もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
ネギ「貴方がどこの誰だろうと、僕は貴方を越えて行きますッ!!」
総一(…………なに、この負けフラグ)
《それでは準決勝第十四試合、Fight!!》
――
試合が始まった途端、右足を踏み込んで後ろへ飛んだ総一に対し、ネギは自身の身体に魔力を纏わせた。
「
体を宙に浮かせた総一は、身を横にひねり振り抜いた脚から鎌風を走らせる。斬撃は空気を裂く音を鳴らしながらネギに向かってまっすぐ飛んだ。総一の放つ“嵐脚”の威力は、木片を真っ二つに切断するほどの力を有している。それを一回戦と二回戦の試合で目の当たりにしていた観客達は、開始早々、それが少年の体を過ぎった光景を見て、思わず息を呑んだ。
しかし、それが斬ったのはネギの残像だった。“瞬動”による高速移動でそれを避けたネギは、すぐに総一との間合いを詰める。総一の懐に入ったネギは、ノーガードになっている彼の腹部に向けて肘を突いた。だが、そのネギの肘打ちを打ち落とし、総一はもう片方の手をネギの頭に置き、体ごと下に落とした。
「なっ!!」
総一の全体重がかかり、空中ということもあって踏ん張ることもできず、体勢を崩したネギだったが、上手く体を一回転させ、そのまま振り返る形で着地を決めた。そして、それとほぼ同時に総一も舞台の床に足をつけた。
《おぉーと、始まって早々、凄まじい攻防!! 両者一歩も引きません! だが、やはり加賀美選手の方が強いのか!? ネギ選手の攻撃をまるで跳び箱を飛ぶように避けたァ!!》
「くっ、まだまだッ!」
二人は向き合い、自然と互いに目があったが、その時間は1秒にも満たなかった。ネギは再び“瞬動”を使い、再度総一との間合いを詰める。ネギの動きは、この試合での移動は全て“瞬動”で動くと決めているかのような、そんな勢いだった。
拳突きから体を廻しての肘打ち、廻し蹴りからの突き蹴り、掌底、手刀と、その場に合わせた技を直感で選択しながら、ネギは体を疾走させ、総一に攻めかかった。その攻撃は一見、総一を押しているようにも見えるが、拳は手首を打たれることで逸らされ、蹴りは総一の体をあとコンマ数秒速ければ当たるという所で躱される。放たれる技の数に反してダメージは一切与えられていなかった。
「生憎、中国拳法は見慣れてる……
「あうっ!」
体に走る痛みに、ネギは小さい声を洩らした。後方に押される衝撃は踏ん張ることで、なんとか動きを止めたが、代わりに、打たれた箇所がはやく脈打ち、ジンジンと痺れているように感じた。
《あーっと、加賀美選手の手痛い反撃! なんだ今の技は! 動く手がまったく見えなかったぞぉ!》
「豪徳寺さん、アレは?」
「さ、さぁ……多分、目に見えない速度で拳を突いたんだと思いますが、アレほどの速さは見たことがありませんね!」
朝倉の実況を聴いて、茶々丸が解説の豪徳寺に説明を求めたが、彼の答えはイマイチ自信がないような口調だ。また、総一が突いたのは、正しくは“拳”ではなく、“指”であるが、その速度はそこそこの格闘家でも目で追うのは難しいものだった。
(やっぱり生半可な攻撃は加賀美さんには通用しない。無闇に攻撃してちゃダメだ。加賀美さんは
ネギは立ち上がると、ギュッと拳をつくり構えを取った。
――
無詠唱呪文によって、ネギの周りに魔力の球が生成される。すると、ネギは重心を落として総一に向かいまっすぐ走った。
それを見て、総一は特に何もせず、ネギが攻撃してくるのを待ったが、間合いに入る直前、いきなりネギの姿が総一の視界から消えた。
一瞬、ピクリと反応した総一だったが、当のネギは“瞬動”を使って彼の後ろに回り込んでいた。移動した軌道は総一を中心に半円を描いたものだったが、一般人の目には一瞬にしてネギが総一の背後に現れたように見えた。
二人の間合いは2メートルほど。一歩踏み込めば攻撃がとどく位置に立つネギは、そこから総一に向けて、“魔法の射手”を放つ。その速さは、二人の距離が近いこともあって、総一にとどくまで1秒とかからなかった。
だが直後、ネギは驚きから自身の目を疑った。なんと、背中を見せる形で立っていた総一が、なんの迷いもなく足を運び、矢の軌道から体を外したのだ。
(なっ! 読まれたッ!?)
ネギがそう思っている間に、総一は振り返る。その顔に動揺は見られず、まるで何にもなかったかのように無表情だった。
「動きが素直だな。攻撃が手に取るように分かるぞ」
「うっ!」
またネギの表情が苦い顔になる。
「
反撃にと、総一は自身の指を一直線に突いた。ネギは身を低くしてその攻撃を躱す。いくら心に余裕のないネギといえど、真っすぐ突かれた指先を避けるのは難しいことではなかった。そして、そのまま懐に入り、また攻撃を仕掛けるネギだったが、どれも紙一重で躱されてしまう。
ネギは一度後ろに下がり、総一と距離を取った。
(いまのが『見聞色の覇気』……古老師もそうだったけど、やっぱりスゴい)
ネギは頬を伝う汗を拭った。今、彼は総一との実力に大きな差がある事を初めて実感している。自分の攻撃は一切当たらず、その反撃はとても強力。その感覚は、まるで嵐の中の雲を相手にしているようであった。
(ふぅ……純粋な拳法の精度は
そんな中、総一は目の前の少年の動きがいつもと違うことについて考えていた。古菲との修業中、同じ場所で行っていることもあって、総一は何度か少年の実力を目にしていたが、その時の動きや、第一回戦や第二回戦の時の動きと比べても、少年の動きは一目で分かるほど悪い。まるで腕に重りでもつけているのかとさえ感じた。
「嵐脚・
総一は床に足をつけたまま、一回、二回、三回とテンポ良く脚を振った。そんな分かり易い攻撃を、ネギは左右に飛んで躱したが、二発目以降の斬撃はネギが着地した先を的確に定めていた。
ネギは足を止めることなく、舞台上を走る。そして、再度“瞬動”で総一の間合いに入った。
「……オリャッ!」
「クッ!!」
だが、懐に入ると同時に、ネギは総一の廻し蹴りを喰らってしまった。
(ダメだ、完全に僕の動きが読まれてる!)
(はぁ……ネギ君に攻撃するたびに、ある方向からの殺気が増してんだけど。ホント、気が散るからやめて欲しいんだけどなぁ……)
動揺と焦りの色を顔に浮かべるネギをよそに、総一は眉を歪めて、嘆息を洩らした。
(でも、攻め続けなきゃ、離れたら不利になるだけだ。この際、攻撃を受けても仕方ない。加賀美さんが反撃した所を――)
ネギは拳法を使って攻め続けた。だが、どれも手の平で受け止められ、あるいは手首を打たれ、打ち落とされる。
「やっぱり、動きが悪い」
ネギの攻撃を無力化しながら、総一は言った。
「足先に余分な力が入って微妙に“スリップ”してるし、技にも無駄が多い……」
受け流す技を観察しながら、総一は拳を突く。その突きは油断しているせいか、それとも余裕の表れか、かなり単純な拳突きだった。
(ここだッ!!)
総一の言葉を半ば聞き流す中で、ネギは自身の攻撃を当てるチャンスを見つけた。
――
ネギの手に3つの魔弾が収束していく。総一はすぐに手を引いて距離を取ろうとしたが、ネギは前進し、しっかりと間合いを保った。
「キレのない技は、その威力も半減する」
そう言って、総一は手を後ろに組み、仁王立ちになる。こうなると、総一の体の前面はネギにとっては、ただの的だった。
「
――雷華崩拳!!
総一の体とネギの拳が衝突した瞬間、まるで花火が破裂したような音が鳴った。
《出たァァ!! ネギ選手の強力な必殺技!! 高畑選手をも一発KOしたその技を、真正面から受けた加賀美選手! はたして無事なのでしょうか!?》
「……ハァ、ハァ」
確かな手応えを感じたネギは、反撃を警戒して距離を取った。
足を引きずったのだろう、総一の前には2本の擦れた跡が走っている。だが、彼の体勢は攻撃が当たる前と特に変わらない。
目の前に立つ総一を見て、少年の表情は絶望的な色に染まった。
「痛ぅぅ……」
「そ、そんな……!」
総一は打たれた腹部を擦りながら表情を歪めるが、その姿勢は猫背になることもなく、相変わらずまっすぐだ。ネギの目には、彼が口にしているほど痛がっているようには見えなかった。
《おぉ、これはァ!! なんと耐えたァ! ネギ選手のパンチを受け止めた加賀美選手、余裕の表情で立っています!!》
(いや、全然余裕ではないけど……。でも、いくら動きが悪いとはいえ、流石に雷の魔法を纏った攻撃を鉄塊だけで受けるのは、考えが甘かったな……)
そう考えている内に、総一は表情を戻し、ネギに目を向けた。
「次からはちゃんと“武装”しよう」
独り言のように平然といった言葉だが、その声はネギの耳に確かにとどいていた。
ネギは表情を一層険しくする。
「……武装色、硬化」
総一の手先から黒いオーラが漂う。幽鬼のような印象を受けるその“力”は、彼の握り締めた拳に装甲の如く纏わった。
(くそっ、雪広の殺気がチクチク刺さるな、煩わしい……頼むから邪魔しないでくれっちゅーの!)
そんなことを思いながら、総一は黒褐色の拳を揺らし、ゆっくりと足を進める。
《これは、ネギ選手の「手が光るパンチ」に対し、加賀美選手は「手が黒くなるパンチ」だァ!!》
「構えろ、少年。ノーガードで受けたら、ただじゃ済まねぇぞ」
「くっ!」
総一はある程度まで少年に近づくと、踏み込んで一気に間合いを詰める。手首まで黒く染まった腕を構える総一に向かって、ネギは手を突き出した。
――
「ハァァ!!」
「グッッッ!!」
障壁に阻まれ、その突きは大半の威力を殺されたが、拳そのものはある程度の威力を残し、ネギの体を捉え、後ろに飛ばした。
(くッ! 障壁を張っても防ぎきれなかった!!)
総一の腕が元の色に戻るのを見ながら、ネギは殴られた肩を押さえ、膝をついた。
《今度は加賀美選手の強烈な一撃が決まったァ! ネギ選手は大丈夫か!?》
(タカミチの技ほど威力はないけど、風障壁を突き破る力を持っている! 攻撃は全部躱されるし、まず、あの“覇気”をどうにかしないと……でも、どうする、どうすれば……!!)
「『どうすれば俺に勝てるのか?』、そんな顔してるな」
「うっ……」
図星をつかれたネギは、唇を歪ませた。
「はぁぁ…………少年、お前」
総一は手をズボンのポケットに突っ込み、脱力したように肩を落とす。ネギにはその表情がどこか呆れているようにも見えた。
「実は、そんなに勝ちたいとか思ってないだろ?」
「なっ!! そんなことないです! 僕は――!!」
「じゃあ、なぜ目の前の敵を見ようとしない。こんな“不利な状況”で戦っている俺に、なにを手こずっている?」
語気を強めて否定するネギの言葉を、総一は鋭い口調で遮った。その彼の言葉に、ネギの心には疑念が残ったが、それを口にする間もなく、総一は続ける。
「戦いにおいて相手の攻撃パターンや弱点を探るのは基本だ。本当に勝ちたいなら、いま少年が何をすべきかは、すぐに分かることだろ?」
「……僕が、すべきこと?」
ネギが呟く中で、総一の羽織った黒いコートが風で揺れる。舞台上の風は穏やかで、二人の間を静かにすり抜けた。
「……周りを見ろ。“夢”を追うのはそれからだ」
総一はそう言いながら振り返り、背中を向けてネギと距離を取る。ネギは怪訝な顔をしながらも、辺りをゆっくり見渡した。
周りでは選手席にいる刹那とエヴァンジェリン、古菲、カモ、チャチャゼロ、客席にいる木乃香、のどか、夕絵、ハルナ、そして近くにいる朝倉や屋根の上にいるあやか達A組の面々……。皆それぞれ、心配しているような、あるいは興奮したような面持ちでネギを見ている。
(……皆さん)
彼女達を見ている内に、不思議とネギの心からは不安や焦燥が少しずつ消えて行った。
落ち着いた心持ちの中で、辺りを流れる風が一枚の花びらをネギの前に運んだ。それは少年の目の前をひらひらと通ると、そのまま彼の手の甲を触れる。
「……立て、少年」
仕切り直しだと言わんばかりに、総一は試合開始時と同じ位置に立って構えを取った。
「フゥゥ」
ネギは立ち上がると、眼を閉じて静かに息を吐いた。
再び開いた眼は、目の前にいる総一を捉える。彼のその真っすぐとした眼光を見た総一は、もう少年の心に一切迷いがない事を感じとった。
――そして、舞台に吹く風はその向きを大きく変えた。
「いくぞ、少年!」
「はい!」
両者同時に構えをとった。
「
ネギは瞬動で、総一は
先程までの近接戦闘では攻撃を受け流されていたネギだったが、今度は彼も総一の反撃技を受け流している。突き、蹴りの打撃技を打ち落としたり躱したりと、二人の攻防は凄まじいものだった。だが、彼らの動きはその速さから、まさに“閃”と化していて、周りの一般人にそれらを肉眼で追うことができるものは少ない。そして“閃”と“閃”がぶつかる度に、大きな衝撃音が鳴り響く。
舞台上に転々と現れるように見える二人の戦う姿に、観客たちは興奮から胸を高鳴らせていた。
☆☆☆
――建物の屋根の上にて。
「ふむ、どうやら迷いは断ち切ったようでござるな」
「昨日まで“瞬動”も知らんかった奴があそこまでの動きするんか……」
「真剣勝負の中で得られる経験は、何百回の修業に勝るアルからな」
並んで試合を見ていた楓と小太郎の二人に、どこからか上がってきた古菲が声を掛けた。目を向けた二人と目を合わせると、古菲は近づきながら「やぁ」と手をあげる。
「うむ。古の言う通りでござる。それに、今はまだお主の方が強い。ヘコむでないでござるよ、コタロー」
「……るさぃわ」
「人の話はしっかり聞くものですよ、コタロー君」
「「うおぁ!!」」
唐突に姿を現したクウネルに、小太郎と古菲は驚き、揃って声を上げた。
「突然、現れて……。心臓に悪いアルヨ」
「こんにゃろぅ!」
「ふふっ」
目を丸くする古菲と敵意を向ける小太郎にクウネルは不敵に笑う。小太郎と楓に、古菲とクウネルを加えて、四人は試合を見守った。
――観客席の屋根の上にて。
「オイオイオイ、なにアレなにアレ!!」
「総吉もネギ先生もスゴイ!」
「二人ともカッコイイですぅ……!」
「見に来て良かったかもーー!」
「ネギ先生をアンナに殴るなんてェ! ホント、アンのヒトはァァ!!」
「委員長、落ち着いてぇ!!」
「うぅ、なんか寒くない?」
「えっ、そう? 気のせいじゃない」
裕奈や鳴滝姉妹、桜子が興奮したように声を上げ、試合にくぎ付けになる横で、亜子は怒りに燃えるあやかをなだめていた。その隅で一部(美砂)が寒気を感じていたが、それがあやかによるものだと気づく者はいなかった。
「あっ……ねぇ、みんな見て、コレ。ネットにネギ君の話が出てるよ」
円が自身のパソコンを「ほら」とみんなに見せる。画面にはネギの写真画像と共に、彼のプロフィールと行方不明の父親の事についてが記述されていた。
☆☆☆
攻防を繰り返す中で、突然ネギは足を止め、総一を迎え撃つ体勢になった。その行動に、総一は警戒を強めながら、そのままネギに向かって行く。
――
(ゼロ距離射撃!?)
ネギは魔力弾を放った。放たれる直前に攻撃を察した総一だったが、間合いが近すぎることもあり、かなり驚いたようだ。
なんとか矢の軌道から体を外した総一だったが、無理矢理な回避動作のせいで彼の体はバランスを崩す。そのスキを突いて、ネギはたたみ掛けるように、距離を詰めた。
――外門頂肘!!
「
攻撃の風圧に逆らうことなく身を任せ、ネギの肘突きに触れるか触れないかのギリギリの所で総一は身をかわした。そして、そのまま総一は距離を取ってネギと向かい合う。
「危ねぇ……!!」
(避けられた、あと少しだったのに……でも、分かった。加賀美さん達の使う『見聞色の覇気』は万能じゃない。攻撃が来ると分かってても、避ける余裕を与えなければ攻撃を当てられる! そして、今の攻撃を“覇気”でガードしなかったってことは、覇気を纏う――武装する――には、ある程度の時間が必要……それなら、まだ勝つチャンスはある!)
(なんか作戦考えてそうな
身構えながらこちらの様子を伺っているネギに、総一はその心境を悟り、仕掛けてくるのを待った。
(そういえば、加賀美さん、
総一に勝つ作戦を考えている中で、ネギの脳裏にある光景が過ぎった。それは、総一が前のエヴァンジェリンと刹那の試合の中で、“月歩”を使って舞台へと戻る映像だった。
(…………はっ!! そうか! いや、“そうだ”! 加賀美さんは!)
しばしの思考の中で何かを理解したネギは、ハッと我に返ったような顔になる。そして同時に、さっきの会話の中で総一が自分に“ヒント”を与えてくれていたことに気がつく。
ふと、観客席の面々がざわつき始めた。ほとんどの者は自身の携帯電話を手に同じサイトの情報を目にしている。
「ネギくーーん、頑張れェ!!」
「頑張れぇ、子供先生ェ!!」
『ネーギ!! ネーギ!!』
そして次に、観客達のネギへの応援が合戦の如く勢いづいた。
「えっ、えっ!?」
「……なんだ?」
試合に集中していた二人は、急に騒がしくなった観客たちをそれぞれ不思議に思う。だが、「決勝に行けば行方不明のお父さんと戦えるかもしれないんだってな! 頑張れよネギ君!」という観客の言葉を聞いて、すぐに総一はその真相を察した。逆に、ネギは「どーゆうこと?」と困惑した様子だ。
「…………
ネギが観客たちに向け、返礼する横で完全に空気になっていた総一は、その右足を天に突き上げるように振り上げ、左足を踏み込んだ。二本の脚を車輪のように廻して進む中、鉄並みに堅くした彼の体は床を抉ってネギへと迫る。
「えっ、わわッ!!」
空を裂く音、床が粉砕されていく音に反応し、ネギは慌てて総一の進む軌道から離れた。舞台の隅まで行くと総一は鉄塊を解き、着地を決めた。
「よそ見とは余裕だな、解釈次第では少しカチンと来るぞ?」
「あっ、その……すみません!」
「冗談だ」
律儀に謝るネギに、総一は「ははっ」と小さい笑みを零した。
「……さて、俺に勝てば決勝で少年の父親、ナギ・スプリングフィールドと戦える……かもしれない」
「えっ! 加賀美さん、何故それを!?」
「さぁな……。けど、クウネルさんが少年の父親だろうがそうでなかろうが、俺には関係ない。それに、俺に勝てなきゃ、どちらにしろ決勝には行けねぇんだ。だから、とっとと構えろ。次よそ見したら、容赦なくぶっ飛ばすからな」
「……はい!!」
コートの丈をはためかせて体の正中線をネギから隠すように身構えた総一に、ネギは強く頷き、拳を前に突き出す構えを取った。
「
破裂したような音を鳴らして飛んだ総一は、目にも止まらぬ速さでネギの周りを駆けた。総一が足を踏み込むたびにそこから花火が鳴ったような音が響く。四方八方から音を鳴らすことで、ネギの混乱を誘発することが総一の狙いだった。
――
だが、ネギはあえて気にせず呪文を詠唱した。音に惑わされず、次の行動を迷わなかったのは良かったが、無詠唱呪文のうちネギが瞬時に放てる矢の本数は3本のみ。最多本数の九本となると、撃つまでにある程度の時間を有する。
当然、総一がそのスキを逃すわけも無かった。
「武装色、硬化!」
ネギの後方で足を止めた総一は、上から打ち落とすように“黒い拳”を振るう。
――瞬動術!!
総一の拳は舞台に大きなクレーターを作った。まともに当たれば、骨折だけでは済まなかっただろう。
「やるな。けど、逃がさねぇ。ここで決める! 気ィ引き締めろ少年ッ!!」
距離を取ったネギを見据えながら、総一はそのまま足を振った。
「
一瞬の内に何十と回転した総一の脚から発せられた3つの鎌風は、いままでの三日月形の斬撃とは異なり、渦を巻き完全な円盤の形となってネギの方へ飛んだ。その軌道はブーメランのようにカーブしている。直線状に飛ばない分、軌道を読むのが難しかった。
瞬動の着地を決めたネギは、迫りくる斬撃を見て「くっ」と奥歯をかみ、傷つくのを覚悟して二連目の瞬動で総一に向かった。丸ノコのような斬撃は、彼の横顔と脇腹に傷をつけた。ネギの表情は苦痛に歪むが、彼はそのまま走り抜け、総一に向かって手をかざした。
「はッ!」
ネギの周りで浮いていた九つの魔弾が総一を襲う。
「遅ェ!」
だが、総一は
――
魔弾の矢を放ってすぐに、再度魔弾を生成し、拳に収束させながら、ネギは瞬動で総一の間合いに入る。眼の前に現れた少年の姿に総一は「むっ!」と眉間に皺を寄せた。
――桜華崩拳!!
「
ぶつかり合った二人の拳は辺りに突風を巻き起こす。二人を中心にして広がった気流に、一般の観客達は小さい悲鳴を上げ、格闘に精通している者達は真剣な表情で身を引き締めた。
「ぐッ!」
「うっ!!」
空中での衝突ゆえ、足で踏ん張ることはできない二人の力勝負は、一瞬の拮抗をした後に、互いの体を後ろへと飛ばした。
ネギは舞台上へ、総一は舞台の外側へ飛んだ。ネギの体は舞台上を転がったが、なんとか彼はすぐに反撃できる体勢を保った。対して、総一は水面に映る自分の姿を見た。
(あッ!!)
このままではマズいと総一は瞬間的に察した。
「ゲッ――」
――
『月歩』で空を蹴ろうとした総一だったが、ネギが放った光の矢を顎に受けて「ガハッ!!」と声を漏らした。
そして、総一の体はそのまま落下し……。
《あぁーと、これはッ!!》
ザバァーーンと大きな水しぶきを上げて彼の体は湖中へと沈んだ。
TO BE CONTINUED ...
やっと武道会の終わりが見えたァァァァ!
ウァァァ。゚(゚´Д`゚)゚。ァァァン
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
-
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
-
超 鈴音