もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
「ニヒヒ。計画は順調に進んでいるみたいネ!」
超は『いいねいいね』と言わんばかりに、ニコニコと笑う。
エヴァンジェリンは取引に応じて静観を決め込み、ネギは自身が仕掛けた罠によって一週間後へ跳ばし、クザンは大量のTXロボットで足止めした。さらに、先ほど総一と高音を三時間後へ跳ばすことができたと真名から連絡があった。
これで超は、計画を阻止される可能性がある危険人物の大半を無力化することに成功した。
(高音さんまで跳ばす必要があったかは微妙だが、“
クザンによって氷結されていた鬼神ロボットも、使役している鬼神固有の再生能力によって本来の動作を取り戻し、目標ポイントへ到達しつつある。対処しようと動きだしていた魔法使いも、今頃もう真名に跳ばされているだろう。
後は彼女の視線の先にいる最後の鬼神ロボットが魔力溜まりに到達するのを待つだけだ。鬼神ロボットのすべてが目標ポイントの六ヶ所を占拠できれば、上空を飛んでいる飛行船の上にいる葉加瀬によって強制認識魔法が執行される。
計画の完遂は、もう目前だ。
「……けど、まだ強敵は残ってるネ」
だが計画完了あと少しというところで、何者かが超のもとへやってきた。後ろから近づいてくる気配を感じとり、超は背後に意識を向ける。
「超君!」
「やぁ、高畑先生」
真剣な顔つきで呼びかけたタカミチとは反対に、超は彼に背を向けたまま、いつものようなフレンドリーさで返した。
彼らがいる建物の屋上には二人の他に人影はなく、周辺の一般人たちやロボット軍団の騒音がぼんやりと響いていた。
「これが君のやりたかったことなのかい?」
「そう、世界樹の魔力を使った強制認識魔法によって『魔法』と『悪魔の実』の存在を世界にバラす。それが私の目的ネ」
「そんなことをすれば、どれほどの混乱が起きるか、君なら分かっているはずだ」
「もちろん承知ネ。だが、この方法が最も混乱とリスクが少ない。それは高畑先生も分かっているはずヨ」
タカミチは反論しようとしたが、言葉が出てこず悔しげに口を閉ざした。
超の言うように、世界に『魔法』の存在が認知されれば、現状よりも多くの命が救える。世界中で活動しているタカミチには、それが容易に理解できた。
「確かに、ね……。だが『悪魔の実』は違う。あの実の存在が2つの世界に広まれば、その力を手に入れようと、“海賊”たちが動き出す。“能力狩り”が起こって罪のない人たちが犠牲になるのは歴史的にも明らかだ」
「かもネ。だが同時に、救える命もある。加賀美のような能力者ゆえに政府から
超は振り返り、タカミチと向き合った。彼女がタカミチに目を向けると、彼は再度苦々しい顔で口をつぐんでいた。
「ちなみにひとつ訊くが……能力者狩りを行うのは、ホントに“海賊”だけカ?」
「……どういう意味だい?」
タカミチが知る中で、能力者狩りを行っていた者の多くは魔法世界の“海賊”だ。しかし今、超の訊き方からすると、まるで“海賊”以外にも悪魔の実やその能力者を集めている勢力がいるかのようだ。
タカミチは彼女の言葉の真意を問うが、当の本人は不適に「ニヒヒ」と笑うだけだった。
「君は一体、なにを……むっ!」
「おぉ!」
急に辺りを照らしだした明るい光がタカミチの言葉を遮った。その光の源は、鬼神ロボットが魔力溜まりポイントを占拠したことによってできた光の柱だ。
その空高く伸びる光の柱に、超は笑みをさらに深める。
「どうやら、“女子普通科付属礼拝堂”の魔力溜まりも占拠できたようネ。さて……あとは、“世界樹前広場”のみ」
超は楽しげにしていた表情を真剣なものに変え、タカミチを見た。
「あそこにいる最後の鬼神ロボが“世界樹前広場”を占拠すれば、強制認識魔法が発動し、世界中の者たちは『魔法』と『悪魔の実』は現実のものと理解するネ。そして今後、『魔法』と『悪魔の実』によって生じる不測の事態については、私が“政府”と“海賊”を監視して管理する」
「あくまで一人の犠牲者も出さず、平和的に『魔法』と『悪魔の実』を知らせるというわけか……。けど、成功するとは思えないね」
「そのための“力”と財力を用意した。安心してほしい。私はうまくやる」
超はただ静かに言い放った。彼女のその言葉には聞いたものが妙に納得してしまうような説得力があった。
しかしタカミチは彼女の言葉を聞いて、なお抗戦的な表情で返した。
「君の考えは間違っている。僕は教師として、間違った生徒の行いを止める!」
「ニヒヒ。では、やってみると良い!」
超は口元を緩め、自身の白い歯を見せるようにして挑発的な笑みを浮かべた。
瞬時に戦闘態勢をとったタカミチは、彼女の動きを止めるため、流れるような動作で攻撃を仕掛ける。
「といっても、高畑先生では
超がそう口にした瞬間、彼女の姿がタカミチの視界から消えた。“空気を裂くような音”が鳴った後、突き出したタカミチの『無音拳(居合い拳)』がなにもない虚空を殴る。
「ネ!」
姿を消した超はタカミチの背後に現れた。超が姿を消してから次に姿を現すまでの時間差は、コンマ以下の誤差もなく、本当の意味でゼロだ。
これは
歴戦の猛者であるタカミチでさえ、自身の背後へ瞬間移動した超に対応することはできなかった。
「グッ!」
だから時間を跳躍した瞬間、背後から受けた“衝撃”に、
その“衝撃”は彼女の背中をえぐるように突き抜け、ガラスの割れる音や機械が破損する音を鳴らした。
「なッ!」
自身の背後で行われた一瞬の出来事に、タカミチも目を見開いて驚く。間合いを取りながら背後にあった光景を目にすると、そこには彼がよく知る二人の姿があった。
一人は先ほどまで自分と向かい合っていた少女、
「…………加賀美ぃ!」
超は苦しそうな顔で笑いながら、少年の名を口にした。
☆☆☆
時は少し戻る。
「ほれ!」
「……えっ?」
「いや、『えっ?』じゃねぇーよ」
時刻は午前11時ごろ。総一は春日美空をひと気のない場所(学生寮の近く)に呼び出し、自身がまほら武道会で身につけていた白十字の入ったコートを手渡した。
「どういうことッスか?」
「さっき電話で説明したろーが」
「そーだけど、ぶっちゃけ急すぎて何のことやら……」
修道服を着た美空の隣には、同じく修道服姿のココネもいて、二人のやり取りを見上げるようにして無表情で立っている。
「いいから、今日の夕方に魔法先生たちから緊急招集されたら、それ着て幻術で俺に化けててくれ。幻術魔法は得意中の得意だろ?」
「えぇ、まぁ、そうッスけど……。ってそうじゃなくて、緊急招集って何? なんで私がそんなことしなきゃなんないの?」
「理由は後で(気が向いたら)話す。とりあえず言う通りにやれ」
「えぇー!」
なにか面倒くさそうなものを見る目で、美空は総一を見た。
大体の出来事を知りながら動いている総一と違い、美空は招集の話はおろか、他の魔法使いと同様(新米魔法使いであることもあって)なにも知らない。彼女が知っている事といえば、せいぜい前日のまほら武道会の件で
だが、あやかや明日菜たちほどではないが、美空もそれなりに総一との付き合いが長い。なので彼女自身、いま総一が出した指示に何か意味があることは、なんとなく感じ取っていた。
しかし、総一が指示の理由をはっきり言わないことや彼女の面倒くさがり屋な性格もあって、美空は首を縦に振らなかった。
「心配しなくても死ぬこともなければ怪我したりもしないから、大丈夫大丈夫!」
「いや、そう言われると逆に不安になるんだけど……」
「やらなかったら、今年から夏休みの宿題手伝うのやめるからな」
「……喜んでお受けします!」
美空は態度を一変させ、了承の意味を込めて頭を下げた。美空が総一のことを理解している以上に、総一は彼女の扱い方を心得ていた。
「……ちなみに、シスターシャークティは、このこと知ってんの?」
「いや全く。だから話し掛けられてもボロ出すなよ」
「うぅ、なんか自信ないッス」
「他の先生たちもいるから、下手なこと喋んなっきゃバレねぇよ。なにか訊かれても『分かりました』とか『了解です』とか適当に返してれば大丈夫だと思うから。それと、
美空は「ホントに大丈夫ぅ?」と怪訝な顔をした。
ふと総一は自分の服が引っ張られたのに気づき、視線を下した。すると彼の足元では、ココネがズボンの裾を掴んで見上げていた。
「ん、なに?」
「……私は?」
「あぁ。ココネは招集が掛かっても、どこかで隠れててくれると助かる。美空だけいないのも変だし、その方が『集合に遅れてる』とか『サボってる』だとか誤魔化しやすいだろうからな」
ココネはコクリと頷き、「わかった」と小さく応える。だが総一のその返答を聞いて、美空は額にうっすらと冷や汗をかいた。
「怒られないかなぁ、私……?」
「安心しろ。
その言葉の意味がイマイチ分からず、美空は「どういうこと?」と首を捻る。
しかし、その質問に総一は「全部おわったら話す」とだけしか返さず、それ以降もちゃんとした理由を美空に話すことはなかった。
そして時は進み、午後19時ごろ。
総一は建物の上から状況を確認してシャークティから指示を受けた後、自身が考えた“作戦”を実行するために動き出していた。
シャークティからは教会に集合するように指示があったが、総一はその命令を無視して、学園の街中を人ごみにまぎれるようにして走っていた。代わりに今頃、美空が総一に変装して先生たちの所へ向かっていることだろう。
学園内のあちこちを駆け回り、やがて総一は
「思ったより時間が掛かった…………さて、超のヤツはどこだ?」
自身の『見聞色の覇気』を極限まで高めながら、総一はまた学園中を走り回った。学園にある気配の数は数えきれないほどあるが、その中から総一は強者の気配だけを拾っていく。
「このバカ強い気配はエヴァさんだな…………向こうにあるのは、冷気があるから青藤先輩のかな……あっちにあるのは……雪広のか………ん?」
学園中の強者の気配を探っているうち、ふと総一はとある人物の気配を感じ取った。
「……これは、高畑先生だな。ちょうど良いや」
総一はタカミチのものと思われる気配を感じとると、その後を追うように走り出した。
タカミチの気配は建物の屋根を跳ぶようにして、なにかを探し回るように動いていた。総一も屋根に上がると、今度は肉眼でタカミチの姿をとらえた。遠近感のせいで、タカミチの姿は豆粒ほどの大きさにしか見えていないが、総一には彼が日頃よく着ている白いスーツがハッキリが見えた。
(俺の“記憶”が間違ってなければ、このあと高畑先生は超と対決するはず……)
総一はできるだけ気配を消し、タカミチをギリギリ視認できる距離を保って追跡を続けた。
やがてタカミチは足を止め、とある建物の屋上に降り立った。彼の目の前には総一の予想通り
総一は二人の姿を確認すると、一旦地上に降りて建物の間を結うように走った。そして二人がいる建物と通りを隔てて向かい合っている建物まで来ると、その建物の屋上まで忍ぶようにして登り上がった。
屋上に着地した瞬間、総一は二人に見つからないように
「……ふぅぅ」
壁に寄りかかり、総一はゆっくりと息を整えた。
(ここから
運動と緊張から乱れていた呼吸を整え終えると、総一は覚悟を決したように、俯いていた顔を上げた。
(……ここまで来たら、やるしかないよな)
総一は指をパキポキ鳴らした後、手に覇気を込め、『武装色の覇気』で黒く硬化させた。
「君の考えは間違っている。僕は教師として、間違った生徒の行いを止める!」
「ニヒヒ。では、やってみると良い!」
(今だ!)
超の挑発的な言葉が、総一にはスタートダッシュの合図に聴こえた。
塔屋の影から身を出すと、総一は全速力で二人の方へ走った。
「といっても、高畑先生では
超がタカミチの視界から消えた瞬間、総一は屋上の床を強く踏み込んだ。
「
瞬間、地面が割れるような破裂音と空気を裂くような音が交じった。
「ネ!」
姿を消した超はタカミチの背後に現れる。そして同時に、超の背後には
超の背中には時計盤があり淡い魔力光を放っている。総一はその時計盤を狙って自身の黒い拳を思いっきり突き出した。
「
『武装色の覇気』による硬化、
「グッ!」
「なッ!」
その一瞬の出来事に、それぞれアクションを起こしながらも、超とタカミチは揃って驚愕の表情を見せる。アクションを起こすといっても、超の場合は彼女自身が起こしたものではない。衝撃によって背中は仰け反らされ、身体は突風に吹かれたように吹き飛んだ。
「…………加賀美ぃ!」
吹き飛んだ先で、なんとか受け身をとった超は笑みを引きつらせ、総一の名前を呼んだ。
TO BE CONTINUED ...
超鈴音、ラスボス以上にラスボス!
(いやホント、冗談抜きで……)
時間操作系の能力は強すぎて困る。
そんな超に、なぜ総一が1撃入れることができたのか、その辺の種明かしは次回やります。
(キーワードは『事象予測』)
この辺の話はだいぶ前から書いていたこともあり、けっこう書き貯めがありますので、次の更新は近いうちにできると思います。
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