もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
ライブ会場付近に着た総一は、そこで通り沿いにあるアパレルショップを見つけた。そして新たな変装服を入手した彼は、亜子に自身の身体を元に戻してもらった。今は男の姿で藍色のジーパンに白シャツ、黒のフードパーカーと、カジュアルな印象を受ける格好をしている。変装用の伊達メガネをつけていることもあり、一見すると学園外から着た一般人そのものだ。さっきまでは姿を隠す変装だったが、今は完全に風景に溶け込む変装になっている。
総一が変装を終えると、二人はそのままライブ会場に向かった。会場の前では、大人の姿をしたネギと小太郎、ウサギの着ぐるみを着た茶々丸、小学生姿をした千雨、そして釘宮がいた。
「あっ、亜子さん!」
「亜子!」
ネギと釘宮は亜子達の姿を見つけると、走って駆け寄ってきた。
「くぎみー、心配かけてゴメンな」
「それは良いけど、大丈夫なの?」
「うん、もう大丈夫や!」
心配した表情を見せる釘宮に、亜子はにっこりと笑いかける。
「亜子さん、すみませんでした。いきなり部屋に入ったりして……。無神経でした」
「ううん、鍵かけてなかったウチも悪かったから。気にせんでええよ」
「ですけど……」
「ホンマ気にせんといて。ウチが大げさな反応してしもうただけやから」
申し訳なそうな顔をするネギに亜子は笑って応える。その笑顔は無理をして作ったようなものではない。そんな亜子の様子を見て、釘宮は「んー」と考える素振りをした。
「亜子、さっきまでと雰囲気変わったなぁ。ひょっとしなくても加賀美のおかげ?」
「……さぁ」
ネギと亜子が話す横で釘宮は隣にいた総一を見るが、総一は彼女と目を合わせないように顔を逸らした。
「そんじゃ、行ってくる!」
「おう、ガンバってな」
一通り話を終えると、亜子と釘宮は「それより亜子、ナギさんと仲良いわね? タメだし」「えっ! あっうん、前にちょっと色々あって!」と話しながら、その場を後にし、楽屋に向かった。
残った一行はライブが始まるまで会場の外で待つことになった。会場の周りにいる人は少なく、居たとしてもライブの出演メンバーやその関係者らしき人が何人か出入りする程度である。
「ありがとうございます、加賀美さん」
ネギは丁寧に頭を下げて御礼を言った。
「あぁ、気にすんな。ところで、コタロー少年と茶々丸さんは良いとして、こちらは?」
初等部生の姿をした千雨を見ながら、総一は訊ねた。なんとなく“察し”がついている彼であるが、幼児化している千雨を見るのは初めてな上、本来なら彼女が魔法についてすでに認知していることを総一が知っているはずがない。
「彼女はクラスメイトの長谷川千雨さんです。色々あって年齢詐称薬で変身しているんです」
「お前が勝手に飲ませたんだろうが!」
茶々丸の説明に千雨は可愛らしい声で怒鳴った。
「あぁ、長谷川か……また魔法バレしたのか」
総一の呟きを聞いて、ネギは「はぅっ!!」と声を洩らして気まずそうに顔を俯かせた。
「……『悪魔の実』についても、もう話したのか?」
「いいえ、それについてはまだ何も」
「じゃあ、話したのは魔法使いについてだけ?」
「はい、あとは仮契約について、少し」
「ふーん」
総一と茶々丸が話す横で、千雨は腕を組みながら総一を見上げる。
(やっぱりコイツも魔法関係者だったのか。まぁ、あの戦いぶりからしてそうなんじゃないかとは思ってはいたが……)
午前中のまほら武道会での総一の試合を思い出して千雨は顔を引きつらせた。
(そういえばネットで『悪魔の力』とか『能力者』とか言ってたな。口ぶりからしてコイツはそっち方面の関係者ってことか?)
総一は千雨の視線に気づき、「ん?」と目を合わせた。
「なにか?」
「あぁ、いや、別に……」
あまり人と馴れ合うのを得意としない千雨は、一瞬だけ戸惑いの色を見せる。だが、すぐに気を取り直して再度総一を見上げた。
「一応訊くが、お前も魔法使いなのか?」
「いいや」
総一は首を横に振った。
「なら……『悪魔の力』を持った『能力者』ってヤツか?」
「あぁ、そうだ」
「……やけにアッサリと認めたな」
やや思い切って訊いた千雨だったが、総一は全く動揺せずに平然と返す。その彼の反応に千雨は肩すかしを食った。
「お前の“ソレ”も秘密にしなきゃいけない事なんじゃないのかよ」
「……まぁ、そうなんだけど、魔法がバレてるなら良いかなって。お前が『
「良いのかよ、それで……」
千雨は呆れ果てて目を細めた。
ライブが始まるまで、まだ1時間ほど時間がある。このまま何もしないのも退屈なだけなので千雨は続けて色々と訊いてみることにした。
「『悪魔の力』とか、聴いた感じヤバそうに思えるんだが、大丈夫なんだろうな?」
「あぁ。『左手がァァ』とか『みんな俺から離れろォ』とか『代わりに御前の寿命を……』とかみたいにはなんないよ。代わりに泳げなくなるけどな」
「……あぁ、そう」
いかにもな例えを言った総一に、それと似たようなことを考えていた千雨は思わず口元を引きつらせた。
「なんで『悪魔の力』を身につけたら泳げなくなんだよ。なんの関係があるんだ?」
「さぁ。取り付いてる『悪魔』が海の悪魔の化身で、海に嫌われるからとか言われてるけど、真相は何とも……。けど、実際水に浸ると身体中の力が抜けるんだよ。雨とかシャワーとか半身浴なら大丈夫だけど」
「なんじゃそりゃ……?」
理解しがたい、ファンタジックなことを聞かされた千雨は更に口元をピクピクと痙攣させた。
「……まぁ良い。んで、その『能力者』とやらは、お前以外にもいるのか?」
「あぁ、学園にいる能力者は俺を含めて5人。3-Aのエヴァさんと雪広と和泉、あと男子高等部に1人」
「また半分以上がウチのクラスにいんのかよ!?」
眼をつり上げて声を張る千雨の迫力に押され、総一は「お、おぅ」とやや後退りした。
(マジかよ、本当に転校したくなってきたぜ。てかあの委員長と和泉が!? 全然イメージと違ぇーぞ!)
千雨は頭を抱えて頭痛を抑えるような仕草をした。
「へぇ、あやか姉ちゃんが能力者なんは聞いてたけど、さっきの姉ちゃんもそうやったんやなぁ」
小太郎が少し意外だと言うような声を洩らす。現在、あやかの部屋に居候している彼は、すでに彼女から『悪魔の実』ついていくつか聞いていたようだ。
「……ちなみに、『悪魔の力』ってのは具体的に何ができるんだ?」
「『悪魔の力』――というか『能力者』の持つ能力は人それぞれだ。能力を身につけるには『悪魔の実』っていう悪魔の宿った実を食べる必要があるんだが、その実によって得られる能力は違う。その能力も同時に二つと存在しない代物でな、一系統に亜種があるけど、完全に同じ能力はない」
「悪魔が宿ったって……。ほんとファンタジーだな、おぃ……」
千雨の眼がまた少し細くなった。
「じゃあ、お前の能力は何なんだ?」
「……俺はヒトヒトの実、モデル
「ぐっ、ツッコミ所が多すぎるッ……!」
「……まぁ、気持ちは分かるが、そういうものだと思ってくれ」
千雨はウぅーッと奥歯をかみながら手を握りしめた。そんな彼女の様子を見ながら総一は“今後のために”ライブが始まるまで彼女(と小太郎)に悪魔の実の詳細を語った。
☆☆☆
ライブが始まり、出演者の各グループはスポットライトの眩しいステージで2、3曲ほど歌を披露していった。歌い終えると、彼らは会場にいるたくさんの観客から拍手喝采を受けてステージから去って行く。『麻帆良 ROCK FESTIVAL』は上々な盛り上がりを見せていた。
そしていよいよ、次が亜子達の歌う番となった。
「あっ、やっぱり総吉とナギさんじゃん!」
「おぉ」
「どうも」
総一達に気付いた裕奈がまき絵とアキラを連れてやってきた。三人はクラスの出し物の格好をしている。
「見たよ見たよぉ、総吉ぃ! 昼間の激アツバトル!」
「あ、あぁ、そう……?」
手をグッと握って力説するが如く話す裕奈に、総一は勢いに押されて少し返答に困った表情を見せる。だが、亜子のライブが始まることもあって、その場の会話は短かった。
《続きましては、初参加の4人組ガールズバンドぉ!!》
司会者の声が響き、ついに亜子達がステージに立った。裕奈とまき絵は「キタキタぁー!!」と心を躍らせた。
《でこぴんロケットーー!!》
美砂がギターボーカル、円がギター、亜子がベース、桜子がドラムスを担当している、グループ名『でこぴんロケット』。
彼女たちの奏でる明るく軽快なメロディは会場の皆を魅了した。そして一曲目の歌が終わると大きな歓声が沸き起こった。
《ありがとーー! 続いて二曲目……でも、その前にとあるメンバーからお話がありまーーす!!》
美砂がマイクを通して客席に話すと、ベースギターを持った亜子に(ほぼ無理矢理)マイクを渡した。
(えっ!? あれ、この展開……
その流れにデジャブを感じた総一は、その“理由”に心当たりがなかったので、人知れずかなり狼狽した。
ステージ中央に立った亜子は、マイクを両手で持って「え、えっと……」と声を洩らす。微かに恥ずかしがっている様子が見えるが、亜子はまっすぐ客席と向かい合っていた。
《き、今日、私はある友達にとてもお世話になりました! その人にこの場を借りて伝えたいことがあります!》
「おぉ、亜子のヤツまさか!」
「えっ、ちょっとコレって!?」
亜子の態度と含みのある言葉を聞いて、裕奈やまき絵だけでなく周りの観客達も顔を赤らめ、ドキドキと期待に胸を膨らませた。
すぅーっ、と亜子は小さく息を吸った。
《あなたの言葉に、私はたくさん元気と勇気をもらいましたァ! ホンマに、ありがとーー!!》
彼女のまっすぐで素直な御礼に、会場はワァーと声が鳴る。
《……以上です!》
告白を期待した一部の人達がコテッと態勢を崩した。中には「えぇー!」と笑いしながら落胆する者もいる。
「ありゃりゃ」
「あはは、少し期待したけど……まぁ、いっか」
「あはは」
裕奈とまき絵とアキラの三人が微笑する横で、ネギと小太郎も似たような笑みを浮かべていた。総一もどこかホッとしたように(かつ少し残念そうに)笑っている。
「けど、亜子ってば誰に向けて言ったんだろう?」
「そういえばそうだね……。ふふーん、これは後で詳しく問い詰めなきゃねぇ!」
裕奈はニヤニヤとした怪しい笑みを浮かべる。人知れず総一は『やめてあげて!』という表情をしていた。
「………」
そんな彼の顔を無言で見上げる者がいた。総一はその視線に気づくとそっちに顔を向けた。すると、なにかを疑っているような表情をしている千雨と目があった。
「なにか?」
「お前、和泉になに言ったんだ?」
「……さぁ、心当たりが無いな」
「……ふーん」
総一は顔を逸しながら肩を竦めた。そのわざとらしい仕草に逆に千雨は確信を得たが、本人が話したくなさそうだったこともあり、それ以上彼女はなにも訊かなかった。
☆☆☆
『麻帆良 ROCK FESTIVAL』が終わり、総一はネギと小太郎、茶々丸と千雨と共に会場を出た。薬の効果も切れ、ネギ達も元の姿に戻っている。
「ライブゆーんも結構楽しかったなぁ」
「そうだね。亜子さんも上手く演奏できてたし、良かった」
少年二人は楽しげに笑う。普段むすっとしている事が多い千雨も、今はどことなく表情が柔らかい。
「じゃあ、僕また色々回らなきゃいけないので、これで!」
「おぅ、じゃーなぁ」
「頑張ってこいや!」
「頑張ってください」
手を振りながら走って行くネギを、総一と小太郎と茶々丸の三人は手を振り返しながら見送った。
「ホンマ大変やなぁ、先生ゆーのも……」
「まったくな。ネギ君の場合は取り分けそうだと思うが……」
小太郎の洩らした言葉に総一は深く頷いて同意した。
「さて、どうするか……夕飯でも食いに行くか?」
「おっ、姉ちゃんのオゴリか?」
「ンなわけあるか」
現時刻、19時頃。食事をするには良い頃合いだ。千雨は腕を組み、総一達に目を向けた。
「アンタ達も来るか? あ、
「いえ、嬉しいです」
「俺も行く。まだしばらく暇だしな」
四人は移動し、学園の街道を歩いて飲食店を探した。陽もすっかり沈み、学園内は建物から洩れた光や街灯に照らされている。麻帆良祭特有の雰囲気はいまだ衰えず、辺りは活気に満ちていた。
――ケンカだァ!
「「ん?」」
そんな中、周りの雑踏の中から声が聴こえ、四人は足を止めた。
――あっちでケンカがあってるらしいぞ!
――面白そうだな、見に行こうぜ。
野次馬根性の感じる言葉を言いながら見知らぬ男二人が駆けていく。総一は「はぁ」とため息をついた。千雨もまた呆れ果てているようだ。
「……ちょっと行ってくる」
「ほっとけよ。ただのケンカだろ」
「いや、俺の立場上そういうわけにもいかなくてな……」
千雨は気だるそうに眉をひそめるが、総一は左腕に『指導員』と書かれた腕章をつけた。
「俺も手伝ぉーか?」
「いや、俺一人で良い。悪いけど俺は夕飯パスで」
小太郎の申し出をありがたいと思いながらも断り、総一は「じゃあな」と手をあげて走り出した。
「アイツもアイツで大変だな」
「せやな」
「………」
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
-
ネギ・スプリングフィールド
-
神楽坂 明日菜
-
雪広 あやか
-
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
-
超 鈴音