もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
快晴の空の下、周りが学園祭で盛り上がる中で一組の男女が広場の隅に立っていた。二人とも制服を着ていて、人相からも同い年であることが分かる。制服から判断して高校生だろう。男子生徒の方は顔を赤く染めて、行動に落ち着きがない。かれこれ三分ほどあの調子だ。いい加減、焦れったく感じる。
だがやがて、男は決心したかのように口を開いた。『あのっ!』、口の動きから見てそう言ったようだ。それに反応して女子生徒は男の方に目を向けた。
俺は手に持った“弓”に光を収束させた。灰色に輝く光は細長い形を作り、“矢”の形状を成していく。“弓”を左手、“矢”の末端を右手に持った俺は、視線の先に立っている男に狙いを定めた。
『俺、お前のことが――』、男の口がそう動いている時だった。
「
俺は“矢”を放った。
光でできた“矢”はまっすぐ男に向かって飛んだ。“矢”は男の首筋に命中した。そして男の体に吸収されるように姿を消した。“矢”が放たれてからの一連の流れはほんの一瞬の出来事だった。
“矢”が消失すると、男の雰囲気が変わった。顔色も今まで火照っていたのが嘘のように赤みが引いている。女が『なに?』と訊ねると、男は手を横に振って『いや、なんでもない』と口を動かしていた。
彼女への恋心が失われた証だ。
「……よし」
三階の建て物の屋上で、俺は呟いた。
“天界の神弓”の効果は抜群だった。
「いやー、総一のおかけで楽だねぇ」
後ろでココネを肩車した美空が言った。
「お前も仕事しろよ」
「あははは~」
美空は惚けたように笑いながら、俺から目を逸らした。学ランを着た俺は、呆れ顔で神弓を肩にかけた。
「でもほら、私がやらなくても総一が全部やってくれるじゃん? 下手に見習いの私がでしゃばっても足を引っ張るだけだし……」
俺は“見習い”ですらないぞ。
「だから、
「さらっと逃げ出すな、アホ」
腕を掴み、俺は美空の動きを止めた。
「だって! 今、あっちで楽しそうな音がぁ!!」
「知るか!」
なんで魔法使いの師事役でもない“臨時魔法使い”の俺がこんな事しなきゃならないんだ。
「良いから、ちゃんと働け!」
「私たちは総一と違って“バイト代”出ないんだもん、やる気でないっすよ」
「じゃあ、
「やるぞーー!」
「――って切り換え、はやッ!!」
いつの間にか両手を大きく上げて意気込んでいる美空を見て、俺は右肩をカクッと落とした。
「何やってるんですか、あなた達は……」
そこへ別の告白を阻止しに行っていたシャークティさんが戻ってきた。
俺は「別に何も……」と言葉を濁した。
「……まぁ良いです。では引き続き見回りましょう」
シャークティさんに後続する形で俺たちは足を動かした。一つ二つと屋根を飛び越えて、告白を行いそうな場所を見回った。
「そういえば、総一の“
美空が訊いてきた。
「きっかり三日だよ」
「ふーん。アレって具体的に当たるとどうなんの?」
「……お前、実際に見てただろ?」
「まぁ、そうなんだけどさぁ、告白しなくなるってのは見てて分かんだけど、それだけしか分からなくて……」
「その通りだよ、それ以上でもそれ以下でもないよ」
美空は「えっ」と首を捻った。
「でも『キューピットアロー』って言ってなかった?」
「あぁ」と俺は頷いた。
「キューピットの矢って、矢で射られると恋に落ちてしまうって話じゃなかったっけ?」
「それは“金の矢”な。キューピットの矢って二種類あって、“金の矢”が刺さると恋に落ちて“鉛の矢”が刺さると恋心を失うんだよ。俺が撃ってるのは後者の方だ」
説によっては『恋に嫌悪感を抱く』とか様々だが、俺が射る“鉛の矢”は嫌悪感を抱くまではない。恋に対して無関心になる程度だ。
美空は「へぇ」と興味深そうに言った。
「総一は“金の矢”も使えるの?」
「……まぁーな」
だけど、
「もしかして、それを誰かに刺してみちゃったりなんかもしたの?」
「……あぁ、あるよ」
当然、最初の一回だけだけどな。
美空は興味津々というような顔で、「それって」と口を開いたが、それを遮るようにシャークティさんが「ゴホン」と咳払いをした。
「無駄口叩いてないで、警備に集中しなさい!」
「は、はいーー」
シャークティさんに注意され、美空は断念するように口を閉じた。シャークティさんの顔は――美空とココネからは死角で見えないが――少し赤くなっていた。
そう、何を隠そう、過去に俺が“金の矢”を刺してしまった人とは、シャークティさんのことである。無論、事故だったのだが、シャークティさんと俺にとっては恥ずかしい思い出のひとつである。
誰に惚れて何があったのかは、機会があれば語るとしよう。
ピピピッと機械的な音が鳴った。
「次の告白者が出たようです」
無線機のような機械を取り出してシャークティさんは指で方角を示した。
「どうやら告白レベルが高いようです。早急に向かいましょう」
「じゃあ、総一の“
「あぁ、“
「なんですとーー!?」
にこやかな顔が一変して美空は狼狽したような顔になった。
「なんでー?」
「なんでって、あんなモン連続でポンポン撃てるわけないだろ?」
「そんなーー!!」
「良いから、さっさと行きますよ!」
嘆く美空をおいて、俺たちは引き続き警備を続けた。
☆☆☆
「――ったく、告白するヤツ多すぎ」
空が茜色に染まりだした夕暮れ時、シャークティさん達とは別行動をし、俺は一人告白阻止に精を出していた。
なんだろう、麻帆良学園には『学祭中は五分に一度告白スポットで告白をしなさい』という条例でもあるんじゃなかろうか。
《総一!》
「ん?」
建物の影で機械のアラームが鳴るのを待っていると、突然、頭の中にシャークティさんの声が響いた。俺は仮契約カードを取り出して額に当てた。
《なんですか?》
《『なんですか』じゃないです。世界樹を見なさい》
仮契約カードを外し、俺は屋根の上に飛んで世界樹の見える場所へ移動した。すると、学園の中央に聳え立つ世界樹の幹が神々しい光を放っていた。
その光景を見て、俺の頭である可能性が過った。
《誰かが告白したみたいですね》
《えぇ、急いで告白した生徒を捜してください。早く対処しないと大変なことになります》
了解、と返事をして俺は仮契約カードを仕舞った。
「さて、どうしたものか……」
屋根を伝い、“告白したであろう人物”を探す。
しかし、ふと俺は考えた。この“
俺は足を止めて建物のベランダにあるテラスに降り立った。
「……うん、触る神になんとやらだ」
探すふりだけしておこう、そう結論を出した時だった。
「総一!」
テラスから街を見下ろしていると、急に横から声を掛けられた。目を向けるとそこには宮崎をお姫様抱っこした明日菜がいた。明日菜は宮崎をおろすと駆け寄ってきた。
「ちょっと手かしなさい!」
「唐突だな、一体どうした?」
知っているが念のため訊いてみた。そして案の定、宮崎の願いに反応してネギ君の様子が変になったとのことだった。
「それにしても本屋ちゃん、ネギに何を命令したの?」
「そ、それは……」
宮崎は顔を真っ赤にしてチラチラと俺に目をやった。
俺には聞かれたくない、ということだろう。俺は二人と少し離れた位置に立った。
「え、えっと―――」
宮崎は明日菜にボソボソと耳打ちした。
「えぇーー!! 大人のキスーーーーッ!!」
「……おい」
大声を上げて驚く明日菜を見て、俺はため息をつきながら頭を抱えた。宮崎も「あああ、アスナさん!」とあたふたしている。
「のどかさん」
突然の声に俺達は視線を向けた。
すると、いつの間にかそばにネギ君が立っていた。口元が緩み、ニヤリとした表情をしているが、目は虚ろになっていて、意志が一切感じられない。
「ぎゃあああ、ネギーー!!」
「きゃあああ」
明日菜と宮崎が叫び声をあげた。
というか、ネギ君を見て悲鳴を上げるってどうなんだ?
「そ、そそそ、総一! なんとかしてよー!!」
「いや、なんとかって言われてもねぇ……」
どうしろってんだ?
俺が目を曇らせていると、ネギ君に数本の
「なんだ?」
魔法が飛んできた方を見ると、二人の女子生徒と仮面を付けた“黒マント”が数人、屋根の上に立っていた。
「ミイラ取りがミイラとは……」
「情けないですよ、ネギ先生」
確か高音・D・グットマンと佐倉魔美――じゃなくて、佐倉愛衣だったかな……。
「昨日は遅れを取りましたが今日はそうはいきません」
二人と“黒マント”は屋根から飛び降りテラスに立った。
しかし、その途端“黒マント”の一体がネギ君の肘打ちによって吹き飛ばされた。
一瞬の出来事に二人は目を丸くしているが、その隙にネギ君は残った“黒マント”を次々と倒していった。更に、とどめに風の武装解除呪文を放った。
呪文を諸に受けた二人は…………まぁ、その、あられもない姿になってしまった。
「……なんという“幸せパンチ”」
「この変態!」
明日菜から後頭部に強烈な拳を入れられ、俺は頭を抱えた。
前から後ろからと、まさしくダブルパンチだった。
「痛ェーーーーっ!!」
「良いから、はやく何とかしなさいよ!」
「お前ェ、鬼かッ!!」
明日菜と宮崎はゆっくりと歩み寄ってくるネギ君に泣き叫ぶが、俺は痛む頭に目を潤ませた。
火事場の馬鹿力って怖ぇーな、と思った。
「のどかさーん」
ネギ君は目をギラリと光らせた。
「……ったく」
仕方なく思い、俺はネギ君と向き合った。
「おい、明日菜、力貸すからお前も手伝え」
「手伝えって、どうすれば良いのよ!?」
「俺が引き付けるから、お前は隙を見てネギ君を“叩け”! 世界樹の魔力を払えば、ネギ君も正気に戻るはずだ」
「あっ、そっか!」
後ろに立つ明日菜が「
「よし、いくわよ!」
「行くぞ、
俺はネギ君の後ろに回り込んだ。そして右脚を振り抜いた。その回し蹴りはネギ君に当たり、横へと飛ばした。周りに置いてあるイスやテーブルが衝撃で吹き飛んだが、ネギ君は着地をうまく決めていた。
「障壁か」
「……面倒だな」
ネギ君は地を蹴って俺に接近してきた。俺を排除すべき敵だと認識したらしい。ネギ君の拳に魔力が収束している。腕の動きから見て八極拳の技を使うつもりだろう。八極拳が剛技なのは
「
突き、肘打ち、蹴りと次々技を放ってくるが、俺は風圧に身を任せて、攻撃をかわした。やがて手応えの無さにネギ君の動きが止まった。俺は蹴りを回してネギ君を後ろにさがらせ、無理矢理距離をつくった。
「たぁーー!」
明日菜がネギ君に向かってハリセンで叩きに掛かった。だがハリセンの先を手で掴み、ネギ君は攻撃を止めた。
「
「
反撃に武装解除呪文を放とうとしたが、俺はすぐに接近してネギ君の右手に
「よし今だ、やれ」
「目ぇ覚ましなさいよ、このバカネギーーッ!」
明日菜はハリセンを横に振り抜いた。
スパーンと小気味良い音をたて、ネギ君の体が宙に飛んだ。
ネギ君の体に纏っていた魔力が散り、世界樹の光もだんだん収まっていった。倒れたネギ君も正気を取り戻したようで、「はっ、あ、あれ!?」と周りをキョロキョロと見ながら驚いている。
「み、皆さん、どうしたんですか!?」
「どうしたじゃないわよ、このアホネギ!」
明日菜からのいきなりの怒声に、ネギ君は「え、えぇ!?」と慌てはじめた。そして半分怒り気味の明日菜から説明を受け、正気を失う前のことを思い出したような顔になった。
二人のやり取りを横目で見ながら、俺は仮契約カードを額に当てた。
《もしもーし、シャークティさん、報告です》
《――総一、世界樹の光が収まったようですが、まさかあなたが?》
少し時間をおいて返事がきた。
《えぇ、まぁ……簡単に説明しますとですね――》
俺は事の経緯を語った。
《――ということで、今はネギ君も元に戻ってます》
《そうでしたか……まぁ、先生が事態を引き起こしたのは良いことではありませんが、一般人にバレなかっただけでも良かったとしましょう》
果たして、現時点で明日菜や宮崎は一般人に入らないのだろうか。魔法はバレてるし、仮契約もしているが、魔法使いの中では、まだ一般人だったような……。
まぁ、いっか。
《では引き続き警備を……と言っても、もうじき交代の時間ですね。少し早いですが、あなたは自由にして良いですよ》
《了解。では御言葉に甘えて、御先に失礼しまーす》
俺は仮契約カードを仕舞った。横を見るとネギ君を説教しているのが、高音先輩に変わっていた。ネギ君によって服を散り散りに飛ばされた二人は、いつの間にか体操着に着替えていた。
ふと、乱雑に落ちているテーブルやイスが目に入り、俺は小さくため息をついた。
とりあえず、ネギ君が説教されている間に、全部片付けておこう。
ちゃんと原状復帰しとかないとな。
テーブルひとつにイスを4つ囲むように置いて……。
「すみませんでした、制服も弁償します!!」
「謝って済む問題ではありません!」
あれ、イスが足りない?
えぇー、これってひとつのテーブルにつき、イスいくつだ?
うぅ~ん、とりあえずこのテーブルに4つ、こっちに2つ……。
「あなたが任務の重要性を自覚していれば、こんなことにはならなかったはずです!」
「はい……」
ん?
あぁ~あ、このイス、足が折れてるよ。
「まして生徒を危ない目に巻き込むなど、先生としても失格ではないですか!?」
「うぅ……」
なにか接着剤……アロンア○ファ的なモノないかなぁ。
……無いよなぁ。
「あの方と神楽坂さんがいなければ、被害はもっと出ていたかもしれないんですよ!」
しょうがない。
明日、最初にこのイスに座る誰かに人柱になってもらおう。
とりあえず、バランス良く置いて……あれ、上手く立たないな。
「わかっているんですか!?」
「ごめんなさい……反省、します……」
慎重に、慎重に……。
……よし、これで良いな。
「アンタはさっきから一人で何やってんのよ!?」
「痛っ!」
突然、後ろから明日菜に殴られた。その衝撃で足の折れたイスがバランスを崩した。
「あぁーー!!」
「よくもまぁこんな説教ムードの中、のんきに片付けができるわね。場の空気ってもんを読みなさいよ、アンタ!」
「知るか! そんなことよりお前のせいでイスが壊れたぞ。どうしてくれんだ!?」
「ウソ言うんじゃないわよ、元々壊れてたでしょうが!!」
「お前、これを立てるのに俺がどんだけ集中力使ったと思ってんだ!?」
「それこそ知らないわよ!」
「ちょっとそこの二人! 静かにしてください!」
高音先輩に叱られ、俺と明日菜は渋々口を閉ざした。
「アスナ!」
「アスナさん!」
「のどかー!」
建物の中から木乃香と桜咲と早乙女が出てきた。高音先輩は三人を一瞥した。
「一般人も来ましたので、これ以上は言いませんが、今後、このようなことは無いように!!」
「はい、気をつけます」
眉間に皺を寄せたまま、高音先輩と佐倉は建物の中へ足を動かした。
「あの人たち、何もしてないよな?」
去り際、思わず出てしまった俺の呟きに、高音先輩がギロリと睨んできた。すぐに「失敬」と頭を下げると、ふんと顔を背け、足早に去っていった。
どうやら気にしていたようだ。
「その、加賀美さんも、すみませんでした」
「あぁ、気にしなさんな」
頭を下げるネギ君に俺は手を横に振った。
高音先輩からあれだけ叱られたんだ、俺からどうこう言うこともないだろう。
ネギ君は「でも……」と俯いていたが、特に話すこともない俺は「じゃあな」と手をあげて、その場を後にした。
“予選”の時間が刻々と近づいていた。
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
-
ネギ・スプリングフィールド
-
神楽坂 明日菜
-
雪広 あやか
-
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
-
超 鈴音