もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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糸見水「麻帆良学園に行きたいかァァ!」

総一「……もういるよ」




68. 麻帆良ウルトラ試験!

 

 

 

『GPSの反応よると、とあるチームが今こちらに向かってきているようです。さぁ、この世界樹一周レース、果たして勝利するチームは麻帆良中チームか、それとも聖ウルスラ女子チームか!』

 

 糸見水の実況を聞いて観客たちは皆、選手が現れるであろう道の先に目を向けた。

 

「明日菜たち、大丈夫かなぁ……」

 

 ――おぉ!!

 

 木乃香が心配した面持ちで道の先に目を向けると同時に、周りの数人から驚きを含んだ声が洩れた。その声は段々と大きくなり、やがて道の向こうから二つの人影が現れた。

 

『見えたァ! あれは、麻帆良中チーム、雪広あやか選手と神楽坂明日菜選手だァ!!』

 

 観客のいる所から走ってくる二人を迎えるような歓声が上がる。

 

『麻帆良中チームがスゴいスピードで走ってくる! 後方に聖ウルスラ女子チームの姿は見えなぁーい!!』

「ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

 二人は息を切らしながらそのまま走り抜け、ゴールテープを切った。

 

『勝者、麻帆良中チーム!! デービーバックファイト第2試合を制覇ァ!』

 

 ――わあぁぁぁぁ!!

 

 試合の終わりを伝えるピストルが鳴り、先ほどより大きな歓声が周りの空気を震わせた。

 

「はぁ、はぁ……はぁぁ」

「私たちの勝ち、ですわね……!」

「……やったわね!」

「えぇ!」

 

 大きな歓声の中で、あやかと明日菜は膝に手をついて息を整えた。二人とも口の端が上がり、顔に小さな笑みが見える。二人はお互いの健闘をたたえ合うようにガシッと腕を合わせた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 あやか達の呼吸もすっかり落ち着いて、しばらくするとボロボロになった聖ウルスラ女子チームのビビとしぃが帰ってきた。二人はゴールを越えるとその場に崩れ落ちるように地面に手をついた。最後まで走り抜いた二人に、周りから拍手や歓声が送られる。その歓声をあげる者たちの中には、油まみれになっている二人の体を見て、一体なにがあったのかと疑問を抱く者もいた。

 そんな大勢の人たちが騒ぐ横では、その騒ぎを避けるようにして、総一がしれっとした顔で戻ってきており、目をグルグル回した英子を背負いながら歩いていた。彼はゴールから少し離れた所にいた明日菜たちを見つけると、そっちに足を向けた。

 

「二人とも、お疲れさん」

「はい」

「えぇ……」

 

 総一に声を掛けられてあやかと一緒に返事をすると、明日菜は彼が背負っている英子にチラリと目をやった。

 

「……アンタもね」

「別に。疲れるほどのことは、なにもしてないけどな……」

 

 総一は英子をドスリと隅に座らせ、明日菜達と向かい合い、周りに目を向ける。少し離れた所ではデービーバックファイト運営係の面々が最後の競技にむけてテキパキと手を動かしていた。

 

「カッコつけちゃって」

「ほんとですわ」

「……やかましい」

 

 明日菜とあやかに半笑いで呆れられ、総一は気まずそうに顔を逸らした。

 

 

 

 

 またしばらくすると、運営係が設置を終えた演壇の上に、糸見水がマイクを持って現れた。演壇は先ほどのテニスコートにしっかりと設置され、そこそこ大きなステージとなっていた。

 

『さぁー、3つの種目によって勝敗が決まる、この麻帆良式デービーバックファイト! その一回戦を制したのは、見事なプレイで逆転勝利を見せた聖ウルスラ女子チーム。そして二回戦の勝者は、華麗なコンビネーションにより勝利を掴みとった麻帆良中チーム。両チーム一歩も譲らぬ闘争により、ただいまの結果は1対1の同点! よってこの栄えあるデービーバックファイト、すべてはこの第三回戦によって勝敗が決まりまーーす!』

 

 『ワァァァァ!!』と歓声が辺りに鳴り響く。糸見水は手をパチパチと叩いて、さらに周りのテンションを煽った。

 

『第三種目は“学問”! 本来のデービーバックファイトの第三戦は“コンバット”という戦闘(バトル)が行われていましたが、これはあくまでも学校行事。『生死の掛かった戦闘(バトル)は学校行事としてよろしくない』という事で、この麻帆良式デービーバックファイトでの第三種目は“学問”となっているよぉ……。そんなことはさておき、それでは、デービーバックファイト最後の試合“麻帆良ウルトラ試験!”を始めまぁーす!』

 

 ステージの周りがまた『ワァァ』と盛り上がる中、各チームはそれぞれ上手と下手に分かれ、ステージに上がるのを待っていた。

 

「第三種目は“学問”という事で勉学の内容が主のようですが……明日菜さん、ホントに大丈夫ですの?」

「勉強は苦手だけど、ここまで来たらやるしかないでしょ」

「それはまぁ、おっしゃる通りですけど……試しにお訊きしますが、現在のアメリカの首都はどこかご存知ですか?」

「バカにしないでよ、ニューヨークでしょ!」

「ワシントン(DC)な。典型的なボケかましてんじゃねぇーよ……」

 

 明日菜のハッキリと言い放った答えを聞いて、あやかはコタッとよろけ、総一は眼を半目にして訂正した。

 あやかは「はぁ、心配ですわ」とため息を吐きながら頭をおさえた。

 

「加賀美さん、ちゃんとフォローしてくださいね」

「……善処します」

 

 糸見水の『それでは選手の入場でぇーす!』という進行に合わせて、二人はクイズ番組のスタジオのようになっているステージに上がる。そして、客席――といっても椅子はないが――からの拍手や歓声を聴いてやや緊張感を覚えながら、総一と明日菜は麻帆良中の校章がついた席に、相手チームの英子とビビは聖ウルスラの校章が描かれた席に、それぞれついた。

 

『それではルールを説明します。この“麻帆良ウルトラ試験!”は、学校の授業科目の中からテーマを決めて行う、試験バトル。先に二本先取した方が勝者となります!』

 

 糸見水はステージの端に立ち、クイズ番組のような競技の説明を始めた。

 

 

 “麻帆良ウルトラ試験!”は、学校の授業科目――国語、数学、理科、社会、英語、保健体育、美術、音楽、家庭科――の中からランダムに問題の科目(テーマ)を決めて問題を出していくゲームである。

 1テーマごとに色々な形式で問題が出され、問題の数は計5問。回答時間は各科目(テーマ)ごとに決められ、1問正解するごとに正解したチームに10ポイントが入り、相手チームより多くポイントを集めたチームの勝ちとなる。また、最後問題を終えてポイントが同じだった場合はサドンデス戦となる。

 

 

 

『えぇー、以上がルールとなります。それでは早速参りましょう!』

 

 糸見水がルールを説明し終えると、彼の元に明るい装飾の上に『麻帆良ウルトラ試験!』と書かれた箱が運ばれてきた。糸見水はその箱の中に手を突っ込み、ガサゴソと音を鳴らして中を探ると、箱の中から一枚の紙を取り出した。どうやらその紙に問題となる科目が書かれているようだ。

 

『さぁーて、第1の科目(テーマ)はぁーー!』

 

 糸見水は紙を広げて中身を見ると、周りの皆に見せるように上にやった。

 

『数学ゥゥ!』

「ゲッ! 最初から苦手科目じゃないの!」

「お前に苦手じゃない科目ってあるのか?」

「くっ、アンタねぇ……むぅ……」

 

 明日菜の反応に、総一が鼻につくことを言ったが、半ば的を射ているため反論できず、明日菜は悔しげに唇を歪めた。

 明日菜が半目で総一を睨んでいると、各チームにスケッチブックとマジックペンが渡された。どうやらこれを使って回答していくらしい。

 

『では第1問、問題はこちら!』

 

 ――デデーン!

 

「ん、今の音どこから出てきた?」

「しっ、黙ってなさいよ!」

『まずはこちらをご覧下さい』

 

 そう言って、糸見水はそこそこ大きな一枚のパネルを皆に見せる。そのパネルにはいくつかの数字が書かれていた。

 

 ――2,4,6,8,10,12,14,16,……

 

『このように、ある規則に従って並んだ数字群を数列と言います』

「えっ、ちょ……!!」

 

 ふと、総一が声を裏返したが、糸見水はそのまま次のパネルを出した。

 

 ――2,8,18,32,50,72,……

 

『それでは、次の数列の第30項目までの和を求めてください。それではシンキングタイム、スタートぉ!』

 

 総一が口を挟む隙もなく、カウントダウンが始まってしまった。

 まるで教科書や数学の問題集に書かれているような問題に、総一は唖然として顔を引きつらせる。

 

「何だよこの問題! 俺達まだ中学生だぞ、習ってねぇーよ数列なんて……!!」

「イヤねぇ、いちゃもんつけて。こんなの、知らない方が悪いのよ!」

「あんた等は良いよな、授業でやっただろうから! コレくらいできて当然だよなッ!」

 

 バカにしたように嗤う英子に対して、総一はキッと睨みつけた。できることなら手に持ったペンを投げつけてやりたかったが、それはなんとか抑えた。

 しかし解かないと仕方がないため、やがて彼は頭を抱えながらペンを走らせ始めた。

 

「……なにアレ、暗号?」

「数列な」

 

 見たことのない数字の列と単語に、明日菜は眼を〇目(ぜろめ)のようにして固まっていた。

 本来、数列は高校数学に含まれる分野である。中学数学までしか習っておらず、まして数学を苦手としている明日菜には、一体全体、自分達が何を訊かれているのか全く分からなかった。

 

「え、えぇーと……分かる、総一?」

「分かると言えば分かる。けど覚えてねぇーよ……。たしか一般項を求めて……あれ、数列の和の式って、どんなんだったけ……。2と8と18……てかコレ等差でも等比でもねぇーじゃん……」

「トウサ? トウヒ?」

 

 一般の中学生と違い、数列を授業で習ったことのある総一だったが、それは遠い過去の記憶。彼の頭からは解くために必要な公式や手順がごっそり抜け落ちていた。しかし、総一はなんとか問題を解こうと懸命に式を導き出す。

 

(あーくそぉ、戻ってこい当時の俺ぇぇ!!)

 

 総一がスケッチブックにカリカリと書いていく途中式を見ながら、明日菜は終始目を丸くしてポカーンとしていた。

 

『タイムアーップ! それでは両者一斉に回答を、オープン!』

 

 麻帆良中チームと聖ウルスラ女子チームは同時にスケッチブックを立てる。紙面にはそれぞれ [18910]、[18910] と書かれていた。

 

『おーっと、これは、両チーム同じ回答となった! それでは採点、正解はこちらぁーー!』

 

【18910】

 

『両チームお見事ぉ、正解!!』

 

 正解を知らせる明るいサウンドが鳴り、隅に用意された得点表に数字が加点された。

 

 麻帆良中チーム[ 10 ポイント]

 聖ウルスラ女子チーム[ 10 ポイント]

 

「頑張った、俺ちょー頑張った……!」

「はいはい、お疲れ様」

 

 頭から湯気を出して席に突っ伏す総一に、明日菜は彼の背中をさする。その横では英子が「ちっ」と舌打ちしていた。

 

「普通こういうのは問題重ねるごとに難しくないなるもんだろ、なんで初っ端からこんなコッテコテの問題が出ンだよぉ……」

 

 総一は覇気のない弱々しい声でぶつぶつと洩らした。

 

「てか疲れた。もうオレ次からの問題(ヤツ)、解かなくていい?」

「ごめん、それは勘弁して。私ひとりで乗り切れる自信がないわ」

 

 本当にこのまま放り出しそうなオーラを出している総一に、明日菜は落ち着いた口調でなだめるが、内心では彼のその様子を見てかなり焦り困惑した。

 総一は嫌々そうな顔をして、のっそりと上体を起こす。

 

「てか今思ったけど、この種目(学問)って高校生(あっち)が有利じゃね?」

「あらぁ、今さら気づいたのぉ」

 

 総一の吐露した言葉を聞いて、英子たちが嘲笑いながら見下したような眼を向けてきた。

 

「アンタ等、また卑怯なマネを!」

「前にも言ったはずよ。気がつかない方が悪いのよ!」

「御尤も」

「納得するな!」

 

 英子の言葉に言い返す事もなく、総一はゆっくりと頷いた。そんな彼に悔しさをぶつけるように眼をキッとつり上げた明日菜は声をあげた。

 

『さて次の問題!』

 

 明日菜がそんな事をしている間にも対決は進み、糸見水は次の問題が書かれたパネルを取り出す。

 

 ―― x の変域が 3≦x≦9 のとき、二次関数 y = -x^2+10x+3 の最小値を求めよ

 

(数列の次は二次関数かよ……まぁでも、難易度が下がってくれて良かった)

 

 総一は暗い顔でため息を吐きながらも、今度はすらすらと問題を解いた。明日菜も必死に考えて彼の力になろうとしたが、特に彼の助けになるようなことはできなかった。

 こうしたやり取りの末、数学の問題が2問目、3問目と出題された。

 

 

 

 

 やがて5問目が終わり、次の科目(テーマ)へ移る事となった。ちなみに3問目以降の問題は『軌跡の方程式』『方程式を用いた文章問題』『微分方程式』だった。

 現在、得点表には各チームの点数が表示されている。

 

 麻帆良中チーム[ 30 ポイント]

 聖ウルスラ女子チーム[ 40 ポイント]

 

「ごめん、流石に微分方程式とか無理……」

「いや私の方こそごめん。全然力になれなくて。むしろアンタはよく頑張ってくれたわよ。ありがと」

 

 先程のように机に突っ伏す総一に向かって、明日菜は申し訳なさそうな表情のまま礼を言った。

 

「こらーっ、加賀美さんしっかりしなさい! たとえ難しい問題が解けても負けたらなんの意味もないんですからね!」

「まぁまぁ委員長、まだまだ始まったばっかやし、落ち着いて」

 

 客席ではあやかが目をつり上げて怒鳴り、木乃香がそれをなだめていた。

 

「鬼コーチかアイツは……」

 

 怒気と悲哀が混ざったような感情を胸に覚えながら、総一はそれらを吐き出すようにため息をついて、まるで寝起きのような動作で身を起こした。

 

『1つ目の科目(テーマ)が終了しました。続いての科目(テーマ)はぁーー!』

 

 また糸見水が箱に手を突っ込み、紙を一枚取り出した。

 

『美術でぇーす!』

「美術か。これならそんなにハンデの差はないな」

 

 次の科目が難易度が低いであろうと思われる副教科の科目となったことに、総一はほっとした。隣にいる明日菜も強張った顔が少し緩んだように見える。

 

『では早速第1問、こちらの絵をご覧下さーい』

 

 糸見水はそこそこ大きなパネルを3つ立てた。パネルにはそれぞれ【神奈川沖浪裏】【アテナイの学堂】【印象・日の出】の絵画が描かれている。

 

『この3つの絵の作者をお答えください!』

 

 数学のときと同様シンキングタイムが始まり、各チームはスケッチブックをめくってまっさらなページを出した。

 総一は苦い顔をしながら再度パネルに描かれた絵画に目をやった。

 

「副教科だから簡単かと思ったけど、そうでもなかったな。アテナイの学堂って誰の絵だっけ……。明日菜、分かる?」

「………」

 

 総一が横へ目を移すと、明日菜が額に汗を流して眉と唇を歪めていた。

 

「……あぁ、分からないのね」

「ちょっと、まだ何も言ってないじゃない!」

「顔に『何あの絵、知らない』って書いてあるぞ」

「知らなくはないわよ。見たことはあるもん!」

「見たことあるだけじゃねぇ……」

 

 明日菜は悔しげに唇を歪めながら総一を睨む。だがここで、総一はある事を思い出した。

 

「そういえばお前、たしか美術部だったよな?」

「うっ!」

 

 総一が訊ねると、痛いところを突かれた明日菜は顔を背けた。

 

「ならせめて有名な絵画の1つや2つ知っておくべきじゃないのか?」

「むぅ……だって私、夕刊のバイトでほとんど行ってないし、そもそも美術部は高畑先生が顧問だったから入っただけだし」

「おい」

 

 小さな声でぶつぶつ言う明日菜に、総一は呆れたと言うように「はぁ」とため息をひとつ洩らす。

 やがて、総一はスケッチブックに問題の絵の作者と思われる名前を二人分書き、三人目の部分を空けたまま明日菜に渡した。1つ目の【神奈川沖浪裏】の作者は確信を持って書いたが【アテナイの学堂】の作者は彼の勘である。

 

「もうなんでもいいから、お前が知ってる画家の名前1つ書いてくれ」

「え?」

「分かんなくても書かないよりマシだ。それに折角のチーム戦なのに俺だけが解答するのもアレだしさ……」

 

 スケッチブックとペンを手にした明日菜は、少し考えた後、紙面にペン先をつけた。

 

「え、えぇーと……じゃあ、ピカ――」

「言っとくけど、多分ピカソは違うからな。ついでにゴッホもダ・ヴィンチも違うからな」

 

 明日菜は「ぐっ!」と詰まったような声を出してペンを止めた。

 

「じ、じゃあ、えぇーと……藤◯・F・不◯雄」

「いや、それ漫画家な!」

 

 色々と四苦八苦しながらも、やがて明日菜はちゃんと(数少ない)自分が知っている画家の名前を書いた。そしてちょうど明日菜が書き終えると、時間切れとなり糸見水が回答を見せるように両者を促した。

 

[葛飾北斎.ラファエロ.モネ]

[葛飾北斎.レオナルド・ダ・ヴィンチ.クロード・モネ]

 

『おーと、両チーム1つ目と3つ目は同じ人物を書いている! 2つ目については、麻帆良中チームはラファエロ、聖ウルスラ女子チームはレオナルド・ダ・ヴィンチとしていますが……果たして正解は!』

 

 糸見水は「じゃじゃん!」と言いながら正解の書かれたパネルを上げた。

 

【葛飾北斎.ラファエロ・サンティ.クロード・モネ】

 

「「おぉ!」」

 

 答えを見た瞬間、総一と明日菜は思わず声を洩らした。

 

『麻帆良中チーム、見事3つ全て正解でーす!』

 

 麻帆良中チーム[ 60 ポイント]

 聖ウルスラ女子チーム[ 60 ポイント]

 

 大きな歓声の中で、正解した分の点数が得点表に加えられた。盛り上がる見物客とは反対に、正解した麻帆等中チームの二人は半ばポカーンとしていた。

 

「……や、やったぁ。イェーイ」

「え、えぇ。いえーい?」

 

 棒読みで喜ぶ総一が明日菜に向けて手のひらを向けると、彼女は同じように手を上げて、手を鳴らした。

 

「……当たったのは良いけど、ホントに良かったのかしら?」

「確かになんか全然達成感がないけど……、まぁ良いんじゃない? 不正したわけじゃないし運も実力のうちって言うし」

 

 正解したにもかかわらず心のすみにモヤモヤしたものが残るような結果となったが、同点となり振り出しに戻ったおかげで、二人の心には微かな余裕が生まれた。

 

『それでは次の問題!』

 

 ――16世紀から18世紀にかけてヨーロッパ各国に広まった“バロック様式”に分類される絵画の名前を1つ述べよ

 

「「……分からん」」

 

 ついさっき生まれた心の余裕が一気になくなり、総一と明日菜は二人揃って眉をピクピクと動かし、苦い顔をした。シンキングタイムが始まっても二人とも一向にペンを取る気配を見せなかった。

 

「バロック様式……確か、建築だったかリコーダーだったかにそんなのがあったような……」

「へぇ……それで、そのポロックの絵ってなに? モナリザとか?」

「バロックな。あとモナリザも違うと思う……」

 

 総一は半目で明日菜に眼を向けながら、机に肘をついてペンを取ると、くるくると回しはじめた。

 

「はぁ、また勘で書くしかないなぁ……。明日菜、なんか好きな絵ある?」

 

 総一に話をふられて、明日菜は「好きな絵?」と戸惑うが、すぐに顎に手を当てて考えはじめた。

 

「えっとぉ……ゴッホとか?」

「……あぁ、あの人の自画像、渋いモンなぁ」

 

 総一はやんわりと笑いながらゆっくりと数回頷いた。だがその後、すぐに無表情になって眼の中の光を濁した。

 

「うん……絶対違うな」

「ちょ、なんで言い切れるのよ! もしかしたらゴッホの絵がその“パドック”ってやつの絵かもしれないじゃない!」

 

 総一は表情を戻しながら心の中で「バロックな」とツッコミを入れた。

 

「んー、なんとなく」

「なんとなくって何よ! アンタいま“絶対”って言ったじゃない!」

「強いて理由を付け加えるなら、ゴッホの絵は確か比較的新しかったはずだから。バロック様式ってもっと古風なヤツだろうし……」

「なんで古風って分かるのよ?」

「俺のイメージ」

「まったく根拠になってない!」

 

 あーでもないこーでもないとお互いに言い合いながら、二人はそれらしいと思う絵画の名前をひとつスケッチブックに書いた。

 やがてシンキングタイムが終わり、両チームはスケッチブックを立てる。

 

[民衆を導く自由の女神]

[真珠の耳飾りの少女]

 

『さぁ、両者の答えが出ました。正解はーー!』

 

 糸見水が正解を言うのを焦らし、その場は少しの間静まり返った。その間、辺りに緊張感が漂うような雰囲気となるが、総一と明日菜の表情は死んでいた。

 

『聖ウルスラ女子チーム、見事正解!』

 

 麻帆良中チーム[ 60 ポイント]

 聖ウルスラ女子チーム[ 70 ポイント]

 

「……まぁ、そう何回も勘が当たるわけないよな」

「そうね。勘のわりに随分と考えた気がするけど……」

 

 二人は作り笑いを浮かべるが、その顔に影が射していた。

 

「ま、まぁでも、点差は10ポイントだけだし、まだまだ逆転できるわよ」

「……そうだな。じゃあ、次いってみよう」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 麻帆良中チーム[ 60 ポイント]

 聖ウルスラ女子チーム[ 80 ポイント]

 

「はぁ……ダメだこりゃ」

 

 総一はスケッチブックのページを団扇のようにして扇ぎながら椅子の背もたれに寄りかかった。

 

「あぁーあ、最後の問題で100ポイントくらい入らないかなぁ」

「なに弱気になってんのよ、たったの20点差じゃない!」

「点差だけ見たら“だけ”って言えるけど、残りはあと5問しかないんだよ」

「だから何よ、あと5問あるんでしょ!」

「『5問中()()()()3問以上正解しないといけない』って条件がどんだけ難しいか分かってないのか? 簡単な問題は相手も正解するから難しい問題で差をつけるしかねぇーんだぞ」

「えっ……どういう意味?」

 

 いまいち総一の言葉が理解できず、明日菜はポカンと目を丸くした。

 

「だから、残り5問あるうち相手方が間違えるような難問が出された上で、俺たちはその中から3つ以上当てなきゃいけないってこと」

「そ、そう……つまり、まだ逆転できるってことね!」

「……うん、もうそれでいいよ」

 

 総一は遠い目をして手に持っていたスケッチブックを置いた。

 次の科目(テーマ)では、2つの科目(テーマ)でできた差を1つの科目(テーマ)で埋めなければ勝機はないのだが、その辺りを明日菜は理解しきれていないようで、あまり緊張感が持てていないようである。

 

「あっははは! 随分と威勢が良いわね。自分が置かれている立場が分かってないのかしら?」

「そうみたいです」

 

 口元を手で隠しながら英子はバカにしたように嗤い、総一はそれを否定することなく引きつった笑みで返した。

 

 

 

 

『この麻帆良ウルトラ試験も残すところ1科目のみとなりました。この科目によって、麻帆良中チームと聖ウルスラ女子チームの勝敗が決まります! さぁ、第6回麻帆良祭式デービーバックファイト第三試合“麻帆良ウルトラ試験!”最後の科目(テーマ)はぁーー!』

 

 糸見水は箱の中に手を入れ、紙を取り出して中身を見た。

 

『保健体育でぇーーす!』

「「はぁ?」」

 

 周りから歓声が上がるが、その中には疑問や不満の声が少数交じっている。ステージ上にいる総一や明日菜もその人たちと同じように眉を歪めていた。

 明日菜は首だけを動かして総一を見た。

 

「保健体育のクイズってなに?」

「さぁ、わかんない……わかんないけど、出題された途端、この場が気まずくなるような問題を出されるのはイヤだよ俺」

「えっ……さ、さすがに“そういう感じの問題”は出さないんじゃない?」

「どうだろうな。このイベントの運営係、なに考えてるか分かったモンじゃないしなぁ」

 

 総一は目を細めて嫌そうな表情になった。それを聞いて、明日菜は顔をほんのりと赤くした。

 

『ちなみに、最終科目(テーマ)の保健体育ですが、この科目は他の科目と少し趣向が変わっておりまして、科目(テーマ)は座学と実技に分けられています。そして今回は実技の内容で争ってもらうよーー!』

「ちょ! なんなのよ保健体育の実技って!? ホントに大丈夫なんでしょうね?」

「普通に体育のことじゃないか? 言い回しにかなり悪意を感じるけど……」

 

 顔を真っ赤にした明日菜は目の前の机に手をバンッと置いて立ち上がり、今にも糸見水に殴りかからんばかりの様子で拳を構えるが、総一の感想を聞いてなんとかその場にとどまった。

 

『保健体育の実技、つまりは体育のことです。ちなみに座学が保健になります!』

「普通に体育って言いなさいよ!」

「まったくな」

 

 総一が同感だと言うように深く頷き、明日菜は椅子にドカッと座った。二人とも疲れたようにため息をついて顔をうつむかせた。

 本来『保健体育の実技』とは救命活動や怪我の処置、AEDなどの練習をいうが、“麻帆良ウルトラ試験!”での『保健体育の実技』とは体育の分野のことを指している。何故そのようになっているのか、それは“麻帆良ウルトラ試験!”を考案した第2回デービーバックファイト運営係のみぞ知る。

 

『そして今回、両チームが争ってもらう内容はぁーー、こちら!』

 

 総一と明日菜は揃って顔を上げて糸見水に目を向ける。すると視線の先では、糸見水が3色の柄が入ったボールを取り出して皆に見えるようにかかげていた。

 

『ドッジボール!』

「「えっ!」」

 

 二人が声を合わせて驚く横で、英子がニヤリとほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 






モチベーションを上げるため書きたいシーンから書いていたら、最新話が書けなくなっていた今日この頃……。
m(__)m

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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