もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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55. 旧知の仲

 

 

 

「ガハッ、ゲホッ、ケホッ……はッ!」

 

 のど奥になにか不快なものを感じながら目を覚ました総一は、すぐに上体を起こす。

 

「夢オチ!?」

「目覚めて早々なにを言ってるんだ貴様は?」

「加賀美さん! 大丈夫ですか?」

 

 周りを見ると、騒がしく歓声を上げる観客達を背景にして、腕を組むエヴァンジェリンとカモを頭にのせたチャチャゼロ、心配した顔をしているネギと刹那の姿があった。

 

「……あぁ、溺れたのか俺」

 

 濡れている自身の服と体を見て、総一は気絶する前の事を思い出した。

 よく見ると、ネギの服や髪も濡れて水が滴っている。

 

「少年が引き上げてくれたのか。サンキューな」

「いいえ……僕の方こそ、ありがとうございます」

 

 頭を下げて丁寧に礼を言うネギに、総一は「ん?」と首を捻った。

 

「加賀美さんの助言がなければ、僕が加賀美さんに勝つことはできませんでした」

「……助言? なんか言ったっけ?」

「えっ!?」

 

 心当たりがないように言う総一の言葉に、ネギは思わず戸惑った声を洩らした。そんな素直な少年のリアクションに、総一は「ははっ」と笑った。

 

「とりあえず、内容はどうあれ試合の結果は『少年が勝って俺は負けた』。なら、勝った少年は負けた俺の分も決勝で戦えば良いんだよ」

 

 総一はネギの健闘を祈る意味で「頑張りな」と笑みを向ける。

 

「……はい!!」

 

 ネギが力強く頷く姿を見て、もう何も言わなくても良いだろうと内心で思い、総一は羽織っていたコートを脱いだ。

 

 

 

「あの、加賀美さん、本当に大丈夫ですか? 引き上げた時に白目剥いてましたけど……」

「あぁ、大丈夫大丈夫。水中ならアレだけど、陸上なら全く問題ないから」

「そうですか」

 

 ネギはホッと胸を撫で下ろした。

 

「加賀美さんが前に言っていた、悪魔の実の能力者が泳げないというのは本当だったんですね」

「あぁ、ホント不便だよ……」

 

 刹那の言葉に肯定しながら、総一は辟易とした顔で濡れたコートの水を絞り取る。途中、大会の救護係がやってきて総一の容態を見に来たが、平然としている総一と、本人が「大丈夫です」と言い張ったため、特に何もせずに去って行った。

 そこでふと、総一は「あっ」と何かを思い出したような声を上げた。

 

「そういや、少年も大丈夫か? 最後の嵐脚……斬撃技で血が出てたように見えたけど?」

「えぇ、傷は自分で治しました」

「そうか」

「ふん、あの程度の技を受けているようでは、やはりぼーやはまだまだだな」

 

 見下したように目を細めて言うエヴァンジェリンに、ネギは「はぅ!」と心にダメージを負ったような顔をした。

 

「私や刹那から見たらあんなの茶番も良い所だ。派手ではあったが中身がない」

 

 ネギが「すみません、師匠(マスター)」と謝る横で、桜咲は「あはは」と苦笑し、総一は「さらっと桜咲を味方につけるなよ……」と眉を歪めた。

 

「そもそも始まる前の態度からしてダメダメだ。ぼーやがウジウジしている隙に、総一はさっさと勝負を決めることもできた。強敵を相手に別の事を考えて集中力を欠くなど、愚の骨頂だ。悩むのは結構だが、試合の前にどう戦うかぐらい考えておけ、アホ! それに聞けば、能力者の弱点をついたのも、総一が助言したからとか言うではないか! 能力者の弱点くらい常に頭の隅に置いておけ、バカ者!! しかもその弱点を知っていたとして、会場(ここ)が湖で囲まれていなければ、ぼーやが勝つことはできなかった。つまりこの試合ぼーやは運が良かった上、タカミチの時と同じで総一(コイツ)に勝たせてもらったに過ぎん!! わかったか、小僧!!」

「うぅ、は、はい!」

 

 息を吐くように説教をするエヴァンジェリンに、ネギは弱々しく返事をした。

 

「厳しいですねぇ」

「容赦ねぇな」

「事実ダカラナ」

 

 刹那、カモは少年に同情の眼を向け、チャチャゼロは面白そうに「ケケケッ」と笑った。

 

「強く生きな、少年」

「……はい」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 それから時は少し経ち、おそらく今日最後になるであろう、舞台の修繕作業が終わった。

 

《さぁ、遂に伝説の格闘大会「まほら武道会」決勝戦です!!》

 

 朝倉のアナウンスを聞いて、観客達は一層大きな声を響かせた。そして、それを機にネギは気持ちを引き締め、力強い表情を見せた。舞台上では、朝倉が場を盛り上げている中で、クウネルが姿を現す。急に現れた彼の姿を見て、観客はより大きな歓声を上げた。

 

「……はぁ」

「ドウシタ?」

「疲れた」

「ソウカヨ……」

 

 選手席ではチャチャゼロを頭にのせた総一がため息を吐き、地べたに胡坐をかいている。彼の左横では、刹那とカモが緊張した面持ちで、右横ではエヴァンジェリンはむくれた表情をして長椅子に座っている。

 

「ところで、さっきからなんでエヴァさんはそんな不機嫌そうなの?」

「……貴様には関係ない」

 

 総一は気になり訊ねてみたが、エヴァンジェリンはふんと鼻を鳴らすだけで何も答えない。だが、彼女の機嫌が悪いのは傍から見ても明らかだった。

 

《それでは、決勝戦、Fight!!》

 

 舞台上でネギとクウネルの二人が向き合うと、すぐに試合が始まった。開始早々、クウネルはアーティファクトを展開し、本を一冊手にする。そして彼の体が光に包まれたかと思うと、眼鏡をかけた渋めの男が姿を現した。

 男はタカミチと同じ技を使って会場に水煙を舞わせる。少しの間、誰も舞台の様子を見ることは出来なかったが、煙が晴れると、またフードを被ったクウネルとネギが姿を現した。だが、その時間もつかの間、煙が晴れて二人の姿が見えた途端、またクウネルの体が光に包まれた。

 光が落ち着き、再度現れた“クウネル”の姿を見て、周りにいた一同は騒然とした。

 

「なっ!!」

「オイ、まさかアレって!!」

「……おぉ!」

「……チッ」

 

 刹那とカモが驚きの声を上げる横で、総一は物珍しいものを見た声を洩らし、エヴァンジェリンは忌まわしげな表情で舌打ちをした。

 舞台上では、現れたナギ・スプリングフィールドにネギが「父さぁぁん!」と涙を流している。

 

「エヴァさんの機嫌が悪いのは“コレ”か……てか、知ってたのか?」

「あぁ。カンフー娘の試合で思い出した。ヤツのアーティファクトは記録した人物を再現することができる。本人の記憶も合わせてな」

「では、やはりあの人がネギ先生の……」

 

 刹那がそんな言葉を洩らす中で、ネギはナギの懐に飛び込んだ。それを受け止めるように手を広げていたナギだったが、受け止める直前に表情を変え、ネギの額に強烈なデコピンを打ち込み、弾き飛ばした。

 あまりの行動に、周りの皆は「なっ!」と反応に困り、ネギ本人も額を押さえて目を丸くしている。

 そんな皆の反応をよそに、ナギは周囲の風景を見て「まほら武道会か……」と今の状況を理解した。

 

「……強ぇな。流石、エヴァさんと並ぶ“伝説”」

「分かるんですか?」

「まぁ、ある程度はな……」

 

 自身の呟きについて訊ねてきた刹那に答える総一だったが、さっきからチクチクと感じる横からの雰囲気に、目をそっちに向けた。隣ではエヴァンジェリンが口を尖らせて、うちにある怒りを静かに燃やしている。

 

「……ふん!」

「おーい、エヴァさん、そんな殺気立たないで。それ以上、覇気をむき出しにしてたら周りの身が持たないから!」

「知るか、私には関係ない!」

「ケケケッ、ソンナニムカツイテルナラ、イッソ派手ニ殺リ合エバ良イジャネェーカ」

「やめろ! “戦争”になるだろ‼ 気絶どころか負傷者がでるわッ!」

 

 頭の上でケラケラ笑いながら煽るチャチャゼロに、総一はかなり本気で焦った語調で言った。実際、エヴァンジェリンの体は呪いによって弱体化しており、ナギの姿もクウネル――アルビレオのアーティファクトによる“幻影”であるため、二人が戦ったとしても、総一の考えるようにはならなかっただろう。

 そんな中、舞台にいる二人のやり取りは進み、ネギとナギが手合わせする流れとなった。父親との初めての勝負。ネギにとってこの時間はとても大切な時間であった。

 

 

 選手席にいる総一達も合わせて周囲の人間はネギとナギの戦いを見守った。二人の戦いは、はるか上方の空を飛んだり、(主にナギによる)無詠唱とは思えないほどの威力のある魔法を使ったりと、かなり派手なものだったが、時間にしては5分と満たなかった。

 ネギが倒れ、朝倉は試合の終わりを告げた。だが、ネギの顔からは負けた悔しさなど一切感じられず、隣に立つナギに嬉し涙を浮かべながら笑いかけていた。

 ナギに手を貸してもらい立ち上がったネギは、彼と向かい合う。

 

《まほら武道会、優勝はクウネル・サンダース選手!!》

 

 朝倉の実況を聞き、能舞台に立つ二人の姿を見て、観客達が大きな歓声を上げた。その声は周辺の大気を響かせ、しばらく止む気配を見せない。

 しかし、ここでふと選手席にいた刹那はあることを思った。

 

「そういえば、エヴァンジェリンさん。今、あの方に頼めば呪いを解くことができるのでは?」

「……イヤだ」

「はぁッ!?」

 

 できないだろうと“察して”いたが、折角自分の呪いが解けるチャンスに、「無理だから」「できないから」ではなく、「イヤだから」という感情的な理由で拒否するエヴァンジェリンに、総一は唖然として、彼女に目をやった。急に振り向いたせいで頭上のチャチャゼロは振り落とされそうになり、「危ネッ!」と彼の頭にしがみつく。訊ねた刹那や隣にいるカモも意外そうな顔をしていた。

 

「なんで私がヤツに頭を下げなきゃならんのだ!」

「いや、頭下げるとかじゃなくて、普通に『呪い解け』って言えば良いだけじゃん?」

「うるさい! イヤなものはイヤなんだよ!! アイツに頼って呪いを解くのは私のプライドが許さん!」

「子供か!」

 

 そう声を上げてツッコんだ後、すぐに総一はアゴに手を当て考えるポーズをとった。

 

「……まぁ、ある意味、子供か」

「蹴り飛ばすぞ、貴様!」

 

 目をつり上げて怒るエヴァンジェリンに、チャチャゼロは「ケケケ」と笑う。そんな彼女から目線を外して誤魔化す総一だが、刹那とカモは、彼女の殺気に当てられて、密かに冷や汗を掻いていた。

 そして、その殺気を感じ取り、舞台にいた一人の男が「ん?」と顔を向けた。

 

「……おっ!」

 

 その男――ナギはエヴァンジェリンの存在に気づくと、珍しいものを見た顔になる。

 

「エヴァさん、あの人――ナギさんが見てるぞ」

「……チッ」

 

 ナギと目を合わせるとエヴァンジェリンは顔をしかめて、また舌打ちをした。怒りからか、あるいは照れからなのか、彼女の頬はうっすらと赤く染まっている。

 

「ちょっと行ってくる」

「ケンカすんなよ」

「うるさい、分かってる!」

 

 エヴァンジェリンはゆっくりと歩を進め、ナギのいる舞台に上がった。気のせいか、総一には彼女が足を動かすたび、なぜか床が軋んでいるように感じた。また心なしか今のエヴァンジェリンからはどこか“女王”のような風格を感じる。

 

「おぉー! やっぱり、エヴァンジェリンか。久しぶりだなぁ」

「あぁ、貴様がいつ頃の“幻影”なのかは知らんが、久しぶりだな……」

「お前、こんな所で何やってるんだ?」

「なっ、『何をしているのか』だとォ!!」

 

 青筋を浮かべ、目をつり上げ、エヴァンジェリンは沸々とした怒りを抑えるようにゆっくりと言った。幸い、周りの騒がしい歓声のお陰で、彼女達の会話が一般人に洩れることはない。

 

「よくそんなことが訊けたな、貴様! 貴様がかけたデタラメな呪いのせいで、私は15年間この学園に縛り付けられているんだよ!」

「……あっ! あぁーーっ、アレな!」

 

 思い出したように言うナギはポンと手を打った。

 

「いやぁ、俺もスゴク気になってたんだけどよ」

「やはり忘れていたのか、貴様ァ!」

 

 怒りと呆れが混じった眼光で睨みつけるエヴァンジェリンに、ナギは「悪い悪い」と笑った。彼女の覇気に当てられても平然としているのは流石と言ったところだろう。

 

「まったく、“赤い髪”のヤツはこれだから……」

「あ、あの師匠(マスター)、落ち着いて……!!」

「えっ、師匠(マスター)!? えぇ!」

 

 エヴァンジェリンに対するネギの呼び方に、ナギは一瞬驚いた顔をしたが、続いて興味深そうな顔で「へぇー、ふーん」と何かを察した。その顔が気に触ったのか、エヴァンジェリンは「うるさい」と切り捨てた。

 

「……まぁ良い。“幻影”の貴様になにを言っても栓無いことだ」

 

 エヴァンジェリンは「ふん」と顔を逸らす。そんな彼女を見て、ナギは疑問の表情を浮かべた。

 

「んー、なんか感じ変わったな、エヴァンジェリン。前はもっと殺伐としてた気がすんだけどな?」

「いつの話をしているんだ、貴様は?」

 

 険しい表情をするエヴァンジェリンを見ながら、ナギは「んー」と何かを思い出す素振りをした。

 

「それより、もうそろそろ時間だろ。はやく消えろ!」

「……へいへい、わかったよ」

 

 確信があったわけではないため、ナギはそれ以上深く追及することはしなかった。

 エヴァンジェリンは「はぁぁ」とため息をついて舞台を下りる。その後ろではナギの体が光をおび始めていた。

 

「じゃあな、ネギ」

「父さん!」

 

 光に包まれる中、ナギは一言二言ネギと言葉を交わし、最後に「お前はお前自身になりな」と優しい笑みを浮かべ、姿を消した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

《それでは皆様、授賞式のほうへ移らせて頂きます》

 

 その言葉を機に、いつの間にか現れたこの大会の主催者、超鈴音が観客たちに向かって演説をはじめた。彼女の後ろでは表彰台が用意され、優勝者のクウネル、準優勝のネギ、ベスト(スリー)の二人である総一と古菲(クーフェイ)がそれぞれの順位の場所に上がっている。

 

「ふふーん、師匠と揃って3位アルネ!」

「折角なら3位決定戦でもやって、どっちが強いか決めるか?」

「うーん、それも面白そうアルけど、やめとくアルヨ。まだまだ師匠には勝てる気がしないアルネ」

 

 なんとなくで言ったこともあって総一は特に残念そうな表情をすることもなく、笑顔の古菲につられて微笑しながら「そうか」と呟いた。そして、ふと彼は周りからいくつか警戒しているような視線が超に向いていることに気がついた。

 

(アレは、高畑先生……瀬流彦先生にグラサンの先生達もいるな)

 

 大会が終わって超と話をしようと考えていた総一は、彼女を監視している先生たちを見て無理だと悟る。総一は「真偽の判断は皆様にまかせるネ」と言う超に目を向けた。

 

「どうしたモンかねぇ……」

「超がどうかしたアルカ?」

「あぁ、ちょっとな」

 

 超からクウネルに優勝賞金が手渡され、式が終わった途端、観客席から記者たちが押し寄せてきた。彼らはクウネルにマイクを向けるが、本人は「インタビューは苦手ですので」とニヤニヤ笑いながら姿を消した。そして取材対象を見失った記者陣は「では、ネギ選手に」と一斉に少年を見る。だが、ネギは朝倉に庇われ、大きな跳躍で会場を後にした。

 

「よし、古……」

「なにアル?」

 

 そんな光景を見ていた総一と古は、数秒後に来る自分たちの未来を揃って予感した。

 

「……逃げるか」

「賛成アル!」

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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