

エヴァ「ただの右ストレートだな」

総一「………」




第6章 麻帆良祭準備期間
32. よく分かる?悪魔の実解説


 

 

 

 悪魔が来襲した翌日の放課後、もはや通いなれてしまった学園長室へと、俺は足を運んだ。学園長室は女子校と男子校、事務室や進路相談室などが密集する中央棟の三つの箇所にあるが、今回は男子中等部のすぐ近くにある男子校の方だ。

 

「――以上が昨夜に起こった出来事についてです」

 

 いつも通り、学園長とデスクをはさんで向かい合いながら、俺は昨夜の報告を終えた。

 

「ふむ、ご苦労じゃ……」

 

 俺が話を終えると、学園長は手を組んで何やら考え込んだ。

 

「うーむ、まさかネギ君の故郷を襲った悪魔が来るとはのう。それも学園の結界を容易にあざむいて……誰かが手を回したとしか思えんのう」

 

 多分、フェイトだろうな、と内心で思いながら、俺は「でしょうね」と相づちを打った。

 

「そういえば、前に頼んだ能力者についてですが、どうでしたか?」

「あぁ、あれか。無論ちゃんと調べたぞ」

 

 学園長はウェールズにある魔法学校の校長と連絡を取り、その事について色々と聞いてくれたらしい。

 その人の話によると、ネギ君の故郷を襲ったゾウゾウの実の能力者は、とある監獄に送られ、今も収監されているのだそうだ。

 話を聞いて、俺は少し安堵した。

 

「そうですか……わざわざ調べてもらって、ありがとうございます」

「なに、気にするな。大したことじゃないわい」

 

 学園長は少し間をおき、更に続けた。

 

「しかし、なぜ君はこの能力者について知りたかったのじゃ?」

「いえ、ネギ君の過去を見て、どうなったのか少し気になりまして……なんか、こう、イヤな予感もしましたし……」

 

 具体的に言うと、その能力者がヘルマンと一緒に麻帆良に来るんじゃないか、とヒヤヒヤした。

 

「そうか……」

 

 学園長は「まぁ、良い」と呟き、会話を区切った。

 

「次に、和泉君のことじゃが……」

「……はい」

 

 次に学園長が出した話題に俺は表情を曇らせた。

 

「………」

 

 何も言わず、俺は学園長の言葉を待った。

 すると、学園長は俺の表情を見て、なにか感じたのか、短く息をついた。

 

「……そう思い詰めるな。事故というなら仕方あるまい。なにも言わずに留守にしたワシにも落ち度があるしの」

「いえ、和泉が悪魔の実を食べたのは、俺の管理が甘かったのが原因ですから……どんな処分も受け入れるつもりです」

「う~む、そう自分を責めんでも……当の本人はなにか言っておるかの?」

「特になにも。雪広からはいつも通り生活してると聞きました」

「そうか、それは良かった……では一先ずは、和泉君のことは、雪広あやか君のときと同様、君に任せる。無論、何かあればすぐに知らせに来て欲しい」

「……了解です」

 

 そうして、この日の話は終わり、俺は一礼して、学園長室を後にした。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 それから数日後。

 

 

「悪魔の実は海の悪魔の化身と言われていて、食べれば異能の力を身に付け、海に嫌われる、そういわれてる」

「海に嫌われる?」

 

 明日菜が首を傾けた。

 

 ヘルマンが襲来した日、ネギ君たちに俺たち能力者の存在を知られ、それについて話をせざるをえなくなった俺は、エヴァさんの別荘ダイオラマ魔法球の中で、雪広、和泉たちと一緒に、ネギ君(カモ付き)と明日菜、木乃香、桜咲、宮崎、綾瀬、(くー)、朝倉に悪魔の実について話をすることにした。当然、エヴァさんと茶々丸さん、チャチャゼロも一緒だ。

 和泉については、能力者ながら魔法とは無関係という立場であったが、この際なのでと、ここに来る前にすでに魔法について、存在をばらした。

 当然、各々、和泉亜子も能力者だったなんて、魔法が本当にあるだなんて、と驚いていたが、魔法球の中に入る頃には、その驚きもすっかり和らいでいた。また、それまでネギ君はエヴァさんが能力者であることを知らなかったらしく、エヴァさんが能力で吸血鬼になっていたことに驚いていた。

 

 そして、今、俺はネギ君たちと向き合いながら、悪魔の実の実態を教えている。

 

「泳げなくなるってこと」

「なんで?」

 

 朝倉が訊いてきた。

 俺を含めたみんなが、塔の天辺の広場に立っていた。しかし、エヴァさんファミリーの当人と従者二人(二体かな?)は俺たちとはニ、三歩離れたところで様子を窺っている。

 

「知らない。けど、実際、水に浸かると身体中すっごい力が抜けるんだよね、ホントに」

「だから、マスターは泳げないんです」

「茶々丸、余計なこと言うな!」

「ケケケ」

 

 茶々丸の言葉に、俺はチャチャゼロと一緒に――俺の場合、内心で――笑った。

 エヴァさんの場合、能力者じゃなかったとしても泳げないと思うけどな。

 

「そういえば、総くんが泳いどる所って見たことないかも……けど、いんちょは初等部のときプールで泳いどらんかった? よくアスナと競争しとったやん」

「それは初等部の低学年の頃ですわ。私が能力者になったのは初等部の中学年になる少し前ですから」

「そういえば、この前、南の島で溺れてましたね」

 

 綾瀬が思い出したように言った。  

 

「それで、“異能の力”って具体的に何なんですか?」

 

 宮崎が訊いてきた。

 

「そういえば、あのエロジジィは、悪魔になるとかなんとか、言ってなかった?」

「俺っちも昔そう聞いたぜ。魔法使いの間じゃよく知られた話でさぁ」

「……あぁ、アレね」

 

 明日菜が思い出したように言った。エロジジィとは、言わずもがなヘルマンのことだろう。

 

「悪魔の実は、強力な上にかなり稀少だから、魔法使いの間では、あやふやに伝承されたり、話に尾ひれが付きまくったりして、『悪魔になる』とか『恐ろしい魔物になる』とか『殺しても死なない』とか誤解してる人が多いんだよ……多分、そういう類の話は、少年も聞いたことあるだろ?」

 

 俺が訊ねるとネギは「はい」と小さく頷いた。

 

「小さい頃にお姉ちゃんやスタンお爺ちゃんとかによく聞かされました。絵本でも読んだことあります」

「やっぱり……ちなみにそれってどんな話?」

「それは、えぇーと……たしか『言うこと聞かない悪い子は悪魔の実を食べた化け物が襲いに来るぞ』というのと……あと『心臓を掴まれて取られてしまう』とか『影を取られて消される』とか『人知れず誰かに成り代わる』とか『カラカラに干乾びさせられる』とかです。あと、加賀美さんの言う『悪魔になるぞ』というのは僕も聞いたことがあります」

 

 ……うん、なんか全部、心当たりがある。

 それに確か、龍宮が言うには、能力者には悪魔の霊的なものが宿っているらしいし……。

 

「なるほど、『悪魔、化け物になる』云々は置いとくとして、あながち嘘っぱちばっかりってわけじゃないってことか……」

「ほほう」

「へぇ」

 

 ネギ君の話を聞いて、綾瀬がニヤリと笑い、その横では宮崎がワクワクとした笑みを浮かべた。

 ファンタジー大好き少女たちにとっては、興味引かれる話なのだろうか……?

 

 

「悪魔の実の能力は大きく分けて三種類あって、俺やエヴァさんみたいな『動物系(ゾオン)』、和泉みたいな『超人系(パラミシア)』、そして雪広みたいな『自然系(ロギア)』がある。動物(ゾオン)系は他の動物に変身する、超人(パラミシア)系は人智を超えた力が身につく、自然(ロギア)系は身体を自然物に変化する」

 

「ゾオン系?」

「パラ、ミシア……?」

「……ロギア?」

「「「……?」」」

 

 聴き慣れない単語にネギ君達一同、首を傾げた。

 

「一つずつ説明していくと、動物系(ゾオン)ってのは変身能力が身につく実。俺やエヴァさんみたいなヒトヒトの実、ジャッカルや狼に変身するイヌイヌの実、野牛(バイソン)麒麟(キリン)に変身するウシウシの実とかがある」

 

「イヌイヌ……?」

「ウシウシって……」

「……なんか」

「悪魔の実の名前って……」

「そのまんまアルネ」

 

 ネギ、明日菜、木乃香、桜咲、(くー)がそれぞれ表情を変えた。声色と同じようにそれぞれの表情も微妙な感じだ。

 俺は「まぁ、言いたいことはなんとなく分かるよ」と言って、話を続けた。

 

「本来、同じ時期に同種の悪魔の実は二つ存在しないんだが、動物(ゾオン)系には亜種っていって、同じヒトヒトの実でも“モデル”ってのがある。モデルが違う実は同じ名前でもまったくの別物だ。ちなみに俺はヒトヒトの実モデル天使、エヴァさんはモデル吸血鬼ね」

「加賀美さんが、天使?」

 

 ネギ君、言いたいことはわかるけど、そんな目で見ないで。

 

「似合わないわね」

「やかましい……自覚はしてるよ」

 

 明日菜め、ズバリ言いやがった。

 

「そうかな? この前の総くん、せっちゃんみたいで綺麗やったよ」

「あ、あの、お嬢様、それは……」

「そうですわ、木乃香さん、こんなのと一緒にされちゃ、桜咲さんがかわいそうですわ」

「そうよ、このか」

「今、こんなのって言った?」

「違うんですか?」

「違うの?」

「……違わないけど」

 

 違うとは言わないけど、言い方ってもんがあるだろ……。

 てか、この二人(雪広と明日菜)、なんでこんな時だけ息ピッタリなんだ。

 

「次に超人(パラミシア)系、悪魔の実の能力というと大概この系統であることが多い」

 

 麻帆良では少数派だけど。

 というよりも、自然(ロギア)系と動物(ゾオン)系幻獣種が二人ずついる麻帆良(ここ)の方がおかしい。

 

超人(パラミシア)系は特に“これ”っていう共通点はない。動物系(ゾオン)自然系(ロギア)以外なら超人系(パラミシア)って感じだな」

「亜子の能力がそれなんやな」

 

 木乃香の言葉に俺は「あぁ」と頷いた。

 

「それで、和泉はどんな能力(ちから)、持ってんの?」

 

 朝倉のその質問に全員の目が和泉に向いた。それに動揺したのか和泉は「えっ」と裏返った声をあげた。

 

「い、いや、実はウチ、あんまり自分の能力(ちから)とか、分かってへんねん。能力(ちから)使ったのも、加賀美君に悪魔の実について教えてもろたのが最後やし……」

「和泉は能力者になって日が浅いしな。使う機会もなかっただろうし、仕方ないだろ」

「へぇー。でも、使ったことはあるんだよね、その時はどうだったの?」

「えぇーとな、あん時は、加賀美君の羽の色を変えたり……」

「なにそれ?」

 

 和泉の言うことに一同、首を傾けた。

 

「あと、加賀美君を女の子に変えたり……」

「「「えっ!?」」」

「「「へっ!?」」」

 

 しかし、和泉が続けた言葉にみんなの表情が変わった。

 

「なになに、それ!? 面白そうじゃん!!」

「亜子さん、是非その能力を見せてくださいです」

「せやせや、やってみてや。亜子」

 

 皆(主に朝倉と綾瀬)のリアクションに俺は思わず後退りした。すでに見たことのある雪広はそうでもないが、明日菜や宮崎達だけでなく、エヴァさんまで興味津々というような目をしている。

 

 イヤな予感がする……逃げたい……この場から今すぐドロンしたい!

 

「……あっ、こたつの電源切るの忘れてt――」

「ほらほら、和泉、見せて見せて!!」

 

 バカ、朝倉、腕引っ張るな!!

 

 俺が逃げるよりも先に朝倉が腕を掴み、和泉の前に押し出した。さらに両肩を木乃香や綾瀬に抑えられ、俺は完全に逃げ場をなくした。

 和泉は、自信無さげな表情を浮かべながらも、ゆっくりと俺に近づき、その尖った爪を俺の体に突き刺した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「屈辱だ……今世のベストオブ屈辱だぁ!!」

 

 俺は地面にへたり込みながら、顔をうつむかせ、すすり泣いた。長く伸びた後ろ髪が顔を隠す。

 

「あ、あの、かがみ……さん?」

「大丈夫ですか?」

 

 ネギ君と桜咲が呼び掛けてくるが、俺は顔をあげる気にはならず、ただただ涙を流した。

 

 ホルホルの実の能力である『女性化ホルモン』を注入された俺の体は、みるみるうちに女体へと変化していった。俺のTS現象に雪広と和泉を除く皆は声を揃えて驚いた。

 そこまでは、特に問題なかった。嫌々ながら女体化させられることは前にもあったし、すぐに男体に戻してくれれば、こんなに嘆くことはなかった。

 

 俺が泣く羽目になったのは、エヴァさんのせいだ。

 

 エヴァさんは俺の姿(女)を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。そして、こんなことを言い出した。

 

「ははは、可愛いではないか。せっかくだ……おい、茶々丸、コイツにお前の服を着せてやれ」

 

 明らかな悪戯、かつ俺への嫌がらせであった。

 エヴァさんの命令に茶々丸さんが逆らうはずもなく、俺は学ランを脱がされ、強制的にメイド服を着せられた。無論、全力で逃亡を計り抵抗したが、ここは魔法球の中、逃げ場などなかった。

 唯一の救いは、脱がされたのが上着だけだったことだろう。下まで脱がされていたら、俺は二、三日、引きこもったかもしれない。

 

「なるほど、ホルモンを自在に操るですか。科学的なのか非科学的なのか分かりませんですが、スゴい能力だということは分かったです」

「よくわかんないけど、ホントに性別が変わったわね」

「わぁ、総くん、可愛いなぁ!」

「本当ネ、師匠。自信もつヨロシ!」

「……持てねぇーよ」

 

 涙を拭き、俺は顔をあげた。

 エヴァさんとチャチャゼロがケラケラと笑っているのが見えた。

 

「……もう良いから、和泉、はやく戻してくれ」

「う、うん、分かった……」

 

 再度、和泉の爪が俺に刺さり、『男ホルモン』が注入される。すると、全身の血管が脈打ち、男の体へと変わっていった。

 体が戻ったことに安堵した俺は、すぐにメイド服を脱ぎ捨てた。

 

 エヴァさんめ、覚えてろ……。

 

 

「え、えぇーと、そ、それで、自然系(ロギア)っていうのは……?」

 

 俺が殺気のこもった目でエヴァさんを睨んでいると、宮崎がそそくさと訊ねた。

 すると、「自然(ロギア)系というのは」と当人である雪広が口を開いた。

 

「能力者の実体を特定の自然物に変え、自在に操ることができるんです。私の場合はこの通り――」

 

 雪広がフィンガースナップで指を鳴らすと、俺の上空に雪の塊が収束し、あっという間に形を形成していった。

 やがて、それは重力に従い、下に落ちる。

 

「チリィーーっ!!」

「――雪をどこからでも生み出し、操ることができます」

 

 上から降ってきた雪だるまにつぶされながら、俺は叫んだ。

 

「わぁ、すごいなぁ」

「おぉー!」

「無詠唱で、こんなことが!」

「しかも、魔力は一切感じなかったですぜ、兄貴!」

 

 木乃香たちの感嘆の声が聴こえるが、俺はそれどころではない。

 

「だがら、なぜ俺を下敷きにする!?」

「あら、気づきませんでしたわ。御免あそばせ」

「嘘つけ、わかってやってんだろ!」

 

 俺は雪だるまを破壊して、体を起こした。崩れた雪だるまの破片が辺りに飛散する。

 雪の粒を浴びて、ネギ君たちは「冷たっ!」と声をあげた。

 

「本当に雪ですね」

 

 地面に落ちた雪を拾って、桜咲が確認するように言った。

 

「えぇ、“ユキユキの実”ですわ」

「また、そのまんまだねぇ」

「そうね……でも、委員長らしいといえば、らしいんじゃない?」

 

 朝倉と明日菜の言葉に、俺は服についた雪を掃いながら、深く頷いた。

 

自然系(ロギア)は悪魔の実の三系統の中では最強種といわれてる」

「どうしてですか?」

 

 桜咲が訊いてきた。

 

「体が実体を持たず、流動するから」

「えっ?」

「どういうことアルカ?」

 

 ネギ君を含めた、主に武闘派な方々が頭に「?」を浮かべた。

 

「雪広の体は“雪”そのものに変わる……桜咲、雪だるまはともかく、降ってくる雪の結晶を斬ることができるか?」

「それは……確かにできないです」

 

 桜咲は納得がいったという表情をした。

 

「だから自然系(ロギア)の能力者に物理攻撃は効かない。しかも、能力の影響は広範囲に及ぶ。だから、一般の魔法使いでもまず太刀打ちできない」

「マジかよ!?」

「マジだよ」

 

 カモの発言に、俺は間髪容れずに言った。

 

「けど、対抗手段は色々ある。“弱点”をつくとか、覇気を使うとかな」

「覇気?」

「それって、くーふぇが加賀美君から教わってるっていう、アレ?」

「そう、アレ」

 

 朝倉の問いに、俺は小さく首を縦にふった。

 

「覇気の中に武装色の覇気ってのがある。これを使えば相手の実体を捉えることが可能だ。やったことはないけど、エヴァさん曰く、武装色を使えば術者の分身や幻術にも攻撃が通すことができるらしい……だよな、エヴァさん」

 

 ジト目でエヴァさんを見ながら、低い声で俺は訊いた。

 腹立たしくも、まだ若干頬が緩んでいるので聞いてないかもとも思ったが、ちゃんと聞いていたらしく、エヴァさんは「あぁ」と同意した。

 

「だが、魔法使いの場合、自然系(ロギア)に攻撃する方法はもうひとつある」

 

 更にエヴァさんは続けた。

 

「その自然系(ロギア)の能力者に優位な属性、あるいは同じ属性の攻撃魔法なら実体を捉えることは可能だ」

 

 そうなんだ、初めて聞いた。

 

「優位な属性ってのはまだ分かるけど、同じ属性でも当たるのか?」

「あぁ、“効く”かどうかは別だが、当たりはする」

「へぇ……じゃあ、例えば雪広の場合なら“雪”だから、魔法の射手(サギタ・マギカ)の炎の矢とか氷の矢なら攻撃を当てられるってことか」

「そうだ。だが、同じ属性の場合、ある程度上位魔法でないと当たっても効きはしない」

 

 つまり、雪広に――あと青藤先輩も――魔法の射手(サギタ・マギカ)(氷)を撃っても、大して効かないと……?

 

「上位魔法って……エヴァさんでいう“闇の吹雪”みたいな?」

「あぁ、そうだ…………まぁ、青藤のヤツは平気そうにしていたがな」

 

 忌々しそうに、エヴァさんは呟いた。

 

 さすが、青藤先輩。あの人なら下手したら“おわるせかい”を受けてもピンピンしてんじゃないのか?

 

 

「……へぇ、さすが“年の功”。よく知ってるなぁ」

 

 さっきの仕返しにと――特に年の部分を――少し強調して言った。

 案の定、エヴァさんは俺を睨みつけてきた。

 

「……あぁ、これでまた少し賢くなったな、“若僧”」

 

 しかし、そんな安い挑発にはのらないと言いたいのだろう、エヴァさんは鼻で笑い、そっぽ向いた。

 

「えぇ、どうもありがとうございます。“おばあさん”」

 

 ピクッと震え、エヴァさんの動きが止まった。

 

「………」

「………」

 

 しばらく沈黙が続いた。さなか、互いの視線がぶつかり合い、火花を散らす。

 周りにいる皆は、そんな俺とエヴァさんを見て顔を青くしていた。

 

「……ふっ」

 

 エヴァさんが不敵な笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、なんかヤバくない?」

 

 エヴァさんから放たれる雰囲気を感じとり、明日菜は冷や汗を流した。

 

「ケケケ、面白クナリソウダナ」

「ネギ先生、こちらへ」

「皆さん、下がってください」

 

 何かを察した雪広が茶々丸さんと共に、皆をその場から離れるように促した。

 

「えっ、で、でも!」

「止めなくて良いのですか?」

「お気になさらず、あの二人のケンカはいつものことですから」

 

 宮崎や桜咲が戸惑いの声をあげたが、皆、二人に諭され、広場から離れていった。

 しかし、そんなことは気にせず、俺はまっすぐエヴァさんを見据えた。エヴァさんは黒目を赤く、白眼を黒く染め、八重歯を長く伸ばし、自身の体を“獣型”へ変えている。

 対して、俺も同じように自身の体を獣化させた。背中に微光を放つ白い翼が二対生え、頭の上に神々しく耀く光の輪が現れる。

 

「昔から、貴様は私になめた口を……良いだろう。どちらが上か、今日こそ、その身に思い知らせてやる」

「やってみろ、コラァ。返り討ちにしてやる!」

 

 俺とエヴァさんは、ほぼ同時に地を蹴った。

 

 その後、広場には突風が吹き荒れた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ぜぇぜぇと息を切らし、俺は広場に倒れた。少し離れたところでは、人型に戻ったエヴァさんが茶々丸さんに寄りかかる形で脱力している。

 

「こんにゃろう……」

「……ふん」

 

 エヴァさんとの喧嘩は、お互いの体力の限界の末、引き分けに終わった。

 エヴァさんは自身の体を休めるため、建物の中へと向かい、俺もそれに続く形で中へ入った。

 

 中では、明日菜がカモを締め上げていた。

 どうやら俺とエヴァさんが喧嘩してる間に、雪広と和泉はネギ君たちから魔法の詳細を聞いたらしく、仮契約についても話したらしい。

 何かあれば仮契約させようと企むカモが雪広たちとの仮契約を奨めないわけもなく、また合法的にネギ君とキスする権利を得た雪広がそれを拒否する理由もなく、ネギ君と雪広は仮契約を行った。途中、何やら問題があったらしいが、それは俺の知るところではない。

 和泉は仮契約するかどうかは、一先ず保留としたらしい。しかし、カモはしつこく勧誘したらしく、それで明日菜にしばかれていたようだ。

 

 事の経緯を近くにいた桜咲と(くー)から聞いた俺は、だからと言って特にすることや注意することもなく、疲れた体を引きずって、ベットに腰かけた。

 

 

「一つ訊きたいのですが、加賀美さん。悪魔の実の実物はないのですか」

 

 くたびれた体をベットの上で休めていると、綾瀬が目を光らせながら、訊いてきた。

 

「ねぇーよ」

 

 疲れが声に出たんだろう、少し口調が荒くなってしまった。

 

「では、どうやれば手に入るですか?」

 

 しかし、そんなことは気にしないと綾瀬の目の輝きが少し増した。

 

「そんなに簡単には手に入らねぇーよ……たまに五億くらいで闇取引されてるって話を聞くけどな」

 

『『『五億ーーッ!?』』』

 

 突然の皆の叫び声に俺と雪広とエヴァさんは耳を抑え、眉間にしわを寄せた。ドーム状の建物の中とあって、声がよく響く。

 

 ……耳が痛い。

 

「ご、ごごご、五億って!!」

「え、ちょ、それ、マジなの、加賀美君!!」

「あぁ、マジだよ」

「それは、円ですかドルですか!?」

「円ですわ。私の方でも過去に調べたことがありますが、その時は三億くらいでした。ガセネタでしたけど」

 

 朝倉、綾瀬の問いに俺と雪広がそれぞれ答えた。

 

「おいおい、てことはドルで言えば約三百万かよ!! オコジョドルでいうと、一、十、百、千……へへへっ」

 

 明日菜にボコボコにされたカモの目が『$』になってる。

 気持ちが良いほどの俗物だな、コイツは。

 

「五億でこれか…………五十億の悪魔の実があるって知ったら、どうなるのかね」

 

 俺はみんなから顔をそらして呟いた。

 

「ん? 総くん、なんか言うた?」

「いや、なにも……」

 

 木乃香が問いをスルーし、俺はベットに身を投げ、眠りについた。

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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