もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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48. 証明してみせろ

 

 

 

「えぇ、高畑先生が超さんに捕まった!?」

 

 魔方陣と共に消えた総一を見送った明日菜と刹那は、美空からなぜ彼女達がここに来たのか、その詳細を聞いた。

 

「では、すぐに応援を呼んだほうが……」

「それがどこも人手不足でねぇ、念話も途切れ途切れだったし、ちゃんと確かめないことにゃなんとも……」

「念話? 私の方には何も届きませんでしたけど?」

「……私の特技」

 

 ココネはボソッと呟くように言った。

 

「それと、ネットの方でも色々盛り上ってるみたいですから、これ以上目立たないよう注意しにきたわけですよ」

 

 美空がそう言うと、会場の方から大きな歓声が聴こえてきた。

 

「まぁ、もう遅いっぽいけど……」

 

 美空は「はぁ」と息をつき、やれやれと顔を横に振った。

 

「――ってことで、私達は試合を見に行きましょう!」

「なんでよ!」

 

 あまりの態度の変わりように、明日菜は思わず、瞬速で出現させた自身のハリセン(アーティファクト)で美空の頭を叩いた。

 

「やる気あんの、魔法生徒なんでしょ、あんた!」

「だってだって、試合みたいじゃん! 折角のプラチナチケットなんだよぉ! それに今のうちにトンズラしないと総一がシスターシャークティを連れて戻ってきたら――」

「“戻ってきたら”、何なのですか?」

 

 突然、聴こえてきた誰かの声に、美空の動きが止まった。そして壊れたブリキ人形の如く彼女はゆっくり後ろを振り向いた。

 

「し、シスターシャークティ!?」

 

 そこにはシスターシャークティとさっき姿を消した総一が立っていた。

 

「ちょ、早すぎっしょ!! 龍宮(たつみー)はどうしたんすか!?」

Victory(ブ イ)

 

 シャークティの後ろにいる総一が静かに指を二本立てた。それを見た美空は表情を暗くし、総一が何かしら上手くやってきたのだなと理解した。

 

「まったく貴女ときたら、目を放すとすぐこれなんですから……総一に手伝ってもらって正解でした」

「アハハぁ…………試合見たかったなぁ」

「……なにか言いましたか?」

「い、いえ、何も言ってないっすよ!」

 

 まだ言うか、と総一は呆れながら目を細めた。

 

「あなたは……?」

 

 刹那が訊ねた。

 

「私はこの娘達の師事役をしている、シャークティといいます。魔法使いの先生達から“任務”を受けて会場(ここ)に来ました」

「シャークティさんも高畑先生の救援に?」

「えぇ、そうです。どうやらすでにこの娘達から聞いたようですね?」

 

 明日菜と刹那は揃って頷いた。

 それを見て、シャークティは「一般人に任務内容を話すなんて……」と、美空を一瞥して、ため息をつきながら頭を抱えた。当の美空はとぼけたような顔をして目を逸らしていた。

 

「……まぁ、いいです。とにかく、ここでもたもたしても仕方ありませんから、急いで向かいましょう」

 

 美空とココネにそう言うと、シャークティは歩き出した。

 

「あ、あのっ!」

 

 明日菜の呼び止める声に、シャークティは足を止めて彼女に目をやった。

 

「私も手伝います!」

「いえ、桜咲さんならともかく、一般人の手を借りるわけにはいきませんので」

「でも――」

「イヤぁーーーーっ!!」

「ちょっ、お姉さまぁ!」

 

 突然、明日菜の声を遮る形で二人分の声が響き、総一は「なんだ?」と目を向けた。その悲鳴に、総一だけでなくシャークティ達も足を止めて目を向けていた。

 声の主である二人は、境内に入るや否や、あっという間に建物の中へと走っていた。

 

「あれは、高音さんと佐倉さん」

「なんかあったんすかねぇ?」

(……また脱げたか)

 

 修道女たちは首を捻ったが、総一と明日菜、刹那はネギのローブに身を包み、泣きながら駆けていく高音の姿を見て、なんとなく状況を察した。

 

「そういえば、あの人の試合が終わったということは……」

 

《まもなく第二回戦第四試合を行います。選手二人は能舞台(リング)へ――》

 

 建物に取り付けてあるスピーカーから聴こえてきた朝倉の放送を聞き、総一と刹那は自分たちの戦いが始まることを悟った。

 しかし、二人の眼には迷いがあった。

 『試合に出るか』、それとも『高畑先生の救援に向かうか』。

 だが、そんな同じ悩みを持った二人の顔色には大きな“差”があった。

 

「ん~、どうしたものか……」

「………」

 

 総一の表情はいつもと特に変わりないが、刹那は“なにか深刻なもの”を考えている顔つきになっていた。

 

「刹那さん!」

 

 そんな彼女の心情を察した明日菜は、刹那の背中をぽんとたたき、笑いかけた。

 

「試合が始まるんだから、早く行かないと!」

「ですが……」

「エヴァちゃんとの“約束”があるでしょ。棄権なんかしちゃダメ。勝ってちゃんと“証明”しなきゃ!」

「…………そうですね」

 

 明日菜の後押しに応えるように刹那は頷いた。

 

「うん、総一なんかボコボコにしてやってよ!」

「おい、こらぁ」

 

 総一は口を引きつらせた。

 

「アンタも、棄権なんかするんじゃないわよ!」

「……あぁ、分かってるよ」

 

 総一はこめかみをポリポリと掻きながら応えた。

 

「総一」

「はい?」

 

 シャークティに呼ばれ、総一は目をやった。

 

「高畑先生の救援は私たちに与えられた任務です。貴方は貴方のやるべきことをしなさい」

「えぇ、分かってます」

 

 総一が頷くのを見たシャークティは一瞬微笑み、「ほら、行きますよ」と美空達を連れてその場を後にした。美空は嫌々とした顔をしていたが、渋々ついていった。

 手助けを断られた明日菜であったが、彼女もさり気無く、シャークティ達に付いて行った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 時はさかのぼり、まほら武道会第一回戦が終了したときの救護室内。

 

「そろそろ二回戦が始まるよー! 小太郎君は一番初めだから特に急いでねぇ!」

「やっとかいな、待ちくたびれたで」

 

 朝倉が救護室にいる面々に向かって言うと、小太郎とネギは部屋を出て行った。

 

「ねぇねぇ、大丈夫なの、加賀美君!?」

「大丈夫だって」

 

 体の至るところに包帯を巻いているが、総一は何事もないようにかけてあったコートを羽織った。それを見るとハルナは慌てて彼を止めようとしたが、総一は少しも耳を貸さなかった。

 

「良いから戻れって。そもそもここ関係者以外立ち入り禁止だろ」

「ホンマに大丈夫か、総君?」

 

 木乃香が心配した顔で総一を見た。

 

「あぁ、もうこんな怪我しないから、心配すんな」

「……分かった。じゃあ、気をつけてな!」

 

 木乃香は笑って答えた。ハルナはまだ何か言いたいようだったが、木乃香、のどか、夕映の三人はこれ以上の追及をさせないため彼女を観客席へと連れて行った。

 

「じゃあ、師匠! 私たちも先に行ってるネ」

 

 四人に続いて部屋を出る古菲と楓に総一は「おぉ」と手をあげた。

 部屋の中には明日菜と刹那、エヴァとチャチャゼロのみ。一般人がいないと分かった総一は腕に巻いた包帯を取り、頬に張ってあった絆創膏を取った。

 

「か、加賀美さん!」

「取っちゃダメじゃない!? まだ傷が!」

 

 それを見た明日菜と刹那は焦ったように総一の腕を取った。

 

「大丈夫、もうふさがった」

「そんなわけないじゃない! 包帯巻いていないと傷が――って、えぇ!!」

 

 総一は自身の腕を二人に見せた。明日菜達は包帯を取った彼の腕に傷がなくなっていることに驚いた。

 明日菜は総一の腕を取ってまじまじと見た。

 

「ちょ、明日菜、腕の関節はそっちには曲がらなっイタタタタッ!!」

「ホントに治ってる!」

 

 だが、いくら探しても彼の腕には傷どころか傷跡すら無かった。

 

動物(ゾオン)系能力者のウリは回復力の高さとタフさだ。軽い傷ならすぐに癒える」

 

 エヴァンジェリンも立ち上がり、腕についた包帯を取った。彼女の腕もすでに傷はなくなっていた。

 

「へぇ~、便利な体ねぇ」

 

 明日菜の言葉にエヴァンジェリンは小さく息をつき、冷めた笑みを浮かべて「……便利か」と呟いた。

 

「それだけで済めばいいがな……」

「えっ?」

 

 明日菜は動きを止めてエヴァンジェリンを見た。その隙に総一は「放せ、こら!」と彼女の掴んでいた手を払った。

 

「『特異な性質を持つ人間(もの)は総じて周りから忌み嫌われる』。一概に良い事だけとは限らないさ。なぁ、刹那?」

「えっ?」

 

 急に話を振られた刹那は驚いたような声を漏らした。エヴァンジェリンは頬を緩めたまま、彼女を見ている。

 

「貴様、次の相手はコイツだったな?」

 

 エヴァンジェリンは親指で総一を指した。

 

「え、えぇ、そうですが……」

「先に言っておくが、今の貴様ではコイツに勝つことはできんぞ。以前までのお前ならまだしもな」

「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない!」

 

 明日菜が刹那を庇うように言った。

 

「いや、分かる。最近の刹那(コイツ)は“幸せ”に浸かって腑抜けになった。今のままでは総一(コイツ)は愚か、この最弱状態の私にすら勝てないだろうな」

 

 エヴァンジェリンの言葉に明日菜はムッと口を尖らせた。その横で総一が「最弱って……」と眉を歪ませた。さっきの戦闘を思い出す限り彼にはその単語が不適当極まりなく感じたからだ。実際、世界樹の魔力があるため文字通りの“最弱”ではない。

 

「……幸せ……私が?」

 

 刹那は修学旅行から今までの記憶を辿る。

 最愛の人――木乃香と再会して、修学旅行での出来事をきっかけに、以前とは比べものにならないほど親密になった。ネギや明日菜という友人もできた。そしてそんな彼女達に自分の『異端』というべき部分も受け入れてもらえた。

 それからというもの、刹那はみんなでいる時間が増えていった。その時間が多くなるほど彼女の笑顔も増えていった。凛と研ぎ澄まされ、落ち着いていた彼女の表情は、今ではすっかり豊かに明るくなっていた。

 エヴァンジェリンに言われ、刹那は自分が現状に幸せを感じていることを自覚した。そして同時に、それに心が満たされ、腕が落ちているということも否定しきれなく思った。

 

「……確かに、今の私では加賀美さんには勝てないかもしれません。けど、だからと言って手は抜きません。最後の最後まで全力で戦います!」

「貴様、そんなことでお嬢様を守れるのか?」

 

 その言葉を聞いて、刹那の表情に影が差した。エヴァンジェリンは彼女の様子を鋭い眼光で見つめている。その視線はまるで刹那を押しつぶすようであった。

 エヴァンジェリンは腕を組みながら総一を顎で指した。

 

「コイツ程度のヤツなど、この世界にはザラにいる! コイツに負けると思っているようでは、これから先、近衛木乃香を守りきれる見込みはない! “剣”など捨ててしまえ!!」

「ちょっと、エヴァちゃん! それは――」

「ちょい待ち!」

 

 明日菜の腕を引いて、総一は彼女の言葉を遮った。

 

「なによ!」

「良いから、黙ってろって」

 

 総一は明日菜にしか聞こえないよう小声で言った。そんな彼を明日菜は親の仇を見るような目で睨んだ。

 

「なんでよ! 友達があんな事言われてるのに黙ってられるわけないじゃない」

「エヴァさんだって意味なく、“あんな事”言わねぇーよ。良いから今は黙って見とけ」

 

 総一の真剣な顔つきと納得できなくはない理由に、明日菜は嫌々口を閉ざした。

 エヴァンジェリンや刹那にも彼らの声を拾えただろうが、エヴァンジェリンはともかく、刹那には周りの音を聞くほどの心理的余裕はなかった。

 視界の隅にいる二人を無視するように、エヴァンジェリンと刹那は話を続けた。

 

「……私は、お嬢様を守るため神鳴流剣士として刀一本でやって来ました。今になって捨てることなどできません!」

 

 エヴァンジェリンは嘲笑うかのように息をはいた。

 

「そんなことは無いだろう。剣が無くても、そばに幸せと愉しみが有れば人は生きていける。それを糧に生きるのもひとつの道だ」

 

 エヴァンジェリンはベットに腰かけて足を組んだ。

 

「別にその道を選ぶのも悪いとは言わん。これから先、ぼーやはずっと強くなる。ぼーやに貴様とお嬢様、両方を守ってもらうのも良い。貴様が剣を捨てても、なんの問題もないだろう」

 

 刹那は奥歯を噛みしめて俯いた。エヴァンジェリンの言うことには一理ある。だが、刹那は認めなかった。彼女にとって刀を捨てるという選択は愚行に等しい行為だった。

 

「……幸せを捨てなければ、強くは……お嬢様を守ることはできないんでしょうか……?」

 

 刹那の声は震えていた。

 

「さぁーな。だが、以前と比べて貴様は弱くなっている。それは今の幸せに浸ったからではないのか?」

 

 エヴァンジェリンの問いが刹那の胸に重く突き刺さった。動機が速くなり、額や手から冷や汗が流れてくる。

 

「……私は」

 

 やがて刹那は自身の手を握りしめ、まっすぐエヴァンジェリンを見据えた。総一と明日菜はその表情から彼女の“意志の強さ”のようなものを感じた。

 

「私は、剣も幸せも捨てません!」

 

 彼女の“答え”にエヴァンジェリンは「ふん」と不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

「できるのか、貴様に?」

「はい!」

 

 刹那はエヴァンジェリンを見据え、力強く頷いた。

 

「良いだろう、なら証明してみせろ」

「……証明?」

「次の試合、コイツに負けたら剣を捨てろ」

「ちょっ、待てよ、エヴァさん! さすがにそれは――がッ!」

 

 迫って物を言う総一をエヴァンジェリンは「お前は黙っていろ」と裏拳を振って沈めた。その視線はぶれず、まっすぐ刹那に向いていた。

 

「どうする、刹那」

「分かりました」

 

 刹那は迷うことなく了承した。

 

「ちょっと刹那さん! そんなこと言っちゃって良いの?」

「えぇ、大丈夫です」

 

 心配する明日菜に、刹那はやさしく諭すように笑って答えた。

 

「では、加賀美さん。次の試合、手加減無しでお願いします」

 

 刹那は総一に一礼すると部屋を後にした。明日菜も彼女に続いて部屋を出て行った。

 

 

 二人が出ていくと、救護室は妙な静けさに包まれた。

 

「……というわけだ。次の試合、手加減するなよ」

「なにが『というわけだ』だ」

 

 総一は床に倒れたまま、目を細めた。

 

「余計なことしやがって」

 

 総一は殴られた所を擦りながら身を起こす。苦い顔をしている彼を見て、エヴァンジェリンは微笑した。

 

「だが貴様も止めなかったではないか」

「そうだけど……。俺的には一歩手前で止まると思ってたんだよ……」

 

 総一は刹那とのやり取りから、エヴァンジェリンの心意を察していた。

 さっきまでの刹那には試合に勝つ理由――勝利への執着がまったくなかった。だが、今のエヴァンジェリンの“言葉”によって試合に勝つ理由ができ、刹那の試合への気構えはガラリと色を変えた。

 『試合に勝ちたい』『負けるわけにはいかない』という心は、人間を格段に強くする。

 つまり、総一をより強い相手と戦わせることがエヴァンジェリンの思惑だった。

 

「あんなこと言って……。どうすんだよ、桜咲が本当に剣を捨てたら?」

「その時はアイツの“剣への思い”がその程度だったってだけの話だ。それに……これは勘だが、アイツはたとえ負けても剣は捨てるようなヤツじゃない」

「…………だと良いけどな」

 

 総一は息を深く吐いた。

 

「でも、少し意外だった」

「何がだ?」

「エヴァさんの事だから、桜咲にもっとハーフの事とか“突っつく”かと思った」

 

 総一がそう言うと、エヴァンジェリンは「ふん」と顔を逸らした。

 

「別に大した意味はない」

 

 エヴァンジェリンは、声のトーンを低くして言った。

 

「世界というのは思ったよりも寛容だ。“半妖”だろうが“悪魔の化身”だろうが、受け入れてくれるヤツはどこかにいる」

 

 その言葉を聞いて、総一の顔は意外なものを見たような表情になった。

 

「へぇ~、エヴァさんにしては珍しくポジティブな意見だな」

「なっ!!」

 

 総一に言われ、自身が口を滑らせたことに気づいたエヴァンジェリンはみるみる顔を赤く染めていった。

 

「あっ、うぅ…………うるさい!!」

 

 エヴァンジェリンは照れ隠しなのか、総一の(すね)を勢いよく足先で蹴った。総一は「イィテッ!!」と声を出し、脚を押さえて痛みに悶えた。

 

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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