もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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77. 新世界

 

 

 

 

 

 ――――1週間後。

 

 

 

 

 

 

「あれぇ、おかしいなぁ……?」

 

 とある学園の広場の前で、ネギは困惑していた。

 超への作戦会議を済ませ、エヴァンジェリンの別荘から出た彼は明日菜たちと別れて、自身の生徒である村上夏美が所属する演劇部の劇を見に来ていた。しかし約束の場所に来たは良いものの、どこにもそれらしいステージはなく、ただの広いスペースがあるだけだった。

 

「兄貴……なにか変だぜコリャ!」

 

 肩に乗っていたカモも現状と周りの違和感を感じとり、表情を曇らせる。

 周囲に目を向けてみるが、仮装や着ぐるみで歩く人々もおらず、空に浮かんでいた飛行船やバルーンも無くなっていた。騒がしいくらい賑やかだったお客の声もまったく聴こえない。

 いつも通りの麻帆良学園の日常が、そこに広がっていた。

 

「これは、確かに、おかしい、ね……。カモ君、いまから別荘に戻って皆に連絡ッ!」

 

 ネギは今のおかしいな状況を整理、対応するべく駆け出したが、目の前に立っていた人に気づかず、そのままぶつかり倒れ込んだ。

 

「あっ、すみませ、って夏美さん!」

「あたたた……!」

 

 謝ろうとネギは顔をあげる。だがなんと、そのぶつかった人物は自身のクラスメイトである村上夏美であった。

 ネギが声を掛けると夏美も目の前の人がネギであると気づき、そして同時に「あぁー!」と声をあげた。

 

「ネギ君、今までどこ行ってたのっ!」

「えっ、あの、今までって?」

「とにかく、教室いこ。みんな心配してるよ!」

 

 夏美は「ほら早く!」とネギの手を取って教室まで向かう。彼女に連れられながら、ネギは公演のことについてなど色々訊こうと「あの!」と声をかけるが、夏美はそのまま口を開いた。

 

「それにしてもビックリだよねぇ。ネギ君がまさか『魔法使い』だったなんてね!」

「えっ……?」

 

 夏美の口から出たまさかの言葉に、ネギは絶句した。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 その後、夏美に連れられ、ネギは3年A組の教室にやってきた。本来ならお化け屋敷の装飾が施されているはずだが、そこにあったのは綺麗に並べられた机や教卓だけだった。

 

「ネギ君、久しぶりぃー!」

「どこ行ってたの?」

「心配したよぉー!」

 

 まき絵や明石、桜子、鳴滝姉妹がネギの姿を見つけるやいなや飛びかかるように寄ってくる。A組の皆も、いつも通りの中等部の制服だ。

 

「ねぇ、ネギ君の魔法見せて欲しいなぉ!」

「あっ、まき絵ずるい!」

「ボクも見たい見たい!」

 

 そして彼女たちは、まるで『魔法』が実在してネギが『魔法使い』であることを知って(しかも確信して)いるような口ぶりで、ネギに魔法を使ってみせるように駆り立てた。

 

(やっぱりクラスの皆に魔法がバレてる……どうしてぇ!)

 

 学園の様子がおかしいこと、皆が魔法を知っていること、自分が魔法使いとバレていることなど、次々とまのあたりにする“異変”に、ネギの頭が混乱する。だが、そんなことを知ることもなくA組の面々は、ワイワイガヤガヤとネギに騒ぎ寄った。

 あまりの騒ぎように、中心にいるネギがもみくちゃになる。

 皆が「私が先!」「ずるいずるい」などと言ってネギのそばで騒ぐ中、とある生徒がネギの手を掴んだ。

 

「ネギ君、こっち!」

「あっ、亜子さん?」

 

 ネギに手をさしのべたのは、和泉亜子だった。亜子はネギの手をとると、そのまま誰にも気がつかれることなく廊下に出た。

 授業時間とあって廊下周辺は静かで、ネギと亜子以外の人影はなかった。

 

「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます……あの、一体何がどうなってるんですか?」

 

 亜子に助けられ、ネギは礼を言う。そしてすぐに今の“異変”について知っていると思われる彼女に、現状について訊ねた。幸い、亜子は『魔法』などについて、すでに知っている生徒であるため、彼は素直に訊くことができた。

 しかし、訊きたいことがあるのは亜子も同じだった。

 

「ネギ君こそ、いままでどうしてたん? ここ一週間ずっと行方不明やったやん!」

「一週っ……あ、あのいま何日ですか?」

「何日て、6月30日やけど……?」

「てことは、学園祭から一週間っ……ホントに?」

 

 突きつけられた現実に、ネギは愕然とした。

 

「この一週間に、一体なにが?」

「ウチも詳しいことは分からん。けど、学園祭の最終日に超りんがなんかしたんやと思う」

「超さんが……!」

「あの日を境に、周りで『魔法』と『悪魔の実』の話題が出始めたんや。それが徐々に大きくなって、今ではA組だけじゃなくて学園の皆が『魔法』や『悪魔の実』が本当にあるって信じきっとる」

「そんな、どうして……?」

 

 ネギは切羽詰まった表情で亜子に訊ねるが、彼女は「わからん」と首を横に振った。

 

「ウチもこの事についていろいろ話を聞きたかったんや。けど、委員長もよく分かってへんみたいやし、加賀美君はネギ君たちと一緒で連絡とれへんし……」

 

 亜子の言葉を聞き、ここでネギにふと疑問が過る。

 先ほど教室に入ったとき、明日菜や刹那などの面々はさておき、委員長である雪広あやかの姿も無かった。

 

「……そういえば、委員長さんは?」

「委員長は、今も独自で色々動いとるみたい。ウチは()()()に状況が分かるまで下手に動かんよー言われて、能力者であることは隠して周りの皆と話を合わせてる」

 

 それを聞いて、ネギは口を閉ざし、顔をうつむかせた。その顔はひどく青ざめており、明らかに不安になっていると解る表情だ。目の前にいる亜子も、ただ事ではない何かが起こったのだと、うすうす感じ取った。

 やがてネギは、その思い詰めた顔をしたまま走り出す。

 

「と、とりあえず僕、明日菜さんや委員長さん達と連絡を取ってきます!」

「あっ、ちょ、ネギ君!」

 

 亜子の言葉をかける暇も与えず、ネギは「亜子さんはそのままA組の皆さんと一緒にいてくださーい!」と叫びながら、あっという間に走り去っていった。

 中等部を出て、ネギはエヴァンジェリンの家へ向けて全力疾走した。

 

(知らないうちに一週間たってるなんて、一体どうして……魔法のこともバレてるし……それも学園中、いや世界中に? ……超さんは一体なにを?)

 

 答えの出ない問いを頭の中でグルグルと繰り返しながら、ネギは走る。

 

「ネギ先生!」

 

 やがて人通りのない街路地で一人の男がネギに声をかけた。

 

「ガ、ガンドルフィーニ先生!」

 

 ネギは反射的に足を止め、声をかけてきた男の名を呼んだ。

 ガンドルフィーニはネギが立ち止まると同時にその場に足を止める。その眉間にしわを寄せている顔からは、あまり良い雰囲気は感じられない。

 

「捜したよ! 一体いままで何処にいたんだ、君は!」

「そ、それは……!」

 

 案の定、彼の口から出てきたのは叱りつけるような言葉だった。ネギが返答に困っていると、彼はまくし立てるように、また口を開いた。

 

「まったく……この一週間、我々がどれほど苦労したのか分かっているのか。君にすべての責任があるとは言わないが、あの時、超鈴音を君に任したのは間違いだった。君には責任の一端が課され、オコジョになってもらうことになるだろう!」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ガンドルフィーニによってネギが半強制的に連れられていた頃、明日菜たち面々は、それぞれ学園の違和感を感じとり、再びエヴァンジェリンの家に集まっていた。

 

「げっ、なんじゃこりゃ?」

 

 ネギ以外の全員が集まり、彼女たちが別荘がある部屋へ行くと、そこにあるダイオラマ魔法球には一枚の紙が貼られていた。

 その紙に書かれた『私の勝ちネ』という一文に、早乙女ハルナが声をあげる。

 

「超さんの書き置きですね……」

「あっ、私コレ知ってる。魔法使いの手紙よ」

 

 紙の使い方を知っている明日菜が手を触れると、紙から魔力が溢れ、超鈴音の立体映像が現れた。

 

『やぁ、元気カナ? ネギ先生とお仲間たち!』

 

 いまだ科学にはない立体映像技術に、ハルナが「すげっコレ!」と興奮気味に驚くが、明日菜に「しっ!」と咎められるとすぐに声を小さくした。

 

『いささか納得のいかなぬ敗北だろうが、君たちの敗けネ、だが最も良い戦略とは戦わずして勝つこと、悪く思わないで欲しいネ』

 

 立体映像の超は『ニヒヒ』と笑いながら、ネギの航時機(タイムマシン)に細工をして明日菜たちを罠に嵌めたことを告げる。

 

『さて、見事私の罠にかかった君達は、いま、歴史改変後の未来にいるはずヨ』

「そ、そんな……」

 

 映像を見る面々が深刻なものを受け止める表情をしているのとは対称的に、手のひらサイズの超は愉快そうに笑っていた。

 

『ようこそ諸君、我が "新世界" へ』

 

 そして彼女は自身が行った学園祭最終日の計画について話し始めた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「超さんは一体、何をしたんですか……?」

「……我々魔法使いは完敗したよ。たった一人の少女にね」

 

 薄暗い独房の中、ネギは取り調べを受ける容疑者のように小さくなりながらガンドルフィーニの話を聞いた。ガンドルフィーニだけじゃなく、自己報告後に一緒に入ってきた瀬流彦やタカミチも重い表情をしていた。

 ガンドルフィーニはネギに学園祭最終日に起きた出来事……つまり、超が世界樹の魔力を使った強制認識魔法によって、世界中に『魔法使い』の存在と『悪魔の実』の存在をバラしたことを告げた。

 

「彼女によって、今では学園の全員が『魔法』を実在するものと受け止めている。半年が経つ頃には、世界全ての人間が『魔法』を自明のものとして認識することとなる……」

「そんな……!」

 

 ネギが茫然自失とした様子で言葉を洩らす。ガンドルフィーニは冷や汗でずれた自身のメガネをクッと押し上げた。

 

「『魔法』だけじゃない、『悪魔の実』についてもそうだ……報告書にあったが、ネギ先生、君は以前から『悪魔の実』の存在について知っていたそうだね?」

 

 ネギはゆっくりと頷いた。彼の反応を見てガンドルフィーニは「そうか」とため息まじりに呟いた。

 

「『悪魔の実』など、空想の産物だと思っていたが……」

 

 ガンドルフィーニはうつむいて、ぼそりと独り言をもらし、再度顔を上げた。

 

「我々魔法使いに強制認識魔法の効果はない。だが一般人に『悪魔の実』の存在が認識され、イヤでもその実在を確認せざるを得なくなった。そしてその結果、我々も『悪魔の実』の存在を認めないわけにはいかなくなった……“証拠”も出たからね……」

 

 ガンドルフィーニは小さく付け加えるように言った。ネギにはその時の彼の眼が一瞬細くなったように見えた。

 

「おかげで学園の魔法使いの中には“バスターコール”や“エンドポイント”といった噂の存在すら疑うものも出てきている。以前までなら気にも留めない話だったけど、『悪魔の実』が実在すると分かった今、それを確かに否定することができなくなったんだ……」

 

 瀬流彦は心底困ったような顔で学園の現状を述べた。

 無いと思われていたモノが有ると分かると、実は他の無いと言われるモノも有るのではないかと考えるのは、当然の流れだ。

 無いことを証明するのは難しい。故に一度そう考えた人間がその疑いを晴らすことは容易なことではない。

 そしてそういう曖昧な雰囲気が続くと魔法など使わなくとも人は『もしかして有るのかも……』と思ってしまうものである。事実、先ほど見たネギの報告書にあった時間跳躍技術のことさえ、ガンドルフィーニや瀬流彦は信じかけた。

 

「本国の政府も大慌てだ。学園長も軍の()()に呼ばれて本国に向かった。すぐに軍の方から()()らが来て、本格的な対策が打たれることになるだろうが、もうなにをしても手遅れだろう……我々魔法使いは強制送還され、今回の責任を負わされる。無論、君も例外ではない」

「ちょ、ちょっと待ってください! 僕は超さんからもらった航時機(タイムマシン)を持ってます。それを使えば、過去に行って歴史を元に戻すことができるはずです! そ、それに僕、まだ先生の仕事が!」

「では、その航時機(タイムマシン)とやらは今どこに?」

「それは、えっとカモ君が……!」

 

 航時機(タイムマシン)はガンドルフィーニに連行される際、カモが持ち去って逃げていった。よって今ネギは所持しておらず提示できない。

 そのカモも今どこにいるのか分からず、ネギはぐずぐずとした様子で言葉を濁した。そして彼の曖昧とした態度に、ガンドルフィーニはため息を溢して見切りをつけた。

 

「諦めたまえ。君の修業はこれで終わりだ。君の生徒たちとはもう二度と会えない」

 

 ネギの言葉を遮り、ガンドルフィーニは瀬流彦と一緒に身をひるがえし、独房を出ていった。

 

 

 

 

 ガンドルフィーニと瀬流彦が出ていき、独房にはネギとタカミチだけとなった。

 

「……タカミチ」

 

 タカミチはタバコに火を付けて、ネギに座るように促した。いつ自分が立ち上がったのか分からなかったが、ネギは倒れた椅子を直し、座ってタカミチと向かい合う。

 

「タカミチがいたのに、超さんの作戦を止められなかったの?」

「うん、僕も含めて学園の魔法使い全員が訳もわからないままやられてしまった。唯一、彼女に対抗できたのは加賀美君だけだ」

「加賀美さんが?」

 

 タバコを一息吸い、タカミチは机におかれた灰皿にトンと灰を落とした。

 

「彼も僕と同様、事前に超君の計画を聞いていたみたいでね、いくつもの対策を取って、彼は彼女の計画を阻止しようとした。そしてあの超君が焦るほどまでに、加賀美君は彼女を追い詰めた。だが、最後の最後で彼女の持つ“力”に敗けてしまった……」

「……超さんの“力”?」

 

 タカミチの言葉に心当たりがあり、ネギは『航時機(タイムマシン)』を連想した。

 

「……ゴロゴロの実、それが超君の能力だ」

「えっ!」

 

 聞き覚えのある語感に、ネギの開いた眼が少し大きくなった。

 

「ゴロゴロの……てことは、超さんは『悪魔の実』の……!」

「あぁ」

 

 タカミチは頷き、淡々とした様子のままタバコを吸った。そして再度灰を落とし、ゆっくりと口を開く。

 

「普通の悪魔の実……まぁ悪魔の実自体、普通のものじゃないからこういう言い方は変かもしれないけど……とにかく、僕がいままで見てきたような悪魔の実の能力であれば、まだ対処のしようがあったんだ。加賀美君もね。けど、彼女の能力は自然(ロギア)系最強といってもいい。なにせ呪文の詠唱なしで、上級クラスの雷魔法を使えるようなものだ……」

 

 自然(ロギア)系の悪魔の実は、自身の生徒である雪広あやかと同じ系統の悪魔の実だ。そして、前に悪魔の実について総一から聞いていたこともあって、ネギは超の能力の強さをすぐに理解した。

 

「……そんな強力な能力(ちから)を超さんが持ってて、タカミチたちは大丈夫だったの?」

 

 ネギの問いにタカミチはしばし言葉を発するのを止めた。口元をタバコを持った手で隠しながら、いつもの通りの穏やか表情をしているが、ネギには彼がなにか気持ちを圧し殺しているように感じた。

 

「僕は大丈夫だったけど……加賀美君は重傷だ。幸い命は取りとめたけど、今も治療中だ」

「そんな!」

 

 学園祭最終日からしばらく経った今でも治療しなければならない怪我とは一体どれほどの怪我なのだろうかと、ネギは総一の身を案じ、そして同時に、自分のクラスの生徒が誰かを傷つけていたことに強いショックを受けた。

 

「だが、あれだけの戦力を持ってして一人しか怪我人を出していないというのが、彼女の恐ろしい所だ。やろうと思えば彼女は一国を落とすことさえ可能だったからね……」

 

 タカミチはうっすら笑みを浮かべるが、決して冗談を言っているわけではない。正真正銘の事実として、最終日の当時、超は大国に匹敵する戦力を持っていた。

 

「雷の能力だけでも充分強力だが、彼女の戦力はコレだけじゃない。龍宮君や茶々丸君たちに、軍隊クラスのロボット兵、先生達を無力化する特殊な銃弾……彼女の手数は多い。十分対策を練ることだ」

 

 学園祭最終日に起きたことの説明を受けて様々な感情が巡るなかで、懸命に事を聞いていたネギだが、ここでタカミチが奇妙な話し方をしているのが引っ掛かった。

 彼の話し方はまるで、これから先に超鈴音へ挑む誰かにアドバイスしているようであった。

 

「それと、超君が使う技についてだけど」

「ちょっと待って、タカミチ!」

 

 本格的にアドバイスを話し始め、内心の引っ掛かりが確信に変わったネギは、すぐにタカミチの言葉を遮った。

 

「どうしてそんな、もう何をやっても手遅れなのに、今さら!」

「本当なんだろ?」

「えっ!」

航時機(タイムマシン)のことさ」

 

 呆気に取られたような反応をするネギに、タカミチはさも当然というかのように応えた。

 

「戻るんだろうネギ君。学園祭最終日に超君の計画を止めるために」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 一方、その頃。

 学園の魔法使い達が拠点にしている教会、そのすぐ近くにある修道院。

 その内部にある廊下を長身の男がひとり歩く。

 錨マークの入った黒いコートを着たその男は、カツコツと音を鳴らしながら歩みを進めて行くと、やがて一つの部屋の前で立ち止まる。

 そして扉をコンコンと軽くノックした。

 

「……どうぞ」

 

 中からの女性の返事を聞き、クザンは中に入った。

 部屋の内部は洋風を感じられること以外はコレと言って特徴のない質素な作りになっている。広さは四畳半より少し広い程度で、中にある家具もベットと机のみである。

 

「どーよ、総一の様子は?」

「変わりありません。2日前に意識を取り戻して以来、ずっと眠り続けてます」

「そうかい……」

 

 クザンの問いに、ベットのそばにある椅子に座っていたシスターシャークティが応えた。彼女の目は入ってきたクザンの方へ向くことなく、ただ真っ直ぐにベットで眠る少年へ向けられていた。

 手や足、顔を含めて、少年の身体中には包帯が何重にも巻かれている。もはや一見して誰か分からないほどだ。

 そんな少年、総一の身体に巻かれた包帯の内側には、痛々しい火傷の跡が広がっている。先日包帯を取り替えた際に、シャークティはその傷を目にしたが、それを見て思わず眼を背けてしまったほどだ。

 本来なら痛みで叫び声を上げてもおかしくない重傷なのだが、動物(ゾオン)系のタフさのおかげか、彼は静かに寝息をたて、少しずつではあるが身体は回復に向かっていた。

 

「アンタもちっとは休んだら、どうだ? 総一が寝込んでからずっとその調子じゃないの」

「休む気になれないんです。眼を放したら、彼が遠くにいってしまいそうなので……」

 

 クザンは「はぁあ……」と大きなため息を吐きながら、頭を掻いた。

 

「心配しなくても死にゃしねェよ。峠は越えたし腐っても幻獣種だ」

「そうかもしれません。けど、彼が起きて、また笑ってくれるまでは、そばにいようと思います」

「……健気だねェ」

「“パートナー”ですから」

 

 シャークティは当然と言うように返事をするが、やがて、彼女の表情には段々と不安と迷いの色がさしていった。

 

「“パートナー”、であるはずなのに……『なにかあれば言いなさい』と、いつも言っているのに……いつも終わってから知らされるんです……」

「……まァ、なんだ、男ってゆーのはそういうモンよォ」

 

 心の内から滲み出たようにゆっくりと、シャークティは言葉を洩らす。

 今にも泣きそうな顔をしている彼女に半ば同情しながらも、クザンは背を向けて突き放した。これから更に彼女の気が重くなる話をしなければならないと思う本当に参る、と彼は密かに思った。

 

「……あー、ここに来た要件だが、今後についてと今しがた起こった事について、アンタに教えとこうと思ってな……。万が一、総一が起きることがあれば、アンタから伝えといてくれ」

 

 シャークティの反応を見ることなく、クザンは低い声で淡々と口を開いた。

 

「昨日、政府から大将が派遣された。今こっちに向かってる。表向きは事態の対策だが、本当の狙いは能力者の確保だろう。こっちで確認が取れている能力者たち……エヴァンジェリンと総一、あと雪広の嬢ちゃんは事情聴取と表して連行される」

「ッ! そんな!」

 

 ここで、はじめてシャークティは顔を上げた。

 

「『悪魔の実』の存在は、政府の最重要秘匿事項だ。それがバレかけてる今、麻帆良学園(こんなところ)に能力者を置いとくわけにいかねぇってことだろうよ。くわえてその内の一人が元6億の賞金首かもしれないとなりゃ、大将も飛んでくる」

 

 シャークティの動揺した顔を見ることなく、クザンは話を続けた。

 ちなみに和泉亜子については、能力者として日が浅い事と学園長とクザンが“上”に報告してなかったおかげで、特に話に上がっていない。

 もし和泉亜子のことが政府に伝われば、彼らのクビが飛ぶ可能性もあるのだが、何か策でもあるのかクザンは彼女の事については何も言わなかった。

 

「連行されて、彼らはどうなるんですか?」

「さぁな。アンタらと同じくオコジョにされるなんてことはないだろうが、上の考え次第だな……」

 

 シャークティはうつむき、またいっそう表情を暗くした。彼女にとっては自分がオコジョになる事よりも、目の前で傷つき寝ている総一が今後どうなるのかの方が心配だった。

 

「……次に、今しがた起こった事についてだが、さっきネギの小僧とその生徒の嬢ちゃん達が見つかった」

 

 クザンは話を区切り、頭にのせていたサングラスをおろす。

 

「小僧はガンドルフィーニが連れていったそうだ。嬢ちゃん達の方はまだみてェだが、葛葉や神多羅木たちが向かったから、もうじき嬢ちゃん達の方もやってくるだろ」

 

 嬢ちゃん達が抵抗しなければ、とクザンは心の中で付け加えた。

 

「つってもまァ、こっちはアンタにゃ関係ねェか……そんじゃ、伝えることは伝えたからな」

 

 そう言って「じゃーな」と手を振り、クザンは部屋から出ていった。彼が扉を閉め、ガチャンという音を最後に、部屋の中は静寂に包まれた。

 シャークティは顔をうつむかせ虚空を見つめる。彼女の心には暗雲ようなモヤモヤがつのっていく。

 そのイヤな感覚にしばらく気を取られていたせいで、彼女はベットに寝ている少年の手が微かに動いたことに気づけなかった。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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