もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
龍宮神社の境内には9つのリングが並べられていた。その周りには麻帆良中の格闘家を名乗る者達が集まっている。
それにしても、この学園の格闘家たちはどうしても『俺、格闘家だぜ』感を出したいのだろうか。皆それぞれ、道着は着てるし、包帯は巻いてるし、グローブはつけてるし、“いかにも”な格好をしている。制服を着ている人――いつぞやの豪徳寺先輩だ――もいるが長ランにリーゼントと“やってやるぜ感”丸出しで、逆に馴染んでいる。普通の学ランを着ている俺はどうしても浮いてしまっていた。そして“浮く”ということは必然として周りの視線を集めてしまう。周りからは「加賀美だ」「
それらの視線に耐えかねて、俺は隅へと移動した。
すると横になって寝ている長身の男を見つけた。
「青藤先輩、何してんですか、こんなところで?」
俺が声をかけると、先輩は「あぁ~?」とアイマスクを外して体をこっちに向けた。
「なんだ、総一か」
いつもの通りのダラけたような言い方で、先輩は言った。
「なんだじゃないですよ、何してんですか?」
「ちょいと、見物にな」
「見物?」
俺は首を捻った。
「参加しないんですか?」
「まぁーな」
先輩は体を起こした。
「あぁ~~、横になってんの疲れた」
学ランを枕代わりにしているとはいえ、こんな砂利の上で寝てたら、そりゃあ疲れるだろう……。
「お前さん、この大会、出るつもりか?」
「えぇ」
俺は頷いた。
先輩は「そうか」と呟いた。
「お前、この大会を誰が企画したのか、知ってるか」
「……
先輩は「その口は知ってるみてえだな」と目を細めた。
「昼間、ソイツからこの大会に参加しないかって言われてな。俺ァ断ったが、優勝賞金が一千万だ、報酬はいくらだと、しつこく交渉してきた」
超のヤツ、青藤先輩も出場させようとしたのか。
「アイツが要注意人物だってことは知ってたし、交渉までしてくるなんて、この大会になにか“ウラ”があるんじゃねぇかと様子を見に来たんだが、来てみたらお前やエヴァンジェリン、タカミチまでいる始末だ」
先輩は「俺が見に来ることも無かったなぁ、こりゃあ」と小さく息をつく。そしてゆっくりと立ち上がった。身長差のせいで俺は先輩を見上げる形になった。
「てなわけで一応ヤツには注意しておけ。なにかと素性の知れねぇヤツだからな」
「えぇ、それは“色々”と分かってます」
「……そうかい、なら問題ねぇな」
先輩は上着を肩にかけて歩き出した。
「ちょ、先輩、どこに?」
「帰って寝る」
手をあげて青藤先輩は「じゃあな」と去って行った。その後ろ姿を、俺は首を捻りながら見送った。
青藤先輩と別れ、俺は一人大会が始まるのを待った。
やがて朝倉が門の前に立った。朝倉が始まりのアナウンスをすると、その後ろにこの大会を企画した人物が現れた。超はこの大会を企画した理由について語り始めた。
「二十数年前まで、この大会は裏の者たちが力を競う伝統的大会だったヨ!」
彼女の声量が、これまでのより少し大きくなった。そして「しかし記録機材の発達により――」と話が続いた。その演説の上手さに俺は少し感嘆とした。
「――だが、私はここに最盛期の『まほら武道会』を復活させるネ! 飛び道具及び刃物の禁止、そして、“
案の定、彼女は一般人の前で声高だかと言った。
「……マイクも無しによく声が通るよなぁ」
そんな若干、的外れな言葉を呟きながら、俺は参加する申請をして、くじを引いた。くじに書かれたアルファベットによって戦うリングが決まるらしい。
俺が引いたくじには『G』の文字が書かれていた。
“Gのリング”に行くと、すでにそれなりの数の格闘家達が立っていた。
俺がリングに立つと、その人たちの表情が変わった。ある人は戸惑い、ある人は楽しみだと言いたげな顔になっている。
朝倉が俺について、根も葉もない紹介をしていたようだが、俺は目を据わらせて聞き流した。
やがて、既定の人数がリング上に揃った。
《では、G
瞬間、俺は地を蹴った。
☆☆☆
特に苦戦することもなく予選は終わった。覇気はおろか六式さえ使わずに済んだ。
予選を勝ち残った者たちは、本選のトーナメント発表を門の前で今か今かと待っている。俺は古達と肩を並べて、待っていた。
「まさか師匠も出場していたとは驚きアルヨ」
「そうか?」
「うむ。師匠が今まで格闘大会に参加したことは無かったアルからな。さっき戦ってるの見たときはビックリしたアルヨ。なんで今回は出場したネ?」
「俺にも色々と事情があんだよ」
俺の表情からなにかを察したのか、
《それでは皆さん、お待たせしました! こちらが明日行われる本選のトーナメント表です!》
朝倉がマイクを通して言うと、かけられた布が外され、大きなトーナメント表があらわになった。
「えっ、タカミチ!? 無理だよォーー!」
「あ」
「アイヤーー」
みんなそれぞれ1回戦の相手に驚きを隠せないようだ。
俺はトーナメント全体に目を通していった。
ネギ君と高畑先生、明日菜と桜咲、古と龍宮、などなど。どうやら対戦相手は原作と変わりないらしい。
「えーと、俺の第1回戦の相手は……」
俺は自分の名前を探して、対戦する相手の名前を見た。
『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』
そこに書いてある人物の名に、俺は「はぁッ!?」と声を漏らした。口が半開きになったまま、半ば体が硬直してしまっている。
「……えぇーーいぃあーー」
なんといえば言いのだろう、言葉が見つからない。代わりに意味のない声が口から出てくる。
「ふっ、面白い試合になりそうだな」
俺が言葉を探していると、後ろから対戦相手の声が聴こえた。俺は壊れたブリキ人形の如く振り返った。
エヴァさんはニヤリと不敵に笑っている。
「……なんでだよ」
やっと出た言葉がこれだった。誰に向けてなのかは、俺自身もよく分からない。
エヴァさんとの戦績はどうだったかな……確か
つまり、俺は初戦から気のおけない相手と当たってしまったわけだ。
「1回戦くらい、
俺は深いため息をついた。
願わくは、エヴァさん、高畑先生、“フードの男”、ネギ君、この四人以外の誰かが良かった。
「ならば棄権したらどうだ?」
ふっと笑いながら、エヴァさんは見下したような眼で俺を見た。
その表情に俺は少しカチンときた。
「アホか、なんでエヴァさんごときに棄権しなきゃならないんだよ」
エヴァさんの目が細くなった。
「ほぅ、“私ごとき”か。青二才が言うようになったじゃないか」
「お陰様でね。口だけは達者だよ」
エヴァさんは口を結んだ。代わりに、殺気のまじった視線を俺にぶつけてくる。身長差のせいで俺を見上げる形になっているが、エヴァさんの眼光は刃物の如く鋭い。放たれている雰囲気に、周りにいる古はおろか龍宮も少し萎縮してしまっている。
だが、俺も負けじと睨み返した。俺の眼に人を恐怖させるほどの力が有るとも思えないが、動揺しない姿勢だけでも示したかった。
やがて、エヴァさんは俺を見ながら、「ふん」と鼻を鳴らした。
「良いだろう。せいぜい命を落とさんことだな」
エヴァさんは身を翻して、その場から去っていった。
張り詰めた空気が一気に緩和された。
「凄まじい殺気だったな……」
「大丈夫アルか?」
龍宮がうっすらと汗を浮かべながら呟き、古が心配そうな顔で訊いてきた。
「……死んだかもな、俺」
古は「えっ!?」と声をあげた。
「何十回も戦ってると、なんとなぁーく雰囲気の違いが分かるんだぁ……アレは“本気の眼”だ」
「でも、今回、魔法を使うのは禁止アルヨ」
「いや、魔法というか詠唱の禁止な」
俺は眉間に皺を寄せながら笑った。
たまにネギ君とエヴァさんの修業を見物している古は、エヴァさんがどれほど強いのか知っている。だがそれは魔法ありきのものだと思っているのだろう。
「それにあの人、仮にも魔法世界では“伝説”だから、魔法を禁止したからって勝てるようになるとは思えないな」
「そんなに強いアルか?」
「多分、全盛期に魔法使い達があの人を本気で捕らえようとしたなら、“戦争”が起きてたな」
「あ、あいやー……」
古は目を丸くしたまま、固まった。心なしか顔が青くなっているようにも感じる。
人伝で聞いた話だが、過去にエヴァさんは記録に残るような“戦い”をいくつも起こしているそうだ。なんでも“
あと“誰か”と戦って、一日で辺りの土地を荒野に変えたって話も聞いた。名前は確か“アマゾニス平原の決闘”。その話は今でも魔法世界で語り継がれているらしい。
「生前葬でもやるか」
「さらっと不吉なこと言うな……」
龍宮の言葉に俺は顔をしかめた。龍宮は「冗談だ」と微笑を浮かべて場を後にした。
「……まぁ、でもやるしかないか」
俺は引きつった表情を改め、気持ちを切り換えた。
これまでの俺との戦いでエヴァさんが“糸”を使ったことは一度もない。それを俺が知っているということは、あの人の虚を突けるだろう。
「やるからには勝たないとな」
俺はギュッと拳を握りしめた。
死にたくないしな……。
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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