もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
「えぇー、転校生を紹介します」
朝の
横にはベルのついた髪留めでツインテールに髪を結んだ女の子が一人。
「海外から来た神楽坂明日菜ちゃんです。みんな仲良くしてあげてね」
担任の言う事に周りの生徒は元気よく「はーい!」と返事をした。
しかし、そんな生徒達の中、転校生を見て快く思わない生徒が一人いた。
「ちょっと、あなた。転校生のくせにその目つきと態度。少々生意気じゃありませんこと?」
「………ぃ」
その生徒――雪広あやかの言葉に、転校生――神楽坂明日菜はボソッと小声で何か呟いた。あやかはその言葉を聞くために「なに?」と明日菜に近寄り、耳を澄ませる。
「……ガキ!!」
「なっ!!」
明日菜の言葉にあやかはブチ切れた。
「何をいいますの!? あなたこそチビのくせに」
「そこがガキだって言ってんでしょ!!」
二人は胸倉をつかみ合い、互いに「バカ」だの「アホ」だのと言葉を浴びせ合う。
「……どっちもどっちだろ」
「ちょっと、加賀美さん! 今なんと言いました?」
二人の騒いでるのを見て、教室の隅にいた男子生徒――加賀美総一がボソリと呟いた。その言葉は決して大きい声で発せられたものではなかったが、耳の良いあやかには聞き取ることができた。
「なっ! 今の聞こえたのかよ。地獄耳か?」
「やかましいですわ。あなたこそ、この人と似たりよったりの目つきのくせに!」
「こんなさえないヤツと一緒にするな!」
「さえないは、余計だ! この鉄仮面が!!」
「何よ、このクソガキ!」
そこからは三人で揉み合いの喧嘩となり、後に三人は先生からありがたい説教を受けた。
☆☆☆
「あのガキィ!!」
昔の思い出を夢に見て、雪広あやかは目を覚ました。辺りを見ると、いつもの女子寮ではなく、実家の部屋が目に入り、彼女は休暇で自分の家に帰って来たのを思い出した。
「うぅ、イヤな夢を見ましたわ」
そうぼやきながら彼女は起床し、仕えてるメイドや執事へ優雅に朝の挨拶をして回った。大部屋にあるテーブルに着き、執事が出してくれた紅茶を口にするも、彼女の気分は晴れなかった。
(全く、春休みで実家に帰って来たというのに……ん?)
ふと、あやかはある事を思い出した。
「……そういえば、後数日ですわね」
周りの誰にも聴こえない声で呟きながら、あやかは手に持った紅茶が入ったカップを置いた。
“あの事件”からもうすぐで七年。つまり、自分が“能力者”となって七年になる。
彼女は俯き、気を落ち着かせる。
脳裏にあるのは、一つの“大切な思い出”。それを思い出す度に彼女は“ある言葉”を思い出す。
同い年の少年が言った、“あの言葉”。
「はぁ……気が晴れませんわね」
あやかはまた紅茶を一口飲む。
ため息をつきながら、彼女は過去の記憶に落胆するが、その後、執事から家庭訪問の報告を聞き、彼女の陰鬱な空気はどこかへ吹き飛んで行った。
☆☆☆
「「いやっほーー!!」」
「はぁ。まったく、もう……」
「ははは」
個人プールなのを良い事に少女二人は勢い良く水面に飛び込んだ。そんな二人を見て、あやかは呆れ、少年は苦笑いをする。
「いいんちょーー、ネギくーーん!! 競争せぇへーーん?」
「イヤですわ。アスナさん、河童みたいに速いですもの」
そう言って、あやかは断るが、それは言い訳であった。本当はただ自分が“泳げない体”であるのを隠したかっただけなのである。
「全くガキなんですから」
あやかは額に手を当て、「やれやれ……」と目を伏せた。
「二人とも元気ですね」
「えぇ、木乃香さんは兎も角、アスナさんは昔はもっと大人しかったですけれど……」
プールサイドに置かれたデッキチェアに腰かけ、あやかとネギは遊んでいる明日菜と木乃香を見た。
「へぇ~。加賀美さんもそうですけど、御二人は仲良いですよね」
「なっ! 違いますわ!! アスナさんも加賀美さんも敵ですわ、敵!」
ネギの言う事をあやかは躍起になって否定する。
「初等部にいた時から、三人で何かと喧嘩して、特にアスナさんとは趣味が全く合いませんし、七年間、ずーーっと喧嘩してきた犬猿の仲です。あまりに喧嘩が絶えないせいで周りから『あの三人は“犬猿雉の仲”だ』なんて言われて――」
「へぇ~……。ん?」
あやかの言葉を聞きながら、ネギはプールサイドから窓の外を見た。すると、そこから一つの部屋が見えた。室内にはたくさんのおもちゃやぬいぐるみが見える。
「あの部屋は何ですか?」
「……あぁ、アレは空き室ですわ」
「え、でも――」
「それよりネギ先生、クッキーはいかがですか? 私の手作りですの」
ネギが部屋について訊ねるが、あやかはその言葉を遮り、メイドの持ってきたクッキーをネギに差し出した。ネギは「あ、ありがとうございます」と半ば動揺しながら、クッキーに手を付けた。
「あ、これ、凄く美味しいです」
「ふふっ、そうですか。良かったですわ。紅茶もまだありますので、どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
美味しそうにクッキーを食べるネギを見て、あやかは優しい笑みを浮かる。それに気づいたネギは、自分ばかり食べている事に気づき、恥ずかしさから顔を染めた。
「すみません、僕だけいただいちゃって……」
「……ネギ先生」
「はい、何ですか?」
あやかがネギの名を愛おしそうに呼び、ネギが返答すると、あやかはネギに頭に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「ふふっ、ネギ先生。私がお姉さんの代わりになってあげましょうか?」
「うっ、んっっ!!」
顔を抱きしめられたことにより、ネギの鼻と口が塞がり、ネギは呼吸が出来なくなった。
「何やってんのよ! このショタコン女!!」
だがやがて、明日菜の飛び蹴りによって、ネギは窒息を免れた。
しかし、自分の邪魔をされたことに苛立ちを覚え、あやかは「また、やりましたわね」と、明日菜に殴りかかる。明日菜も大人しく殴られるわけもなく、二人はポカポカと殴り合いを始めた。
「もう、絶交ですわ!! アスナさん、今すぐこの敷地から出てって下さい」
「えぇ、言われなくてもそうするわよ!!」
あやかに言われ、明日菜は帰ろうと足を進めた。
ネギは不安な表情を浮かべ、明日菜を止めようとするが、それは「大丈夫、いつもの事やし」と木乃香によって止められた。
「……いいんちょ」
明日菜は足を止め、あやかを呼んだ。
「さっきはショタコン女って言って……ゴメン」
明日菜はそう言い残し、ネギを残して木乃香と共に帰って行った。
その後、あやかはネギから今日は弟の誕生日であることを聞いた。
ネギがその事を知っていることに、あやかは目を丸くしたが、ネギから「アスナさんから聞いたことなんですよ」と、明日菜が今日あやかを元気づける為に来たことを聞き、思わず涙した。
「まったく。あの人は……」
口にする言葉とは違い、あやかの表情はとても優しい顔をしていた。
☆☆☆
「――という事がありまして」
ベットの上に座り、携帯電話に向かって、あやかは今日あった出来事を通話相手に嬉しそうに話した。
《へぇ、良かったじゃん》
「えぇ、本当に今日は楽しかったですわ」
電話の向こうの相手――加賀美総一は素っ気無い返事を返すが、あやかは気にしなかった。それだけ今日のことは彼女にとって喜ばしいことだったのである。
《んで、それを話す為だけに電話したのか?》
「えぇ、そうですよ」
《おい》
あやかの返事に、総一は呆れ気味に言う。
《ったく、それで気は済んだか?》
「………」
《ん、どうした?》
「………」
急に無口になったあやかに、総一は疑問を持つ。
当のあやかは先程のニコニコした顔と変わって、無表情で虚空を見つめていた。
総一も電話からあやかの雰囲気の変化を感じとっていた。
「……あなたも」
《ん?》
やっと聴こえてきたあやかの声に、総一は首をかしげる。
「あなたもてっきり元気がないと思っていましたわ」
《はぁ、なんで?》
「………」
《……なに?》
「“あの事件”からもう七年になりますね」
《………》
あやかの言葉に、今度は総一が口を閉ざした。
「私は、別にもう何とも思ってないですが、あなたはどうなんですか?」
《……なにが?》
「あなたは、前に私に訊きましたわよね? 『後悔してないか?』って」
《あぁ、訊いたな》
「あなたは、どう思っているのですか?私がこの“能力”を身につけたのは、間違いだと思っていますか?」
《………》
「………」
《………》
「………」
しばらく沈黙が続き、やがて総一が口を開いた。
《……さぁな》
そう言って、総一は続けた。
《お前が“あの時”とった行動が正しいか間違ってるかなんて俺には分からない》
「………」
《けど、俺は“あの時”自分が最善だと思った行動をしたし、お前もそうだったんだろ?》
「……えぇ」
《だったら、 『過去にあぁしておけば良かった』なんて考えるだけ、ナンセンスだろ。まだ、良い結果も悪い結果も出てねぇんだから》
「……えぇ、そうですわね」
それを聞いて、あやかは思わず微笑んだ。
そして、眼を閉じる。
思い出すのは、七年前。
――弟を亡くし、数日が経った日のことである。
TO BE CONTINUED ...
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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雪広 あやか
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