もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
その場は緊迫した空気が流れていた。
タカミチはポケットに手をいれ、いつでも攻撃できるよう戦闘態勢をとっているが、頭の中は現状把握が追いつかず半ば混乱している。その現状を作り出した当人である総一は、荒い呼吸をしながらもやり切ったような顔をして立っていた。彼の手先は『武装色の覇気』で黒く染まり、突き立てた人差し指からは煙のような熱気が上がっていた。
「……クッ!」
ボンッと、どこからか小さな破裂音が鳴る。
彼女の背中につけた機械からは煙があがり、いくつもの破裂音と漏電する音が鳴っていた。
少しの痛みと
「まさか一撃目で
「だが、おかしいネ。さっきの真名の連絡によると、加賀美は強制時間跳躍弾を受けて跳ばされたはず……」
「さぁ、なんのことやら……。ひょっとしたら龍宮が誰かと間違えたんじゃないか?」
「…………美空カ」
「なんで解るんだよ、この天才!」
総一の返答から超は答えを導き出した。その頭の良さに、総一は思わず罵倒しているのかどうか微妙な言葉を飛ばした。
しかし、種明かしの一部が解ったところで、彼女の苦しげな表情と総一の余裕のある表情は崩れなかった。
(
超の
だが、この『絶対回避』にも“穴”はあった。
しかし人工知能がこの2つを発揮するには、莫大かつ
つまり一度、超側に『加賀美は始末した』という情報が入ってしまえば、人工知能(と超)は総一の行動を考慮した『事象予測』ができず、跳躍した先にある総一の攻撃を回避することができなくなるのだ。
「なるほど。美空を囮にすることで私たちから自分の存在を消し去り、私の
持ち前の洞察力で、総一が
「しかし、たとえ存在を消したとしても、これは(私の人工知能のように)私の時間を跳ぶタイミングと跳んで現れる場所の『事象予測』がなければ、実現できないはず……。一体どうやったのカナ?」
超の問いに、総一は「教える必要ある?」と首をかしげたが、教えたところでどうというわけでもないと思い直し、小声で「まぁ良いけど……」と口を開いた。
「お前が跳躍する瞬間は『見聞色の覇気』で探ってたし、簡単に分かった。セリフから高畑先生を挑発してカウンター狙ってんのも解ったからな」
「ニヒヒ、なるほどネ。なら現れる場所は、どうして解ったネ?」
総一の種明かしを、超はどこか楽しげに聞き入る。
「お前は賢い。この計画にしても、その戦い方にしてもな。そして賢いからこそ、どんな時も一番効率のいい手を取る。昨夜のネギや桜咲との小競り合い……あの戦いを見て確信した。お前は時間を跳躍して戦うとき、(無意識なのか知らないけど)敵の背後を取って死角から攻撃するってな」
時間跳躍をしたとき、超は高確率で相手の背後にまわる。
原作知識のおかげもあって、総一は彼女のその“クセ”を見抜いていた。その“クセ”があることは、総一がこの作戦を計画した当初では、まだ推測でしかなかったが、昨夜のネギたちとのバトルで(ネギに初めて時間跳躍を見せた時やネギの拘束魔法から抜け出た時、刹那に押さえつけられた時など)、その推測は確信へと変わった。
そして今回も、ほぼ間違いなく後ろへ跳ぶだろうと、総一は考えたのだ。その相手が
「……ニヒヒ、お見事ネ!」
一連の
「少々予定がズレたが……まぁいいネ」
「まだやる気かい? 詳しいことは分からないが、いま君は僕たちに対抗できる武器を失ったんだろう?」
諦めた表情を見せない超に、タカミチが降参をうながすように訊ねた。
「確かに
「……だろうな」
総一は「まったく諦めの悪い」とため息を洩らす。
「だが加賀美もいることだし、もう一度二人に問おう。二人とも、私の仲間にならないカ?」
この半ば追い詰められた局面においても、自身の仲間に誘う超の大胆さに、総一は思わず「は?」と怪訝な顔をした。
「私といっしょに世界をひっくり返し、不正と歪みと不均衡を正そうじゃないカ。(高畑先生にはもう言ったが)この計画をうまくやるために、すでに“資金”と“技術”と“力”を用意したネ!」
自身の誘い文句を言い終え、超は二人の反応を見る。彼女の本当の狙いは二人を仲間にすることではなく、
しかし彼女の“目論み”は外れ、総一は動揺することなく怪訝な顔のまま表情を変えなかった。彼がチラリと目を向けた先では、タカミチが表情を曇らせており彼女の狙い通り少し動揺しているようであったが、二度目とあってあまり効果はないようだ。
「……なんど訊いても、僕の答えは変わらない。僕は君の仲間になるつもりはないよ」
案の定、タカミチは超の誘いを突き放す答えを返した。半ば想定した返答に、超の表情や態度にも特に変化はない。
「質問を質問で返すようで悪いけど……」
「……なにカナ?」
だが、総一の返答は違った。
拒絶、動揺、落胆、嘲笑……予期したもののどれとも違う彼の返答に、超は一瞬の戸惑いを見せた。
「一体どうした? まるで“誰かの狙撃”でも待ってるみたいだけど?」
「えッ!」
自分の狙いが
超自身が強制時間跳躍弾を当てられる状況であれば、そうするつもりではあったが、タカミチやクザン、総一などの強者を一人で相手にするのは、それなりにリスクがある。そのため、超は計画の打ち合わせの段階で、自分が戦っている時に相手がスキを見せたら狙撃するよう、龍宮と示し合わせていた。
だから超は見晴らしのいい建物の屋上でタカミチを待ち構えていたし、戦う時も建物の上で戦い合うつもりでいた。
龍宮とは『高音と総一(偽)を対処した』と連絡を取ったのが最後だったが、彼女の腕ならあれから残った魔法使いを跳ばし、今この瞬間にも、タカミチ達に狙いをつけていてもおかしくない。(実際、原作ではこの手段でタカミチを仕留めている)なので超はなんとか二人を動揺させ、龍宮に狙撃させようとしていた。
だが、なぜかその超の目論みは総一に見抜かれていた。
「ちなみに、龍宮ならここから数キロ先の森の中で寝てるぞ。いやぁ、プロの龍宮もお前と一緒で、始末したはずのターゲットが目の前に現れてビックリしたんだろうな。思ってたより簡単に仕留められたよ」
しかも総一は彼女の狙いを見抜くだけでなく、すでに龍宮について対処していた。
腕の立つ龍宮を負かしたこともそうだが、まるですべてを知っているかのような総一の行動に、超は半ば恐れを抱きながら額に汗を浮かべた。
だが、超は心にある恐怖を隅へ追いやった。総一たちを仕留める狙いがバレた彼女であったが、それでもまだ心の中には余裕があった。
「……ニヒヒヒヒ、流石は私の御先祖様ネ」
「はっ?」
固い笑みを浮かべながらサラッと超は言った。その言葉の意味が理解できず、総一は「お前の御先祖はネギ君だろ?」と眉を歪めた。
「まさか
まるで『完敗だ』とでも言うように、超は演技染みた笑顔で静かに「ニヒヒ」と笑う。絶対的に不利な状況にあるにもかかわらず笑っている彼女に、タカミチは嫌な予感を覚えた。
そしてその予感は当たり、彼女の笑う理由もすぐに明らかとなった。
「……でも、少し遅かったネ」
途端、辺りを照らしていた光の量が増した。その光源となっている方角では、六体目の鬼神ロボットが世界樹前広場で光の柱をつくっていた。
「たった今、すべての鬼神ロボットが魔力溜まりに到達したヨ」
超と総一のやり取りに気を取られ、強制認識魔法の魔方陣が完成させてしまったことに、タカミチは「しまった!」と声を洩らす。
『形成逆転』、そう宣言するかのように、超は先ほど総一が向けたような笑みを彼らに向ける。
「一度発動すれば、もうこの強制認識魔法は止められない。これで私の計画は完了したネ!」
多少のアクシデントもあったが、なんとか自分が望んだとおりの状況を作り出し、超は自身の勝利を確信した。
「私の勝ちネ!」
「クッ……!」
無念の表情を浮かべ、タカミチは眉間にしわを寄せた。
しかし、そんな彼の横で、総一は動揺は愚か焦りすら見せていなかった。まるでその辺に浮かんでいる雲を見るかのような無表情で、
「むっ?」
そんな総一の反応を目にして、超は違和感を抱く。
なぜ彼はこんなにも落ち着いているのか。儀式が完了した今、世界樹を切り倒しでもしない限り、発動を防ぐことはできない。いくら覇気使いの総一といえど、あの太い世界樹を斬ることはできないはずだ。
彼らの敗けは決まった。だが目の前の総一は何もすることなく、ただ黙ってそこに立っていた。彼の視線の先では、世界樹が“今までと同じように”発光している。
そこで、超はとある“異変”に気がついた。
「……なぜ、魔法が発動しないネ?」
儀式を完成させたにもかかわらず、世界樹にはなんの変化も見られない。
本来ならば、儀式が完成されたと同時に強制認識魔法が発動し、世界12カ所の聖地と共鳴するため、世界樹の魔力が上空に吸い上げられるはずである。
鬼神ロボットが魔力溜まりの六カ所を占拠し、儀式は完成している。
しかし、いつまで経っても魔法は発動されず、次第に超の心の中には焦燥感が生まれ始めた。
「お前の計画ってのは、世界樹の魔力で強制認識魔法を使って全世界の人達に『魔法』と『悪魔の実』を知らせること、だっけ?」
総一と同じように世界樹を見上げていると、唐突に彼が口を開いた。彼の言葉に反応するように、超は彼の方へ目を向ける。
「だけど、魔法って“呪文を唱える人”がいないと発動しないよなぁ……」
“呪文を唱える人”、この強制認識魔法の儀式でいう葉加瀬聡美のことだ。
「ハカセ?」
超は世界樹の上空を飛んでいる飛行船へと目を向ける。その飛行船の上には六つの魔力溜まりにできた魔方陣を統率している、いわば強制認識魔法の核となる魔方陣が存在していた。
「もうひとつ『ちなみに』で教えとくけど、葉加瀬なら龍宮の横で寝てるよ。だからいくら
「ッ!」
自分の
だが、いくら鬼神ロボットが魔力溜まりの六ヵ所を占拠したところで、呪文が完了してなければ意味がない。(簡易な魔法を除き)魔法を行使する上で呪文を唱えることは絶対事項であり、呪文が未完成のままだと、なにをしても魔法は発動しないからだ。
この計画の中で、超は呪文の詠唱をすべて葉加瀬に一任していた。よって彼女を止めれば強制認識魔法が発動しないのは当然のことだった。
総一はそれを理解し、ここに来るまでに龍宮と同様、葉加瀬も眠らせていたのである。
だがここで、超にある疑問が浮かぶ。
「……なぜ、ハカセの居場所が?」
「『見聞色の覇気』で探した。あんな高いところにぽつんとひとつ人の気配がしたら、そりゃあ怪しむさ。あの高度なら5分もあれば余裕で飛んで行けるし」
「クッ!」
超は『行き詰まった』と言うかのように奥歯を噛んだ。
(ホントは知ってただけなんだど、わざわざ本当のことを教えてやる理由はないな。正直に全部教えたところで信じないだろうし……)
飛行船に超がいて葉加瀬を護衛している可能性もあったが、総一は原作知識から超が地上に降りてタカミチに追い詰められることを知っていた。そしてこれは二人が戦っていたことから、すべての呪文を詠唱し終える前のこととも推測できた。なので時間に差はあれど、葉加瀬を止めるスキはあるはずだと、総一は確信していた。
「やはりアナタが一番の
(いや、多分四番目だよ)
一番目がネギ、二番目がクザン、三番目がタカミチ。自分は四番目だと考えた総一だったが、あえて口にはしなかった。
強制認識魔法の発動を止められ、超の表情には一切の余裕がない。だが同時に、まだ観念したような様子もなかった。
「けど、まだ私は負けてないネ。すでに儀式の準備は終えている。ハカセに代わって私が残りの呪文を詠唱すれば、まだ強制認識魔法は使えるネ!」
「やらせると思うか?」
闘志を見せた超に、総一もタカミチと揃って戦闘態勢に入った。
「無論、アナタたちを倒してネ!」
超の言葉をきっかけに、彼女の周りに強制時間跳躍弾を発射する機械がいくつも出現した。
「出たな、ガンダムに出てくる兵器みたいなヤツ……
総一は
「
「フッ!」
発射兵器は
超も負けじと手持ちの弾丸を展開して数百発以上の弾丸を放ったが、総一は
やがて数分もしない内に、二人は宙に浮く発射機器をすべて斬り落とした。
(
計画もほぼ終盤に迫った中、総一は原作を思い出して、これから超が取るであろう行動を考えた。
原作では、
『絶対回避』や『疑似時間停止』に比べて、一般的な西洋魔法程度なら対処するのは難しいことではないが、いくらタカミチと一緒に戦っているとはいえ『燃える天空』などの上級魔法を使う魔法使いを無力化するのは、簡単なことではない。
総一は、彼女が魔法を使う前にこの戦いを終わらせようと、超に向けて間合いを詰めた。
だが現実は、彼の予想のはるか斜め上をいった。
次の瞬間、超の身体から“光のスジ”が見えたかと思えば、ドカンッと爆発した音が辺りに響いた。目の前の地面は抉れ、黒く焼け焦げている。
総一は弾かれるように身をよけて、超から距離を取った。
「今のは……魔法?」
「いや、違う!」
総一の口にした言葉に、タカミチは強い口調で否定した。
「いま超君は呪文も詠唱していないし、無詠唱魔法にしては威力が大きい!」
「てことは……まさかお前、能力者なのか!」
タカミチの言葉を聞き、反射的に総一は考えられる可能性を口にした。
そして同時に、ドス黒い絶望感が彼の心に生まれた。
「そう……」
ニヤリと笑いながら、超は腕を前に突き出し、総一に見せるように手の平を上に向けた。
すると、超の身体はほんのりと光を帯び始め、一瞬、彼女の手のなかで“なにか”がピカッと発光した。
「なッ!」
総一の喉から短く掠れた息が漏れる。心の中にあった絶望のモヤモヤが電動エアポンプにつながった風船のように膨れ上がる。一瞬しか見えなかったが、たしかに確認できた“ソレ”に、彼は開けた口を閉じることも忘れてしまった。
「……お、おいおい、冗談、だろ?」
彼女の手の中で走る“電気”を、今度はハッキリと目にした総一は、ポツリポツリと言葉を洩らす。背中には嫌な汗が伝っているのを感じた。彼はこの時ほど『今の光景が夢であってくれ』と願ったことはない。
「私は悪魔の実、
帯電した超の手からビリビリと大きな音が鳴る。彼女の指先の間には小さな稲妻が走っていた。
「私は、“
TO BE CONTINUED ...
ね?
チャオさんてば、ラスボス以上にラスボスでしょ?
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音