もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
陽はすっかり暮れ、空には星がチラホラ見える。だが、魔力溜まりからの光と世界樹の光が学園を照らし、外の明るさは街灯がなくても、辺りが見えるほど明るい。
総一たちのいる建物の屋上も、その例に漏れない。だがたった今、そこは周りの光とは異なる薄青い色の光に照らされていた。その光は街灯の光でも、ましてや魔力の光でもない。
「私は
「チッ!」
総一は無意識に奥歯を噛んだ。向かい合っている
その光が、いま総一たちを照らしている光の正体である。
「よりにもよって
「ンなこと言ってないで、高畑先生、咸卦法ッ!」
先生と生徒の関係など忘れ、総一は最低限の言葉で怒鳴りつけて命じた。
「100万
「ヤベッ!」
そうしている間にも、超は身体中にエネルギーを貯める。青く光っていた彼女の身体はLEDライトのような白色へ変化し、その周りにはバリバリと大量のプラズマが発生していた。
総一は全身を『武装色の覇気』で纏い、タカミチは『魔力』と『気』を合成させる。
「
それからは、まさに一瞬の出来事だった。超を中心にして爆発したように雷が四方八方へ広がり、津波のような稲妻が二人を襲う。
“雷”とあって一秒と経たずにエネルギーは放出されたが、その後の総一とタカミチの姿は、まるで火の中に飛び込んだように、身体のあちこちが黒く焼け焦げていた。
「……こンにゃろォ」
「クッッ!」
幸いにも『覇気』と『咸卦法』で身を守ることができたが、それと同時に、そのたったの一撃によって二人は超との戦闘能力の差をイヤというほど感じ取った。
超の放った雷撃は、西洋の魔法使いで言うところの雷系中位級呪文程度の威力であるが、彼女はその威力の技を、ほぼ事前動作なしで放っていた。
「ニヒヒ、今の攻撃に瞬時に反応して耐えるカ。流石ネ。まぁ手加減してあげたのだがネ」
「テメェ、正気か! 一般人巻き込んだらどうすンだ!」
「周りに人がいないのは確認した上ヨ。私も無関係の人間をキズ付けたくはないからネ」
総一から刺されるような眼で睨み付けられながらも、超は平然とした態度で返した。彼女の手の中では、まだ雷のプラズマがバチバチと音を鳴らしている。
「そして、アナタたちをこの
そう超が言い終えた途端、パシュっと空間を裂くような音が鳴り、彼女はその場から姿を消した。
「消えた!」
「雷の速度で動けば、そりゃあ消えたようにも見えますよ……」
「一体どこに?」
「……あそこです」
一瞬だけ見えたプラズマから、彼女が雷化して移動したことを理解した総一は、戦闘の構えを解いて、ある方角を見上げた。
総一の視線を追って、タカミチも空を見上げるが、見上げた先では夜空に薄暗い雲が漂っているだけだった。
「どこだって?」
「上空数千メートルを飛んでる飛行船の上ですよ。俺たちを倒すよりも、ちゃっちゃと呪文を唱えて強制認識魔法を発動させようって算段じゃないですか?」
総一はいつになく機嫌が悪そうに顔をしかめて、ため息を溢した。自身の持つ知識をフルに活用したにもかかわらず、最後の最後でとてつもない“隠し玉”を出されたことに、彼は苛立ちを隠せなかった。“隠し玉”の存在を予感していた彼だったが、まさかそれが“ゴロゴロの実”の能力だとは思いもしなかった。
(ゴロゴロの実とか、事前に解ってたとしても対処のしようがねぇよ……まったく)
だが、ここまで来たらやるしかないと、総一は気持ちを落ち着けながら思考を切り替える。
「…………高いなぁ」
「良いですよ、俺が行って止めてきますから」
グウの音も出ないといった表情で空を見上げるタカミチの横で、総一は人獣型となって背中から翼を生やす。
飛行能力、あるいは足場を生成する魔法を使えないタカミチには、地上から四千メートルも離れた地点を飛ぶ飛行船まで向かう方法はない。
ゆえにここからは、総一ひとりだけの戦いだ。
「一人で大丈夫かい?」
「……さぁ」
ハッキリ言ってしまえば、勝機は絶望的だ。だから総一は返事を濁した。
訊ねた本人であるタカミチも、内心ではそれを理解していた。
「……すまない」
「一体なんの謝罪ですか?」
先生として、彼女を止める役目は自分がやるべきことなのだろう。しかし、自分では物理的にも力量的にも、どうやっても彼女に手が届かない。
タカミチは自分の不甲斐なさをイヤというほど感じた。まるで教え子を死地へ送り込む気分だった。
「……大丈夫ですよ」
もどかしげに顔を曇らせるタカミチに、総一は翼をあおいで体を浮かせながら、ポツリと言葉を洩らす。タカミチは羽ばたく音に混じったその声を拾い、反射的に顔を向けた。
「たとえここで敗けても、まだ“希望”はありますから」
それだけ言い残すと、総一は空高く飛び上がり、飛行船へ向けて飛んで行った。
☆☆☆
麻帆良学園全体を見下ろすように高くそびえる世界樹。正式名称『
そのはるか上空を、一機の飛行船が浮いていた。その船上には大きな魔方陣が描かれ、地上にある6つの魔方陣と共鳴するように光っている。
超は魔方陣の中央に立つと、投影モニターを表示させて強制認識魔法の状況に目を通した。
(どうやら、残っているのは最終呪文だけみたいネ。仕上げの呪文詠唱を終わらせるだけなら、10分あれば足りるが……)
強制認識魔法の進捗状況を把握した彼女は、儀式を完成させる作業に取りかかることなく、黙ってその場にたたずんだ。
およそ数分の後、下方から鳥類が翼をはばたかせているような音が響いてきた。やがて飛行船の横から黒い影が飛び上がった。
「
その影から斬撃が走り、超の身体が上下二つに裂ける。しかし
その能力によって彼女の実体は
「ニヒヒ、やはり来たか……!」
まるで何事もなかったかのように、超は不適に笑う。
「加賀美ひとりカ?」
「さぁ、高畑先生が後から来るかもな」
「ということは本当に“加賀美ひとり”ということネ。高畑先生が後でここに来るなら、そんな存在を匂わせる言い方、アナタはしないヨ」
(……チッ、墓穴ほった!)
船上に立つ超を見下ろしながら、総一は小さく舌打ちをした。
見上げる者は薄い笑みを浮かべ、見下ろす者は恐れまじりに苛立った表情を浮かべる。二人の居場所と心境は、まさに対偶的だった。
「どうしても私を止めるつもりネ?」
「当たり前だ、バカ!」
「この計画によって救える命が有ったとしてもカ?」
「あぁ!」
「即答カ……ニヒヒ。どうやら、学園で義理と人情で生きるアナタには、何を言っても無駄みたいネ」
「人を極道モンみたいに言うな!」
「私にとってはあまり変わらないネ」
「どういう意味だ、コラぁ!」
心の余裕を透かして見せているように話す超に、総一は怒りを沸々と燃やす。
「チッ……」
だが、なんとか理性で押し潰し、落ち着きを取り戻した。
「とにかく、たとえこの先に、大きな悲劇が起こるとしても、俺は俺のやり方で未来を変える、邪魔すンな!」
「ニヒヒ、じゃあやってみるネ!」
そう言って超は自身の身体に電気エネルギーを蓄え、ビリビリと稲妻を周辺に撒き散らす。
それが開戦の合図となった。
「
総一は足を振り回し鎌風を放った。大量の斬撃が突風の雨のように降り注ぎ超に襲いかかるが、彼女は一瞬の焦りも見せることなく、ゆっくりと手を突き出した。
「3000万
一瞬の閃光と共に現れたのは、大きな鳥の姿をした雷の塊だった。その雷の怪鳥は大きな羽を広げるように羽ばたき、同時に迫り来る斬撃の雨を消し去った。斬撃が雷に消されていく様は、まさに焼け石に水を垂らすようだった。
「チッ、
総一は反射的に舌打ちを一つすると、すぐに雷の軌道を外れた。
「ニヒヒ、逃げるのが精一杯カ?」
不適な笑いが張り付いたような表情のまま、超は空中を移動する総一を目で追った。その最中、彼女の身体がいっそう光を増した。
「2000万
すると、さっきの地上で放ったものとは比べものにならないほどの雷が走った。その青白い雷撃は総一を巻き込み、辺りに放出される。
「ガァッッ!」
凄まじい威力の痺れと熱が総一の身体を襲う。彼の悲鳴は雷撃の放電音にかき消された。
やがて雷は散り、空中には全身火傷を負った総一だけが残った。だが、その総一に飛ぶ力は残っておらず、彼の身体は自由落下し、そのまま飛行船の上に転がり落ちた。
(くそっ、やっぱりエグい!)
なんとか意識を保った総一は、身体中を蝕む痛みに耐え、よろけながら立ち上がる。普通の人間ならば、そのまま倒れ込んでもおかしくないが、
(同属性の魔法ならダメージを与えられるらしいけど、俺の
虐殺的な雷の強さを痛感しながらも、なんとか総一は勝機を見出そうと模索する。
「俺が勝てる方法があるとするなら……」
一時の思考の後、やがて総一は引きずっていた足を地面につけて超と向かい合った。
「変形、獣型」
総一は頭上に光の輪を出現させ、背中からもう一対の小さい翼を生やす。『獣型』のフォルムに変わった総一の身体からは、神々しい光を発していた。
「武装」
その微光とは対称的な黒いオーラが総一の身体を覆う。
能力による『身体能力の向上』と『覇気』が、自分が『ゴロゴロの実の能力』に対抗できる唯一の武器だと、総一は考えた。
「『
「分かってらーよッ!」
挑発的な超の言葉に、総一は怒気を含んだ声で返した。事実、『武装色の覇気』に雷の力や痺れを無効化する能力はない。せいぜいその衝撃を少し弱める程度だ。
だが、
「
瞬間、総一の姿が消え、超の周りを風を斬ったような高い音が鳴りわたる。
六式の『
だが超に限っていえば、そうではなかった。彼女の表情はまったく揺るがず、少しの焦りも見られない。
「雷のスピードに勝てるとでも思ったカ?」
超がそう呟いた後、雷の閃光が走り、彼女の姿が消えた。
超が姿を現したのは、高速移動していた総一のすぐ目の前だった。現れた超は身体に雷を帯びらせ、手のひらを総一の頭に向けて突き出していた。
ほとんどゼロ距離に近いこの状況では、総一が超の雷撃を防ぐすべはない。
「思ってねぇーよ!」
だが、総一は突き刺さるような鋭い眼光で超を見ていた。
「4000万
「
放電する直前、総一は両手の拳を構え、超に突きだし、衝撃波を打ち込んだ。『見聞色の覇気』で彼女の動きを読み取っていた彼には、雷速で動く超にもなんとか対処することができた。
「グッ!」
「ガハッッ!」
二人はお互いに反発するかのように吹き飛んだ。超は両足を地につけて踏ん張ったが、総一は衝撃に耐えきれず地を転がる。
(まさか捨て身で来るとはネ……)
痛む腹部を押さえながら、超は笑みが引きつらせた。
彼女が動揺してる間に、総一はボロボロになりながらも体に鞭を打って立ち上がる。
立ち上がった総一に気づき、超は内心の動揺と戸惑いを振り払う。そして、向き直った彼に向けて再度手をかざすように突き出した。
「……6000万
「
超の手から東洋の龍を模した雷撃が走る。対して総一は、仮契約ガードを取り出し、『天界の神弓』を双剣の状態で手に取る。双剣は武装色の覇気が伝い、握った部分から広がるようにして黒く染まった。
総一は超が雷撃を発する前から瞬時に身を構え、龍の雷撃が目の前に迫ると、瞬時に剣を振り上げた。
「
強固な武装色の覇気を纏った斬撃が雷撃を2つに斬り裂いた。龍は頭部から左右に裂けて、総一から逃げるように広がっていく。
「ニヒヒ、雷を“斬る”カ……」
あまりの芸当に、超の口からも感嘆と呆れの混じった笑いが漏れた。
しかし、その笑いも長くは続かない。
「だが、無駄ネ」
途端、2つに枝分かれした雷撃は龍の形を崩し、水玉が弾けるのように周りに飛散した。飛び散った雷は津波のごとく総一に降り注いだ。
「グァァァーーッッ!」
『武装色の覇気』の鎧を打ち破り、稲妻が総一を襲う。身体中を駆け巡る電熱の痛みと痺れに、総一はただ悲鳴をあげるしかできなかった。
雷が散って、総一はバタリと倒れた。
「その程度の技で防げる雷はせいぜい数百万
「……この野郎ォ」
うつ伏せに倒れた総一は静かに口調を荒げ、顔をあげて超を睨む。
腕を突き立て、なんとか立ち上がろうとするが、体に力が入らず、ドサリと倒れ込んだ。
「無理はするナ。いくら
荒れた呼吸を繰り返し、身を立て直そうと抗っている内に、総一は超がすぐそばまで近づいているのに気がついた。
超は総一を見下ろしながら時間跳躍の弾丸を取り出す。
「大人しく跳ばされるといいネ」
「お断りだ、バァーカッ!」
超が弾丸を発射するが、総一は今出せる力のすべてを込めて地面を殴り、無理矢理その場から退いた。なんとか弾丸の跳躍範囲から外れることはできたが、当然着地などできるはずもなく、転がった衝撃が全身の傷に響き伝わり、身体に尋常じゃない激痛が走った。
「グッッッ!」
「よせ。それ以上無茶したら、ホントに死んでしまうネ」
(うッせぇーな……!)
痛みに悶え、総一はもはや声すら出すことができなかった。その死ぬまで抗おうとしている彼の姿に、敵ながら超は同情と胸を締め上げるような苦痛を感じた。
いまにも飛びそうな意識をつなぎ止め、痛みに耐え、総一は『天界の神弓』を握りしめた。
やがて、総一はまた立ち上がり、超と向き合った。
「覚悟はできてる」
「……そうカ」
二人が静かに向かい合う中、超は自身の手に光を帯びらせる。彼女の手には今までにないほどの高密度なプラズマがバチバチと発生していた。
そして超は、その光る手を総一に向ける。
「だが、ヒトでは雷には勝てないネ」
彼女のその無感情な言葉が、総一が最後に耳にした言葉だった。
「
超の手から放たれた洪水のような雷撃が一気に総一を飲み込んだ。
TO BE CONTINUED ...
短編と一緒に書いてたら遅くなりました。すみませぬ。
(次は短編を仕上げてから書こう!)
技の性質や持続性、範囲、出すまでの時間、使用者など、いろんなことを考慮すると違ってくると思うけど、単純に威力だけで考えるとーー
・雷の暴風×5 =
・雷の斧×10 =
・千の雷×50 =
ーーくらいかなと、(勝手に)思ってます。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
-
ネギ・スプリングフィールド
-
神楽坂 明日菜
-
雪広 あやか
-
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
-
超 鈴音