もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

75 / 93


『恐れや痛みは信念をにぶらせる』




72. 前へと進む者であれ

 

 

 

 別荘の中の陽がすっかり落ちた頃、エヴァンジェリンはひとり湯浴みをしていた。別荘の風呂はだだっ広く、どこかの富豪の豪邸にあるような様式になっている

 そんなバスルームの中で自身の身体を洗ったエヴァンジェリンは、顔を手で拭い、濡れた髪をなびかせた。そして真剣な顔つきになって息をひとつ洩らす。

 

(ディー)……数奇な運命を辿る者、世界をひっくり返す者、か。Dは時代が動くときに必ず顔を出すというが、あながちデタラメでもなかったな)

 

 先程のネギたちの作戦会議の中で、エヴァンジェリンは初めて(チャオ)鈴音(リンシェン)の本名が“鈴音(リンシェン)(ディー)・スプリングフィールド”であることを知った。そしてその名を聞いた時、彼女の頭に“とある一族”の伝承がよぎった。その伝承は700年生きてきた中で、エヴァンジェリンがたびたび耳にしてきた古い言い伝えであり、もはや今となっては知る人などほとんどいない。

 

(“(ディー)の意志”か………今回の計画の中でそれを確かめるのも一興だな)

 

 エヴァンジェリンは口元を緩め、愉快そうに笑った。

 

「……ん?」

 

 ふと背後に気配を感じ、エヴァンジェリンは後ろを振り返った。

 すると漂う湯気の先に、赤毛の少年が立っていた。

 

「なんだ、ぼーやか」

「あっ! す、すみません師匠(マスター)っ!覗くつもりじゃ……!」

 

 エヴァンジェリンが振り向いたのとほぼ同時に、ネギは入浴していた彼女に気づき、真っ赤になった顔を手で覆った。

 

「どうした。一緒に入りに来たか?」

「いや、そ、そんなんじゃ……ちょっと師匠(マスター)に相談を!」

「ふーん……相談、ね」

 

 動揺しているせいで分かりにくいが、ネギの言い回しに深刻そうなものを感じたエヴァンジェリンは、含みのある言い方で返した。

 

「まぁいい。少し待っていろ」

 

 エヴァンジェリンはネギの反応などお構い無しに風呂からあがると、茶々丸の代わりのメイドロボット(茶々丸の姉)からタオルを受け取った。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「あ、あの、これは?」

「ディナーだよ。見てわからんか?」

 

 風呂を出てドレスコードを終えたエヴァンジェリンにネギが案内されたのは、別荘を囲む海が一望できる部屋だった。その部屋に置かれたテーブルには、食器類が綺麗に並べられている。

 エヴァンジェリンに促され、ネギはおどおどした様子で席に着く。ほとんど身長の変わらない二人だが、格式のあるテーブルに向かう様は対称的であった。

 メイドロボに赤ワインを注がせ、エヴァンジェリンはワイングラスに口をつける。

 

「で、相談とは何だ?」

「は、はい。相談というのは、その超さんのことで……」

「なんだ、()()()()()()か……」

「えっ」

 

 『つまらん』とでも言うかのようなエヴァンジェリンの返答にネギはキョトンとしたが、続けてエヴァンジェリンから「いや、なんでもない」と言われ、態度を改めた。

 

「超の言ったことは本当だ」

「本当、ですか……?」

「茶々丸は私には嘘をつけん。それに、数百年生きた私から見たら、科学やハイテクの進化というのは現状でもすでに凄まじい。これから先の未来で時間旅行が可能になっていても大して驚きはしないさ」

 

 そう言いながらワイングラスをテーブルに置き、エヴァンジェリンはメイドロボが持ってきた食事に手をつけ始めた。

 

「貴様の相談とは綾瀬夕映が言っていた2点、『魔法と悪魔の実の暴露が、なぜ“歴史改変”へとつながるのか』と『超 鈴音(ヤツ)の動機』だろ?」

 

 スラスラと出てきたエヴァの言葉に、ネギは神妙な面持ちでコクッと頷いた。

 

「1つ目は簡単だ。今まで何百年と秘密にしていたもの……現実世界(こっち)にとっての魔法と魔法世界(あっち)にとっての悪魔の実を一度にバラせば、イヤでも時代が動くだろうさ。魔法をバラすだけでも、歴史的大事件だ」

 

 ネギは顔を青ざめさせ、「れ、歴史的大事件……」と言葉を洩らした。

 

「そもそも魔法使いの中で悪魔の実が秘密にすべきものになったのは、過去に『魔法の世界』の政府が能力者の“海賊”に痛い目にあったからだ。その“事件”以降、政府はその辺の人間に悪魔の実がわたることを恐れ、その存在を偽りのものとした。こういう“隠蔽”は、政府の中では良くあることだが、それが明らかにされたとなったら、政府の人間は民間人を含めた反政府側の人間から一斉に責められ、現政府の力は地に落ちる。そうなれば超がこれからやることは、よく言えば“革命”、悪く言えば“テロ”だな……フフ」

 

 エヴァンジェリンは愉快そうにニヤリと笑う。そして再びワイングラスを持ち、赤ワインを飲んだ。

 

「だがそれよりも、ぼーやの相談はもう1点の方だろう?」

「……はい」

 

 ネギはゆっくりと頷き、口を開く。

 

「お別れ会の時、超さんは僕の村のことを挙げて、『過去を変えたくないか』と僕に問いました。だから超さんは何か大変なことが起こった未来からやって来たのかもしれません。もしそうだとしたら、その未来を変えるために超さんがやっていることは、ほんとうに悪いことなのかなって……?」

「…………フッ、なるほどな」

 

 真剣な顔つきで考えながら言ったネギの様子を見ながら、エヴァンジェリンは笑い、口元を拭う。

 

「ぼーや、外に出ろ」

「えっ!」

 

 突然、椅子を引いて立ち上がり、エヴァンジェリンは外の砂浜へと歩みを進めだした。そんな彼女の指示に従い、ネギは心に疑問を浮かべながら、ゆっくりと外に付いていく。

 

「貴様に、稽古をつけてやろう」

 

 エヴァンジェリンは「構えろ」とネギに戦うよう促す。だが、ネギは『訳がわかりません』と言うような表情のまま、砂の上に立った。

 

「……ふっ」

「なっ!」

 

 瞬間、今まで数メートル先にいたエヴァンジェリンがネギの眼前に現れた。その動きは午前中の武道大会で総一との試合で彼女が見せた“瞬動”と“(ソル)”の合わせ技だったが、ネギにはそれを見極める余裕はなかった。

 エヴァンジェリンに顔面を横蹴りされ、ネギの身体は海面に打ち付けられた。

 

「戦う相手が“悪”でなければ、迷うことなく戦うことはできんか? ハハハッ、立派な精神だな。さすが“英雄の息子”だ!」

 

 海面上を何度か跳ねた後、ネギは体勢を起こして、エヴァンジェリンと向き合った。

 身体と眼を向けたとき、すでに彼女の周りには氷の属性を帯びた魔力玉が生成されていた。

 

「……だが、甘ちゃんだな」

 

 ネギも同様に、風の魔力を収束させる。二人が魔法を放ったのはほぼ同時で、ぶつかった衝撃でみずばしらが上がる。

 だが、いくつかは相殺させることができず、打ち落とし損ねた氷の射矢がネギに向かった。

 ネギはその場から離れ、なんとか矢を避けたが、逃げる先を見極めたエヴァンジェリンが追撃に間合いをつめてきた。

 

「戦いにおいて、どちらかが“悪”であることなど稀だ。そのほとんどは“正義”や“信念”のぶつかり合いに過ぎん!」

 

 エヴァンジェリンの放つ体術のラッシュを、ネギは苦しい顔で受け流し続ける。

 

「超が()()()()の“正義”や“信念”と相容れないというのなら戦ってでも止めるしかないだろう。それともなにか、超のヤツを“悪”と決めつけれることができれば、貴様はためらいなく戦えるのか?」

「ち、違います!」

「なにが違う? 結局、貴様の迷いの根幹は“ソレ”だ。貴様は超を傷つけ、自らも傷つくことを恐れている!」

 

 エヴァンジェリンは受身の構えを取っているネギに向かって、張り手のように自身の手を前に伸ばした。伸びた手はネギの身体に触れる前に、まっすぐ突ききる。

 だが瞬間、ネギの身体に衝撃波が襲い、彼は後ろに吹き飛んだ。

 

(これは、()()ッ? けど、今まで見てきた覇気と違う……!)

 

 覇気と思われる攻撃に“違和感”を覚えつつも、ネギは対処しきれず衝撃波に押され、浅瀬に打ち付けられた。

 ネギはすぐさま身を起こして、体勢を立て直す。

 先程までネギがいたところでは、エヴァンジェリンが息ひとつ切らさずに立っていた。その様は、どこか権力者のような風格さえ感じられた。

 

「それに、あのデコボコパーティもそうだ。貴様はアイツらが傷つくのを見たくないのだろう」

「そんなの先生として、当たり前じゃないですか!」

()()()()! だが、ひよっこの貴様一人で超のヤツを止められるのか! お前がどう思おうと超は計画を実行し、アイツらは貴様に好意と信頼を持って協力する。なのにその貴様自身が迷っていたら、誰がアイツらを導く? アイツらは誰を信じれば良い?」

 

 ネギに問いを投げ掛けると、エヴァンジェリンはまた彼の視界から姿を消した。

 そして同時に、ネギの前頭部に締め付けるような力が襲った。その力は勢いと共に、ネギを地面に横たわらせる。その力がエヴァンジェリンの手によるものだと、ネギが理解した時には、すでに彼の身体は地面に倒れ込んでいた。

 海水が飛散して、二人の周辺にパシャパシャと水が打ちつく音が響く。だがその音がやむと、不思議と辺りは静寂に包まれた。

 

「仲間を率いる()()()()なら、その仲間を信頼し、全力で守るくらいの気概を持って!」

 

 倒れたネギから手をはなし、エヴァンジェリンは見おろす。その眼はまるで、これから超と立ち向かわなければならないネギの恐れや迷いを見透かしているようであった。

 

「……けど、僕」

「ぼーや……、一歩を踏み出した者が無傷でいられると思うなよ?」

 

 弱々しく呟いたネギの言葉を遮り、エヴァンジェリンは凛とした顔つきのまま、まっすぐ彼を見据えた。

 

「キレイであろうとするな。他者を傷つけ、自らも傷つき、泥にまみれても、尚、前へと進む者であれ」

 

 ネギはまだなにか言いたそうに表情を強ばらせる。

 だが、エヴァンジェリンはネギの返答を聴くまえに、すぐに上体を起こして身をひるがえした。

 

「稽古は終わりだ。確かに教えたからな……」

 

 エヴァンジェリンはゆらゆらと手を振って、そのままネギを残して部屋に戻っていた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「ラシクナイ事シテンナ、御主人」

「あぁ……まったく、手のかかる弟子を持ったものだ」

 

 エヴァンジェリンが部屋に戻ると、ディナーが置いてあったテーブルにチャチャゼロがのっていた。チャチャゼロはエヴァンジェリンが残していた赤ワインの瓶を傾けながら「ケケケ」と笑う。

 ネギとの稽古を観戦しながら飲んでいたのだろう、ディナーの時に開けた瓶の中身は、もうほとんど残っていなかった。

 稽古を終えてディナーという気分でもなくなったエヴァンジェリンは、そばにいたメンドロボに片付けを命じ、自身のベットがある部屋へ向かった。

 チャチャゼロはテーブルから降り、その後を付いていく。

 

「ガキならガキなりに、もっと単純にやれば良いものを……」

「気ニ入ラネェーナラ、殺ッチマエバ良イノニナ。ケケケ」

「ホントにな……。まぁ、ヤツの()()()()からして、そういうわけにもいかんのだろうが……」

 

 部屋につくと、エヴァンジェリンはため息をつきながらベットに腰かけ、「はぁぁ」と大きなため息をついた。

 

「まったく、だから“英雄”はメンドくさい。私とはそりが合わん」

「ジャア何デ、アノガキ弟子ニシタンダヨ?」

「…………さぁな」

 

 横になったエヴァンジェリンは、ドサッと音をたてて枕に顔を埋めた。

 

(俺は英雄(ヒーロー)を育てたいぜ……)

 

 ふと彼女の脳裏に、もう随分と会っていない()()()()の言葉がよぎった。

 

「……そういえば、()()()は今頃なにしてるんだろうな」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 時は流れ、魔法球の出入口にネギ達は集まった。

 心に“迷い”を残したままだが、ネギは超の計画を止めるために、彼女と戦う意志を仲間たちに示す。それを聞いてパーティの面々も『一緒に超の計画を止めよう』と奮い立つ。

 そして、みんなは別荘から出るため、魔方陣の上に立った。

 だがネギたちが別荘を出る瞬間、ネギの持っている航時機(カシオペア)がカチッと音を鳴らして微光を帯びる。しかし、誰もその異変に気づくものはおらず、ネギ達はその()()から姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 






最新話含めて今までの話の中で、ONE PIECEキャラの存在を匂わせる描写をいくつか入れてきましたが、今後の話で絶対に出していきます。

ということで、
これからも頑張るぞー。φ(。_。)

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。