もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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ネギが1週間後に跳ばされ、かつ改変された未来から帰ってこなかった世界の話




別の時間軸
73. 作戦開始


 

 

 

 学園祭3日目、午前10時頃。

 総一は人通りの少ない小道を歩きながら、ケータイでネギに電話を掛けていた。しかし、いくら掛けてもコールと留守電のアナウンスが鳴るだけでネギが電話に出る気配はない。彼はネギたちが超の策略によって未来に跳ばされることは覚えていたが、いつ跳ばされるのか、あるいはいつ戻ってくるのかまでは覚えていなかった。

 

「……出ないか」

 

 よって、総一はネギが電話に出ないことから、彼らが“跳ばされた”のだと理解した。

 

「一応、“アイツ”にも掛けてみるか……」

 

 ついでに確認しておこうと、彼は再度ケータイの電話帳から違う電話番号を検索し、とある番号に電話を掛けた。

 その番号の主には2、3回のコールの後につながった。

 

『はい、雪広です』

「あ、出た」

『そっちから掛けといて、なにが「あ、出た」ですか!』

「いや、まぁ、そうなんだけど……」

 

 総一が次に掛けたのは、あやかのケータイだった。

 

『それで、何の御用ですか。加賀美さん?』

「雪広おまえ、今ネギ君がどこにいるか知ってる?」

『ネギ先生ですか? いえ、知りませんが……』

「……そうか。ちなみに最後に会ったのは?」

『え? えー、確か昨夜、超さんのお別れ会をして……今朝方(けさがた)に別れた時が最後ですわね。その後は確か、明日菜さんや木乃香さんたちと一緒にエヴァンジェリンさんの別荘へ行かれたはずですけど……』

 

 確定だな、と総一は辟易とした表情で唇を噛んだ。

 

「お前は行かなかったのか? エヴァさんの別荘に行ったのって、ネギ君とそのパートナーの面々だろ?」

『えぇ、私も行こうと思いましたが、(お別れ会の)片付けとかもございましたから……』

「ふーん……」

 

 総一は意外そうに相槌を打った。

 

『……あの、どうかしたんですか?』

「いや、別に……じゃあな」

 

 通話を切る際に、あやかの『あ、ちょっと!』という声が聴こえたが、総一はかまうことなく電話を切った。

 

「……やるしかないか」

 

 総一は、いつになく真面目な顔つきで、またケータイの電話帳からひとつの番号を選択した。

 

「おーす、ちょっと手伝って欲しいんだけど……」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 現時刻、午後19時頃。超の作戦の始まりは、なんの前触れもなく行われた。

 学園の各地には、どこからか映画に出てくるようなヒト型ロボットや四つ足であるく戦車のようなロボットが現れ、軍人の行進の如く大通りを歩いた。その数はおよそ七千五百、本来(原作)の数の3倍だ。

 道を歩いていた一般人は『また何かしらのパレードが始まったのか』と、その迫力のある光景を見ながら、ロボットの軍団に道を譲った。

 そこからの流れは、いっそう派手なものになった。

 ロボットの軍団が各地の人払いを済ませると、今度は茶々丸のハッキングによって学園の結界が崩落し、突然、数十メートルほどの高さがある巨大ロボットが湖から現れた。

 6体の巨大ロボットは3体ずつに分かれて学園を挟むようにして岸から出現し、各地で大きく鈍い足音とメカニックな稼働音を響かせる。

 その光景に一般人はさらに眼を奪われ、裏で魔法使い達は対応に追われていた。

 

「まるで特撮映画だな……」

 

 そんな状況の中、総一は建物の屋上で巨大ロボットが町を歩く光景を眺めていた。彼には巨大ロボットが世界樹の魔力溜まりとなる6ヶ所(龍宮神社神門、麻帆良大学工学部キャンパス中央公園、麻帆良国際大学附属高校、フィアテル・アム・ゼー広場、女子普通科付属礼拝堂、世界樹前広場)に、それぞれ向かっているのが分かった。

 

(一般人はイベントと思ってる人が多いな。ほとんどが野次馬と化してる。先生たちは……)

 

 辺りでは、歓声や悲鳴をあげる一般人がそれぞれ巨大ロボットを見に近寄ったり、逆に怖がって距離をとったりと騒がしく動き回っていた。総一はその一般人の中や建物の影に魔法使いの先生や生徒がいないか探した。

 しかしどこを探っても、巨大ロボットやロボット軍団に対応しようとする魔法使いの姿は見当たらなかった。

 

(特に動きなし。状況把握でいっぱいいっぱいって感じか……?)

《総一!》

 

 総一が辺りを見渡していると、突然、彼の頭の中に女性の声が響いた。その女性、シャークティの声は随分とピリピリとしたもので、総一にはその通信だけで彼女の険しい顔つきが頭に浮かんだ。

 

「噂をすれば、なんとやら……」

 

 総一は額に自身の仮契約カードをあてる。

 

《はい、なんですか。って訊かなくても要件はだいたい察せます。とりあえず、どうしましょうか?》

《直接指示します。いますぐ(武蔵麻帆良の)教会へ来て下さい!》

《……分かりました。すぐ行きます》

 

 仮契約カードを仕舞い、総一はやれやれとため息を洩らす。短い通信だったが、今の会話だけで彼には魔法使いたちの現状を、なんとなく察することができた。

 

(直接指示、ね……、てことは、まだシャークティさんには上からの指示が来てないってことか。学園長の指示が遅いのか……いや、たぶん明石教授とかガンドルフィーニ先生たちの現状把握やら整理やらが追い付いてないんだろうな。“超の計画”を知ってる身からすると、そんな悠長なことしてる暇ないんだけど……)

 

 そんなことを考えていると、突然ある方角から光が差した。総一が眼を向けると、そこには巨大ロボットを囲うようにして大きな光の柱ができていた。その光の柱は世界樹と同じように強く発光しており、離れた所からでもわかるほど天高く伸びている。

 

「あぁーあ、1ヶ所目が占拠されたなぁ……」

 

 遠方にできた大きな光の柱を見ながら、総一は呑気とも受け取れる口調で一人呟く。だが、その顔つきは真剣そのもので、彼の周りにはどこか凛とした空気が流れていた。

 

(あと5ヶ所。最後の1つでも残ってたら良いから、まだ大丈夫だけど、思ったより早いな……)

 

 “タイムリミット”は刻一刻と迫っている。

 現状、その“タイムリミット”が何であるかを、魔法使いの勢力の中で総一とタカミチだけが理解していた。

 

「……さて、行きますか!」

 

 建物から飛び降りて、総一は超の計画を阻止するため、“作戦”を開始した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 時間は経ち、6ヶ所魔力溜まりの1つである、“フィアテル・アム・ゼー広場”にて、また巨大ロボットが光の柱を作った。つまり、これで残る魔力溜まりの場所は、女子普通科付属礼拝堂と世界樹前広場の2ヶ所だけだ。

 だが、必要以上に目立つことを避けている学園の魔法使いたちは、まだロボットに対して何も対処していなかった。そのおかげで、相変わらず学園都市の各所は巨大ロボットとグラサンを掛けた長身のヒト型ロボットが支配し、一般人の歓声と驚きの声がこだましている。

 

「あらら、まったく何やってんのよ。魔法教師たちは……」

 

 そんな街の様子を、青藤礼司……本名、クザンは一般人に紛れて事の成り行きを目にしていた。

 いつもは学ランにマイマスクと、()()をしている彼だが、今は黒いコートと帽子を身につけ、丸いサングラスを掛けている。そのコートと帽子には船の錨を逆さにしたようなマークがつけられていた。

 

「……まったく、しょうがねぇなァ」

 

 自身の()()や悪魔の実の能力者であることなどの理由により、学園長からギリギリまで手を出すなと忠告されていたクザンであったが、流石にこれ以上は危険であると考え、行動を移した。

 彼は立っていた大通りから一気に跳躍し、巨大ロボットとほぼ同等の高さまで飛び上がると、目の前のロボットに向けて手をかざした。

 

「アイスタイムカプセル!」

 

 クザンの手先から極寒の冷気が放たれ、巨大ロボットを飲み込んだ。

 ロボットの表面には氷の膜が生成され、カチコチと音が鳴る。ロボットの動きはみるみる鈍っていき、先ほどまでのっそりしながらも順調に進んでいた怪獣のような歩行は、まるで錆びたブリキ人形のように、のろまなものになった。

 白く流れる冷気を纏いながら、クザンは建物の屋上に着地する。

 

「ふぅぅ……なんだ、エラく効いてねェなァ?」

 

 動きが鈍くなったが、いまだに巨大ロボットは稼働している。全身を一瞬で凍らせるつもりで放った冷気が、部分的にしか凍らせられないことに、クザンは違和感を持った。

 

「こりャ、ただの機械じゃねェーな……」

 

 いま学園の各地にいる巨大ロボットは麻帆良学園の地下に封じられた無名の鬼神を取り込んだものである。無意識にその力を感じ取ったクザンは、生半可な技ではこれらを壊すことはできないと悟った。

 

「アイス……ッ!」

 

 今度は周辺を氷点下並みに凍結させる技『氷河時代(アイスエイジ)』で、巨大ロボットの身体全体を凍らせようと動こうとしたクザンだが、その瞬間、彼の身体に1発の弾丸が撃ち込まれた。

 幸い、いくら射撃を受けたところで、自然(ロギア)系悪魔の実の能力者の彼にダメージはない。弾丸が当たってエグれた部分は冷気と氷の塊に変化している。クザン自身も身体に何かが撃ち込まれた感触を覚えただけで、特に顔をしかめることもなかった。

 だがその瞬間、彼の周りに黒い“渦”が出現する。

 

「あらら……!」

 

 渦はあっという間に彼の周りに広がると、球体状の黒い壁になって彼を取り囲んだ。

 すると黒い球体は、まるで時空から切り取られたようにピタッと消えた。

 だが、クザンが消えても辺りは白い冷気が漂っていた。やがて冷気は凝結していき、地面から生えるように氷の像が現れる。

 

「……まったく、やってくれンじゃないのォ!」

 

 氷の像は色を帯びて、あっという間にクザンの姿へと変わった。ギリギリで攻撃をかわしたクザンだったが、反撃の余地を与える間もなく、彼の周りにいくつもの黒い影が現れた。

 

「こりャまたウジャウジャと……」

 

 ガチャガチャと音を鳴らしながら、ヒト型のロボットがクザンの周りを取り囲む。すると、それらの一群は光線や強制時間跳躍の弾丸を放つよう彼に照準を合わせ始めた。だがロボットたちが照準を合わせる前に、クザンは高く飛び上がり、周りにいたロボットたちを見下ろしながら空中で構えをとった。

 

「アイス(ブロック)両棘矛(パルチザン)!」

 

 彼の周りを漂っていた冷気が凝結していき、鋭利な矛を形成する。放たれた矛はロボットを破壊して、辺りの地面もろとも氷結させた。

 クザンはスタッと氷像の前に着地する。

 だが、またすぐに代わりのロボットが現れ、彼を取り囲んだ。

 

(時間稼ぎか……厄介だな……)

 

 次から次へと現れるロボットに、クザンはイヤそうな顔をして額に汗をにじませた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「鬼神ロボの進行が遅くなったか……。だが、あれくらいの氷結ならまだ大丈夫だろう」

 

 学園の外れにある森林地帯で様子を覗っていた龍宮真名は、クザンによって半分凍結した鬼神ロボットにひやりとしながらも、計画の進行に支障がないことに安堵していた。

 

「TXロボの方は最終的に全部凍らされるだろうが、鬼神ロボが目標地点に進むまでの時間稼ぎには十分だな。街中だし、クザンさんも派手な技は使わないだろうしな……」

 

 真名は計画の実行前に超の言っていたことを思い出す。

 

『この計画で障害となる人物は、ネギ坊主、高畑先生、クザンさん、加賀美、エヴァンジェリン、()()()()の6人ネ。ネギ坊主とエヴァは、すでに手を打ったから、作戦中に対処するのは残った4人ネ。私の予想だと加賀美と高音さんは、作戦が始まった後に召集を掛けられるだろうから、そこで対処するといい』

 

 スコープを覗き、真名は教会付近にいると思われる目標の人物を探る。

 すると、教会の入口の外では魔法使いたちの密会している姿があった。

 

「……予想的中だよ、超」

 

 ターゲットを見つけた真名は、ライフルを構え、目標へ銃口を向けた。

 

「では、一仕事(ひとしごと)するとしよう」

 

 

 

 

 

 教会の外では、魔法使いの先生や生徒が十数人ほど集まっていた。一部はローブを身に纏い、それっぽい雰囲気を出している。

 総一はその集団に混じるようにして、すみの方でシャークティと共に立っていた。

 ここにいる魔法使いたちに指示を与えるのはガンドルフィーニ先生であるが、彼はまだこの場に来ていない。

 

「なにをグズグズしているんですか、一刻も早く動くべきです!」

 

 そんないつまでも動けない状況に苛立ちを感じて、高音・D・グットマンは口調を強めて進言した。彼女のそばでは「お姉様、落ちついて……」と佐倉愛衣がなだめていたが、あまり効果はない。

 

「落ち着け、高音君。焦る気持ちも分かるが、武道会での一件もあって我々が(おおやけ)に対処するわけにはいかんのだ」

 

 黒いスーツにサングラスを掛け、多くの麻帆良学園の生徒から『ヒゲグラ先生』と呼ばれている神多羅木先生が、煙草に火をつけながら高音を落ち着かせる。

 

「だからと言って、このままでは(チャオ)鈴音(リンシェン)の成すがままです。せめて彼女がどこにいるのか、捜索だけでもすぐに始めるべきです!」

「それはすでに高畑先生や弐集院先生を含めた別動隊が動いているさ」

「なら、私たちもその応援を!」

「だから少し待て。超鈴音捜索の他にも、まだやるべきことがあるそうだ」

「……やること?」

 

 疑問の残った神多羅木先生の言い分に高音は一旦口をつぐんだ。二人の口論から、周りの魔法使いの中には『これから身内争いでも起こるのか?』と心配する者もいたが、その口論が一時的に落ち着きを見せたおかげで、とりあえず安堵していた。

 

「……高音さん、気合い入ってんなぁ」

 

 そんな様子を、シャークティの背後に立って見ていた総一は苦笑いした。

 やがて、教会の中からガンドルフィーニ先生が現れた。

 

「遅くなってすまない!」

 

 ガンドルフィーニ先生の息は荒く、急いでやって来たのが一目で分かる。

 

「ではここにいる者たちに指示を出す。現在、何者かの手によって学園の結界を展開するシステムがダウンしている。情報部はなんとか復旧作業にあたっているが、敵の高度な攻撃がそれを妨害している。ここにいる面々には、そのシステム復旧の妨害をしているクラッカーを捜索してほしい。報告によれば学園の結界が復旧すれば、巨大なロボットも止めることができるはずだ!」

 

 ガンドルフィーニ先生の説明と指示を受け、魔法使い各自は「なるほど」「では早速探しましょう!」と、それぞれ了解を示し、動き出そうとした。

 だがその瞬間、肉眼では確認できないほど遠く地点からから、“小さいなにか”がものスゴい早さで、そこに向かって飛んできた。

 

「狙撃だ、警戒しろ!」

 

 カンの良い一部の熟練魔法使い(神多羅木先生など)は、その“なにか”が弾丸であることに気づき、周りの魔法使いたちに警戒を促す。

 しかし、ほとんどの魔法使い達はその警告に反応できず、飛んできた弾丸は、その場にいた二人の人間に着弾した。

 

「なっ! これはッ!」

「えっ! ちょ!」

 

 着弾した二人、高音と総一は、それぞれ驚きの声を洩らす。

 弾が当たったにもかかわらず二人にダメージはない。だが、その代わりに、二人の周りは黒い渦に閉じ込められ、一瞬のうちに姿を消した。

 

「そ、総一ッ!」

「お姉さまァ!」

 

 消える二人の一番近くで、その光景を目の当たりにしたシャークティと愛衣は、揃って二人の名前を叫ぶ。あまりに瞬間的な出来事に、周りの魔法使い達も目を疑った。

 そんな最中、神多羅木先生は3人目、4人目の犠牲を出さないように追撃を警戒する。だが何故だかそれっきり狙撃が行われることはなかった。

 

 

 

 

 森林地帯の木の陰からライフルの銃身が見える。その銃口からは硝煙があがり、そのライフルが発砲したことを示していた。

 真名は引き金から手を放す。たったいま仕事のひとつを終えた彼女は、ケータイを取り出して超に連絡を入れた。

 

《超、私だ。加賀美と高音さんは対処したぞ》

 

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 






この小説のクザンは、年齢32才で『ダラけきった正義』がモットーです。

彼は十数年間ほど仕事の関係で麻帆良学園に在籍しており、たまに出張という形で魔法世界に行ったりしています。ですが教師をするだけの学力はありませんので、いままでの学園での経歴は、大学生や警備員、事務員、屋台(アイスやかき氷)の売人など、いろいろ転々としていました。現在は、広域指導委員所属の高校生をやっています。

10才の先生とか700才の女子中学生がいるんだから、三十路の男子高校生がいても不思議じゃない……よね?

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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