「信じてくれるの!」
タカミチは咥えていた煙草の灰を灰皿へ落とし、「あぁ」と頷く。
「じゃあ!」
「けど僕の立場上、君たちを助けてあげることはできない。きみを含め、僕もオコジョになるのがすでに決まっているからね」
「……そっか」
なにかを期待したようなネギの言葉を遮り、タカミチはネギに向けていた眼をそらす。彼の助けを得られないことに落胆し、ネギの表情が少し暗くなった。しかし同時に、直接的ではなくともタカミチが助言をしてくれると確信したネギは、また彼の方に眼をやった。
タカミチは吸い終わった煙草を潰して火を消した。
「……ネギ君、もし過去に戻ったら加賀美君と話をしてみることだ」
「えっ! 加賀美さん、と……?」
言葉の真意を読み取れず、ネギは思わず疑問の声を洩らした。
「超君は相手の動揺を誘ってスキを突くのに長けている。もし自分の心に迷いを持ったまま彼女に挑めば、命取りになる」
「……うん」
跳ばされる前日、ネギは彼女の実力の一端を見ている。それを思い出しながら、ネギは納得したように頷いた。
「僕も彼女の言葉を聞いて、一瞬ためらってしまった。加賀美君がいなければ、おそらく僕は、彼女にやられていた」
「ためらった、って……どうして?」
「もちろん、今回超君の行動は容認できるものじゃない。だけど……」
ネギの問いに、タカミチは返す言葉を探すように一瞬、口を閉ざした。
「……彼女が変えた、この魔法がバレた世界では僕たちは存分に動くことができる。そして以前よりも、紛争や貧困で苦しむ人達を多く救える可能性がある……そう考えて、僕はためらってしまってね」
「そ、そんな……」
ネギは「じゃあ超さんは正しいの?」と動揺した様子で言葉を洩らした。
だが、タカミチは「いや、そうじゃない」と、それをハッキリと否定した。
「世界に魔法をバラすことは多くの人々を救える可能性がある。けど、それを実現するなら『悪魔の実』を広める必要はないはずなんだ」
「……どういう意味?」
「確かに悪魔の実をバラすことにも、魔法と同様それ相応の利点はある。けど悪魔の実は魔法に比べて、利点よりも世の中に与える悪影響の方が大きいんだ」
「悪影響、って……?」
タカミチは新たな煙草を懐から取り出し、火をつける。
そして過去にあった『悪魔の実』に関する事件についてをネギに語った。
「500年ほど前、魔法世界では『最悪の世代』と呼ばれる賞金首たちがいたんだ」
初めて聞いた単語に、ネギは「最悪の世代……?」とこぼす。
「簡単に言えば……当時、数多くいた賞金首の中でも、億を超えた懸賞金がかけられた賞金首たちの総称さ」
正確に述べれば、『最悪の世代』がそう呼ばれるまでにはもう少し複雑な過程があったのだが、タカミチは簡略化してそう答えた。
「大半が能力者なこともあって、この『最悪の世代』の賞金首たちに当時の政府は手を焼いていた。“黄金帝”ギルド・テゾーロ、“海賊女帝”ボア・ハンコック、“赤髪”のシャンクス、“金獅子”のシキ、“百獣”のカイドウ、“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴ、“黒髪”エドワード・ソー。そして、“闇の福音”エヴァンジェリン」
「えっ、
「あぁ。けど『最悪の世代』の中でも、エヴァは比較的に穏健な方だったらしいよ。ひどい者は国を乗っ取るほどの悪行をやっていたらしいからね」
自身の生徒でもあり師匠でもあるエヴァが“最悪”と位置付けられていた事にショックを感じたり、それでも彼女が穏健であると言われた事に少し安堵したりと、ネギは心中複雑な思いを抱きながら「……そうなんだ」と頷いた。
「この『最悪の世代』を中心に、あるとき、大きな事件が起こってね。『最悪の世代』の中の3人……“金獅子”のシキと“百獣”のカイドウ、“天夜叉”のドフラミンゴが手を組んで、魔法世界の各国で
そこで一度話を区切り、タカミチは煙草を咥え、大きく息をはいた。
話の結末が気になったネギは「それで、どうなったの?」とタカミチに訊ねる。
「魔法世界政府はお手上げ状態。当時の魔法世界の政治家や貴族、王族が困り果てていた中、それを同じ『最悪の世代』のエヴァと“黒髪”と“赤髪”、そして
当時、この一連の出来事は“オスティア・スタンピード事件”と呼ばれ、世間を騒がせたが、今この事件のことを知るものは当事者(エヴァのみ)と現政府の上層部くらいなものだ。
「けど政府側の人間が賞金首と組んだこともあって、この事件はおおやけにできず政府によって揉み消された。そして同時に、この事件を切っ掛けに政府は悪魔の実を秘匿事項として、その存在を世間から隠したんだ。悪魔の実の存在を知って、万が一また能力者狩りを行う者がでないようにね」
話を終え、タカミチはまた煙草を吸った。先ほど取り出したその煙草は、もうすでに半分くらいの長さになっていた。
☆☆☆
時間を少し戻し、ガンドルフィーニ等によってネギが独房で事情聴取を受けている頃。
エヴァンジェリンの別荘にいた明日菜達は、葛葉と神多羅木から逃げるために走っていた。二人の足止めとして刹那と楓とは別れてしまったが、魔法先生の中でも腕のたつ二人を足止めできるのは、あの二人か
合流したカモの指示のもと、ネット環境のある場所を目指していた7人(明日菜、木乃香、古、のどか、夕映、ハルナ、千雨)は、やがて林道にあった電話ボックスを見つけた。
「んで、ネットは見つかったが、どうすりゃいいんだよ?」
「麻帆良大の『世界樹こよなく愛する会』のホームページだ、それを調べてくれ!」
「はぁ? なんでそんな弱小サークルのホームページを?」
千雨は疑問を持ちながらも「いいから!」とカモに急かされ、検索を始めた。
「お待ちなさい!」
するとそこへ7人の前に大きな黒い影が現れた。その黒い影は十数人ほどの軍団のようだが、よく見ると人の気配があるのは中央にいる三人の少女だけだった。
「あッ! てかアンタ、ウルスラの脱げ女!」
「脱げッ!」
その三人の内の1人を見て、ハルナは指をさしながら声を上げた。
半ば破廉恥な言葉を返され、当の高音はショックを受けるが、「まぁ良いでしょう!」と頭に手をやりながら態度を切り替えた。
「あくまで抵抗するということでしたら、この正義の味方、高音・D・グットマンが成敗させて頂きます!」
敵意を見せた高音に、ハルナや千雨たちは身構えた。しかしそんな中、明日菜は向かい合う高音や佐倉愛衣、影達を見て、ふと思う。
(あれ? これって私、割とイケるかも……!)
結果、明日菜達が高音達を無力化するまで、そんなに時間はかからなかった。
魔法を無効化する明日菜に、ここ最近で飛躍的に力をつけてきた
「出ました、ネギ先生の居場所!」
「おぉ、本屋の前では隠し事はできないアルな!」
「まさに魔性の女!」
魔力でできていた衣服をも払い消し、無力化(裸)した三人を拘束した後、のどかは自身のアーティファクトで愛衣の心を読み出した。
「うぅ、任務失敗のうえ情報までぇ……」
「大丈夫、愛衣ちゃん! 私たちに任せといて、必ず歴史を元に戻してみせるから!」
「へっ?」
明日菜は落ち込む愛衣を励ますが、何も知らない彼女は当然ぽかんとするだけだった。
「むっ!」
愛衣から情報を(無理矢理)聞き出し、ネギがいる教会へ向かおうとした明日菜達。しかし、ここでふと古がピクリと何かを感じとったような反応を見せた。
「どうしたん、
「あーらら……」
木乃香が不思議そうな顔で古を見たとき、ふと何処からか低い男の声が聴こえた。その声の主は、林道の向こうからゆっくりと歩いて来ていた。
「騒がしい思って来てみれば、件の嬢ちゃん達じゃないの」
クザンは歩みを止め、その場にいる面々を見渡すように眼をやる。
「報告より何人か足りねぇな……察するに、葛葉と神多羅木のヤツを足止めするため別れたってトコか?」
「また新手が!」
先生や学生やしからぬ格好をしているが、彼の言葉から魔法先生(あるいはその関係者)だと考えた明日菜達は、それぞれ身構える。
「……なッ、アレはッ!」
「カモ?」
クザンと彼女達の間に静かな緊張感が漂う中で、カモがクザンの衣服にある小さなM字のようなマークを眼にし、上擦った声を上げた。
「あのマーク……間違いねぇ、アイツは“政府”の人間だ!」
「「えっ?」」
「なによ政府って?」
「国会議員?」
「ほぉー、随分と物知りなネズミがいるじゃないの」
カモの言った意味がイマイチ理解できず戸惑う彼女たちをよそに、クザンは感嘆とした声を洩らす。
カモは「ネズミじゃねぇ、オコジョだ!」とクザンを睨み付けるが、千雨に「おい、どういう意味だよ!」と問われ、焦った表情はそのままに、睨むのを止めた。
「魔法世界の各政府によって設立された治安維持組織、騎士団以上の精鋭が集められた魔法世界の軍隊だ。あの錨のマークは、その政府軍のシンボルだ」
「ヤバいの?」
「ヤバいなんてモンじゃねぇ。階級によっちゃタカミチより強ェかも……!」
「なァ!」
「マジアルかッ!」
明日菜に訊かれ、カモは早口気味に返す。その説明を聞いて周りの皆は、また自分達が危機的状況にあることを理解した。
「まぁ、なんだ……ソイツの言った通り、俺ぁ海軍……いやこの言い方はマイナーか……
後ろ頭を掻きながら、クザンはゆったりとした口調で言った。
「そっちの事情は知らねぇが、嬢ちゃん相手に手荒なことはしたくねぇ。とりあえず素直についてきて欲しいんだが……?」
クザンが戦闘の意思がない事を示し、自分についてくるように促す。
「明日菜、どうするアルか? この人、多分かなり強いアルヨ」
「やるしかないでしょ!」
覇気からクザンの強さを察した古は、忠告の意味を含めて訊ねるが、明日菜の態度は変わらなかった。
そんな彼女の様子を見て、クザンは「やれやれ」とまた頭を掻いた。
「元気のいい嬢ちゃん達だなぁ……」
気の抜けたような言い方をしていたが、その後、すぐにクザンは戦闘態勢に入った。
「そんじゃあ、しゃねぇーな……」
瞬間、明日菜達の周りに冷気が走り、辺りが氷に覆われる。6月の適度な風は消え失せ、周りを漂う空気は北極や南極から来たような極寒に激変した。
「なッ!」
「ちょ、なによコレぇーー!」
「これはッ!」
「足が凍ったァーーッ!」
「オイオイオイオイ冗談じゃねぇぞ!」
周りの環境の変わりように、明日菜達(上から古、明日菜、夕映、ハルナ、千雨)全員が悲鳴を上げる。しかも冷気は彼女たちの足をも巻き込み、地面を凍り付かせた。明日菜達の足は地面に根を張った植物のようにガッシリと固定されてしまっている。
「呪文も無しにこんなマネ……テメェ、さては悪魔の実の能力者だな!」
「まぁーな」
カモの問いに白い息を洩らしながら返答し、クザンは悠然と歩み寄ってきた。
「ぬぅ、ぜんぜん動けない……どうする明日菜!」
「こんなの!」
「やめときな、下手に触れば足首ごと割れて二度と立てなくなるぞ」
ハルナがなんとか動こうと膝を蹴り上げようとするが、彼女の足先はピクリともしなかった。続けて、明日菜は自身の大剣で脱出を試みようとするが、クザンの言葉に思わず手を止めた。
そうしている間にも、足に張り付いた氷結はジワジワと広がるように膝の方へ進行している。その氷の侵食が全身に広がり、やがて彼女たちを氷像に変えるのも、時間の問題だ。その速度からして5分と掛からないだろう。
「明日菜さん! この氷、あなたの
「やってみる!」
夕映に言われ、明日菜は大剣を振り上げた。
「とりゃーー!」
振り下ろした大剣はガツンと音をたて、地面に張った氷の一部を削っただけだった。それどころか、刺さった部分から氷が侵食し始め、大剣は地面と一体となり、彼女たちの足と同様に動かせなくなってしまった。
「そんな!」
「明日菜さんの
悪魔の実の能力は、魔力による発現ではない。ゆえに、明日菜の
「どうしよう……こんな所で捕まるわけにはいかないのに!」
その場にいる全員がどうにかして現状から脱却しようと案を考えたが、名案は浮かばず、彼女達はその場から一歩も動くことができなかった。
絶体絶命。
たった一人の男の手により、抵抗する時間すら与えられず、明日菜達は捕らえられてしまった。
「悪いなぁ、嬢ちゃんたち。これも仕事なんでねぇ」
クザンが彼女達の敗北を宣言するように、軽い詫びの言葉を吐いた。
その時だった……。
「雪
どこからか白い何かが放たれ、辺りに被弾した。
「……あーらら。ちょっと、邪魔しないでちょーだいよ」
クザンは顔を上げ、雪玉を放ったと思われる者の姿を捉えた。空中で構えを取っていたその
「3年A組の委員長として……」
明日菜達の前に立ち、雪広あやかは雪風を纏いながらクザンと向き合った。
「クラスメイトを傷つけるのは許しませんわ!」
TO BE CONTINUED ...
佐倉愛衣「寒い寒い寒い寒いッ!」
夏目萌「逃げましょう!」
こっそりと御姉様を担いでその場から避難していた愛衣たちであった。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音