もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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57. ヒット&ランナウェイ

 

 

 

 ――現時刻、午後2時頃。

 

 学祭で盛り上がっている街中を、男が一人歩いている。黒いサングラスに黒いカイゼル髭、黒い髪の毛、着ているローブも黒、ズボンも黒、靴も黒とあって、全身黒づくめとなっているその男の格好は、制服や動物の着ぐるみを着ている人の多い学園祭の風景からは少し浮いていた。周りの人々もどこか警戒したような眼でその男を見ている。

 その男――加賀美総一は、一人行く当てもなく学園内を歩き回っていた。

 激闘のまほら武道会を終えて、マスコミに追われ、次に地下施設に呼び出されて、そこで超の計画を探ったり、高音に悪魔の実についての“正しい解説”をしたりと、かなり忙しく動いていた彼であったが、今はかなり時間を持て余し、のびのびとしている。

 地下施設を出る際に、明日菜とタカミチが麻帆良祭三日目に行うはずだった学祭巡り(デート)を早めてこの後で回ろうという話をしていたが、それに関して総一は「せいぜい頑張れよ」とだけ言い残してその場を後にしていた。なんとなく結末を“察している”彼にとっては、それが明日菜に掛けられる唯一の言葉だったのだ。

 

「和泉達のライブまで暇だなぁ……」

 

 時計を見ながら、次の予定――和泉亜子とチアガールズ3人のライブまでの時間を確認した総一は、開演までの5時間をどう過ごすかを考えた。

 

「んー、どうやって時間を潰したものかなぁ……」

 

 麻帆良祭には、一般的な学校の文化祭とは比べ物にならない規模の出し物がある。ジェットコースターや観覧車といった遊園地にあるようなアトラクション、某テーマパークさながらのパレード、学生によるクラスの出し物や部活のイベントなど、時間を潰す方法はいくらでもある。だが、そのレパートリーの多さや規模の大きさから総一1人で回るとなると、かなり不都合なものが多い。また、魔法使いの手伝いとして、超鈴音を捜索しても良かったが、総一はあまり気乗りしていなかった。

 

(『悪魔の実』などの諸々については高畑先生が学園長に報告したって言ってたし、超の基地探しして起動前のロボット軍団を壊しに行ってもいいけど、基地がどこに有るか分からないしなぁ。適当に地下探してれば見つかるかもだけど、望み薄だし(てか、普通に迷うし)…………うーん、その辺の喫茶店で時間潰すか。のんびりできるし)

 

 色々と考えた末、午前中の疲れを取ろうとまったりできる喫茶店にでも行こうと決めた総一は、近場にカフェがないかと探し歩く。

 

「喫茶店はどこに…………どわッッ!!」

「きゃ!!」

 

 目的の場所を探しながら歩いていると、急に後ろから襲った衝撃で、総一はヘッドスライディングの如く前に倒れ込んだ。その衝撃は、誰かが突進してきたモノだったらしく、ぶつかってきた者も総一と共に声を上げて倒れ込んだ。

 

「ツゥゥっ!!」

「イタタぁ……あっ、すすす、スイマセンッ!!」

 

 ぶつかって来たと思われる人物は、自分が地面に打ち付けられた総一の上に乗っている事に気づき、すぐに身を起こして必死に謝る。声色からして女の子のようだったが、総一はその声にどこか聞き覚えがあった。

 

「スイマセン! ウチ、前見てなくて……。怪我ありませんでしたか?」

「あぁ、大丈夫です」

 

 服に付いた土汚れを払いながら立ち上がると、総一は女の子の顔を見て「あっ!」と声を洩らした。

 

「なんだ、和泉か」

「ふぇ!?」

 

 見知らぬ黒ずくめの男に、いきなり自分の名前を呼ばれ、その女の子――和泉亜子は素っ頓狂な声を上げた。

 

「あ、あなた、誰、ですか……!?」

 

 驚きと恐怖の色が混じり、敬語ながらも関西訛りの感じられる語調で訊ねた亜子は、後退りして総一と距離を取る。

 

「俺だよ」

「あっ! あぁ、加賀美君か!」

 

 総一がサングラスと付け髭を取ると、目の前の人物が知り合いだと分かった亜子はホッと胸を撫で下ろした。

 

「一体どうしたん、その格好?」

「まほら武道会のせいで、新聞部(マスコミ)とか(クー)のファンとか追っかけて来る人がたくさんいるからな、それから逃げるために仕方なく……ってなんでお前泣いてんの!? 今のでどこか怪我したか?」

「えっ!! い、いや、ちゃう! これはその、違ぉて!」

 

 目を潤ませて顔を赤くしている亜子は自身の顔を隠しながらワタワタと手を振って否定する。だが、彼女の様子と頬を伝う涙から、彼女に何かあったというのは誰が見ても明らかだった。一瞬、黒ずくめの自分に怯えたからかと総一は思ったが、それとは少しなにかが違う。

 亜子は誤魔化そうと自身の腕で必死に涙を拭うが、彼女の涙が止まることはない。

 二人の近くを通る人達も「なにアレ?」「カップルのケンカ?」「にしては、あの男の子の格好、変じゃない?」「ねぇ、あの男の子って、たしか大会の……」と奇妙なものを見る眼になっている。

 このままだと周りの注目を集め、要らぬ誤解を与えかねないと思った総一は、「とりあえず落ち着け」とできるだけ優しい口調で彼女を落ち着かせる。そして彼女から感じる雰囲気に、気安く話せる事情ではないのだろうな、と察した総一は、彼女を促し、その辺にあったカフェへと足を進めた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……落ち着いたか?」

「うん……ごめんな、気つかわせて」

「いや、それは全然良いんだけどさ……」

 

 カフェのテラスにいる総一と亜子は、丸テーブルに座って互いに向かい合っていた。テーブルには先程総一が適当に頼んだホットコーヒーが置かれ、うっすらと湯気がたっている。

 店に入る際、店員から不審なものを見る眼で見られたので、今の総一はサングラスと付け髭をはずし、代わりにローブについたフードをかぶっている。

 

「ホント、ありがとう。ハンカチ、ちゃんと洗うて返すから……」

「だから気にすんな。なにがあったか知らないけど、今のお前に気を使う余裕なんてないだろ。無理すんな」

「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけやから……」

 

 亜子は総一から受け取ったハンカチで涙を拭い、くすんと息を吸った。

 

「言いたくないなら言わなくていいけど、一体なにがあった? 前方不注意になるぐらい泣きながら走るなんて……」

「うっ……え、えっと、そ、それはその、な。さっき、“ネギ君”達が楽屋に来てくれたんやけど、その時、ちょっと“色々”あってな……。そんでびっくりして、緊張しとった事もあってパニックになって、逃げ出してしもうて……」

 

 言葉を詰まらせながら早口で話す亜子は、一通り言い終えるとしゅんと肩を落とした。そんな彼女の様子を窺いながら、総一は「ふーん」と腕を組み、“記憶”を探った。

 

(この慌てよう……。ナギさん(偽)の正体を知ってることもあって若干心に余裕があるようにも見えるけど、大方原作通り、か……。イマイチ共感しきれないけど、それほど『背中の傷』を見られるのがイヤなのかね?)

 

 実際に目にしておらず、“ソレ”についての話も彼女から聞いたことはないが、『彼女の背中にある傷』が原因だろうと検討がついた総一は、(当人にとっては深刻な問題であると分かってはいるが)あまり共感できず、どうしたものかと小さく息をついた。

 

「まぁ、詳しくは訊かないけど……とりあえず、ステージの方には戻れそうか? 俺はよく知らねぇけど、ライブってギリギリまでリハーサルしてたりするから、開場より前に戻らなきゃいけないんだろ?」

 

 ライブに関わらず、音楽の演奏会などでは本番での演奏を最大限に成功させるために、開場の時間――会場にお客が入れるようになる時間――ギリギリまでリハーサルをすることが多い。

 総一に訊ねられ、亜子はコクっと小さく頷き、そのまま膝の上にのせた手を見るように俯いた。その様子から察するに、後者の問いには『YES』だが、前者は『NO』ということだろう。

 

(ダメだ、こりぁ)

 

 総一は心の中でそう思いながら、無表情のまま自身のケータイを取り出した。

 

「とりあえず連絡入れとくぞ。ネギ君の番号なら知ってるし、少年経由でライブメンバーの方にも伝わるだろ」

「うん、ありがとうな……」

 

 総一はケータイの電話帳の中からネギの番号を選択する。電話は数回のコールの後つながった。

 

《はい!》

「よぉ」

《その声は……加賀美さんですか?》

「あぁ」

 

 電話からは男性のものと思われる声が聴こえてきた。それは普段聴く少年のものではなく、やや大人びた雰囲気を感じさせる声色だった。おそらく魔法薬を使って姿を変えたネギのものだろう。そして声色とは別に、彼の口調からはどこか焦りの色を感じる。

 

《どうしたんですか? いま僕急いでて、できれば手短に――》 

「いま和泉と一緒にいるんだけどさ……」

《えっ……えぇーー!!》

 

 電話から聴こえた驚きの声に、総一は思わず眉をひそめてケータイを一度耳から離した。さらに向こうからは、『亜子さんと!!』『亜子がどうかしたの!?』『誰から(の電話)や?』とネギ(大人版)、釘宮、小太郎(大人版)の声も聴こえた。

 

《えと、あの、加賀美さん達は今どちらに?》

「学園北側にある広場のカフェテラスでコーヒー飲んでる」

《分かりました。すぐに向かいますので、そこで待っててもらえますか?》

「……あぁ」

 

 特に詳しく訊く事もなく、ネギは電話を切った。総一も画面の時計を確認すると、ケータイをポケットにしまった。

 

「幸い、まだ時間はある。それまでに緊張ほぐしとけ」

「うん。ごめんな……」

「だから謝らなくて良いって……」

 

 亜子の声から辛いという気持ちがじわじわと伝わってくる。総一はなんだか申し訳なくなり自身のこめかみをポリポリと掻いた。

 

(ここに来て、思わぬ“ズレ”が出たな。たしか原作だとネギ君(大人版)が元気づけてたけど……)

 

 総一は現状と原作を比較して相違点を考えた。原作の流れとしては、ライブの演奏前に亜子が(現状とほぼ同じ理由で)逃げ出し、転んで怪我して自身の血を見て気絶。その後、目を覚ました亜子は自分がライブを素っ放かしてしまったことに絶望するが、ネギ(大人版)の手によって過去へ戻る。そして彼とデートして、その中で彼に勇気づけられ、バンドに出る。大まかだが、総一の記憶している原作の大筋はそんな所だ。

 時間と状況からみて今は亜子が逃げた所にあたるのだろう。だが現状を考えると、この後に亜子が原作のような流れを辿るかどうかは微妙なものである。

 

(どうしたものか……)

 

 総一はコーヒーを飲みながら、同じくカップに口をつけている亜子を見た。彼女の眼はどこにも定まっておらず、顔を暗くして、ただただ不安に押し潰されているようだった。

 

「…………なぁ、訊いて良いか?」

「えっ! あ、えと、な、なにを?」

 

 急に話しかけられた亜子は、焦った様子で手に持ったカップを持ち直した。

 

「なんでバンドしようと思ったの?」

 

 亜子を見すえながら、総一はカップをテーブルに置いた。

 

「そ、それは、くぎみーや桜子……えっと、クラスの娘達に誘われたから……」

「うーん……それは言い換えれば、ただの“きっかけ”だろ。和泉にはその誘いを断ることだってできたわけだし……。じゃあ、質問を変えて、なんでその誘いにオーケーしたんだ?」

「それは……せっかくの学園祭やし、バンドやったら楽しいかなって……」

「バンドやるのって楽しいの?」

「うん、実際メッチャ楽しいよ。ウチの楽器ってベースやから、あんま目立てへんけどな……」

 

 暗い顔が少し晴れ、亜子はどこか照れくさそうに「あはは」と笑みを浮かべた。

 

「けど、いざ皆の前で演奏するなったら急に緊張してきて……。心臓がバクバク鳴って、体中が風邪引いたみたいに熱うなるわ、ガチガチなるわで、何もかもから逃げたしたくなってな……」

「ふーん」

 

 総一の反応が薄いことに、亜子は「いや、『ふーん』って……!」と目を丸くした。

 

「加賀美君は人前に出て緊張するとかないの?」

「そうだなぁ……」

 

 総一は腕を組みながら「うーん」と“前世”を含め思い当たるふしがないかと記憶を探った。

 

「……無いねぇ」

「無いんかい……はぁ、羨ましいわぁ」

 

 亜子はテーブルに自身の腕を置き、顔を伏せた。総一はまたコクリとコーヒーを口にした。

 

 

 

「タレコミによると、この辺りだ!」

 

 話し声や楽しそうな声が響く雑踏の中で、やたらハッキリした声を聴き、総一は「ん?」と目を向けた。

 

「げっ!?」

 

 目を向けた先にはドタドタと足音をたてて、キョロキョロと周りを探っている一団がいた。その人達の手にはそれぞれハンドマイクや指向性マイク、ビデオカメラやデジタルカメラ、記録用の手帳が握られている。

 

(うわぁぁ、マスコミ連中!)

 

 総一は懐からサングラスと付け髭を取り出すと、慌てて顔につけ、フードを目深にかぶった。

 

「ん? どないしてん加賀美君?」

 

 テーブルに突っ伏した姿勢のまま亜子は顔だけ動かして目を向けたが、総一は顎に手を当てる仕草をしながら「しーっ」と口先に人差し指を当てた。

 

「どこだ? どこにいる!?」

「タレコミがあってから、まだそんなに時間は経ってないぞ!」

「まだ近くにいるはずだ!」

「探せ!」

 

 近くから聴こえる声に、総一は彼らがはやくどこかに行くことを祈りながら、気付かれないように息を潜め、できるだけ気配を消すように心がけた。

 

「ちょっと、君たち良いかな?」

 

 だが、現実というものは数奇なもので、一人の男が二人に話しかけてきた。もしかしなくても新聞記者の人だ。

 

(なんでピンポイントでこっちに訊きに来るんだよ!?)

 

 総一は腕を組み、目を細めて視線を声のした方から遠ざけた。

 

「な、なんでしょうか?」

「こういう人を見なかったか? 午前中に開催された『まほら武道会』のベスト3の男の子だ」

 

 亜子が吃驚した様子で応えると、記者の男はテーブルの上に写真を置いた。その写真には古菲と共に表彰台に上がり腕を組む総一の姿が写っていた。総一はその写真を見て冷や汗を一筋流した。

 

「え、えっと……」

(こっち見んなよ)

 

 チラチラと視線を送ってくる亜子に総一は苦い顔で眉の端をピクピクと動かした。

 

「し、知らないですねぇ」

「そうか、君はどうだい?」

「さぁ、知らないな……」

 

 総一は顔を一瞬だけ向けると、すぐに逸し、できるだけ低い声色で返した。

 

「そうか、仕方ない。じゃあ、この子以外でも良いから、まほら武道会本選に出場した人を見つけたら、麻帆良新聞部の方に連絡してくれ」

 

 そう言い残して、記者の男は「では」とその場を後にした。

 気づかれなかった事に安堵して総一は小さく息をつく。だが、現実はそう都合良く行かなかった。

 

「おい、この店に加賀美選手と思われる人物がやってきたらしいぞ!」

「なんだってー!!」

 

 突然、店から出てきた男が叫ぶ。店員から色々訊いてきたとおもわれる、その男(おそらく新聞記者の同僚)の知らせに、総一たちから離れようとした記者は足を止め、身を翻して再度テラスの方へやってきた。

 

「店員の情報によると、加賀美選手はフードをかぶって顔を隠しているらしい!」

「なにィ!?」

「加賀美選手は変装しているぞ、よく探せ!!」

 

 多くの人が行きかう街中にもかかわらず、新聞記者の男は周りの同僚に伝わるように大きな声で言った。公の場で大声を上げるというのは控えるべき行為であるのだろうが、祭りの最中、加えて周りの一般人の多くが彼らの素性を知っていることもあって、誰も注意する者はいなかった。

 

(店員さんめ、余計なことを!!)

 

 慌しい雰囲気になるマスコミの人達の横で、総一がどうしたものかと考え、亜子は今にもバレるのではないかとオロオロし始める。

 周りにフードをかぶる人間が他にいないこともあって、新聞記者の人達が総一の姿を見つけるのに時間は掛からなかった。

 

「おい、あそこの……」

「あぁ」

 

 辺りに感じる不穏な動きに、総一はすぐに逃げられるよう伝票に書かれた代金をテーブルに置いた。追われる中でも彼に無銭飲食をする気はないらしい。

 

「あの、君、ちょっと良いかな!?」

 

 ものを訊ねるかのような言葉だが、その男の声には半ば確信めいたものを感じる。

 総一はガタッと音をたてて立ち上がった。急に勢い良く立ち上がった彼の行動に、記者達は驚いて一歩後退りするが、その隙に総一はわき目も振らずダッシュした。

 

「あっ、逃げた!」

「怪しいぞ、追えー!!」

 

 その声を合図に、周辺にいた取材陣の注目が一気に総一に集中する。総一は苦い顔をしながら一度後方の追手を確認した。テラスにいた二人を含め、追手の数は十数人近くになっている。

 

(ったく、しつこい! ある程度距離をはなして、その辺の適当な場所に隠れてやり過ごすか……。和泉を放置する形になっちまうけど……まぁ、和泉はネギ君に任せれば、なんとかなるだろ……って!!)

 

 心に余裕がない亜子をその場に残す形にしてしまい、やや後ろ髪を引かれる思いになった総一は、彼女のいるテラスに目を向ける。だが同時に、眼に映った光景を見て彼は思わず足を止めた。

 

「ねぇ、君! あの黒服の人と一緒にいたけど、彼って加賀美選手だよね?」

「君と彼はどういった関係なんでしょうか?」

「い、いえ、ウチは……」

 

 テラスでは亜子がマイクを持った男とスーツ姿の女性記者に質問攻めにあっていた。おそらく何かしらの関係者と思い、記者側もなにか訊きたいことがあるのだろう。

 総一は「ったく」とため息をつくと、(ソル)を使って追ってくる記者達の壁をすり抜け、亜子の元へ移動した。

 逃げたと思ったにもかかわらず、突然、現れた総一に、亜子と二人は『うわぁ!』と声を揃えて驚いた。

 

「なんでバカ正直に取材受けてんだよッ!?」

「えっ、いや、だって――!」

 

 びっくりして返答もままならない亜子であったが、総一は彼女の手を引いて走り出す。心がついていかない中で急に手を引かれた亜子だったが、不思議と足を引きずることはなかった。サッカー部マネージャーとあって、彼女の反射神経は良いようだ。

 

「ちょ、加賀美君! どこ行くん!?」

「逃げるに決まってるだろ!」

「なら、ウチのことはかまわず一人で――」

「それじゃあ、さっきみたいにマスコミに囲まれちまうだろが! トバッチリで取材受けてバンド間に合いませんでしたじゃ困るんだよ!」

 

 そう言って、総一は亜子の後ろに目をやった。

 

「加賀美選手!」

「待ってくださぁーい!!」

 

 案の定、亜子に取材をしていた記者二人が、総一と亜子の後を追ってきていた。よく見ると、はじめ総一を追っていた記者十数人も、こっちに向かって走ってきていた。

 このままでは逃げ切れないと思った総一は「仕方ねぇ……」と再度亜子に目をやった。

 

「ちょっとゴメン、和泉」

「えっ、なに――ひゃ!?」

 

 総一は亜子の腕を引き、流れるような動きで小脇に抱えた。それによって亜子に気を使うことなく全力で走れるようになった総一は、みるみる記者達との距離がひらいていく。

 

「ち、ちちち、ちょ、加賀美君、コレむっちゃ恥ずかしんやけど!」

「少しの間だけだ、我慢してくれ!」

 

 まるで猫のごとく持たれている亜子は、顔を真っ赤に染めて声を上げる。その亜子の声に反応してか、あるいは総一の足の速さに驚いてか、記者から逃げる二人の逃げる姿は周りの注目を集めていた。それらの視線に気づいた亜子は、さらに顔を赤くして「うぅぅ」と涙目で総一を見た。

 

「おろしてーー! やっぱコレメッチャ恥ずかしい!!」

「喋ってると舌噛むぞ、月歩(ゲッポ)!」

「キャァァァァ!!」

 

 普段は感じない加速度の力に恐怖を覚え、亜子は絶叫マシーンに乗っているがごとく悲鳴を上げる。

 二人は建物の屋根を飛び越えて記者達の追跡を振り切った。

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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