もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
総一がメールに指示されたところに行くと、そこには三人分の人影があった。三人とも身を隠すような衣を纏い、どこか怪しげな宗教団体のように見える。
総一はその姿を見て警戒を強めた。
「やぁ、よく来てくれたネ」
「待ったか?」
「いやいや、全然待ってないヨ」
総一を呼び出した張本人――超鈴音はニコニコと笑い、ひらひらと手を振った。
「ニヒヒ。なんだか今の会話、カップルの待ち合わせみたいネ」
「言葉だけはな。待ってる人数といい雰囲気といい、それ以外は全然違うだろ」
超のいたずらっ子のような笑みとは違い、総一はイヤイヤとした表情で彼女を睨んだ。彼女の後ろには葉加瀬と茶々丸が立っている。総一の記憶では超の仲間は目の前にいる二人と龍宮真名の三人。『龍宮がいないな』と総一は辺りを覇気で探ったが、遠くから狙撃できそうなポイントを含めて、どこにも彼女の気配はしなかった。
「んで、渡したいモノって?」
「まぁ、そう焦るな。まだ全員揃ってないヨ」
「全員?」
「あぁ、もうじき“彼女”も来るだろう。もうちょっと待つネ」
「彼女…………あぁ、エヴァさんか」
超からヒントをもらい、なんとなく総一は察しがついた。『そういえばそんな場面もあったな』と彼は頭を掻きながら思い出した。
総一は超たちと距離をとって警戒しながらエヴァが来るのを待つ。
「待たせたな」
やがてニヤッと笑いながらエヴァンジェリンがやってきた。麻帆等中等部の制服を着て、ツバの広い真っ黒なとんがり帽子をかぶっている。箒に乗って現れたその様はまさに童話などに出てくる魔女のソレだ。
箒に座って空中に浮いているエヴァを四人は揃って見上げた。
「ニヒヒ、学園祭最終日も近づいて魔力もだいぶ回復しているみたいネ」
超は口元を緩ませる。対して総一は彼女の制服姿が少し新鮮に感じられた。総一とエヴァはそこそこ長い付き合いである。だが、エヴァが総一といる時、彼女は私服であることが多い。よって、いままで総一がエヴァ制服姿を見た回数は両手で数えられるほどしかなかった。
「なにエヴァさんその格好? 若作り?」
「殺されたいか貴様?」
会ってそうそう不愉快に感じる事を言った総一に、エヴァは刺し殺すような殺気をぶつける。その殺気をあしらうように総一は顔を逸らしたが、箒から降りたエヴァは彼の元まで歩くと「フッ!!」と思いっきり総一の足を踏んだ。
「痛ェーーッ!!」
「ふん!」
総一は痛みに悶え、その場にうずくまる。エヴァは不機嫌な顔のまま鼻を鳴らした。
「ニヒヒ……。さて、では約束通り二人に大会に出てくれた御礼をするネ」
超は目の前の二人のやり取りに苦笑いするも、そのまま「まずはエヴァンジェリンから……」と懐から白い紙を取り出してエヴァに渡した。総一と同様彼女も超と約束をしていたらしい。
「本物だろうな?」
「私、ウソつかないネ!」
「……ふん、まぁ良い。約束通り、茶々丸は貸してやるし、私は手を出さん。せいぜい酒の肴にして楽しむさ」
紙を受け取り、エヴァは疑いの眼で超を見るが、彼女は「ニヒヒ」と笑みを向けるだけだった。エヴァが受け取った紙は、どこからどう見てもただの“真っ白な紙”にしか見えない。大きさは広げるとA6用紙ほどだろうが、今は四つ折りにしてあるのでもっと小さい。形は整っておらず所々が千切れている。
「イテテぇ……なにそれ、宝の地図?」
微かに残る痛みを堪えながら総一は訊ねた。
「これは“ビブルカード”だ」
「えっ!?」
『誰の!?』という言葉を、総一はなんとか飲み込んだ。
「別名“命の紙”。人の爪から作られた特殊な紙でな、これを使えばどんなに離れていても
エヴァは説明しながら自身の手のひらに紙をのせて総一に見せた。紙は彼女の手の上でゆっくりと動く。その動きは総一の知っているモノとまったく同じだった。
総一は『この世界にもビブルカードがあるのか!』と内心でかなり驚いた。
「…………へぇー。んで、それは誰の爪から作られたんだ?」
総一が訊ねるとエヴァの表情が変わった。そのムッとした表情はエヴァが心底機嫌が悪い時によく見せるものだった。その表情を見て総一は少し驚いたが、それと同時に『何故そんな顔をするのか?』と疑問に思った。
「……貴様には関係ない。それより貴様もさっさと用を済ませろ!」
「いや、そういう風にはぐらかされると余計に気になるんですけど……もしかしてナギさん?」
「違う!」
「えぇー、じゃあ誰?」
「貴様が知らないヤツだ、教えても無駄だ」
「良いじゃん、知らないなら知らないで」
「うるさい! 関係ないと言っているだろう馬鹿者!」
なにを言おうとも教えるつもりはないらしい。エヴァは紙を仕舞うと腕を組んで顔を逸らした。
総一は渡した本人である超に『誰のビブルカードなんだよ?』と眼で訊ねたが、彼女は「ニヒヒ」と苦笑いするだけだった。
「エヴァンジェリンが教えたくないと言っているのに、私が教える事はできないネ」
「……ちぇッ」
口を尖らせた総一はエヴァを見ながら考える。
(あのビブルカード……ナギさんじゃないって言うし…………一体、誰のだ?)
『エヴァさんが欲しがる』『超が手に入れた』『
「では、加賀美にはこれを」
総一は考えるのを止めて超を見た。超の手にはA4サイズのひも付き茶封筒がひとつ。それを受け取ると総一は目を細めて超を睨んだ。封筒の感触から中には雑誌サイズの書物が入っているのが分かった。
「なんだコレ? これがお前の言う『俺が喉から手が出るほど欲しがるモノ』なのか?」
「まぁ、まず開けてみると良い」
超に勧められて、総一は懐疑的な顔をしたまま封を開けた。
「なっ!!」
ガサゴソと音を立てながら取り出したモノを見て、総一は思わず赤面して言葉を失った。その彼の反応に、興味なさげに立っていたエヴァもそっちに目を向ける。彼の手にはカラフルな表紙をした本が一冊。その本の表紙には可愛らしい幼い少女のイラストと共に『ロリっ娘LOVER!!』というタイトルロゴが描かれていた。
「貴様ぁ……」
「なんだよ、その眼! そんなゴミに群がるハエを見るような眼でこっち見ンな!」
総一の隣に立つエヴァは軽蔑した眼で彼を睨んでいた。その視線に気づいた総一は『濡れ衣だ』と言わんばかりに目を尖らせて苛立った声を上げる。
「オイ超、コレどういうことだ!?」
「いやぁ、加賀美はそういうモノが好きだと思って!」
「誰がロリコンだッ!!」
目をつり上げた総一は、超の顔に叩きつけるように封筒を投げつけた。
「ニヒヒヒ、冗談ネ!」
「よし上等だ、そのケンカ買ってやる覚悟しろ!」
今にも爆発しそうな怒気を露わにしながら、総一は拳を震わせる。握りしめた彼の拳には血管が浮き出ていた。
「こっちがホントに渡そうと思っていた物ネ」
「最初から素直に渡せよ! もうオレ、お前が信用できねぇーんだけど!!」
超が次に渡したのは宝箱を模したような木箱だった。総一は疑わしげな眼で睨みながら受け取ると、すぐに箱を開けた。
「これは……悪魔の実か!?」
箱の中には黄色い唐草模様の果実――悪魔の実が収められていた。総一はそれを取り出すと鑑定するかのような目つきでまじまじと見る。大きさはハンドボールほど、形はヘタのついたレモンのようだった。その造形や感触からみて、どうやら本物らしい。
「それは
「ソルソル?」
聞いたことのない名前に、総一は仏頂面をやめて「なんだソレ?」と首を捻った。彼には“前世の記憶”があるが、今世のモノも含めて彼の記憶には“ソルソルの実”という悪魔の実についてのモノはなかった。
「その能力は人から“
「なっ、“
サラッと言い放った超の表情はいつもと変わらず穏やかなものだが、総一はその強力さに驚きを隠せなかった。内にあった怒りもすっかり忘れている。まるで今自分の持っている悪魔の実が16ポンドのボーリング玉のように感じられた。
「“魂”は“寿命”という形で取り出され、それを与えられたモノは人間のように自我を持って動き出す。他人や死体には与えられないから、他人から“魂”を奪って延命をはかることはできないガナ」
「………」
超が言う『“命”を奪い、他に吹き込む』というのは、見方を変えれば『生命を創り出すこと』ができ、言うならば『神の所業』にも等しい。そのデタラメな“ソルソルの実の能力”に、エヴァンジェリンも目を見開いて静かに驚いていた。
「それで、なぜこれを俺に? こんな
「ホントにそう思っているカ?」
超はニンマリと意地悪そうな笑みを浮かべた。確かに“ソルソルの実”の能力を聞いて、総一はひとつの“使い道”を考えついていた。
「…………チッ!」
総一は舌打ちしながら悪魔の実を木箱に戻す。超から胸の内を見透かすような眼で見られ、彼は無性に腹が立った。
「(敗けフラグになりそうであんまり訊きたくないけど)……お前、何者だ?」
「良くぞ訊いてくれた! なにを隠そう私の正体は――」
超はニヤリと笑い、着ている衣をパサッとはためかせる。
「――月育ちの火星人ネ」
「いや、どこの戦闘民族?」
スケッチブックに描かれた『月面に立つタコのような火星人』の図を見せながら超は言い切った。そんな彼女の姿を総一は冷ややかな眼で見た。
「イヤイヤ、地球育ちのサ○ヤ人じゃなくて月育ちの火星人ネ!」
「ほとんど言い回し一緒じゃねぇーか!」
「でも、これ本当のことヨ。火星人ウソつかないネ!」
「火星人が何で月で育つんだよ! お前の過去に一体なにがあったんだよ!? 生まれてすぐに宇宙船で月に送り込まれたのか!!」
「聞きたいカ、私の過去を? なら聞かせてあげよう。それはもう涙なくしては語れない、波乱万丈、山あり谷あり、紆余曲折、行ったり来たりな人生をネ」
「『涙なくして』とか、自分でゆーか普通ぅ。もうなに聞いても泣けねぇーよ! てかお前の人生どんだけぐちゃぐちゃしてんのッ!?」
なにが楽しいのか超は「ニヒヒヒヒ」と明るく笑って返した。その独特な笑い方も彼女の過去があってのモノなのか、と総一は思ったが、それと同時に、これ以上彼女と話していると彼女のペースに嵌ってしまうようなイヤな予感がした。
総一は「はぁ」と心に溜まったイライラを吐き出すようにため息をついた。
「……もういい。とりあえず、コレはもらっとく。じゃあ、用も済んだし俺はこれで」
「あー、ちょっと待つネ。もうひとつ話があるヨ」
手を突き出して待ったをかける超に、総一は「はっ?」と眉をひそめた。
「なんだよ、まだなにか?」
総一が睨んで超に眼をやると、彼女はゆっくりと眼を閉じて心を落ち着かせた。そして目を開くと「加賀美」と名を呼んでまっすぐ彼を見つめた。
「我々の仲間になってくれないカ?」
「……断る!」
一拍置いて総一は冷めた表情のままサラッと言い放った。
「即答だな、もうちょっと詳しく話を聞いたり悩んでくれても良くないカ?」
「あぁ…………うぅーん……うん、断る」
「そんな悩んだフリだけされても……」
総一に適当にあしらわれ、超は困ったように笑った。
「せめて話だけでも聞いてくれないカ?」
「イヤだ」
「どうしてもカ?」
「どうしてもね」
「そうカ……残念ネ……」
超は諦めたように肩を落として顔を横に振る。
「じゃあな」
話を終えると総一はすぐにエヴァとその場を後にした。
☆☆☆
総一とエヴァンジェリンの後ろ姿を見送った三人は、まだしばらくその場にとどまっていた。
「良いんですか、超さん?」
「あぁ、元々あの人達がこっち側についてくれるとは思っていないネ。エヴァンジェリンが手を出さないと約束してくれただけで私としては十分な成果になったヨ。茶々丸の使用許可も貰えたしネ」
葉加瀬に訊かれ、超は頷いた。
「それに、加賀美の
「じゃあ、なぜ超は最後にあのようなことを?」
味方にならないことが分かっていたのなら『仲間になれ』と言わなくとも良いはずなのでは、と茶々丸は疑問を持った。
「“新世界”の荒波を乗り越えるために“天使”を傘下にしたかった、それだけヨ」
葉加瀬と茶々丸が不可解な面持ちで超を見ていると、ふと彼女のポケットが震えた。
「メール? 誰からですか?」
「ふふっ、最終日を前に個人面談のようネ」
画面に表示された『ネギ坊主』の名前に、超は笑みを浮かべた。
☆☆☆
「貴様、
「世界樹の魔力使って全世界に魔法と悪魔の実をバラそうとしてるんだろ」
「分かっててあの態度か。一体なにを考えてるんだ?」
「ぶっちゃけ、なにも考えてない。ただ、あのまま話を聞いていると面倒くさいことになる予感がしたから、はやく話を切り上げただけ」
総一の返事を聞いてエヴァはため息を吐き、やれやれと頭を押さえた。
「また、いつもの勘か?」
「さぁーね」
すると突然、とある方角から陽が昇ったような光が差した。
「うっ、眩しっ!」
「世界樹の光か。最終日が近づいて魔力もかなり満ちてきているな」
麻帆良学園の中央に生えている一本の樹は神々しい光を放っている。その樹の光によって学園都市全体はまるで昼のような明かりに包まれた。
「22年に一度の大発光ねぇ。まるで巨大なサイリウムだな……」
「なんだ、その例え……。それより貴様、その悪魔の実どうする気だ?」
「とりあえず、冷蔵庫の中にでも保管しとく」
「そうじゃなくて、その悪魔の実をどう使うかって訊いているんだよ!」
「エヴァさんには関係ないことです」
「……チッ」
総一がニヤリと笑って応えるとエヴァは不機嫌そうに口元をつり上げて舌打ちした。彼女自身も“ビブルカードの主”について話さなかったため、それ以上訊くことはできなかった。
――♪~♪~♪~
ふと、どこからか電子的なメロディが鳴った。総一はポケット内で震えているケータイを取り出した。
「木乃香?」
画面に表示された名前を見て総一は首を捻った。
木乃香ならさっき明日菜の後を追ったはずである。その彼女が自分に何の用だろう、と総一は思いながら応答ボタンを押した。
「どうした?」
《総くん、どーしよ! 明日菜がいなくなった!!》
立て続けに起こる問題事に、総一は辟易した。
TO BE CONTINUED ...
総一の原作知識について
◆ネギま
マガジンにて読了。読み忘れた、読み飛ばしてしまった話も(やや)ある。続編のUQ HOLDER!は未読。
◆ONE PIECE
ドレスローザ編までの単行本(80巻まで)を熟読。特にアラバスタ編がお気に入り。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音