もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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特に意味はない『もしネギ』情報

・初等部(3-A)の頃の出席番号
5番:加賀美 総一
6番:神楽坂 明日菜
8番:近衛 木乃香(書記)
11番:椎名 桜子
27番:雪広 あやか(委員長)




63. あーそびーましょー

 

 

 

 

 先程までまっさらとしていた白い砂浜は三人が暴れたことによって、荒野のようになっていた。辺り一帯には剣が刺さった跡やなにかの衝撃でヘコんだような跡がいくつも出来ている。

 しかし、周りをそんな風に変えた張本人たちも、今は息をきらして倒れ込んでいる。

 

「ハァ……ハァ……たぁく……」

「はぁ……はぁ……うぅ……」

「スゥゥ……ハァァ……ケホケホっ」

 

 総一、明日菜、あやかの三人は揃って仰向けに倒れて三者三様に呼吸を整えた。手にしていたアーティファクトも、今はカードの状態に戻っている。

 

「はぁぁ、キっツっ!」

「ホントにもう……疲れたわ……」

「同感ですわ……はぁ……」

 

 三人とも汗を流して疲れ切った表情を浮かべている。もう指の先をピクリと動かす力も残っていない、という感じだ。

 

「アンタ達、どんだけしぶといのよ。能力まで使ってズルいわよ……」

「『覇気』は能力じゃねぇーよ」

「明日菜さんのアーティファクトこそ卑怯ですわ。アーティファクトを消し飛ばすなんて……」

 

 三人は息の切れた声を出しながら呟くように話す。少し動かせば頭がぶつかるような所に、お互いの頭があったので大きな声を出さずとも三人は会話することができた。

 

「三人とも、やっと落ち着いたなぁ」

「明日菜さぁーん、委員長さぁーん、加賀美さぁーん、大丈夫ですかぁー?」

「木乃香」

「ネギ先生」

 

 明日菜とあやかは顔を横に向け、近寄ってきた二人(と一匹)に目をやった。

 

「もう三人とも、ケンカもほどほどにせなアカンぇ」

「「「だって……!!」」」」

 

 木乃香への返答を見事に揃って応えた三人は、気まずそうに口を閉ざした。

 

「ふん!」

「もぅ!」

「ちっ!」

 

 また三人は揃って顔をしかめる。その反応が可笑しかったのか木乃香はクスクスと笑い、ネギは苦笑いした。ネギの肩にのっているカモも「仲が良いんだか悪いんだか……」と呆れていた。

 

「あはは……まぁ、怪我がなくて良かったわぁ」

「そうですね」

「あんだけ剣ふって暴れてケガしてねぇのもスゲェーけどな……」

 

 カモの言う通り、一時間に及ぶ刃物を使ったケンカをしたにもかかわらず、三人の身体には(所々小さな切り傷と擦り傷はあったが)目立った外傷は無かった。強いて上げるとしたら疲労による筋肉痛だけだろう。

 やがて他の二人より少し早く回復したあやかは、ゆっくりと身体を起こしてネギを見た。

 

「すみませんネギ先生。御二人を止めると言っておきながら……」

「いえ、そんな、謝らないで下さい委員長さん。本来なら先生である僕が止めなきゃいけなかったのに……」

 

 シュンとしたあやかを慰めるようと、ネギは謝罪を断るように手を振った。

 

 ――ぐゅぐるうぅぅぅぅ

 

 ふと、動物の鳴き声のような低い音が鳴った。その音に反応してその場にいた全員は音のした方へ目を向ける。彼らの視線の先では相変わらず疲れ切った顔をした総一が自身のお腹に手を置いていた。

 

「……腹減ったぁぁ」

 

 どうやら音の正体は総一の空腹の音だったらしい。そんな彼の様子を見たあやかは立ち上がって彼を見下ろした。

 

「まったく。元気な腹の虫ですこと」

「うるせぇ、俺ぁ昼からなにも食ってないんだよ! その上こんだけ暴れたら腹の一つや二つ空くに決まってるだろうが!」

「そうですか……。一応ツッコみますけど、人にお腹は一つしかありませんよ」

「分かってるッつーの、言葉の綾だアホ!」

 

 あやかは「そうですか」と適当に返事した。

 

 ――ぐぅぅぅぅ

 

 すると、また違う所から似たような音が鳴った。微妙な違いを述べるとしたら、その音はさっきのよりも少し軽い。

 また全員が音のした方へ目を向けると、そこでは恥ずかしそうに明日菜が顔を赤らめていた。

 

「……どうやら本当に空いたお腹が二つあるようですね」

「うぅ……うるさいわね!」

 

 明日菜はゆっくりと上体を起こした。その仕草は赤く染まった自身の顔を隠すようだった。

 

「じゃあ折角やから、御飯にしよーか」

「そうですね、晩御飯食べ損ねちゃったので僕もペコペコです」

「御手伝いしますわ」

 

 木乃香の提案にネギとあやかはそれぞれ同意した。

 

「お嬢様に料理ができるのか?」

「失礼ですわね。私も一人の淑女、御料理くらいできます」

「あぁ、そうなんだ…………それより雪広」

「なんですか?」

「はやく、そこどいてくれ」

「はい?」

 

 身を翻して再度総一を見下ろしたあやかは、何を言っているのだろうと疑問に思った。彼女には総一から今すぐその場を退くように言われる理由が思い当たらなかった。

 

「このままだとスカートの隙間からパンツが見えそうなんだよ。はやくどけ」

「なっ!!」

 

 瞬間、あやかの顔が真っ赤に染まった。その瞬間を見ていた木乃香には、まるであやかの頭から湯気が立ち、ポフッと音が鳴ったように見えた。

 今の二人の態勢は総一が地面に仰向けに倒れて、あやかが寝転がっている彼の頭の近くに立っている状態だ。彼女が今着ているドレスのスカートは丈が膝位までしかなく、もしそこから一歩でも動こうものなら、風でヒラリと動いたスカートの隙間から中身が見えてしまうかもしれなかった。

 

「セクハラです!!」

「うぐっ!!」

 

 顔をリンゴのように紅くしたあやかは、そのまま横になっている総一の顔を踏みつけた。踏みつける為に足を上げる際、もしかしたら()()()()が見えたのかもしれないが、故意か偶然か、総一は眼にしていなかった。

 

「痛ェェ、何すんだよ!?」

「うるさいですわ、このスケベ! 淑女の下着を見て鼻の下のばしたりして!!」

「見てねぇーよ! 『見えそうだからどけ!』って言ったの!」

「どうだか、鼻血まで出しておっしゃられても説得力ありませんわ!」

「いまさっき出るヨウな原因があったダロ……」

 

 総一は鼻を押さえてうつ伏せとなった。彼が手を当てている部分からはポタポタと血が滴っている。

 

「ムフフぅ、なんだかんだ総一の兄ちゃんも“男”ってことッスね」

「ンだとクソカモ!」

 

 カモはニヤニヤとしながら同士を見るような眼で総一を見ていた。その様子に気づいた総一は、かなりカチンときた。

 

「テメェと一緒にすんじゃねぇ、握り潰すぞ‼」

「ひっ!!」

 

 総一のあまりの怒声に、カモは命の危険を覚えてネギの肩から逃げ出した。

 

「待てや、このナマモノがァァ!」

「ちょ、兄ちゃん動けないんじゃなかったンスか!?」

動物(ゾオン)系のタフさと回復力をナメんじゃねぇ! その首引き千切ってミキサーに入れて最大レベルで回してやらァ!!」

「ひょぇぇぇぇ!」

 

 砂浜をピョンピョン跳ねながら逃げるカモを総一は鼻を押さえながら懸命に追った。最初こそ垂れる血を気にしてカモが逃げ切っていたが、総一がテッシュを使って止血を施してからカモが捕まるまでそう時間は掛からなかった。

 

「さてケダモノ二匹は放っておいて……。ネギ先生、私達はディナーの準備に取り掛かりましょう」

「は、はい……!」

 

 あやかに連れられてネギは建物の中へと足を向けた。カモの末路が多少気になった彼だったが、とても間に入れるような状態ではなく、なんとか命だけは助かるよう祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 あやかと総一の二人がその場から遠ざかって行った後、木乃香はあぐらをかいている明日菜の隣に立った。

 

「良かったなぁ明日菜」

「何が?」

 

 膝に手をついて顔を近づけた木乃香を見ながら、明日菜は訊ねた。

 

「少し元気でたみたいやん?」

「別に、そんなこと無いわよ」

 

 プイっと明日菜は顔を背けたが、先程よりも表情が豊かになった彼女の様子を見て、木乃香はクスクスと嬉しそうに微笑った。

 明日菜は膝を抱えて顔をうずめた。

 

「……まったく、委員長と総一のバカ」

「素直やないなぁ。ホンマは少し嬉しかったくせに」

「違うったら! 総一が適当なこと言うから思わず頭にきただけよ!」

「そうなん?」

 

 コテッと首を傾げて木乃香は明日菜を見たが、その表情はそれほど疑問を感じている様ではない。なんの返事もしない明日菜に、やがて木乃香は「はぁ」と小さくため息をついた。

 

「……まぁ良いわ。じゃあ、ウチもネギ君たちの手伝いして来るから」

 

 木乃香は「ご飯できたら呼びに来るからな」と言い残して、ネギたちの後を追って行った。

 

「………」

 

 木乃香が去っていくと明日菜はのっそりと顔を上げる。口元は腕に隠れて見えないが、微かに窺える彼女の顔の肌はほんのりと赤く染まっていた。

 

「……バカ」

 

 そんなアスナの呟きを聴く者はおらず、辺りにはただ静かに波の音だけが響いていた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ――現時刻、麻帆良祭2日目午後1時。

 

 祭りの昼時とあって学園はどこも賑わっている。パレードが行われている大通りは聖地メッカのように見物客で溢れていた。

 

「ホントすげぇな! 見渡す限りヒト、ヒト、ヒト。見てるだけで酔いそうだ」

「ネギ先生、逸れないように気をつけてください」

「あ、はい! ありがとうございます」

「ほら、明日菜。ちゃんと歩かな迷子になるえ」

「むぅぅ……」

 

 そんな人混みの中を、総一、あやか、ネギ、木乃香、明日菜の五人は歩いていた。皆それぞれ服装を変えてカジュアルでオシャレな格好をしている。

 

「一応注意しておくが、“過去の自分達”に出会わねぇーよう気をつけろよ」

「大丈夫だろ。俺は“一回目”の2日目に未来の自分の姿なんて見なかったし」

「私もそうですが、注意しておきますわ。それにしても……」

 

 カモの忠告を聞きながら、あやかは周りを見渡した。つい先程の光景とは異なり、まだ陽は高い所にある。加えて見える範囲にある周りの時計は総じて『午後1時』を表していた。いまだに『午後8時半前後』の感覚が残っているあやかは、いま目にしている現実と自分の感覚との差に少し違和感を覚えていた。それはいうなれば時差ボケのような感覚に近い。

 

「……本当に2日目の昼に戻ったのですね」

「ウチと明日菜はこれで二回目やけど、やっぱり凄いなぁ!」

 

 あやかは感嘆とした様子で周りを眺め、木乃香は改めて驚きを感じた。

 

「それより、これからどうする?」

「そりゃあ、折角の“気分転換”なんやから遊ばな損やろ」

「じゃあ、アトラクションがたくさんあるあちらに行きましょう」

 

 学園の地図や出し物、開催されるイベントの詳細についてが書かれているパンフレットを見ながら、あやかは向かうべき方向を指した。

 

「ほら明日菜、いつまでもそんな沈んどったら楽しくないえ」

「うぅ……ほっといてよぉ……」

 

 木乃香に手を引かれながら明日菜は歩いた。背中は猫背になり肩はズーンと落ちている。その様子を見たネギには彼女のデコに黒い縦線が引かれているように見えた。

 

 

 先程までエヴァンジェリンの別荘にて一日(実質一時間)を過ごした彼らは、今、ネギが超からもらった航時機(カシオペア)を使って、2日目の昼に来ていた。目的は明日菜の気分転換である。

 事の始まりは別荘内で晩御飯を作っているとき、ふと木乃香が「(明日菜の)気分転換に学園祭まわらへん?」と提案した事から始まった。その提案にネギが「良いですね」と賛成し、どうせならと、2日目の昼に戻ることを提案した。ネギが言った事をあやかが反対するわけもなく、特に断る理由もない総一がなし崩し的に「良いんじゃない?」と了承して、過去に行くことが決まった。

 そのような事情の末、明日菜を半ば無理矢理エヴァンジェリンの別荘から出した四人は、彼女を連れて2日目の昼にやってきた。

 

 

 そして5人は今、ジェットコースターに乗っている。

 

「「「キャアアァァァァ!!」」」

 

 グルグルと茨のように敷かれたレールの上をコースターが疾走する。悲鳴を上げる女性陣に対して、男性陣二人は恐怖心など微塵も感じてないような様子でいた。このジェットコースターに乗る前にも、バイキング、コーヒーカップ、フリーフォールなどに乗ったが、ネギと総一が悲鳴をあげる回数は少なかった。

 やがてジェットコースターから下りると、女性陣三人は近くに置かれていたベンチに腰を下ろした。

 

「「はぁ……はぁ……」」

「あぁーー、楽しかったぁ!」

 

 明日菜とあやかは揃ってぐったりと肩を落とし、木乃香はぐぅーっと背筋を伸ばした。

 

「おーい、お二人さん、大丈夫か?」

「大丈夫に見えますか?」

 

 総一の問いにあやかは質問で返した。口にはしなかったが隣に座る明日菜も同じことを思っていた。

 

「あんなグルグル回ったり落ちたりするヤツいっぱい乗ったら、疲れもするわよ。なんでアンタ達はそんな平気そうな顔してるのよ?」

「えーっ、楽しかったやん?」

「俺は“飛び回る”のは慣れてるからな」

「僕もです」

 

 総一達の応えに明日菜は「あっそ」と呆れたように返した。

 

「そっかぁ、じゃあネギ君たちにはアトラクション系は楽しくなかったかな?」

「いえいえ、そんな事ないですよ。空を飛び慣れてるってだけで、アレはアレで楽しいですから」

「そう? 総くんはあんま楽しそうに見えへんかったけど、楽しくなかった?」

「いや別に、俺は俺で結構楽しんでるよ。ゴーカートで明日菜が『なんで進まないのよ、この車』ってブレーキ踏みながらいじけてるのを見た時はスゲえ笑えたし」

「うぅ……うるさいわね!」

 

 ニヤニヤとしながら言う総一を明日菜はギロっと睨みつけた。

 

「しょうがないじゃない、今まで車なんて運転したことないんだし!」

「いや、俺、乗る前に右がアクセルで左がブレーキって教えたよな?」

「乗ってたらどっちがどっちか分かんなくなったのよ! 悪い!?」

「年寄りかお前は」

 

 明日菜は憎たらしげな眼で総一を睨みつけたが、当の本人はどこ吹く風と受け流す。そんな二人のやり取りを見ていたネギと木乃香は「あははぁ」と困ったような笑みを浮かべていた。

 

「……ほな、次はどこ行こーか? 皆どこか行きたいトコある?」

「そうだなぁ……休憩も兼ねて食べ歩きするのも良いんじゃないか?」

「あっ、それ良えかもな」

 

 パンフレットを見ながら答えた総一の提案に反対する者はおらず、一行は目的の場所を目指すことにした。

 

「よーし、ほな早速行ってみよー!」

 

 だいぶ調子が戻ってきた二人を見て、木乃香は四人を先導するように腕を上げて言った。そんな彼女について行くように明日菜とあやかはのっそりと立ち上がり、彼女の後をついていく。

 

「……ん?」

「どうしました、加賀美さん?」

 

 歩き出した瞬間、ふと急に足を止めて辺りを見渡し始めた総一を見て、ネギは訊ねた。

 

「いや、少し誰かに見られてる感じがしてな……」

「えっ!?」

 

 ネギも周りを確認するが、それらしき者の姿は見えなかった。

 

「気のせいじゃ……ないんですよね。『覇気』ですか?」

「あぁ。周りの人が多すぎて、俺の『見聞色』じゃ場所まで分かんねぇーけど、確かに“いる”」

 

 『武装色の覇気』と比較して総一はあまり『見聞色の覇気』を得意としていない。逆に『見聞色』を得意とするあやかなら、自分達を見ている“何者か”の居場所を察知することができるかもしれないが、彼女はまだ少しぐったりとしていて『覇気』を行使する余裕が無いようで、総一が感じている“気配”に気づいていない。

 

「うーん……昼間の武道会を見た誰かが見てるんじゃないんでしょーか? 麻帆良新聞部の方達も探してるって言ってましたし」

「あぁ……」

 

 フードや帽子で顔を隠しているとはいえ、これだけ人がいれば何人かネギや総一の存在に気がつくだろう。

 ネギのその考えに半ば納得しながらも、総一は再度、見ている誰かの気配を探った。

 しかし、彼が『見聞色の覇気』に集中しようとする頃には、その“気配”はすでに消えていた。

 

「おーい、ネギくーん、総くーん! おいてくえー!」

「あ、はーい!」

「あぁ!」

 

 呼びかける木乃香に返事をしながらも総一は周りを見る。

 

「……何だったんだ?」

 

 最後までよく分からかったその気配に、総一はただただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「ちっ、妙に勘が鋭いヤツがいるわね」

 

 総一がキョロキョロと後ろを振り返り辺りを探り始めた直前、遠くから五人の様子を覗いていた“何者か”は、すぐにその場から退散していた。

 

「まぁ良いわ。“標的(ターゲット)”は確認できたし、後は実行するのみ……」

 

 その影はニヤリと不敵に笑った。

 

「やっと見つけたわ。雪広あやか、神楽坂明日菜……」

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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